「家を借りられない高齢者」の壁を破る!管理6000戸の会社が確立した“孤独死・滞納を防ぐ”拒否ゼロの仕組み 「住まいLOVE」静岡県浜松市
高齢化率が人口の3割に迫る静岡県浜松市。管理物件6000戸を抱える賃貸管理会社、住まいLOVE管理は、高齢者の積極的な受け入れを仕組み化しました。特徴は、「家賃債務保証会社(以下、保証会社)の1本化」と「見守りサービス必須化」を軸にしたこと。現場の試行錯誤から見えた“リスクをチャンスに変える”実務について、同社浜松支店長の三浦孝之(みうら・たかゆき)さんに伺いました。
持ち家を手放し、賃貸に。浜松で今、高齢者の住み替えが急増している理由
2026年1月1日時点で、静岡県の65歳以上の人口割合は31.1%と過去最高を更新しました。住まいLOVE管理が拠点を置く浜松市でも、2025年10月時点での高齢者は人口の29.1%を占め、そのうち高齢者のみの世帯が37.8%、一人暮らしの高齢者世帯は26.2%にのぼります。
静岡県全体の高齢化率は31.1%と過去最高水準に。浜松市内でも高齢者のみ世帯・一人暮らしの高齢者が増えており、「高齢者の賃貸需要は確実に増えている」と三浦さんは実感を語っている(画像/静岡県)
こうした数字の背景には、核家族化の進行があります。三浦さんは、浜松市における賃貸需要の変化を次のように説明します。
「核家族化の影響で、次の世代が必ずしもその土地や建物を引き継ぐとは限らなくなりました。土地と建物を所有し続けると税金もかかるし、建物は必ず老朽化してメンテナンス費用も必要です。子どもたちがいなくなって夫婦2人になったときに、広すぎる場合は売却して狭い物件を探したり、独り身となった高齢者のかたが賃貸へ流れたりする傾向にあります」(三浦さん、以下同)
浜松市の賃貸住宅市場の現状について話を伺った三浦孝之さん。保証会社との粘り強い交渉を経て、独自の受け入れ体制を構築した(画像提供/住まいLOVE管理)
一方で、浜松市の賃貸市場には構造的な難しさもあります。
「製造業が盛んな同市では、期間工や派遣など雇用が不安定になりやすい層が一定数存在し、全国的に見ても家賃滞納率が高いエリアです。さらに、2007年に政令指定都市へ移行したことを機に建築ラッシュが続いた結果、賃貸物件が供給過多の状態が続いています。1万円を切る物件も出るほど家賃の値下げ競争が激化し、入居審査を緩めた物件に家賃滞納の可能性が高い入居者が集まりやすい構造になっています」
無職・年金収入・身元引受人不在といった高齢者に多く見られる事情は、オーナーから「経営リスク」として敬遠される要因になります。一方、需要は確実に増えており、入居できる物件もあるのに、受け入れの体制が整っていない。これが、浜松市における賃貸市場の現状のようです。
「社会に必要とわかってはいるけれど…」大学との調査が明らかにしたオーナーのジレンマ
住まいLOVE管理を含み、仲介10店舗・管理2支店を展開する住まいLOVEグループが高齢者の積極的な受け入れに乗り出したのは、2024年のことです。本格的に取り組むきっかけとなったのが、豊橋技術科学大学の国際都市計画研究室との産学連携による意識調査でした。同社の管理物件オーナーを対象に、2022年11月~2023年2月の4カ月間で実施したこの調査は、現場が感じていた課題、そしてある矛盾を数字で浮き彫りにするものとなりました。
オーナーの76%が「セーフティネット住宅の提供は社会的重要性のある制度だ」と認識している一方で、65%が「自分の物件での受け入れ」には否定的だったのです。
産学連携による意識調査が、オーナーの本音を明らかに。「社会には必要だけれど、自分の物件では受け入れたくない」というジレンマが、住まいLOVE管理が仕組みづくりに本格着手するきっかけとなった(画像/PIXTA)
「オーナーさんは、制度への理解と関心は高いけれども、自分の物件だとリスクがあると感じている。そこで私たち不動産仲介会社や管理会社が、リスクを軽減する制度や仕組みづくり、そして積極的な介入をしていくことで、もっと幅広くご入居者の受け入れができるのでは、と考えたのです」
オーナーが挙げる懸念は、大きく「孤独死による事故物件化」と「家賃滞納」の2つに集約されます。三浦さんはこれを「先入観と情報不足が不安を大きくしている」と分析しました。たとえば過去に高齢者が倒れて救急車で運ばれそのまま退去になったという経験があった場合、そのオーナーは高齢者全員をリスクとみなしてしまうなど、個別の事情が「高齢者」とカテゴライズされた層全体への拒否感につながってしまうケースが少なくないというのです。
管理会社としての役割は、こうした「先入観」を否定するのではなく、データと仕組みによって不安を具体的に解消することにある。この認識が、その後の取り組みの出発点となりました。
3社から1社へ、全世代で同じルールに。保証会社の1本化が業務の複雑さを解決
意識調査の結果を受けて、住まいLOVE管理が最初に着手したのが保証会社の1本化です。それまでは信販系・協会系・独立系の3社を入居者の状況に応じて使い分けていました。まず、審査の承認が相対的に厳しい代わりに保証内容は手厚い信販系で審査に落ちた申込者が、審査通過の難易度が相対的に下がる協会系へ、さらに独立系へとアタックする流れになります。
保証会社は信販系・LICC(協会系)・独立系の3種類に大別され、審査の通りやすさがそれぞれ異なる。住まいLOVE管理では、かつてこれら3系統を使い分けていた(画像提供/住まいLOVE管理)
ところが、この体制には大きな問題がありました。
「1番の問題は保証会社によって保証内容が統一されていないことと、進め方や書式がバラバラで手間がかかるということでした。オーナーさんへの説明も毎回違ってきてしまうので、当社にとってもオーナーさんにとっても面倒な作業になっていたんです」
そこで住まいLOVE管理では保証会社を1社に絞り、申込から契約まで入居者においても全世代共通の仕組みにすることを決断します。ただし、どの会社に絞るかが最大の課題でした。
同社が設けた保証会社の選定基準は3つです。(1)保証内容が充実していること、(2)信販系・協会系・独立系すべての審査系統を1社でカバーできること、(3)経営が安定した財務体質であること。この3条件を満たす保証会社を求めて、5社以上と交渉を重ねました。
住まいLOVE管理が審査承認率98%を目標に掲げる新しい保証プランは、反社会的勢力・重滞納者を除いて「申込条件のNGなし」を実現しています。承認率の高さを支えているのが、信販系・協会系・独立系という3つの審査系統を1社で網羅している点です。1社の中で審査の間口を広げることで審査できない人・審査が通らない人を最少化しました。保証範囲も家賃・管理費に留まらず、多岐にわたる充実した内容です。
保証会社の1本化によって管理会社としての業務は大幅に簡素化され、オーナーへの説明も統一されました。
「ご入居を希望される方に対しては、間口を広げた分、紙面や登録情報ではわからない部分の審査を強化し、自社の審査をしっかりするようにしました。例えば、内見や契約時に高圧的・威圧的な態度を取る、スタッフに暴言や横柄な言動をする、約束の時間を守らない、連絡がとれない、要求だけを一方的にする、ルールを守る意思が感じられないなどの場合には、ご入居が難しくなることもあります」
電力データが知らせる「異変」。中部電力と組んだ見守りの仕組みと、運用の現実
保証会社の1本化と並行して導入したのが、60歳以上の入居者を対象とした見守りサービスへの加入を必須にすることです。この「住まいLOVEサポートS(見守りサービス)」は、3日間にわたって電力使用量に異常が検知された場合、緊急連絡先と部屋を管理している支店の双方にメールで通知が届く仕組みです。通知を受けたスタッフは入居者へ連絡を取り、それでも応答がなければ安否確認に向かいます。
「当初は65歳以上の方を対象としていましたが、孤独死の平均年齢が61歳であることを知り(一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会2021年6月「第6回孤独死現状レポート」より)、60歳以上に変更しました」
費用は入居者が負担。「60歳に達した時点で見守りサービスへの加入を必須とする」旨を全ての入居者に対する契約書の特約に明記することで、たとえ20歳で入居した場合でも、将来、対象者となったときに困らない仕組みを整えました。
「住まいLOVEサポートS(見守りサービス)」では、3日間の電力異常を検知すると、事前に登録された緊急連絡先と管理会社にメールが届く。便利な仕組みの裏で、現場の業務負担という想像していなかった課題も浮かび上がった(画像/PIXTA)
ただし、運用を始めてみると想定外の負荷が現場を直撃。
「旅行や一時的な帰省、あるいは節電のため外出時にブレーカーを落とす入居者によって異常値が頻発し、その都度スタッフが連絡・確認・駆けつけ対応に追われる事態が生じたのです。これが全入居者になった場合、管理会社への負担は相当大きなものになると思います」
そのため「いずれは年齢を問わず、全入居者を対象としたい」と考えてはいるものの、まずは60歳以上に絞った現実的な運用をしています。
また、既存入居者への展開についても、費用負担をめぐる問いが残ります。「導入の目的がオーナーの不安を軽減することであるなら、オーナーが費用を負担すべきなのでは」という視点も含め、費用負担のあり方は今も検討を続けている段階です。
89歳の新規入居も、オーナーの拒否ゼロ。仕組みが変えた現場の景色
保証と見守りの仕組みを整えた結果、現場は変わりました。現在、住まいLOVEグループの管理物件において「高齢者の入居に対するオーナーの拒否反応はほぼゼロ」だそう。89歳での新規入居事例もあるなど、70代、80代の入居も珍しくありません。
高齢者の受け入れをさらに広げるうえで、同社が重視するのが居住支援法人(※)との“連携”と“分業”です。住まいLOVEグループでは、豊橋エリアで居住支援法人としての申請を進めています。
※居住支援法人:高齢者、障がい者、低所得者、外国籍、子育て世帯など、住まい探しが困難な「住宅確保要配慮者」の民間賃貸住宅への入居を円滑にするため、都道府県から指定を受けた法人
「近年、全国各地で災害が相次いでいます。被災した方が仮設住宅での不便な生活を強いられるニュースを毎年のように目にするなかで、代表が『賃貸物件をより早く仮設住宅として提供できる体制をつくりたい』と考えたことが、居住支援法人を目指すスタートでした」
一方、三浦さんが担当している浜松エリアでは、居住支援法人との連携・分業という形でのかかわり方を模索しています。
「浜松市には居住支援法人がすでに複数あり、市の相談窓口から居住支援法人を経由して相談が届く流れがすでに機能しています。こうした体制や、これまで培ってきた関係性をふまえると、生活支援や自立支援といった福祉的なサポートは居住支援法人さんに委ね、私たちは部屋探しのお手伝いに集中する形が適切なのではと」
無理に自社ですべてを担う必要はなく、エリアの特性に応じてかかわり方を考えることが大切だと、三浦さんは考えているのです。
三浦さんが他の管理会社・オーナーに向けて繰り返し伝えるメッセージがあります。「回避できることはリスクじゃない」という言葉です。
孤独死への不安も、家賃滞納への懸念も、仕組みによって対処できるものであれば、それはリスクではなくなります。住まいLOVE管理で実践した保証会社の1本化と見守りサービスの導入は、まさに「回避できる仕組み」を整えることで、高齢者入居をリスクからチャンスへと転換させる取り組みです。
「高齢者や住宅確保要配慮者を受け入れることで入居率を上げられる。それはオーナーさんにとっても管理会社にとってもチャンスだと思うんです。何かを実現したい、どこかと連携協力したい、と考えたとき、周りにも協力してくれる会社は必ずいます。1社に断られてもあきらめずに何社かあたっていけば、話し合いの中から改善のプランが出てくることもある。ぜひ、そういった姿勢で多くの会社・人に居住支援に取り組んでほしいと思います」
●取材協力
住まいLOVE管理
住まいLOVEサポートS(見守りサービス)
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