異化作用を惹起する文体で、異貌の世界を描く〜『イマジペディア 幻界異想短篇集』

異化作用を惹起する文体で、異貌の世界を描く〜『イマジペディア 幻界異想短篇集』

 間瀬純子は1996年にデビュー。寡作ながら、井上雅彦編の《異形コレクション》や雑誌〈ナイトランド・クォータリー〉に作品発表をつづけており、慧眼の読者が注目している書き手である。本書の解説を担当した岡和田晃氏によれば、すでに何篇かが英訳されており、高い評価を得ている由。

 2020年には個人レーベルから電子書籍『死の谷 怪奇幻想短編小説』をリリースしているが、一般的な商業出版としては本書がはじめての著作となる。十一篇からなる短篇集だ。

 巻頭に収録された「死の谷」は、奇妙な家族の物語である。たくさんの子供と、父たち、母たちが閉鎖的な環境のなかで暮らしている。子供のひとりである「わたし」の限定的な視点で綴られているため、全体像はわからない。ただ、描かれる情景は、ひたすら不穏である。「父を殺した弟が、今度はわたしたちの父になる」といった叙述が、あたりまえのように繰りだされる。

 つづく「オーロラの海の満ち干」は、若くして領主になった私の視点で、オーロラの塔での異様な儀式が描かれる。縦棒、円盤、歯車、隧道、石材、硝子……地上から地下へと鳴動する巨大建造物のイメージが凄まじい。

「北極星」も、異様な迫力に満ちた怪奇譚だ。流死(ルシ)国の首都の商人である私は、北極星の毛皮を扱うため、一年中が冬の極東都市を訪れる。監獄長官である卑ヨドルの屋敷に滞在していると、致命修道院から迎えがやってきた。致命修道院は、曇り空の彼方に何十本もの高い柱をそびえ立たせている異形の建造物で、人間が創ったものではないとさえ伝えられる。地下の図書室に収められているのは、信じがたいような蔵書。アラビアの狂った詩人が憑かれたように記し、美残帝国で希臘語に翻訳されたという曰くつきの本まであるではないか……。読者は、ここで本篇がクトゥルー神話だと気づき、致命修道院に潜む怪異、そして、北極星の正体へと導かれていく。もっとも、そうした物語の本筋にもまして、まず「流死国」「卑ヨドル」「美残帝国」などの独特の表記を通じて醸しだされるただならぬ雰囲気に魅せられる。

 そのほかの作品では、ウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』へのオマージュとして書かれた「イマジペディア」、少女向きアニメに特化した観光地で繰りひろげられる狂躁的メタフィクション「少女精霊顕現」、狂気を内側から描いた小品「金星、地獄の動物園」が、とくに印象に残った。

(牧眞司)

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