被害者はいないという大きな男の人たちへ

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はてこはだいたい家にいる

女性と男性では体のつくりが違うし、予想外の気持ちや感情を見てしまうと怖くなることもあります。そんな心の状態を伝え合うことも関係をつくっていく上で必要なのかもしれません。今回はくたびれはてこさんのブログ『はてこはだいたい家にいる』からご寄稿いただきました。

被害者はいないという大きな男の人たちへ
私は4歳まで疑うことを知らないいたいけなお嬢さんだったけれど、ある時から年子の弟とつかみ合いの喧嘩(けんか)をするようになり、そのたび必ず負かしてきた。小学校でも男子と何度かつかみ合いの喧嘩(けんか)をして、毎回泣かすことは出来なかったけれど、とにかく泣かなかった。

中学に入ってから、ある日弟と喧嘩(けんか)したら、弟はこの日最後まで泣かなかった。私は部屋に閉じ込もって、もう弟に肉弾戦では勝てないと悟った。これから、二度と弟に勝てない。

翌日登校する道々圧倒的な重圧を感じながら歩いた。弟に勝てない。たぶんこの先自分は大半の男性に肉体的にかなわない。私は一時期剣道を習っていたのだけれど、そのころも特に強くなれた気はしなかった。たぶん実際そんなもの習っていない男子でも私より強い子はたくさんいたと思う。

父はこぶしで分からせる男で、若いころは新宿で暴れて警察の御厄介になることもあった。炭鉱の街で育った父はこぶしとこぶしで分かり合わなきゃ男じゃないと思っている節があった。この父はずいぶん理不尽なことを言ったりやったりしたけれど、父を殺さないでケガをさせないで取り押さえるようなことは私には出来なかった。どんなに許せないことをするとしても、どんなに切々と訴えても、手をあげる父は圧倒的だ。

あるとき男友だち数人と腕相撲をした。

私はけっこう強いので、一人負かした。ほんとに、ちゃんと全力でやって、勝った。後日、その人に、あなた相手だったら私はレイプされそうになっても勝てるんじゃないか、という話をした。流れをよく思い出せないんだけど、その人が実際私を押し倒せるか試すことになった。

相手は意欲的に取り組んできて、私はけっこう頑張ったんだけど、ぜんぜん余裕のないところまで追い込まれて組み敷かれてしまった。うれしそうな彼。心底屈辱的な私。その状態からどう言って解いてもらったか覚えていないんだけれど、相当暴力的な発言で本気で怒って解いてもらったような気がする。

相当非力な男性でも、先方はわりと余裕をもって私を押し倒せる。私の方は相手にケガをさせないようになんて思っていたら、まったく抵抗できない。殺してしまっても仕方がないと覚悟して、あらゆる手段を尽くさないと抜け出すこともできない。

私は男子とばかり遊んでいた。漫画読んでゲームしてイベントにいって、仲間の一人のつもりでいた。でも、ある時から男子の方で私を女子として意識しはじめて遊んでくれなくなった。少し大人になって、再び一緒に遊べるようになったと思ったけれど、しばらくしたら向こうとしてはやっぱり女子だからこそ遊んでいることがわかってきた。彼女いない歴=年齢というキリンの群れにいたんだけれど、なんだかずるずるあわよくば、と思う人たちも現れた。

私が彼らの中にいてレイプされずにいるには、この人達の理性と良心に頼るしかない。どんなに強くなりたくても、生白い腕でキーボードたたいて漫画読んでゲームやってる男子に圧勝される。陵辱エロレイプ漫画をクローゼットにどっさり持っている、ワキガの臭う私の友だち。

私は二十代半ばで、紆余(うよ)曲折あってようやく女性でいることを前向きに受け入れた。先生や親を敵だと思っていたころは大人になるのが嫌だった。それを受け入れるより女性であることを受け入れるのはきつかった。第二次性徴とか屈辱で憤死したい気持ちだった。でも仕方ない。配られたカードでゲームに参加することにする。

でも、今も私は弟にしたように夫に向かっていくことがある。

こういう時、私は頭の片隅で自分が死ぬことを覚悟してる。夫にその気がなくても打ちどころが悪かったら私は死ぬ。暮らし始めた当初、それでちょっとひどい怪我をしたこともある。夫はまさか私がそんなに非力で軽いと思っていなかったと思う。引越しで厳重に梱包(こんぽう)されたダンボールを腰を入れて持ち上げたら、中身が空だったような空振り感。

同じ人間なのにまったく違う体を持ってる私。どのくらいの力で触れたらいいかという感覚を夫が体で覚えるのはなかなか難しい。枕(まくら)を並べたまま、夫が私に体をあずけて寝てしまうと、眠っている夫の体は私にはものすごく重い。夫が私の上を乗り越えてベッドサイドの携帯電話を取ろうとすると、支点にされたところがものすごく重い。まるで空気嫁のようだけれど、夫は耳元で愛をささやきたいときは私に体重をかけないように細心の注意を払わないといけない。夫も私も気がきじゃない。夫は中肉中背、私より小柄だけれど、夫と私は軽自動車と普通車くらい違う。

私が男性を怖いと思うのはね、じゃれてるライオンやクマを怖いと思うのと同じなの。

私に出来ることはクマやライオンが自分を襲わないでくれることを願うことだけなの。

ライオンは美しいし、クマはかわいい。仲良くなるのは楽しい。ライオンの背中に乗って草原を走ったり、クマの背中に乗って森を歩いたりできたらどんなに楽しい。いくらでも背中をかいてあげるよ。耳の後ろのひっつき虫をとってあげる。

それでもクマがほんの一撃で目の前の樹をなぎ倒して、ここに座ってお昼にしよう、と言うとき、私は胸の奥で震え上がるの。どうか私を食べないでね、って思うの。

人間を力で屈服させることを想像するとぞくぞくするよな、だれだって興奮しちゃうよな、この間そういう芝居を観たよ。真に迫ってたよ、いやあ最高だね、って言ってるクマやライオンのそばにいるのは緊張することなの。小さな人間が逃げるところがたまらないんだよな、おれは小さな人間の足を噛(か)み砕く芝居が大好きだ。逃げられない小さい人間、あれがいいんだ。ああいう芝居をもっとやってほしいね、って言う話が耳に入ってくるのは怖いの。襲われた人間が何人もいることを知っていればなおさら。

どうかお願い、聞こえるところでそんな話をしないでね。

「なぜ嫌がるんだ、芝居だよ? だれも君を傷つける気はないさ」

っていうのはね、あんまり慰めにならないよ。本当に襲われたたくさんの人とそっくりの場面があちこちに織り込まれたお芝居を、舌なめずりして見てるのを、安心して見ているのは難しいの。

執筆: この記事はくたびれはてこさんのブログ『はてこはだいたい家にいる』からご寄稿いただきました。

文責: ガジェット通信

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