「節約」ってなんだ? 他人に勧められるようなことか?(2)(中部大学教授 武田邦彦)

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「節約」ってなんだ? 他人に勧められるようなことか?(2)(中部大学教授 武田邦彦)

今回は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

「節約」ってなんだ? 他人に勧められるようなことか?(2)(中部大学教授 武田邦彦)

節約には、1)物を節約する、2)人生の時間を節約する、のどちらかがあって、まず「物は人のためにある」という原則を立てれば、「物を節約して人生を無駄にする」というのではなく、「物をふんだんにつかって人生の時間を節約する」のが正しいと考えられます。

つまり、人間の一生の時間は決まっているので、その間に自分の人生を大いに謳歌するのが正しいと考えられます。この「謳歌」というのはどういう形でも良いのですが、少なくとも「物」に縛られないようにすることが人を大切にすることになるでしょう。

江戸時代のような生活をして、毎日、井戸から水を汲み、裏庭に行って薪を切ってきて竈に火をつけ、ご飯を炊いたりおかずを煮たりすれば、それで半日は過ぎてしまいます。家電製品がなければ家事の時間は大変ですし、自動車がなければ病院に行くにも一苦労です。東京まで新幹線で行かずに東海道五十三次で行けばそれこそ大変なことになります。

現実にはそんなことはありませんが、「節約」といって、分別したり、わずかな水を節約したり、包み紙を減らしたり、石油は枯渇しないのにレジ袋をもらわなかったり、電気はたっぷりあるのに冷房温度を高くして熱いといってぐったりしたり、それぞれ一つ一つのことは小さなことですが、人生はずいぶん短くなります。

それでも人生ですることがないという人はそれでも良いかも知れません。でも、本当は自分の人生ですることがないと思っている人でも、秋には紅葉を見に家族と楽しい一泊旅行に行ったり、野球や競馬の好きな人は1週間に1度ぐらいは仲間と野球観戦や競馬で楽しんだり、あるいは音楽、仲間との飲み方、買い物、私なら執筆など人生を充実して送ることはできると思います。

日本人の所得はフランスと同じですが、フランス人の1年の平均有給休暇は32日、日本人8日。フランス人の1年の家族や友人との旅行がホテル20泊、日本人1泊2日。「節約」という言葉は、実はフランス人並みに豊かな生活を送ることができるはずの日本人からお金を取り上げる言葉だったのです。

これまで知識人の言葉に惑わされて「節約は大事なことだ」と言った人はこの際、よくよく考えてみたほうが良いとおもいます。それは人の人生を奪うことになるからです。また経済的には「自分がもらったお金が次の人の収入になるように使う」ことが大切で、貯金は(全体の消費が落ちているときには)経済の活性化にも役立たちません。つまり「消費」は悪いことではないのです。

ところで、私たちは「なにが正しいか」を考えるときに、「世界全体」や「自分と違う人たち」のことも考慮しなければなりません。たとえば、すでに50歳を過ぎた人が「俺の若い時代は散々、暴れたものだ。もういい」、「バブルの時はすごかったよ。毎日、ゴルフして飲んでいた」と言ったかと思うと、「節約は大切だ」という。それは「自分は散々、活動したり遊んだりしたので、もういい」と言っているだけで、それに影響されて若い時間を活動できなかった若者のことが念頭にないように感じられます。

また、家庭生活中心で穏やかな人生を送っている人は、それはそれで立派な人生ですが、かといって懸命に働き、出世したいと思っている激しい生活をしている若い人が間違っているわけでもありません。

かく言う私も若いころは土日になると朝からカーテンを閉めて研究に没頭したものです。そんな時に「分別しろ」などと言われたら「俺の人生の時間と、ゴミとどっちが大切なのだ!」と叫んだでしょう。

つまり、お金や物より、一分一秒でももったいないという人もいるのです。それが社会を破壊したり、悪いことをしているなら別ですが、知識人の作戦に乗って時間が惜しい若い人の人生の時間を奪うのは良いこととは思えません。つまり一人一人はその人の人生観によって、さらには年齢やタイミングで「節約」することがその人の人生にとって耐えがたい時があるのです。

これに関して私は時々、フィギャーの浅田真央選手のことを引き合いに出すことがあります。私は彼女の小さいころからのファンですから、彼女を批判するつもりは全くないのですが、もし彼女が「節約」や「節電」を他の中学生は高校生と同じレベルで強いられたら、彼女が世界選手権で優勝することはなかったでしょう。

小学校のころから才能はあったとしても、「友達も冷房温度まで我慢しているのだから、あなたも電気を使って氷を張って、リンクで練習はいつもできないのよ。アイスリンクを冷やすのはとても電気を使うのだから」と言われたらどうでしょうか? 浅田選手は練習ができないか、それとも嫌な気分になるでしょう。

でも、浅田選手はまだスケートという目に見えるものなので多くの人の賛同も得やすいが、数学とか物理に才能のある子供の場合でも、「電気がもったいないから」という理由で冷房温度を上げれば、汗だくで勉強することになり、浅田選手に良い環境で練習をさせないことと同じになります。

もちろん、たとえば資源が本当に底をついて「人類的危機」なら話は別ですが、世界の燃料のほぼ半分を使っているアメリカ人、中国人をはじめ、ほとんどの国の人がフンダンにガソリンや電気を使っているときに、日本人の子供や若者に「節電」や「節約」をさせて、せっかくその子の力を発揮させることができるのに、「節約しても人生は変わらない」という人が自分のことだけを考えて節約を強いているのが現状なのです。

執筆: この記事は武田邦彦さんのブログ『武田邦彦(中部大学)』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2014年01月08日時点のものです。

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