【騒音トラブル解決人に聞く】隣人が原因とは限らない! 騒音発生源は50m先の地下だった?! スマホ録音は不十分?「科学的エビデンス」収集術

感情的にならず論理的なアプローチを! マンションの騒音発生のメカニズムとトラブル回避術を学ぶ

多様な人々が集まって暮らすマンションでよく聞かれる「騒音ストレス」。多くの人は、隣接する左右や上下の住戸から騒音が聞こえてくると思いがちですが、なかには意外な場所が発生源になっているケースもあります。いずれにせよ、騒音が原因で住人同士の直接的なトラブルに発展するのは避けたいところです。
そこで本記事では、刑事・民事事件などの声紋鑑定や音声解析、騒音の計測などを手掛ける日本音響研究所の鈴木創(はじめ)所長に取材。マンション内で音が響くメカニズムや、騒音トラブル解消に向けた説得力の高いデータのそろえ方、音声の録音方法などを伺いました。

マンションで騒音ストレスが増える背景とは

国土交通省の「令和5年度(2023年度)マンション総合調査」(調査実施期間:2023年10月~2024年1月)によると、マンションでの居住者間の行為・マナーをめぐるトラブルは「生活音」が43.6%で最多となっています。ちなみに次点は「違法駐車」で18.2%ですから、いかに多くのマンション住人が騒音ストレスを感じているかが分かります。

日本音響研究所・代表取締役の鈴木創氏。音声・音響分析を専門とする研究者で、声紋鑑定、話者識別、音声分析などに取り組むほか、犯罪捜査などにも用いられる音声鑑定・音響分析の専門家でもある(撮影/片山貴博)

日本音響研究所・代表取締役の鈴木創氏。音声・音響分析を専門とする研究者で、声紋鑑定、話者識別、音声分析などに取り組むほか、犯罪捜査などにも用いられる音声鑑定・音響分析の専門家でもある(撮影/片山貴博)

「マンション騒音に関するご相談は、我々がお引き受けする案件の中でも一定の割合を占めています。特に2020年春以降のコロナ禍を契機にご依頼が増えました。在宅時間が長くなったことで、それまで感じていなかった音が耳にさわるようになり、ストレスになってしまったケースが増加した印象です。今でも月平均で10件前後のご相談を受けており、そのうち2~3件はマンション現地での音声収録調査に発展しています」(鈴木所長、以下コメントはすべて同じ)

調査を依頼されたマンション現地での騒音収録の様子(出典/日本音響研究所)

調査を依頼されたマンション現地での騒音収録の様子(出典/日本音響研究所)

また、マンションの建築技術の向上で防音・遮音性能が増し、静かで快適な暮らしができるはずだったのが、転じて騒音ストレスにつながる皮肉なケースもあるといいます。

「近年建築されたマンションは、技術や資材の品質向上で外部の騒音が大きく軽減されるようになっただけに、相対的に内部で発生する音が気になる方が増えた側面もあります。一部の人には、一度気になってしまった音に対して過敏になり、“その音を探してしまう”習性もあり、それが騒音ストレスの要因になる場合があります」

上下左右だけではない?意外な音の伝搬経路も

鈴木所長いわく、マンションの騒音には、伝わり方によって2つの種類があるとのこと。

「ひとつは『空気伝搬音』。人の話し声やテレビの音声、音楽などで、空気を振動させて伝わるものです。もうひとつは『固体伝搬音』で、スプーンなどを床に落とした音や子どもが走ったときの足音などが、床や外壁などの構造を物理的に直接振動させて発生します。この2つはほぼ同時に起きることがほとんどです。例えば、ベースギターなどの低音が多い音楽を聴くと、スピーカーそのものを震わせて発生する固体伝搬音と、音が空気を伝わって聞こえる空気伝搬音が発生します。伝わり方では、一般に固体伝搬音のほうが空気伝搬音より減衰しづらく、遠くまで伝わる性質があります」

■騒音の2つのタイプ

種類主な原因・具体例特徴空気伝搬音人の話し声、テレビの音、音楽など空気を振動させて伝わる固体伝搬音スプーンを落とした音、子どもの足音など床や壁などの構造を直接振動させて伝わる
空気伝搬音より減衰しにくく、速く遠くまで届く空気伝搬音と固体伝搬音の違い

空気伝搬音と固体伝搬音の違い(画像/SUUMO編集部作成)

腹筋ローラーを床の上で直接使うと、固体伝搬音となって下階の住戸に伝わってしまう可能性も(画像/PIXTA)

腹筋ローラーを床の上で直接使うと、固体伝搬音となって下階の住戸に伝わってしまう可能性も(画像/PIXTA)

音の伝わりやすさは、建物の構造によっても変わります。

「マンションに用いられることはまだ多くはないと思いますが、一般に最も騒音リスクが高いのが『木造』。質量が軽いため音が減衰しにくく、響きやすくなるからです。『鉄骨造』は木造に比べれば伝わりにくいものの、鉄骨自体が音の伝搬経路となり、固体伝搬音として遠くまで伝わる場合があります。『鉄筋コンクリート造』は、鉄筋とコンクリートという異なる媒質(力や波動などの物理的作用を伝える仲介物となるもの)が、音が伝わる際に力を減衰させる傾向があります。『鉄骨鉄筋コンクリート造』は、鉄筋とコンクリートに鉄骨も加わって媒質の種類が増えるので、さらに音が伝わりにくくなります」

マンションには、建物の躯体に用いられる鉄骨や鉄筋、コンクリートに加えて、内部の柱、梁、給排水の配管、換気扇、エレベーターなど多様なパーツや共用設備があり、それらも音を伝える媒質となり得ます。このことが、上下左右の隣接住戸ではない、意外な音の発生源を生み出す場合もあるそう。

マンションは構造が複雑で、使用されている資材の種類も膨大なだけに、騒音の発生源を突き止めることが難しくなるケースもあると語る鈴木所長(撮影/片山貴博)

マンションは構造が複雑で、使用されている資材の種類も膨大なだけに、騒音の発生源を突き止めることが難しくなるケースもあると語る鈴木所長(撮影/片山貴博)

「あるマンションで1階と3階は問題ないのに、その間の2階住戸の柱からだけ、断続的に大小を繰り返す『ウォン、ウォン』という異音が聞こえる事案が発生しました。実はこの部屋では約350Hzの連続的な音がずっと存在していたのですが、そこに周波数の低いところから1本の音が現れ、徐々に高くなって周波数成分が約350Hz付近まで広がったことで、断続的な『ウォン、ウォン』という音になっていたのです。連続的な音は刺激が少ないため、人間には認識されにくいのが一般的です。ちなみに救急車は、単一の周波数を連続的に『ピー』と出すだけでは刺激が少なく人間が認識しづらいため、2つの周波数990Hzと760Hzを交互に発して、あの『ピーポー、ピーポー』という音をつくっています。

周波数の低いところから1本の音が現れ、徐々に周波数成分が約350Hz付近まで広がった(白い矢印の部分)ことで、マンション内で『ウォン、ウォン』という断続音が確認された(出典/日本音響研究所)

周波数の低いところから1本の音が現れ、徐々に周波数成分が約350Hz付近まで広がった(白い矢印の部分)ことで、マンション内で『ウォン、ウォン』という断続音が確認された(出典/日本音響研究所)

この件は、同じマンション内では原因が特定できなかったため周囲の建物、環境まで範囲を広げて調査したとのこと。

「その結果、約50m離れた場所を走っている地下高速道路の換気扇のファンが原因だったと判明しました。この『ウォン、ウォン』という音の周波数はかなり低く、マンション現地の環境ではリアルに再生できないため、関係者10名ほどに弊社にお集まりいただき、実際の音を現地と同じ音量で体感していただきました。その後、再び現地に移動して発生源とおぼしき換気設備のON/OFFを行い、依頼人の居室内の異音の状況を確認して、因果関係を立証することができたのです」

ここが騒音の発生源となった、マンションから約50m離れた地下高速道路の換気扇。最終的に高速道路管理会社が換気設備のメンテを実施し、騒音が解消した(出典/日本音響研究所)

ここが騒音の発生源となった、マンションから約50m離れた地下高速道路の換気扇。最終的に高速道路管理会社が換気設備のメンテを実施し、騒音が解消した(出典/日本音響研究所)

とは言うものの、こうした事例は一部であり、やはりマンションの騒音トラブルの発生源は隣接した場所が多いとのこと。

「空気中の音の伝搬の場合、反射などを除外すると例えば発生源から1m離れた場所と2m離れた場所で聞いた音を比較すると、後者は前者に比べて『2の2乗分の1』、つまり音の強さが『4分の1』に小さくなります。ですから10倍離れると強さは100分の1になる。やはり音の発生源に近い場所のほうが、ストレスを感じてしまうというケースは多くなります」

異音の発生状況をモニター上に「見える化」して、分かりやすく説明していただいた(撮影/片山貴博)

異音の発生状況をモニター上に「見える化」して、分かりやすく説明していただいた(撮影/片山貴博)

高精度な音響測定や音響解析に用いられる超高性能マイク。プロフェッショナル向け機器の世界的メーカー・Earthworks Audio(アースワークス・オーディオ)社製(撮影/片山貴博)

高精度な音響測定や音響解析に用いられる超高性能マイク。プロフェッショナル向け機器の世界的メーカー・Earthworks Audio(アースワークス・オーディオ)社製(撮影/片山貴博)

足音だけじゃない!マンション騒音の代表例5選

鈴木所長にマンションの代表的な騒音問題を5つ挙げていただきました。

【1.生活音】
「生活音の中でも特に多いのが子どもの足音です。以前には親が起きる前、早朝5時くらいから走り回り、下の階の住人に深刻なストレスを与えたケースも。7時くらいにぱたっと止むため、その理由を調べてみると保育園に行くために自宅を出たからと判明しました。

椅子、テーブルなど家具の移動で生じる音も多くあります。床に直接響き、固体伝搬音となって伝わる場合も。同様にスプーンなど、金属製の硬いモノをフローリングに落とした時の音も下の階に響くことがあります。

こうした騒音は、防音・防振マットや厚手のカーペットを床に敷く、椅子、テーブルの脚にクッション性の高いパッド、カバーなどを付ける、遮音等級の高いフローリングに張り替える、などの方法で軽減が可能です」

子どもが出す生活音を軽減させるためには、クッション性の高いパッドを敷き詰めるのもひとつの手(画像/PIXTA)

子どもが出す生活音を軽減させるためには、クッション性の高いパッドを敷き詰めるのもひとつの手(画像/PIXTA)

【2.給湯器の「釜鳴り」】
「給湯器がメンテナンス不足だったり、古くなっていたりすると、キッチンでお湯を出す、シャワーを使うなどした際、『ブォーン』という低音や、パイプを通って『カーン』という管楽器が奏でるような高音が聞こえてくることがあり、この現象を『釜鳴り』と言います。給湯器は各戸のバルコニーに設置されている場合が大半ですが、建物が立て込んでいる場所にあると、釜鳴りがほかの建物に反射して、発生源の特定が難しくなることも。食事や入浴の時間帯など、夜間に発生するケースが多く見られます。

解消するには、給湯器の部品交換やメンテナンス、給湯器そのものの交換などが必要になる場合もあります」

マンション外壁に設置された給湯器が「釜鳴り」の発生源となり、騒音トラブルに発展するケースは少なくない

マンション外壁に設置された給湯器が「釜鳴り」の発生源となり、騒音トラブルに発展するケースは少なくない(出典/日本音響研究所)

釜鳴りの音をモニター上で再現していただいた。高音~低音と多様な騒音が発生することが分かる(出典/日本音響研究所)

釜鳴りの音をモニター上で再現していただいた。高音~低音と多様な騒音が発生することが分かる(出典/日本音響研究所)

【3.建材の「熱音(ねつおん)」】
「日射や気温の変化により、住宅の壁や配管などの建材が熱伸縮(膨張・収縮)を起こすことで発生する『カンッ』『パンッ』といった音を『熱音』といいます。朝晩と日中の気温の寒暖差が開く日が多い春と秋に発生しやすく、なおかつ、同じ住戸のなかでも特に日当たりの良い部屋で起きやすい傾向が見られます。以前は『ラップ音』『ポルターガイスト』など霊的現象のように考えられ、気にする方もいましたが、熱音であると判明すると安心される方が少なくありません」

【4.エレベーター】
「『ウーン……』といった低周波(概ね1Hz~100Hzの音。うち1Hz~20Hz程度は耳に聞こえにくい『超低周波音』と呼ばれる)の作動音が、床や天井を伝って騒音となる場合があります。エレベーターと直接隣接しておらず、廊下を1本挟んだ住戸配置でも、床、天井ではつながっていてそれらを媒質にして伝わってきたケースもあります。管理組合、管理会社を経由してエレベーターの再点検を行い、原因を突き止めることが必要になる場合もあります」

住戸との距離感、位置関係によってはエレベーターが騒音源になる可能性もある(画像/PIXTA)

住戸との距離感、位置関係によってはエレベーターが騒音源になる可能性もある(画像/PIXTA)

【5.風による共鳴、振動】
「これは非常に稀なケースですが、風速5m以上の南風が発生した時に、低い『ブー』という音が特定のフロアの住戸に発生する事例がありました。近隣にマンションが建設され、なおかつ近い場所に高速道路が通っており、結果、該当住戸の前に風の通り道ができてしまったことで、手すりに当たった風が音を発生させていたというものです。これは手すりの施工を調整したことで解消しました。

もうひとつは最上階の住戸で、これも風速の強い日に住戸内に発生した異音です。調べてみると住戸上階の屋上の避雷針の施工が不十分で、台座に固定されていないことが原因と判明しました。ドライバー1本で締め直して、マンションの躯体にしっかり据え付けたことでなくなりました」

騒音の感じ方は人それぞれ。感情的な直接クレームはNG!

鈴木所長に挙げていただいた騒音ストレスの代表例、実際に気になっている、悩んでいる方はいらっしゃったでしょうか。

ただ、当然のことですが、住人それぞれの受忍限度(※)は異なります。同じ騒音を聞いても全く気にならない人もいれば、極端な例では、「あの人は、意図的に騒音をつくり出して、私に嫌がらせをしている!」と思い込んでしまう人もいます。

※受忍限度は、音量、時間帯、継続時間、頻度、地域性、被害の程度などから総合的に判断される

「後者の事例のような考えに陥る発端は、何気ない日常のやりとりであることが珍しくありません。例えば『隣の家の住人に挨拶したのに無視された。後日、その家の方向から騒音が聞こえてくるようになった……』といったケースです。気になる人はとことん気になってしまい、精神的に追い詰められ、転居してしまう人もいます。

しかし、悩んでいる本人にとっては忌まわしい音であっても、自治体が定めている騒音の規制値上では、受忍限度を超える騒音というのはほとんどありません。訴訟を起こそうとしても、訴えが認められないケースは少なくないのです。

したがって、感情に走ってしまい、発生源と思しき住人に直接クレームを入れてしまうことは避けるべきです。相手によっては、さらに深刻なトラブルに発展する恐れもあるため、まずは管理組合に相談をするようにしましょう」

日本音響研究所がマンション管理組合→管理会社から依頼を受けて、実際に物件での騒音調査を行い、報告書を提出するまでの期間を示したスケジュール表。このケースでは約4カ月に及んだ。専門家に調査を依頼しない場合はこれより期間は短くなると考えられるが、いずれにせよ、マンションの騒音トラブルの解消までには一定の時間を要するといえる(出典/日本音響研究所)

日本音響研究所がマンション管理組合→管理会社から依頼を受けて、実際に物件での騒音調査を行い、報告書を提出するまでの期間を示したスケジュール表。このケースでは約4カ月に及んだ。専門家に調査を依頼しない場合はこれより期間は短くなると考えられるが、いずれにせよ、マンションの騒音トラブルの解消までには一定の時間を要するといえる(出典/日本音響研究所)

「リニアPCM」を活用、説得力のある状況証拠の準備を

では、管理組合に打診する際にはどんな準備が必要なのでしょうか。鈴木所長は、できるだけ詳細な記録を用意することが重要と話します。

「聞こえ始めた時期、発生の曜日・時間帯、音の継続時間、聞こえる場所、発生時の天候、温度・湿度、夜眠れない、仕事がしづらいなどの具体的な被害などをまとめたメモ、さらには『ドン』『カンッ』など、どのように聞こえた音だったかも言語化して『文書』にしておくことが大切です。一刻も早く騒音をなくしたいと考える方は多いと思いますが、まずは一定期間、記録を取ること、例えば1か月程度続けることで騒音発生のパターンが見え、確度が上がります」

■記録すべき項目(1か月程度の継続がポイント)

カテゴリ記録する具体的内容日時・環境時期、曜日、時間帯、天候、温度・湿度音の状況発生場所、継続時間、音の表現(「ドン」「カンッ」など)被害状況「夜眠れない」「仕事に支障が出る」などの具体例

そしてさらに肝心なのが、騒音を録音する機材です。

「最近では、その音が何デシベルだったかを測定できるアプリをスマホにダウンロードして利用されたり、ビジネス用のICレコーダーを使われたりする方もいらっしゃいますが、いずれも、発生時刻や頻度の記録には役立ちますが、低周波音や音圧の正確な評価には限界があります。また、再生音のスピーカーが小さいため、特に低音が聞きづらいケースも見られます。管理組合の理事会に持ち込んで聞いてもらっても『この程度の小ささなら我慢できるのでは?』と言われかねません。

おすすめの録音機材は『リニアPCM』と呼ばれるタイプのレコーダーです。音声データを圧縮せず、原音に極めて近い音質で記録・再生することができます。また、スペックを確認していただき人間が聞き取れる最も低い音といわれる『20Hz』の音をキャッチできるものを選んでいただくことも重要です。ご自分が聞いた音をほぼ忠実に再現できるため、スマホや通常のICレコーダーに比べると、かなり説得力が高いと思います」

自分で騒音を録音する場合は、「リニアPCM」の名を冠したレコーダーを使いたいもの(写真の機器はリニアPCMではありません)(画像/PIXTA)

自分で騒音を録音する場合は、「リニアPCM」の名を冠したレコーダーを使いたいもの(写真の機器はリニアPCMではありません)(画像/PIXTA)

文書と音声のセットを管理組合に提出して検討してもらうのが、住人同士の直接的なトラブル回避の最善策と鈴木所長は強調します。自分が騒音についてクレームを入れていると知られたくない場合は、その旨、しっかりと管理組合に伝えるようにしましょう。

なお、先述の「文書」は、自分ではそのつもりがないのに「音を出している!」とクレームを付けられてしまったときも有効とのことです。

「在宅・不在時間、家族の行動といった時間割的な記録を残しておくと良いでしょう。自分たちの行動を自己申告することになるので客観的な確証はありませんが、防犯カメラで記録するといった方法は現実的ではなく、これが最善の策になります。

騒音を出している心当たりがなく、なぜこんなことをしなければならないのかと納得できない方もいるでしょう。でも例えば、クレームをつけている人が言う時間帯に不在にしていたら、その時点でその住戸の通常の生活音が原因では無い可能性を示す有力な材料になるわけで、事実そうしたケースは少なくありません。もちろんこの申告も管理組合を通して行うもので、個人情報保護の観点から、情報を流出させないことを理事会が確約してから行うようにしてください」

住人からの申し立てを受けて管理組合が騒音トラブルを議題に取り上げた後、注意喚起の張り紙をすることで、多くの住人がそうした問題が身近に起きていると知ることになります。なかには「自らが音を出していないか?」と内省し、意識した生活を行うことで、騒音トラブルが解消する事例もあるそうです。

構造だけじゃない、騒音に強い住戸選びのチェックポイント

日本音響研究所の資料によると、マンション購入予定者の9割以上が「優れた遮音性能」を物件に求めています。ではどんな点に注意して選べば良いのでしょうか。前述したマンションの構造(鉄骨造、鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造)以外の要素を、鈴木所長にまとめていただきました。

日本音響研究所の資料によると、マンション購入予定者が最も重視するのは「音」に関する住宅性能。「かなり考慮する」「やや考慮する」を足した割合は95%以上に達する(画像提供/日本音響研究所 井上勝夫(2024)「マンションの騒音問題の種類と対策」より)

日本音響研究所の資料によると、マンション購入予定者が最も重視するのは「音」に関する住宅性能。「かなり考慮する」「やや考慮する」を足した割合は95%以上に達する(画像提供/日本音響研究所 井上勝夫(2024)「マンションの騒音問題の種類と対策」より)

「まずは隣接する住戸が少ないこと。それで言えば最上階の住戸、上下階とずれが生じる階段状の住戸、角住戸、真横に住戸が並ばない雁行型住戸などは、比較的騒音リスクが低いといえるでしょう。

また、各階の平面図を見て、隣の住戸の各室のレイアウトと購入を検討している住戸のそれがどのように並んでいるかを確認することも大切です。例えば隣戸の浴室が寝室のそばにある場合、遮音性能を確認しておく必要がありそうです。逆にクローゼットが挟まれている場合は、音が伝わりにくくなる可能性があります。各階平面図では、騒音の発生源になりそうなエレベーターやパイプスペースとの距離感も分かるのでチェックしておきましょう」

近年の新築~築浅マンションの場合、防音・遮音性能は進歩していますが、実際の数値としてどのくらいシャットアウトされるのか、担当営業に聞いておきましょう。また、周辺のマンションの立て込み具合を確認し、強いビル風のような風が吹き抜けそうな場所に面していないかにも注意すると良いでしょう。

■リスクが低い間取り例:
最上階、角住戸、階段状住戸、雁行型(がんこうがた)住戸

下階とずれが生じる階段状住戸(左)、真横に住戸が並ばない雁行型住戸は、騒音リスクが低いといえる(画像/PIXTA)

下階とずれが生じる階段状住戸(左)、真横に住戸が並ばない雁行型住戸は、騒音リスクが低いといえる(画像/PIXTA)

■間取りで確認すべき3つのポイント:

チェック項目確認内容理由・対策隣戸との部屋の並び寝室の隣に「相手の浴室」がないか浴室が近い場合は遮音性能を確認。逆に「クローゼット」が挟まれていると音は伝わりにくい共用設備との距離エレベーターやパイプスペース(PS)の配置機器の動作音や排水音が響くリスクがないか確認性能・周辺環境営業担当への確認/周辺環境の現地調査防音・遮音性能の「具体的な数値」や、強いビル風が吹かないかをチェック

「壁耳チェック」「夕飯時内見」…騒音トラブル回避のための中古物件下見術

次にマンション内見時のチェックポイントです。特に中古マンションでは、既に人が暮らしているだけに、より具体的な確認ができます。

「まず、耳を直接隣戸に接する壁に押し当ててみること。話し声やテレビの音などは空気を伝搬した後、壁に当たって固体伝搬音になり、壁が揺れて、隣戸の室内の空気を振動させる空気伝搬音となって隣人の耳に届きます。壁に耳を押し当てることで、こちらの住戸の空気という媒質を経る前に隣の住戸の声などを聞くことができるわけです。極端な例では、壁に耳を押し当てて、隣の住人が見ているテレビ番組の内容が分かってしまうようでは、騒音トラブル発生のリスクは高いと言わざるを得ません」

素朴な方法ではあるが、騒音トラブルの元を察知するのに有効な「壁耳チェック」(画像/PIXTA)

素朴な方法ではあるが、騒音トラブルの元を察知するのに有効な「壁耳チェック」(画像/PIXTA)

下見に訪れる時間帯もポイントだといいます。

「周辺環境や施設の種類によって音の発生状況が異なるため、可能なら、平日と休日の昼間と夕方~夜はそれぞれ見学したいところです。仮に近くに小学校や保育園がある場合、子どもたちの声がうるさそうと思われがちですが、在宅ワークがなく、在宅時間と重ならなければ影響は受けにくいでしょう。逆に在宅ワークが多く、子どものやや甲高く、高い周波数の声が気になる方は注意が必要です」

事情で内見の時間帯が限られる場合は、平日の夕方~夜を選ぶと良いそう。

「平日の夕方~夜が、隣接住戸に暮らしている住人のほとんどがそろい、炊事、食事、テレビを見ながらくつろぐ、入浴するなどの音の発生を伴う行動が集中しがちだからです。日中に行って日当たりの具合を確認するのももちろん大切ですが、騒音の観点から言えば、夕方~夜が良いと思います。後々後悔しないためにも、仲介会社にお願いして複数回確認していただきたいですね。また、その際には上下左右の住戸の入居家族の構成も可能な範囲で教えてもらうと良いでしょう」

下見したマンションの掲示板に、騒音トラブル注意喚起の張り紙が掲示されていた場合、やはりリスクが高そうといえるでしょうか。

「まず、その掲示物がいつ貼られたものかを確認しましょう。例えば、掲出後半年以上経過していると、騒音以前に情報更新の意識が低く、管理組合の取り組みが行き届いてないマンションだと考えることもできます。仮に掲出して1か月以内だとした場合、確かに騒音のトラブルはあるのかもしれないが、問題が発生したらすぐ管理組合が動いてくれるマンションである、と一つの目安として参考になると思います」

録音した音声やメモを根拠にして、マンション管理組合・管理会社にサポートを仰ぐことがトラブル解消に近づく方法ですと語る鈴木所長(撮影/片山貴博)

録音した音声やメモを根拠にして、マンション管理組合・管理会社にサポートを仰ぐことがトラブル解消に近づく方法ですと語る鈴木所長(撮影/片山貴博)

■内見時の騒音チェックポイント

チェック項目具体的な方法・タイミング判断の基準・チェックの理由① 壁耳チェック隣戸に接する壁に直接耳を押し当てる隣のテレビ番組や話し声が判別できるレベルなら騒音リスク高(部屋の空気を介する前の音を直接確認できるため)② 見学の時間帯平日の夕方~夜がベスト
(可能なら平日・休日の昼夜それぞれ)住民が揃い、炊事・入浴・テレビなどの生活音が発生しやすい時間帯だから
※在宅ワーカーは昼間の周辺環境(学校など)も確認③ 掲示板の張り紙騒音注意喚起の張り紙の「日付」を確認【1か月以内】 トラブルに対し管理組合がすぐ動く健全な体制
【半年以上放置】 管理機能が停滞している可能性あり

マンションでの騒音トラブルを未然に防ぐためには、音環境を意識した物件確認が大切です。それでも入居後、万が一音のストレスを感じた場合は、感情的にならず、できるかぎり情報を“見える化”“聞こえる化”することが、問題解消への第一歩となりそうです。

【まとめ】

マンション騒音の発生源で最も多いのは、隣接する上下左右の住戸だが、空気や建物の構造を伝わり、意外な場所から届くこともある
代表的な騒音には生活音のほか、給湯器が発する「釜鳴り」、エレベーターの駆動音などがある
騒音ストレスを感じても、原則として発生源とおぼしき住人へ直接クレームは避け、まず管理組合・管理会社に相談するべき
管理組合を説得する材料としては、
①適切な機材を活用して収録した騒音の音声データ、
②発生日時や音の種類などを記録したメモ、
以上の2点セットが有効
騒音トラブルを回避するなら、住まい選びでは隣接する住戸や共用施設との位置関係、周辺環境などを確認。下見は夕飯時をはじめ、複数の時間帯でチェックすることが理想

●取材協力
日本音響研究所

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