「着るだけで心電図が取れるウェアラブルデバイス」や「電磁波を遮断できる布」を開発するために、ヤマシンフィルタ株式会社とミツフジ株式会社が資本業務提携
ただ着るだけで正確な心電図が取れる胸部バンドや、分厚い金属板に代わり電磁波を遮断できる布。まるでSFの世界のようなアイテムが、いよいよ現実のものとして実装される未来が見えてきた。7月29日、ヤマシンフィルタ株式会社とミツフジ株式会社が「戦略的アライアンス発表会」を開催した。
ヤマシンフィルタ株式会社が濾材を自社開発することで培ってきた素材開発力を活かしたナノファイバー技術と、ミツフジ株式会社が西陣織工場として創業し、70年にわたり蓄積してきた織る技術から生まれた独自の銀めっき繊維。この両者が組み合わさることで、新たな技術への一歩を踏み出す。
ヤマシンフィルタ株式会社とは
ヤマシンフィルタ株式会社は、建設用油圧フィルタで国内トップシェアを誇り、グローバル屈指の実績を持つ、濾過・素材技術のスペシャリストだ。濾材を自社開発するのが特徴で、ナノファイバー技術も手掛けている。
ミツフジ株式会社とは
ミツフジ株式会社は、1956年に西陣織工場として創業。糸を編み、織る技術を蓄積してきたものの、京都の繊維産業を巡る非常に厳しい環境を受け、1992年に伝統繊維から機能性繊維へ転換を試みた。いわゆる抗菌の靴下など、抗菌防臭分野で商売をし、導電性銀めっき繊維を活用していたが、100円ショップで安価な抗菌靴下が買える時代となり、再び厳しい状況へ。
そこで、AGpossの導電性繊維を使った事業展開を開始した。銀めっき繊維を使った医療機器のウェアラブル製品を開発・販売。そこから派生して、酷暑環境下での熱中症対策製品であるスマートウォッチタイプとリストバンドタイプも展開してきた。
日本のウェアラブル市場は海外メーカーがほとんどを占めるなか、日本メーカーとしては単独トップのシェアを誇っている。また、生体データを解析するAI技術を強みとするIoT企業である。
予測する未来に起きる問題とその解決のビジョン、そこで見えてくるパートナーのかたち
猛暑の夏真っ盛りだが、ここまで暑くなるとは誰も想像しなかっただろう。予測困難な時代であり、環境はどんどん変化し続けている。
気候変動、高齢化社会、生成AIの飛躍的な進化。これらにより「見えない領域」の問題が発生していると、ヤマシンフィルタ株式会社は考える。だからこそ、「見えない領域」へのソリューションを提供する取り組みをスタートするのだ。
今回焦点を当てる「見えない領域」の問題とは、「酷暑時代の体調管理」と「電磁波干渉の深刻化」である。
「酷暑時代の体調管理」への解決策は、着用のハードルを下げつつ、精緻に生体情報を取り込む「ウェアラブルデバイスの進化」によるものだ。その実現により常時モニタリングが可能となり、健康を守ることができる。
しかし、ナノファイバーの技術だけでは実現できない。電極、デバイス、アプリケーションを一貫して手掛けているミツフジ株式会社と手を取り合うことで、実装への道が一気に近づく。
また、「電磁波干渉の深刻化」については、今後、遠隔操作や自動運転により電磁波が大量に発生する時代が予測される。さらに生成AIの普及に伴いデータセンター市場が急拡大することで、データセンターと電磁波が干渉する問題が生じる未来が想定される。
ただし、電磁波を遮断するためのシールドが分厚いと、排熱に多大な電力を要する。その解決のため、シールド性と通気性を両立する「次世代電磁波シールドフィルタ」の開発を目指す。
これによりデータセンターの排熱負荷を軽減する狙いがある。完全にカットすることはできないが、フィルターの通過抵抗を下げたり、そもそもの風量を下げることで大幅な電力カットを見込むものだ。
この繊維には特殊な加工が必要であり、提供するにも認証が求められる。実現を最短距離で成し遂げるためには、ミツフジ株式会社の協力が必要不可欠なのだ。
着衣型ウェアの実演
バスケットボール女子日本代表としても活躍する後藤音羽選手が、最新型のウェアラブルデバイスを装着した状態で、バスケットボールのパス回しを行い、運動時のウェアラブルデバイスの挙動を実演するコーナーがあった。
今回、装着しているウェアラブルデバイスは胸ベルトタイプ。リアルタイムでバイタルデータを取得できる。これにより、ストレスレベルや体調、心拍数を把握できる。
動作が加わると、現状ではどうしてもノイズが混入してしまう。ノイズが混じると正しいバイタルデータが得られないため、練習強度の調整や試合中のコンディション管理が困難なのは、このノイズが原因だ。ノイズを低減できれば実用性が高まる。その克服が今後の課題である。
実際に着用した後藤音羽氏に感想を聞くと、「付けている感じはあるが、気にならない」という感想だった。着用時に邪魔に感じないのであれば、及第点だろう。
付け心地は問題がない。あとはノイズを減らすだけ。ノイズを減らせば日常生活でのデータを取得でき、これまでは把握できなかった病気の兆候を早期に捉えられるようになる。スポーツの分野では、練習強度の調整や試合中のコーチングへの活用が期待できる。
ノイズ問題を解決するために、ヤマシンフィルタ株式会社が扱うナノファイバー繊維は非常に細い繊維であり、それを皮膚に追従させることで、ノイズを限りなく抑制することが可能だと見られている。
パリ2024オリンピック女子バスケットボール日本代表ヘッドコーチを務めた恩塚亨氏は、「選手のコーチングはどうしても主観で感覚でやることになりがち。客観的に可視化することで、選手の不要な怪我を避けたり、ストレスを軽減することができる。選手の可能性を最大限に引き出せるコーチングができるようになるので、これからのスポーツ界を大きく前進させる希望であり、可能性だと強く感じている」と、語った。
数値として可視化できれば、それをわかりやすい映像として転用することもできそうだ。スポーツ観戦をする側としても、選手のステータスが見えるようになればより面白い観戦ができるようになりそうだ。
このウェアラブルデバイスは、医療機器として認証を取得するモデルと非医療機器モデルの2種類で展開を予定しており、主力として医療機器モデルに注力していく方針だ。
電磁波シールドフィルタの遮蔽実験
電磁波シールドの簡易的なデモンストレーションを披露するコーナーもあった。AGpossで作った電磁波シールドの布で作った袋にスマホを入れるという実証実験。
スマホを袋の中に入れると、圏外になって、着信も通話もできなくなる。ただの布のように見えるが、実は電波を遮断できるのだ。
ヤマシンフィルタ株式会社のナノファイバー技術であれば、細い繊維が入り組む構造なので電磁波ノイズを効率的にカットできる。
さらに、もうひとつは、データセンターや車のバッテリーなど、いろんなところで電磁波のノイズが入る。そして、それぞれの周波数、つまりノイズ帯は異なっている。それらに最適化した材料を使用しなければカットすることができない。
例えば、ナノファイバーの密度を変える、あるいは、原材料を変える。この自由度を生かし、それぞれの産業に向けて最適化した製品をリリースし、社会実装を進めていく方針である。
ヤマシンフィルタ株式会社とミツフジ株式会社の今後のロードマップ
ミツフジ株式会社の三寺歩代表取締役社長が今後の展望を語る。「医療の分野でも、生活の中でも、新たな可能性を広げることになると思います。また、電磁波シールドの分野は世界的な需要が高まっており、新たな製品を両社で共同開発していきたいと考えています」
ヤマシンフィルタ株式会社の山崎裕明取締役副社長もロードマップを示した。「ナノファイバーに大きな可能性があることをご理解いただけたかと思います。最終製品にまでしなければ価値をお届けできません。そうした意味で、ミツフジ株式会社との協業には大きな意味があると確信しております。日本のものづくりメーカー同士で、世界の課題を解決できるようにしていきたいと思います」
「着るだけで心電図が取れるウェアラブルデバイス」や「電磁波を遮断できる布」のようなSFを感じるアイテムが完成する日が実に楽しみだ。
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