【子育て新常識】学童・習い事・塾・小児科まで1カ所に集約、送迎不要! 親は仕事やピラティス「こどもでぱーと」で変わる日常 東京都中野区など
共働き世帯の増加を背景に、子育てが “まち全体で支えるもの”へとシフトしつつあるようです。全国の自治体でランドマークとなる子育て支援施設ができるなど、各地で取り組みが進んでいます。首都圏には学童や習い事、小児科などの子ども向けサービスを1カ所に集約した民営の複合型施設「こどもでぱーと」が登場。子育て世帯の暮らしがどう変わったのか、こどもでぱーとを運営する企業やテナント各社、利用者の皆さんにお話を聞きました。
全国で子育て関連施設が続々! 公営・民営の違いや特徴は?
かつて昭和の時代には、地域や親戚などの共同体の目で見守る“まちの中での子育て”が主流でした。ところが、核家族化や共働き家庭の増加により、できる限り“家庭内で完結させる”方向へと進化してきたのが近年のこと。その子育ての形が、今また、まち全体で支えるものへとシフトしつつあるように見えます。
子育て世帯の転入を促したい全国の自治体では、子育て支援施設の整備が進んでいます。例えば、妊娠期から切れ目なく支援するワンストップ型子育て拠点施設「coしぶや(渋谷区子育てネウボラ)」(東京都渋谷区)、図書館・子育て支援・医療が一体となった中心市街地型複合施設「富山市総曲輪レガートスクエア」(富山県富山市)、子育て・文化・交流機能を融合した次世代型コミュニティ拠点施設「おにクル」(大阪府茨木市)など、枚挙にいとまがありません。さらに、少子化を背景とした小・中学校の再編においても、学校を複合化・多機能化し、地域の拠点として整備する例が増えてきました。
大阪府茨木市の文化・子育て複合施設「おにクル」。ホールや図書館、子育て支援、市民活動センター、プラネタリウムなど、1棟で多くの機能をもつ(撮影/ロンロボナペティ)
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一方、こうした公共施設では、サービスを享受できるのが施設のある特定のエリアだけに限られる、駅から遠いことが多い、サービスによっては利用定員が少ないなど、日常的な使いやすさに課題も残ります。
1階~9階まで、カフェ、小児科、塾や習い事までそろう子育てビル「こどもでぱーと」
そうした中で注目されているのが、これまで都市圏のオフィスビル開発などに注力してきた不動産企業、ヒューリックが提供する複合型の子育て施設「こどもでぱーと」です。
「でぱーと」の名称からはたくさんの“モノ”が並ぶ店をイメージしますが、こどもでぱーとは、1棟のビル内で学童や習い事、塾、医療など、就学前~大学受験までの子育てに関わる“コト”をまとめて提供することで、子育ての負担を軽減しようとする場所。2025年に中野(東京都中野区)、たまプラーザ(神奈川県横浜市)の2拠点を開設し、キッズデザイン賞(キッズデザイン協議会会長賞)、女性のあした大賞最優秀賞など、数々の賞を受賞しました。
取材をした2026年4月現在では、今後、自由が丘(2026年予定)、本八幡(2027年予定)、渋谷(2027年予定)、麻布(2028年予定)の開業が予定されています。
「こどもでぱーと中野」(東京都中野区)のエントランス。建物1階左手にビル内への入口、右手に1階にテナントとして入っている「È PRONTO mini⁺(エプロント ミニ)」の入口がある(撮影/片山貴博)
1階~9階まで全てのテナントが子育て世帯を意識したコンテンツを提供している(撮影/唐松奈津子)
学校からタクシーで学童や習い事へ。入口ではコンシェルジュが出迎え
ヒューリック 新事業創造部 こども教育事業室主任の宮田秀(みやた・しゅう)さんによると「公営の子育て支援施設は支援機能が中心だが、民間の施設は利便性・サービスの質や拡張性に特徴がある」そう。
その一つがTOPPAN(トッパン)が中野区・杉並区周辺で提供する送迎サービス「こどもび(R)」との連携です。事前に保護者がアプリで予約をしておくと、指定の場所(学校など)までタクシーが出迎え、提携施設に送った後に事前に登録した方法でオンライン決済されます。料金は送迎利用料(タクシーメーター運賃)+1回300円のシステム利用料で、複数の子どもが相乗りをすると、それぞれの乗車距離に応じて送迎利用料を自動的に按分(あんぶん)。
子どもは迎えに来たタクシーに乗り込んで移動し、そのままこどもでぱーとに入館して館内にある学童や習い事に向かいます。保護者が付き添わなくても学童や習い事に通える動線が整えられているのです。
「こどもび(R)」の送迎タクシーは、こどもでぱーと中野のエントランス前に停車。取材当日は雨だったが、傘をささなくてもほとんど濡れずに入館できる(撮影/片山貴博、撮影協力/TOPPAN)
施設の入口には地域共創を支援する企業、PIAZZA(ピアッザ)のコンシェルジュがおり、子どもの見守りや来館者の案内などを担当。ビル内にテナントとして入っている各施設では、顔認証などの仕組みによって、保護者が子どもの到着をオンラインで把握できます。「安心して任せられる」環境整備もまた、この施設の大きなポイントです。
こどもでぱーとの入口には、14時30分~18時30分の間、コンシェルジュが常駐している。入館時に挨拶をして出迎えることはもちろん、イベント時にはシールを手渡したり、子どもたちに困ったことが起きたときに応対したりと、さまざまなお困りごとを解決する役割(撮影/片山貴博、撮影協力/TOPPAN、PIAZZA)
館内で複数の習い事をはしご。子ども連れの“日常使いの場所”
館内施設のひとつ、リソー教育グループの伸芽会が提供する学童「伸芽’Sクラブ学童」を利用している中野区在住のAさん夫妻。送迎サービスは利用していないものの、JR中野駅から徒歩2分、小学2年生の子どもが学校から自宅まで帰宅する通学経路の途中に、こどもでぱーと中野があります。「学校からそのまま学童・習い事に行くことができ、親が送迎しなくていいのが助かる」(Aさん夫妻)と話します。
伸芽’Sクラブ学童は、民間学童保育の機能を基本としながら、オプションで国語・算数や英語、プログラミングなどの習い事も提供。基本となる学童機能には基礎的な学習教室や“学校の宿題を終わらせる”ことも含まれているので、学童スタッフが、子どもたちの音読を聞いたり、宿題の丸つけを行う姿も見られます。
低学年の子の音読を聞く、伸芽会 学童局 課長の酒匂美孝(さこう・よしたか)さん。「公営の学童と比べ、スタッフ一人あたりの担当の子どもの数が少ないため、子どもたちに丁寧に寄り添った対応ができる」そう(撮影/唐松奈津子、撮影協力/伸芽’Sクラブ学童)
取材当日は、学童の基本プログラムとは別室で、習い事としてプログラミング教室が開催されていた(撮影/片山貴博、撮影協力/伸芽’Sクラブ学童)
「学童で提供される習い事のプログラムとあわせて、同ビル内9階で行われるそろばん式暗算教室『そろタッチ』にも通っています。親が迎えに行って子どもと帰宅したときには宿題も習い事も終わっている状態なので、家族みんなが家でゆったりと過ごせます。
子どもは電車で数駅先の小学校に通っているのですが、ここで近くに住むお友だちができたことをとても喜んでいます」(Aさん夫妻)
「イベントなども多く、子どもの体験も豊かになっていると感じる」と笑顔で語るAさん夫妻(撮影/片山貴博、撮影協力/伸芽’Sクラブ学童)
各階のテナントに加え、「スタジオ」と呼ばれる貸しスペースでは、毎曜日を9時~15時、15時~21時の2つの時間帯で区切って時間貸しすることで、日替わり・週替わりのさまざまなコンテンツが提供されます。Aさんの子が通う暗算教室のほか、学習教室、空手、バレエ、スポーツ、アートやプログラミングなど子ども向けのものだけではなく、子育て中の親への産後ケアサロンなども。興味のある分野に気軽に触れられる“習い事の入口”としても機能しているようです。
こどもでぱーと中野の毎週木曜の15時~21時のスタジオは、花まる学習会が提供する年長/小学校低学年/小学校高学年の各クラスの時間。講師を務める生駒春佳(いこま・はるか)さん(写真奥中央)は、大きなジェスチャーや明るい声でクラスを盛り上げる(撮影/片山貴博、撮影協力/花まる学習会)
子ども2人(小学3年生の女の子、小学1年生の男の子)がこどもでぱーと中野に通う母のOさんは、自身も同ビル内でコナミスポーツが展開する「Pilates Mirror(ピラティスミラー、天井に設置した鏡と専用のマシンで自分の動きを確認しながら効果的なエクササイズができるピラティス教室)」の利用者。「在宅ワーク中心で運動不足が気になっていたが、下の子が体操教室に通っている間に、自分も隣にある教室で心身を整えている」(Oさん)そう。
こどもでぱーと中野では、コナミスポーツが体操スクールのほか、小学校受験を希望する親子のための「受験体操」クラスも開講している。体操スクールでは、自分の姿を動画で確認し主体的に学ぶ力を伸ばすことを目的としているそう(撮影/片山貴博、撮影協力/コナミスポーツ)
「習い事の帰りに、1階のカフェで子どもの好きなキッズメニューやパスタを頼んで夕飯を済ませられるのも嬉しいところ。夕方以降はマチルダという宅食をテイクアウトできるスポットも出ていて、事前にオーダーしておけば帰り際に受け取って家でそのまま食べられます。
小児科への通院含めてこのビル内で完結するので、子どもにとっても私にとっても週2日~3日は来訪している“日常使いの場所”です」(Oさん)
Oさんとコナミスポーツの体操スクールに通う小学1年生の男の子(撮影/片山貴博、撮影協力/コナミスポーツ)
子育て利便な施設が生活の時間や動線を変える!? まちへの影響は?
今回お話を聞いた2家庭から共通してうかがえたのは、こどもでぱーと中野ができて子どもが一人で学童や習い事に通えるようになり、保護者も含めた家族全員の「生活の時間や動線が変わった」ことです。
また、複数の機能が1カ所に集まることで、子どもと保護者が“通う場所”から“安心して過ごせるいつもの居場所”へと変わり、家の中より外で滞在する時間が増えているようです。その風景や生活スタイルの変化は「まちのにぎわい度」の評価や印象も変えるでしょう。
こどもでぱーと中野がある通り。繁華街の裏路地といった雰囲気だが、レンタルビデオ店がドラッグストアに変わるなど、少しずつまちの風景にも影響を与えつつある様子(撮影/唐松奈津子)
さらに、こどもでぱーとの存在は、周辺のまちの景色や近隣に住む人、働く人にも影響を与えているようです。
1階に入っているカフェ「È PRONTO mini⁺(エプロント ミニ)」の店内には絵本が多く配置されていますが、子ども連れだけではなく、地域の高齢者や仕事合間の休憩中と思われる人、パソコンを開いて仕事中と思われる人も。コーヒー1杯396円~(Mサイズ、税込、2026年4月の取材時点)で、人びとの滞在・交流の場所となっています。
1階のカフェ「È PRONTO mini⁺(エプロント ミニ)」で仕事をしながら、子どもの習い事が終わるのを待つこともできる。店内は子育て世帯を意識した内装だが、利用客は多彩(撮影/唐松奈津子、撮影協力/プロントコーポレーション)
先に紹介したスタジオのプログラムの中には、地域共創スペースとして機能している時間もあり、地域の人びとが多彩なイベントや習い事を通じて自然と交わるきっかけをつくる場になっているのです。
こどもでぱーと中野のスタジオスケジュール。子ども向けの習い事だけではなく、大人向けのコンテンツや地域共創スペースとして活用される時間帯も多い。こどもでぱーとの認知や集客にも、一役買っているそう(画像/こどもでぱーと中野)
2029年までに20棟を展開予定。「駅徒歩3分以内」にこだわる理由
オフィス開発を主としてきたヒューリックが、こどもでぱーとの企画段階で子育て関連施設としての構想を具現化したのは、複数の子育て関連分野の企業との連携でした。
2020年にリソー教育グループやコナミスポーツと業務提携協定を締結。2024年にリソー教育グループを連結子会社化し、教育事業との連携を一層深めてきました。さらに教育・文化・スポーツ・医療・交通・まちづくりなど、100を超える多種多様な企業と連携し、協力体制を築いてきたことが開業の背景にあります。
テナント側にとっても、子育て世帯の来館が見込める環境に出店できるうえ、ヒューリックが施設全体の集客やイベント企画を担うことで、各テナントの認知向上や利用促進につながります。単独で集客するよりも子育て世帯に情報が届きやすく、施設内での回遊や相互送客、複数利用が生まれやすい仕組みです。
さらに曜日・時間枠で利用できるスタジオは、小規模な事業者や新しいコンテンツでも参入しやすい環境だといえます。初期投資を抑えながらまずは小さな枠で出店し、テストマーケティングができることは、テナントにとって大きな魅力の一つでしょう。
9階のスタジオは、空手やバレエ、学習教室などの子ども向けの習い事だけではなく、フォトスタジオや産後ケアサロン、地域共創スペースとして運営される日も(撮影/片山貴博)
ヒューリックの宮田さんによれば、スタジオのような地域の拠点となる機能をこどもでぱーとに盛り込むことを検討した際に「公民館や商業施設などの貸し館機能なども参考にした」と言います。その過程を見れば、公営・民営の別による機能の垣根は曖昧になりつつあるのかもしれません。
スタジオの収納扉の中にはシンクや電子レンジ、冷蔵庫、さらにはアップライトピアノなども備え付けられ、時間貸しのテナントの用途に応じて多様に使える。スタジオのテナントはこの扉1枚分の半分程度のスペースを保管用ロッカーとして常時使用できるそう(撮影/唐松奈津子)
実際、2027年の開業を予定する「こどもでぱーと渋谷」は、東京都の児童会館跡地と隣接する渋谷区役所旧第二美竹分庁舎・渋谷区立美竹公園を一体的に開発した建物の中にでき、東京都と渋谷区が誘導する“創造文化教育施設”としての機能を受け持つ予定です。
「今後、こどもでぱーとは、2029年までに首都圏を中心に約20拠点の開設を計画しています。出店戦略で重視しているのは『駅から近い立地(駅徒歩3分以内)』のほか、子育てに関連する教育・育児インフラが整っていることです。商圏人口や住宅の開発状況などを総合的にリサーチしてエリアを選定し、多くの人にとって子育てが楽で楽しいものとなるよう展開していきます」(ヒューリック 宮田さん)
こどもでぱーと中野の運営を担当する、ヒューリック 新事業創造部 こども教育事業室主任の宮田秀(みやた・しゅう)さん(撮影/片山貴博)
住まい選びの視点として、自治体の子育て支援制度や施設の充実度について確認する人は多いでしょうが、こうした民間施設の充実度も今後「住みたいまち」を選ぶ基準の一つとなりそうです。子どもが安心して通うことができ、保護者が自分の時間を持てる環境は、子育てをより前向きで楽しいものに変えていくでしょう。まち全体の価値を底上げする動きとしても注目される子育て関連施設の広がりに、今後も目が離せません。
●取材協力
・こどもでぱーと中野
・ヒューリック株式会社
・株式会社リソー教育グループ
・伸芽’Sクラブ学童
・TOPPAN株式会社
・こどもび(R)
・コナミスポーツ ジュニアスクール 中野
・Pilates Mirror(ピラティスミラー)
・株式会社プロントコーポーレーション
・È PRONTO(エ・プロント)
・PIAZZA株式会社
・株式会社こうゆう
・花まる学習会
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