SNS広告の「罠」を法的な視点で見抜く――東京都と明治学院大学法学部生が挑む参加型ワークショップ

SNSの急速な普及に伴い、若者をターゲットにした消費者トラブルが深刻化している。都内の消費生活センター等に寄せられる若年層の相談のうち、ネット通販に関するトラブルの約3割がSNS広告をきっかけとするものだ。こうした現状を受け、東京都消費生活部と明治学院大学法学部の能勢ゼミが連携し、大学生が主体的に広告の不当表示やリスクを検証する参加型ワークショップを、10月29日(木)に開催した。法を学ぶ学生が日常の広告に目を向け、机上の理論にとどまらない社会のリアルに触れる試みを取材した。

日常に潜む「怪しい広告」を学生自ら検証

ワークショップでは、学生たちが各自のスマートフォンや身の回りから収集した広告を持ち寄り、グループごとに「適正(セーフ)」「グレー」「不当表示の疑い(アウト)」に分類して議論を行った。発表では、学生ならではの着眼点とリアルな体験が次々と共有された。

ある学生は、自宅に届いた貴金属買取専門店の折込チラシに注目した。記念金貨に高額な「参考買取価格」が提示されていたものの、注記に数カ月前の日付が小さく記されたまま更新されていない点に疑問を抱き、実際に店舗へ赴いて査定を依頼。提示された実勢価格がチラシの記載より大幅に低かった実体験を明かし、消費者を過大に誘引する有利誤認の疑いがあると指摘した。

また、SNS特有の広告手法に対する疑問も多く上がった。動画投稿アプリで見られる「数日間で劇的に歯が白くなる」といった根拠の乏しいビフォーアフター動画(優良誤認の疑い)や、一見すると一般ユーザーの投稿に見せかけて外部サイトへ強制遷移させるステルスマーケティングのような誘導広告が報告された。

さらに、メンズ脱毛のWeb広告で秒単位のカウントダウンタイマーを表示して契約を急かす手口や、実際のプレイ画面とは異なる映像を使用したゲームのプロモーション広告など、心理的焦燥感を煽る広告や実態と乖離した表現に対しても疑問の声が相次いだ。

景品表示法にとどまらない複合的ルール――都担当者による講評

学生たちの発表を受け、東京都消費生活部 取引指導課の担当者が法的な観点から講評を行った。

担当者はまず、不当表示の基本類型である「優良誤認」「有利誤認」「指定告示(ステマ規制等)」の定義を解説した上で、判断の基準は「一般消費者の知識水準」であり、「その誤認がなければ契約しなかったといえるか」が焦点になると説明した。

その上で、広告表示の適正化は景品表示法だけで完結するものではなく、多角的な法令が関わっている実態を概括した。例えば、ホワイトニングや美容機器の広告表現は「医薬品医療機器等法(薬機法)」、ファンによる応援広告は「著作権法」、街頭の大型ビジョンや看板は「屋外広告物法」が関係する。また、各業界の自主基準やガイドラインも重要な役割を果たしているという。

学生が指摘した事例についても、画面の隅に小さく記載された「※開発中の画面です」といった打消し表示の存在や、一度きりの配信で完結するライブコマースにおける証拠保全の難しさなど、法を適用する現場ならではの複雑な線引きが共有された。

巧妙化するダークパターンと「相談」が持つ社会的意義

続いて、東京都消費生活総合センターの担当者から、近年国際的にも問題視されている「ダークパターン(消費者の判断を歪めるデザイン手法)」についての解説がなされた。購入手続きの最終段階で不要なオプション料金を「こっそり」追加する手法や、解約ボタンを分かりにくくする「解約妨害」など、現行法で直ちに違法とは言い切れなくとも消費者に不利益を与える仕組みが存在することに注意を促した。

さらに、若者に多い定期購入トラブルや分割・リボ払いのリスクを取り上げ、シミュレーションを通じて手数料や利息による最終的な支払総額の膨らみを確認した。

担当者は、たとえ被害額が少額であっても「勉強代」として諦めず、消費生活センターへ相談・通報することの重要性を強調した。個人の相談情報が全国のデータベース(PIO-NET)に集約されることで、悪質事業者への指導や行政処分のみならず、将来的な法改正や制度設計へとつながり、新たな被害を防ぐ社会的な力になるという。

条文上のルールと実社会の架け橋に――法学部での学びに寄せて

ワークショップを終え、ゼミを担当する明治学院大学法学部の能勢教授は、今回の取り組みの狙いについて次のように語った。

「普段からゼミで議論をしていますが、理論的にルールがあるというものと、そのルールが社会的に執行されるという点には大きな違いがあると感じています。日本にもルールはあるけれど徹底されていない状況もある中で、実際に法を執行し、ルールを適用している東京都の方から話を聞くことで、ルールと実際の差や、どう執行されているのかを感じ取ってほしいと考えました」

さらに、ライブコマースやAI生成広告など、デジタル化によって広告の証拠化が難しくなっている現状に触れつつ、若者の視点が持つ意義について指摘した。

「ターゲティングによって特定の層にしか映らない広告もたくさんあります。行政のリソースにも限りがある中で、若者の目で幅広い情報を集めるきっかけとしての役割は大きいです。老若男女全員が消費市民社会の一員として、行政への関わりの中で相談や情報提供をしてもらえるといいのではないでしょうか」

教室で学ぶ条文上の法知識と、絶え間なく変化するデジタル広告の最前線。行政の生きた実務に触れたこの経験は、学生たちにとって、社会の中で法が果たす役割をリアルに捉え直す確かな契機となっただろう。

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