【ライブレポ】adieuが描いた“青く移ろう”時間──〈adieu Live 2026 bleuir〉

上白石萌歌のクリエイティブコンソーシアム、
ワンマン・ライブとしては、2025年開催の〈adieu LIVE 2025 à la plume〉以来、約9か月ぶり。今年4月にリリースされた5作目のEP『adieu 5』は、「adieuとは何なのか?」という問いに向き合いながら、その輪郭を少しずつ浮かび上がらせていくような作品だった。リリースから間もないこの日、最新曲たちがライブでどのように立ち上がるのかを見届けようと、多くの観客が会場へ足を運んだ。
定刻を迎え、物語の始まりを告げるような幻想的なSEとともに姿を現したadieuとサポート・メンバー。adieuはステージ中央に配置された菱形の平台が段々に積み重なったセットの頂へと静かに歩みを進める。
ドラムスティックによる4つのカウントを合図に始まったのは、最新EP『adieu 5』収録曲「ブルーアワー」。〈bleuir〉と名付けられたこの公演を象徴するような楽曲で、夜と朝、過去と今、悲しみと喜び、さまざまな感情のあわいを行き交う“青”の気配が、ゆっくりと会場を満たしていった。

続いて披露された「元気?」「泣いてしまいそう」も『adieu 5』からの楽曲。それぞれ異なるミュージシャンが作詞・作曲を手掛けており、提供者それぞれの個性とadieuの幅広い表現力が掛け合わされることで、多彩な表情を見せる。なかでも柴田聡子が手掛けた「元気?」は、自由自在に跳ね回るメロディーラインと独特の変拍子がきらりと光る一曲。決して歌いやすい楽曲ではないはずだが、adieuは音源以上に豊かな息遣いを感じさせながら、軽やかに歌い上げてみせた。
澤部渡(スカート)が提供した「景色 / 欄干」は、2022年にリリースされた『adieu 3』収録曲。ここまで抱えていたギターを静かに降ろし、スタンド・マイクに手を添える。目を閉じ、楽曲の世界へ深く入り込むように紡がれる歌声はどこまでも繊細で、会場の空気までもゆるやかに塗り替えていった。
ここでadieuが観客へ挨拶。「〈bleuir〉には、フランス語で“青くなる”“青く移ろう”という意味があります。いろんな気持ちのあわいの中で夜明けを待つような心をみんなで持ち寄り、良い時間を共有したい。そんな思いを込めて名付けました」と、本公演のタイトルに込めた思いを語った。さらに、「自分の心が今どこにあるのかわからない瞬間は、大人になればなるほど増えていくと思います。でも、そんな心のあわいも私はとても美しいと思う」と続け、「このひと時だけでも日々のいろんなことを忘れ、楽しんでください」と温かく呼びかけた。『adieu 5』を通して描かれてきた曖昧さや揺らぎを肯定するまなざしは、この日のライブ全体を貫くテーマでもあった。
記憶の奥に眠る冷たい孤独へそっと触れるような「夏の限り」に続き、「ひかりのはなし」ではこの日のひとつのハイライトを作り上げた。壮大なアレンジのなかでバンド・サウンドが太い束となって迫る一方、「守ってあげるから あなたの悲しみは ぜんぶ ぜんぶ わたしにください」という祈りにも似た言葉を、adieuは熱を込めて歌い上げる。その真っ直ぐな歌声に観客は一心に聴き入り、曲が終わるとこの日ひときわ大きな歓声が沸き起こった。

「ありがとう」とひと言つぶやき、それに重なるようにドラムのカウントで始まったのは、betcover!!の柳瀬二郎が提供した「ソウルメイト」。冒頭から繰り返される〈2人はみんなと殆ど同じ〉というフレーズが象徴するように、甘美さと危うさが同居するふたりだけの関係性を描いた楽曲で、会場の空気を一変させた。
続く「泡吹」では、「ソウルメイト」で見せた熱と湿度を帯びた歌唱から一転、明るく軽やかな声色へと鮮やかに切り替える。その変化には思わず息を呑んだ。上白石萌歌として俳優業で培ってきた表現力が、adieuという表現体の中でも存分に発揮されていた瞬間だった。中盤のスキャットでは「一緒に!」と観客へ呼びかけ、会場に心地よい一体感を生み出していた。
カネコアヤノ提供曲「天使」では、アコースティック・ギターを軸としたサウンドとともに、草原を軽やかに駆け上がるような情景が広がる。ステージ上空から吊るされた水色のオーガンジーがゆるやかに揺れ、その光景はまるで爽やかな風そのものを可視化しているかのようだった。
そして「植物園」。決して高くないトーンで、幼い自分を遠くから見つめ直すような内省的な歌詞が印象的な一曲だ。派手な感情表現に頼ることなく、静かに言葉を置いていくような歌唱は、用意された答えへと無理にたどり着こうとするのではなく、やるせなさや諦念さえ抱きしめながら受け入れていくような響きを帯びていた。それはまるで、この日adieuが語った“心のあわい”そのものを歌にしたようだった。

そしてここでadieuは来年2027年にadieuとしての活動が10年を迎えることを報告。「私にとってadieuも上白石萌歌も大切な軸」と語り、『adieu 5』の完成によって「adieuはadieuでいいんだ」と思えるようになったこと、そして「今、adieuとしてここに立つ自分がとても好きだし、音楽が変わらずとても好き」と、現在の率直な心境を明かした。
その言葉は、この日のライブで繰り返し描かれてきた“あわい”の肯定とも重なるものだった。夜と朝、大人と子ども、不安と希望。どちらか一方に答えを求めるのではなく、その狭間に揺れながらも歌い続けること。それこそが、10年という時間を経てadieuがたどり着いた現在地なのかもしれない。観客もまた、その言葉を静かに受け止めながら、ステージに立つadieuの確かな輪郭を見つめていた。
そしてライブはギターの小川翔とadieuによるアコースティック・コーナーへ。まず披露されたのが「ダリア」。ミニマムな編成だからこそ、adieuの澄み切った伸びやかな歌声が際立つ。余計な装飾を削ぎ落とした音像は観客との距離をぐっと近づけ、会場全体を静かな余韻で満たした。
続いて披露されたのは、adieuのライブでは恒例となっているカバー曲。「その人の実家を覗くような感覚でもあり、自分がずっと好きだった曲を自分なりの解釈で歌うことができてすごく特別」と語り、この日は草野正宗作曲、松本隆作詞による「水中メガネ」を選曲した。子どもと大人の狭間で揺れる思春期の感情や、身体と心の距離感を描いたこの楽曲は、曖昧な感情に寄り添い続けてきたadieuの表現とも深く重なる。「青く移ろう」という意味を持つ〈bleuir〉の世界観をあらためて浮かび上がらせる一曲だった。

ここからライブはクライマックスへ。比喩根(chilldspot)提供の「心を探している」、塩入冬湖(FINLANDS)提供の「よるのあと」、そして『adieu 5』の中でもひときわスケール感を持つ「ナイトバード」を立て続けに披露。儚さと力強さを併せ持つadieuの歌声に、バンド・サウンドの厚みが重なり、ライブは大きなうねりを生み出していく。
リバーブをまとった力強い歌声はどこまでも遠くへ伸びていき、ステージ背後から放たれる光がその姿を照らし出す。まるでadieu自身が光源となって会場を照らしているかのような神秘的な輝きをまとい、本編は大きな拍手のなか幕を閉じた。
鳴り止まないアンコールに応え、再びステージに戻ってきたadieuとバンド・メンバー。平台へ駆け上がるや否や、ドラムインとともに始まったのは「旅立ち」。betcover!!の柳瀬二郎が提供したダンス・ナンバーで、うねるベースラインと軽快なギターカッティングに導かれながら、会場はこの日もっとも自由な高揚感に包まれた。
そして最後にadieuは観客へこう語りかけた。
「大人になればなるほど『自分はいま、どんな気持ちなんだろう?』と思うことがあると思います。そんな名前のつかない気持ちも、一人ひとりが大切にできること、そして愛せる日々であることをadieuは願っています。」そして、「ライブに来てくれたら、私がたくさんお守りをみんなにあげますので、また会える日までぜひ健やかでいてください」と。
その言葉に続いて披露されたのは、『adieu 5』のラストを飾る「Untitled」。「いつかまた会えるその日まで」「君はそのままでいて」というフレーズは、先ほどのMCと響き合いながら観客一人ひとりへ手渡されるお守りのように響く。名前のつかない感情も、揺らぎ続ける心も、そのままでいい。そんな優しい肯定を残して、〈adieu Live 2026 bleuir〉は静かに幕を下ろした。
取材・文:石川幸穂
カメラマン:Kodai Kobayashi
セットリスト
〈adieu Live 2026 bleuir〉
2026年5月30日(土)
神奈川・KT Zepp Yokohama
M1.ブルーアワー
M2.元気?
M3.泣いてしまいそう
M4.景色 / 欄干
M5.夏の限り
M6.ひかりのはなし
M7.ソウルメイト
M8.泡吹
M9.天使
M10.植物園
M11.ダリア
M12.水中メガネ(cover)
M13.心を探している
M14.よるのあと
M15.ナイトバード
[ Encore ]
EN.1旅立ち
EN.2 Untitled
インフォメーション
■adieu OFFICIAL SITE
https://www.adieu-web.com/
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