1964年の傑作小説を現代的な愛の物語へ 映画『愛のごとく』宮森玲実インタビュー「心理的にもエモーショナルな作品」
戦後純文学の俊英・山川方夫の遺作となった傑作短編小説を、史上初めて映画化した『愛のごとく』。愛と孤独の狭間で彷徨う人間の本性を、詩情豊かに、そして官能的に描き出した本作が、封切り館の池袋新文芸坐では公開初日から連日満席となり好評を博しました。2月13日(金)よりアップリンク吉祥寺にてムーブオーバー上映が決定しています。
主人公ハヤオ役を演じたのは、ドラマ『VIVANT』『恋をするなら二度目が上等』などで注目を集め、本作が自身初の単独主演映画となる古屋呂敏さん。ハヤオの元恋人イズミ役には、初監督作『わたしの頭はいつもうるさい』で第18回田辺・弁慶映画祭俳優賞を受賞した宮森玲実さんが抜擢。監督は、『卍』『痴人の愛』など、純文学作品の映画化で高い評価を受けてきた井土紀州さん。脚本家・小谷香織との三度目のタッグにより、1964年に発表された原作小説を、令和を生きる人々の心に響く現代的な愛の物語として甦らせています。
イズミ役の宮森玲実さんに撮影の思い出や作品の魅力についてお話を伺いました。
――本作とても素晴らしかったです。イズミ役はオーディションに参加して決定したそうですね。物語のどんな所に惹かれましたか?
台本を先に読ませていただいてから、オーディションを受ける・受けないを選択することになっていたのですが、読んで率直に「これは受けたい」と思いました。
「過ぎたものを求めている二人」にすごく惹かれました。主人公のハヤオの雰囲気…自意識の向かう先みたいなものにある種、共感を覚えました。全体の物語を通して主人公の男の気持ちにすごく共感出来る所が大きかったです。その中で、イズミというキャラクターは今まで私が演じたことのないような役柄でしたし、人としても、宮森玲実自身とは離れた存在で、分からない部分も多い女性だったので。昨年、『わたしの頭はいつもうるさい』という監督主演作を経て、次に思いっきり打ち込める作品としてぜひ参加したいなと思いました。今のこの私だから出せるものも、もしかしたらあるかもしれないと思いました。自分が生きている中での瞬間的な、人生の一部を乗っけられる作品だなと思えたので。
――ハヤオのどんな所に共感や親しみを覚えましたか?
私はもう少し寂しがり屋なので人に理解してもらおう、もらおうとしてしまうのですが、「理解されたい人」と「理解されたくない様に生きている人」って離れているようで近いものがあると感じていて。一人で孤独を持て余したまま、日々生きているその様にすごく惹かれました。
――確かに、一見冷めている様であって実は繋がりを求めているのかな、という。
そうなんですよね。心の底では、すごく誰かを求めているんだな伝わってきて。オーディションを受ける際に原作を拝読したのですが、もっとこじらせているんですよ。主人公の男の内にある描写もすごいし、女のキャラクターも面白く描かれていました。この1964年の小説をどうやって現代の映画にするのだろうという興味も大きく沸きました。
――イズミのキャラクターですが、あらすじや予告編から受ける印象だと、いわゆるファム・ファタール的な感じかと思いきや、そうでは無いなと。もっと純粋であり、チャーミングで子供のような人でもあるなと感じました。
ファム・ファタールと言っていただけることも、もちろん嬉しいのですが、自分が演じる中で、それだけではない存在でもありたいと思っていたので、そう言っていただけて嬉しいです。すごく素直で、自由な人だなと思ったので、ハヤオに対してはなるべく我慢しないようにそういった部分を出していきました。
その中で、一見するとすごく自由奔放みたいなキャラクターですが、“情念”みたいなものを上手に彼女は隠しているなと。現場に入る前は上手く言語化出来ていなくて、ずっと“ツンデレ”と言っていたのですが(笑)、ハヤオのことを彼女自身が求めているのに、「私が来たいから来てるだけ」となんてことはないスタンスでいることが素直じゃないなって。
「ハヤオにもう一度小説を書かせたい、それが私の行動原理です」という風に、自分自身にも理屈として思い込ませていたのではないかなと。実は“本当に惹かれているから来ていたのではないか”ということが一回観ただけで伝わるか分からないのですが、何度か観ているとそう感じてくる。「背徳と快楽」がテーマと言っているし、インティマシー・シーンはたくさんあるのですが、もっと心理的にもエモーショナルな作品だと思います。
――ハヤオとイズミ、そしてイズミの夫のマサキを含めて同級生と食卓を囲むシーンで、愛についての会話で気まずくなるシーンがありますよね。とても緊張感がありました。
嬉しいです。イズミとしてはものすごく気まずいシーンでした(笑)。東ちづるさん演じる恩師の奥様が「好きな人は一生に一人しか出来ないはず」という話をして、夫のマサキが「そうは思わない。最後まで一緒にいた人が強いはずだ」ということを言い返しますよね。そんな言葉を言ってくれる夫であるマサキに負い目もありますし、ハヤオとの関係を気付いているのか?どこまで分かっていて、正直にこんなまっすぐな言葉を喋れるんだろうという。少しキツイ言い方をすれば、「どこまで知っていて、この人こんな言葉吐いてるんだろう」みたいな気持ちなんですよ。頼もしい一方で恐ろしい男でもあるなと思います。私はSNSをよく見てしまうので、SNSで心の内を赤裸々に書いている方を見かけたりしますよね。そんな、緊張感とドキッとする感じと、「分かる」と言えない感じが、覗き込んでしまうように濃縮されているシーンだなと思いました。
――側から見ると夫のマサキとの生活が幸せそうに感じられるけれど、一筋縄ではいかない人間の面白さも感じました。
イズミはパートナーであるマサキのことを、嫌いなわけでも無い、だからといって…という部分がすごく上手に描かれているなと思っていて。胸がキュッとなるシーンが多かったです。冒頭から子供の話がサラッと出てきたりしますが、この世代の女性が提示される選択肢がいくつも映画の中で出てきて。
先生が遺した本を選定する場面がありますが、この映画全体を通して“選択の話”だなと感じました。ハヤオとイズミがどう生きていくかの選択をしているお話だなと。何を選ぶのか、何を選んでしまったのか、私はイズミを通してその選択の先を演じさせていただきましたが、皆さんがどう感じてくださるかも楽しみです。
――先ほど「エモーショナルな作品」とおっしゃってくださいましたが、本当に映像が綺麗で素敵だなと思う瞬間がたくさんありますね。
関係のきっかけとなる最初のシーンは、2人の気持ちが近づく流れが、観ている人にもちゃんと伝わるようなお芝居にしたいですね、と監督と古屋さんとお話をしました。エクレアを食べるシーンが一番悩んで難しかったのですが、一瞬の間2人が無言になる時間があって、お互いに自分の気持ちに気付いてしまうという幻想的な画だなと思いました。とても綺麗な夕方に撮れたので嬉しかったです。
――本作でのご経験を、今度どうお芝居に活かしていきたいですか?
ここまで深い恋愛を描いた作品で演じたことが初めてだったので、こういう役柄も自分は演じられるんだなと新しい発見になりました。一つ、別の扉を開いていただいた感じがします。自分の中に無いと思っていた感情も、実は内面にあったのではないかと。そんな発見をしていく作業がすごく好きなので、俳優としての宮森も、どんどん掘り下げていきたいなって思います。
――今思えば『わたしの頭はいつもうるさい』とこの『愛のごとく』は、モラトリアム的な描写や感情が共通している様にも感じられますね。
モラトリアムな時間を描いているのに、テイストが全く違うので、真逆な映画に感じられることも面白いですよね。私の芝居の雰囲気も結構違ったと思うので、やればやるほど、お芝居って深いんだなと感じました。
――これからの宮森さんの挑戦も楽しみにしております。今日は素敵なお話をどうもありがとうございました!
<イベント情報>
『愛のごとく』アップリンク吉祥寺
2/13(金)・2/14(土)・2/15(日)は監督と出演者による上映後舞台挨拶を予定。
撮影:オサダコウジ
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