オタク阿鼻叫喚! 涙なくしては見られない『鑑定士と顔のない依頼人』

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先日、『鑑定士と顔のない依頼人』という映画を見てきました。一流の美術鑑定士が、一切姿を現さない依頼人から、鑑定の依頼を受けた。なぜ彼女は顔を見せないのか。みんな大好きジュゼッペ・トルナトーレ監督の最新作。『ニュー・シネマ・パラダイス』や『船の上のピアニスト』が全然好きではない私ですが、たまたま時間があったので、カプセルホテルがわりに映画館に入りました。
予告編を見て、空間恐怖症の女性が、年老いた鑑定士の愛によって、その症状を克服する。そんな物語なのだろう、そういえば衝撃の事実とかなんとか宣伝されていましたが、まあ、その程度の物語かなあ……。が、しかし!
なんだこれは! ひ、酷すぎる! 私は頭にハンマーを叩き付けられたような衝撃を覚えて、しばし呆然としてしまいました。よく出来たミステリーです、確かに。そのミステリーの見事さに驚愕し、その愛の物語に感動を覚える方々がほとんどでしょう。しかし私が見終わって思い出したのは、以下の2つの事柄でした。コレ、思いっきりネタバレになっちゃうかもしれませんが……。

集めたアニメグッズを切り刻む—「大切なもの」って何?

昨年7月、読売新聞が運営するサイトのコンテンツ「発言小町」にあるトピックが投稿されて、ちょっとした話題になりました。要約するとこんな感じです。

ある日、トピ主の夫が「食玩」の付いたペットボトルを一万円分買ってきました。トピ主は驚き、怒り心頭に発しましたが、夫は自分の小遣いと貯金の範囲でやっているから文句を言うなと言ったそうです。それに対してトピ主は、夫の趣味であるアニメのグッズやブルーレイを隠れて全て捨ててしまいました。念入りにハサミでバラバラに切り刻む周到さです。夫はゴミ捨て場から「コレクション」を回収して、独り部屋に籠もり、翌日の朝、離婚を切り出しました。
ちなみにトピ主は以前から夫のオタク趣味にムカついていており、食費や生活費は夫の自分の貯金から出してね、と言い、さらに家事を一切拒否(ちなみに息子あり)。最後にトピ主はこう呟くのでした。「コレクションを断捨離することで、しょうもない趣味から卒業できて偉いね!とご馳走を用意したのに。“大切なもの”に気付いてくれるはずだったのに……」
(全文はこちら↓)
http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2013/0705/603679.htm?o=0&p=1[リンク]

……恐ろしい。皆さんはどう思われるでしょうか。完全にネタなのではないかと思われるトピックでしたが、あっという間に炎上。「旦那さん早く逃げて!」「別れて正解です」等々の、旦那さん擁護、トピ主バッシングの、ものすごい量のレスが付いて私は複雑な気持ちになりながら、全てのレスを読んでしまいました。

山のようなキン消しを全部捨てられて—それは愛情なのか?

特に男性の中で、収集癖のある方は多いと思います。上記に挙げられたフィギュアやブルーレイ(及びDVD)、食玩以外にも、トレーディングカード、モデルガン、本、レコード、硬貨、切手などなど枚挙に暇がありません。
私にも同じ経験があります。1980年代に一世を風靡したキン肉マン消しゴム、いわゆるキン消し。自分の好きな超人のキン消しが欲しくて、ガシャポンをぐるぐる回したものです(そしてジェロニモが出てくると心底がっかりした)。
小学生時代、文字通り山のように集めたキン消し。私は当時クラスで最下位(もしくは下から2番目)の成績で、先生にも「あなたの頭の中には春が来ているわねえ」とまで言われたものです(今思い出すとムカムカしてきますが)。勉強もおろそかにキン消しばかりを集めている私に、比較的スパルタだった親は業を煮やしていたのでしょう。
ある日私が学校から帰ってくると、その山のようにコレクトしたキン消しが、どこにも見当たりません。私はパニックに陥りました。同級生が喜んで食べている駄菓子を我慢して、その他、とにかくいろいろ我慢して収集したキン消し。私は泣きわめいて家中を探しまわり、その勢いで親に問いつめました。親は私に冷たく言い放ちました。
「お前の成績が悪いから捨てた」
まあ、今となってはいい思い出とも言えるエピソードですが、当時は本当に目の前が真っ暗になったものです。コレクションというものは自分の分身であり、コレクトすることは自分のアイデンティティを確立する行為なのですから。親の金をつぎ込んでまで(これはしっかり親に怒られましたので許してください)。

え? 映画の話と関係ないって? これ以上は何も言いません。あらゆるところに巧妙な伏線が存在している映画ですから何もいう必要もないでしょう。
しかし、この映画必見です。オタク的な資質を持っているアナタ。普段映画なんてアニメかホラーかSFかカンフーモノしか見ないアナタ、そもそも映画に使うお金なんてもったいないというアナタ。ぜひ劇場に脚を運んでください。自分の「分身」をいかに深く愛していたか。そして「分身」以外の人間を愛することがどういうことなのか、そしてその先には何があるのか。涙なくしては見られないマゾヒスティックな感動が待っていますよ。うう……。

映画『鑑定士と顔のない依頼人』
全国順次公開中
公式サイトhttp://kanteishi.gaga.ne.jp

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真利夫

『超ハウス・ディスク・ガイド』『スタジオボイス』『ミュージック・マガジン』等にダンスミュージックをメインに寄稿してました。

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