『そして父になる』是枝監督インタビュー「家族というのは血なのか時間なのか」娘の一言がきっかけに

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6年間育てた息子は、他人の子でした。是枝裕和監督が福山雅治さんを主演に迎 えた映画『そして父になる』。息子が出生時に病院で取り違えられた他人の子どもだったことを知らされた父親が抱く苦悩や葛藤を描いたドラマは、第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、審査員賞を受賞するなど国内外で高い評価を得ました。

4月23日には待望の Blu-ray&DVD がリリース。娘さんのある一言が、本作を作るきっかけになったという是枝監督。作品への想いや、海外での反応についてなど色々とお話を伺って来ました。

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――赤ちゃん取り違えという非常に難しいテーマでありながら、ドラマとして非常に面白く、暖かく、色々考えさせられる素晴らしい作品でした。このテーマを選んだきっかけというのはどんな事だったのでしょうか?

是枝監督:家族というのは血なのか時間なのかという事は、自分が子供を持って考える様になりました。仕事が忙しくて、夜遅くに帰宅して寝顔だけ見るといった生活が続いていて、なおかつ『奇跡』という映画で1ヶ月半九州に行っていて。久しぶりに家に帰ったら、当時三歳の娘の反応が「おかえりー!」って感じじゃなかったんですよ。ちょっと緊張してるなっていうか。それで翌朝家を出る時に「また来てね」と言われて。それで、これはまずいなと思って。このままだと時々来る人みたいになってしまうと。

一生懸命働いている背中を見せれば子供は育つという価値観がどこかにあったんだけど、それは甘えだったんだなって。一緒に暮らしている父親として関わりを持たないと、もったいないかなと思って。血のつながりに頼って、過信していると失敗するなと思って。それで、福山さんを主演に迎えて作品を撮る時に、自分が今対面している“父親になる”という事をテーマに話を作ろうと。

――子供が生まれた瞬間に、父になるわけではないと。

是枝監督:そうなんですよね。嫁さんは子供が産まれた瞬間に違う生き物になってて。10ヶ月抱えてたっていうのがあるのかもしれないけど、プロとアマチュアが同じ家の中にいる感じなんですよ。子供を間に挟んで自分は何も出来なくて、「こんなにスタート地点が違うの!?」ってちょっとショックだったんで すよね。自分で階段をあがっていく必要があるなと。

――赤ちゃん取り違えの被害者の両親が、100%血のつながりを選択するという事も意外でした。6年間育てて、一緒に暮らしていたら、それはもう家族だろうと。

是枝監督:ですよね、この結果を見ると意外に感じる人が多いと思う。幼児取り違えが頻発していたのって今から40年くらい前だから、当時の価値観とは違って来ている部分もあるのかもしれないし。今起きたら「時間」を選択する両親も多そうだけど。なので、この映画の主人公を古い考えの人間というキャラクターにしています。

――古い考えで、かつ高圧的で……。福山さんの演技素晴らしかったです。

是枝監督:そうそう。金の話ばかりする、その人のいない所で悪口を言う、そんなキャラクターを「もう観ていたくないな」と皆が思うギリギリまでやりましょうと福山さんにはお話して。「ちょっと口の端で笑ってみましょう」とか「背中で嫌みに語ってみましょう」とか、そんな細かい演出はこだわりました。

――本作はハリウッドリメイクも決定していますね。

是枝監督:何社か手が挙ってドリームワークス社でスピルバーグが制作を担当するという事になり、本当にこの映画気に入ってくれてたんだなって嬉しかったです。カンヌ映画祭の4ヶ月後にリメイクが決まって、再びお会いした時に「映画を観た後の感動が今でも蘇ってくる」と言ってくれて、「あのシーンのこの描写が好きだ」とかかなり細かく感想を教えてくれました。「俺、今スピルバーグと映画の話してる」って、純粋にファンの気持ちで(笑)。

――海外で支持されるという事は、万国で共通する側面を持っているという事ですよね。とても繊細な物語なので、個人的にはそれが少し意外でもありました。

是枝監督:養子制度の浸透が日本は圧倒的に低くて、アメリカやヨーロッパは定着していますよね。だから余計に「血と時間の問題」って言うのが日常的なテーマなんだよね。カンヌで色々な記者の方の取材を受けた時に、かなりの確率で「私は血のつながっていない両親に育てられました」という人や「今養子を育てています」という人が多かった。そういった文化の差はあっても、「何が家族を家族にするのか」という問い自体はみんな共通していて。答えは違ってもね。その問いに対する共感はすごく感じましたね。

――4月23日にいよいよ Blu-rayとDVDが発売となりますが、また多くの人が作品を観て、色々な意見を聞けるのが楽しみですね。

是枝監督:赤ちゃん取り違え事件というハードなテーマを扱っていますが、家族を家族にしている物は何なんだろうという、多くの人に共通する問いを描いているので、観終わった後に荒んだ気持ちになる映画では無いだろうと。ちょっとほっこりしたおみやげを持って、家族のもとに帰りたくなる作品が出来たと思っています。でも、仕事人間の男性は奥さんと一緒に観ると、「あなたもこうよ」って奥さんが不機嫌になると思うので、夜中にこっそり一人で観てください(笑)。

――今後、監督が映画を撮りたいテーマや、今注目している事はありますか?

是枝監督:戦後の日系のブラジル移民の話をやりたくて。もう脚本は書き終えているのですが、大きな映画で時間とお金がとてもかかるので。移民というよ りは“棄民”かな。何かに取り残された人達の話が、小さい作品でも大きい作品でも好きなんですよ。自分の父親がシベリア抑留経験者なので、そういったテーマはやりたいと考えています。

――それはすごく興味深いテーマですね、実現を楽しみにしています。とても忙しい日々の中での気分転換はどんな事ですか? 鉄道がお好きという話を聞きましたが。

是枝監督:鉄っちゃんじゃないけどね(笑)。鉄道の旅が好き。鉄道に乗ってい る時に色々なアイデアが浮かぶから、東京だったら京都より遠くがいいな。本読んで、脚本直して、2時間から3時間くらいの旅がちょうど良いよね。そうやって時々東京を離れることが気分転換になっているし、なくてはならない時間です。

――本日はどうもありがとうございました!

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『そして父になる』ストーリー

大手建設会社に勤務し、都心の高級マンションで妻と息子と暮らす野々宮良多は、人生の勝ち組で誰もがうらやむエリート街道を歩んできた。そんなある日、 病院からの電話で、6歳になる息子が出生時に取り違えられた他人の子どもだと判明する。妻のみどりや取り違えの起こった相手方の斎木夫妻は、それぞれ育てた子どもを手放すことに苦しむが、どうせなら早い方がいいという良多の意 見で、互いの子どもを“交換”することになるが……。

4月 23 日(水)Blu-ray&DVD 発売。(レンタル同時リリース)
発売元:フジテレビジョン 販売元:アミューズソフト
(C)2013『そして父になる』製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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