【レポート】仏具の里を巡る旅!「高岡クラフツーリズモ」に参加してきました
7月10日、富山県高岡市にて開催されました、仏具の里を巡る旅「高岡クラフツーリズモ 2013」に、日下賢裕が参加してまいりました。お坊さんにとって仏具はお寺にあって当たり前のものですが、どんな人達によって、どんな過程を経て作られているのかということは、これまで見たことがあるお坊さんは多くないのではないでしょうか。金属を加工して作られる仏具。いったいどんな技術を駆使して作られているのか、興味津々で行ってまいりました。
富山県の北西部に位置する高岡市は、銅器生産の盛んな街で、古くは江戸時代に加賀藩藩主前田利長の命により7人の鋳物師が高岡の地に呼び寄せられたことから「高岡銅器」産業が発達。同時期に起こった「高岡漆器」とともに、高岡の伝統産業として地域を支えてきました。そして浄土真宗が盛んな土地柄であったこともあり、仏具の一大産地として発展。現在は、日本の銅器生産額の約95%のシェアをほこり、その内の60%が梵鐘や仏像、仏具という「仏具の里」として知られ、伝統と技術を受け継ぐ若い後継者たちが今も活躍されています。
今回の「高岡クラフツーリズモ」というツアーも、若き伝統産業の担い手たちで作る「高岡伝統産業青年会」によって企画・運営が行われ、高岡の誇る素晴らしい製品と、高い技術を知ってもらいたい!という思いからスタートし、今回で4回目を迎えました。特に今回は、仏具のメインユーザーであるお坊さんにも参加していただいて、仏具作りの現場を見学するとともに、メーカーとユーザーの交流から、共に仏具に対する理解や想いを深め合おうという趣旨のもと開催され、私を含めお坊さんも参加されました。
前置きが長くなりましたが、ここからわたくし日下が見てまいりました、それぞれの工房の様子をレポートしていきたいと思います!
●梶原製作所
梶原製作所さんは、青銅(ブロンズ)の鋳造を行う工房です。銅像というと、公園や町の中でも目にすることがありますが、お寺で銅製品といえば、梵鐘(除夜の鐘などで撞く鐘)や、境内に置かれる親鸞や日蓮の聖人像などがあります。特に梶原製作所さんでは大型の銅像制作に定評があり、人間の背丈を越えるブロンズ像が工房の至る所に見られます。気分は巨人の国に迷い込んだガリバーのよう。また聖人像がたくさん整列している様子には、参加したお坊さんもびっくりでした。
お伺いした時には、なんと大仏の製作中ということで、その様子も見学させていただきました。6mはあるという大きな大仏は、なんと粘土製。粘土の大仏を原型にして、これから鋳型を作っていくのだとか。これだけの大型の大仏の製作過程は、なかなか見れるものではないとのことで、参加者の皆さんのボルテージも一気に高まります。他にも銅をベースにした合金、青銅と黄銅の違いや、梵鐘を作るのには銅とすずを合わせた金属でないとあの響きが出ないなど、銅製品に関するいろんなことも教えていただき、最初の工房見学から、その魅力に皆さん引きこまれたようでした。
●シマタニ昇竜工房
昼食を挟んで、午後からは2班に分かれての工房見学となりました。まず訪れたのは、読経の前に「ぐわーん」と打ち鳴らす鏧(きん)を作っておられるシマタニ昇竜工房さん。棒状の真鍮の板を、金槌を使って伸ばしていき、手打ちのみで鏧をつくり上げるそうです。現在では手打ちで鏧を打てる職人さんは、高岡と京都に15名ほどしかおられないのだとか。実際にどのように鏧が形作られていくのかを見せていただきましたが、硬い金属を叩いて伸ばし成型し、そしてさらに叩くことで金属密度を高めていくのだとか。真鍮は叩くと硬くなる性質があり、叩き締めることによって音色が良くなるそうです。かつては一枚の真鍮から鏧を作り上げていたそうですが、現在は溶接の技術も向上し、3つのパーツから一つの鏧が作られます。
成型技術も素晴らしいのですが、圧巻なのは、やはり調音の作業。職人さんの耳で覚えた音の波長に、鏧を叩いて調節していきます。そのためにまず正しく美しい音の波長を身体で覚えるために、5年間ただ調音作業の音を聞き続ける修業を行ってこられたのだとか。仕上げられた鏧の音は、なんとも言えない心地よい音の響きがいつまでも消えずに残り、職人技の素晴らしさを体感させていただきました。島谷さんの「鏧を作るのではなく、良い音を作る」という言葉も、いつまでも消えない鏧の音色のように、心に響きました。
●勇印工房
3件目の工房見学で訪れましたのは、真宗大谷派のお寺で用いられる最高級の仏具として名高い四鰭仏具(よつひれぶつぐ)を作る勇印工房さん。「四鰭」という変わった名前は、花立てに4つのヒレ状の飾りが付いていることから呼ばれるのだとか。その製法も、古くから伝わる焼型鋳造という技術が用いられ、出来上がったものをさらに彫金によって美しく仕上げていきます。特に形を直角に仕上げることは機械には決してできない技術で、全て職人さんの手によってその作業が行われています。
また細部の模様なども全てフリーハンド、下書きなしで彫り進められ、しかも「深彫り」と呼ばれる最高級の装飾は、一度彫った部分を再度彫ることによって、美しい文様がより際立った、素晴らしい仕上がりになります。実際に彫金の現場も見せていただきましたが、職人さんが自らその手や作業工程に合わせて作ったタガネという道具を使い、鋳造された仏具の形を整え、美しい装飾を施していきます。細部にまでこだわったその出来栄えは本当に美しく、ため息が漏れるほどでした。
●モメンタムファクトリー・Orii
最後に訪れましたのは、モメンタムファクトリー・Oriiさん。この工房は、銅製品の着色を専門に行う工房です。着色というと、塗料を使って色を付けることを想像しますがそうではありません。銅という金属の特性を活かして、様々な薬品や焼成することによって、様々な色に変化させるという技法です。鉄などの金属は、同じようなことをしても黒くなるだけですが、銅は青や赤、黄色に緑など、本当にいろんな色に変わります。特に面白いと感じたのは、不純物や合金の割合などによって、同じ工程を経ても色の付き方が違うところ。着色前は同じ色にしか見えなかった銅器が、着色を施すことで色の違いが浮き出て、なんとも言えない味わい深いものになるのには本当に驚きました。
また、化学薬品だけでなく大根おろしや糠などを身近にあるものを使う工夫にも驚かされました。そしてこの工房では、古くから伝わる伝統的な着色技術に加え、独自の発色技法を開発し、これまでできなかった厚さ1mm以下の銅板・真鍮板の発色にも成功し、建材や家具など、様々な分野への活用が期待され、海外からもその製品に注目が集まっているそうです。
以上4つの工房を見学させていただきましたが、どの工房でも古くからの伝統を受け継いで、さらにより良い製品を作り上げることに一生懸命になっておられる職人魂を感じました。そして伝統を守りながらも、その高い金属加工の技術を活かして、新しい製品づくりにも心血が注がれており、これまで無かった新しい発想の製品も生み出されてきていることに、大変感動させられました。
工房見学後、職人さんたちを交えての懇親会が行われ、そこでこの「高岡クラフツーリズモ」を企画・運営する高岡伝統産業青年会の会長・折橋祐紀さんにいろいろとお話をお伺いさせていただきました。そこでどうして高岡の伝統産業に携わる若い人たちがこのような企画を始めたのかを尋ねますと、やはりそこには伝統産業のこれからに危機感があるとのことでした。高岡の伝統産業の技術は高いのだけれど、それをほとんど知られていないのが現状で、このままでいけばどんどんとニーズが減っていき、高岡の伝統産業が途絶えてしまうことを危惧されていました。そしてどれだけ職人の技が素晴らしくても、製品としての価値はお金でしか判断されないことが多く、本当の価値や素晴らしさを知ってもらうためにも、実際に製品を作る現場を多くの人に見てもらいたいという想いもあったそうです。そこで、座して死を待つよりは、これまでとは違ったアプローチで高岡の伝統産業を知ってもらい、一人でも多くの人にファンになってもらいたい。そういう想いから、この「高岡クラフツーリズモ」が始まったそうです。
折橋会長とのお話を通して感じたのは、高岡の伝統産業に携わる人達の持つ危機感は、そのままお坊さんたちにも当てはまるものである、ということです。お寺、あるいは仏教という教えがいかに素晴らしくても、それを受け取ってくれる人がいなくなってしまってはお寺も仏教も途絶えてしまいます。どんどんとその裾野が狭まっていっている現状に、お坊さんも危機感を感じていかねばなりません。そしてこれまでとは違ったアプローチからの活動を行うことの大切さ、伝統と革新がお寺にも必要であるということを、強く感じさせられました。そういう意味で、同じような危機感を持つ人たちとのこうした交流は、お坊さんにとっても大変有意義なものになるのではないでしょうか。
今回この「高岡クラフツーリズモ 2013」は仏具のメインユーザーであるお坊さんに来ていただいて、一緒に仏具に対する理解や想いを深めていくことを目当てとしていたものでしたが、私が一つ残念に感じましたのは、実際参加してくださったお坊さんが少ないことでした。仏具は、仏さまの世界を表しているものです。ですからお坊さんももっともっと興味関心を持つべきものであるでしょうし、実際の制作現場や、携わる職人さんたちと交流を深めることで、仏具や儀式に対する理解もより深まることでしょう。今後またこのような企画が行われる際には、もっともっと多くのお坊さんに参加していただければと思います。
ウェブサイト: http://www.higan.net/
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