【ライブレポ】Suchmosがいま鳴らす、グルーヴの本質──〈Suchmos Asia Tour Sunburst 2025〉

今年2025年6月、横浜アリーナでの「The Blow Your Mind 2025」にて5年ぶりの再始動を遂げた
開演前、メンバーとともにゆっくりとステージへ姿を現したYONCE(Vo)は、深々と頭を下げた。その静かな一礼に、この夜へ懸ける思いのすべてが宿っているようだった。静寂を切り裂くように始まった1曲目は「Pacific」。たゆたう水面を思わせるサウンドが、観客を一気にSuchmosの世界へ引き込んでいく。

続いて、会場後方の幕が上がり、太陽とも月ともとれる巨大な円形のモニュメントが現れる。ステージ装飾自体はシンプルながら、その円を中心にした照明が多彩な表情を生み、楽曲ごとにまったく異なる景色を描き出していく。演出の緻密さと表現力の豊かさに、早くも会場は美しく染め上げられていた。
ライブは復活後にリリースされたEP『Sunburst』の「Eye to Eye」へ、そして2019年作『THE ANYMAL』の「ROMA」へと流れていく。横浜アリーナでの再始動ライブでは披露されなかった“THE ANYMAL曲”がこのセットに加わっていたことは、長年支えてきたファンにとって嬉しいサプライズだっただろう。続く「Ghost」では、スローテンポの妖しさを纏った音像が会場を支配。Suchmos特有の、都会の夜の匂いを思わせる色気があふれ、Zepp Hanedaは完全に彼らの掌の上にあった。



「Haneda、静かにしてますかー?」というどこか掴みどころのないYONCEのMCを挟み、ライブは「DUMBO」から次のブロックへ。山本連(Ba)が織りなす強靭なベースラインが、ステージ全体のグルーヴを牽引する。ストロボライトに照らされたメンバーのクールな佇まいと相まって、サウンドにはさらに勢いが宿った。そして「FRUITS」へとシームレスに展開。間奏で響いたYONCEのフェイクは、彼の存在感と歌の説得力を強く刻みつけるものだった。
MCでは、2020年に予定していたアジアツアーが新型コロナウイルスの影響で中止になったことに触れ、「そのリベンジとしてソウル、上海、台北、バンコクの4都市を回ってきた」と語る。「どの都市も全然違って面白かった」と笑顔で振り返りつつ、日本でも地域ごとに異なる反応に触れ、「いろんな街でライブをさせてもらえるのは本当にありがたいこと」と改めて実感を口にした。
さらに自身が高校生の頃からライブハウスで育ってきたことにも触れ、当時の環境を「100人入ったら窒息しそうな狭さで、床はこぼれたビールでべちゃべちゃ。喫煙者だらけで、煙が充満しているような場所だった」と回想。(個人的には、このMCパートに、彼らが2018年に出演した『第69回NHK紅白歌合戦』での「臭くて汚ねえライブハウスから来ました、Suchmosです」という挨拶を思い起こしてしまった)。そんなライブハウスの中で仲間たちと切磋琢磨しながら音楽を続けてきた日々が、現在のステージにつながっていると述べた。


そして、「ライブハウスって楽しい」「バンドって面白い、かっこいい」という感覚を少しでも持ち帰ってもらえたら嬉しいと呼びかけたYONCE。明日が休日という観客も多いことに触れつつ、「楽器屋さんは年末商戦の真っ只中。お子さんの情操教育にも、ご両親のボケ防止にも、楽器は人生を豊かにしてくれる」と語り、軽妙な調子で楽器を勧めた。最後には「バンドミュージックとライブハウスをよろしくお願いします。…といいことを言いましたけど、今日はいっぱい稼がせてもらいますのでよろしく」と会場を笑わせ、温かい空気を残してMCを締めくくった。
ライブ後半は、TAIKING(Gt)のタイトなギターリフが際立つ「MINT」から再始動。「自由にどうぞ!」と楽しみ方を観客に委ねるYONCEのスタンスが場内をさらにやわらかくし、続く「Alright」では自然発生的にコール&レスポンスが起こる。ステージとフロアの温度がぴたりと重なった瞬間だった。
続いて鳴り響いたのは、「よいこのみんな!変なおじさんには気をつけよう!」という謎めいたダンディーな叫び。YONCEのこうした一言は、時に「一体なんだったんだ?」と疑問が浮かぶことも少なくないが、答えを求めても回収されない。それこそがSuchmosというバンドの持つフリーキーさにほかならないのだ。



ライブはそのまま疾走感あふれるロックチューン「To You」へ。強固なアンサンブルがZepp Hanedaの空気を震わせ、緊張感のある「Hit Me, Thunder」へとなだれ込む。続く「Marry」では一転して真っすぐなラブソングが届けられ、鋭さで満ちていた空間が幸福であたたかな空気に包まれていく。その転調の妙に、観客は思わず息を飲んだ。
MCでは、ツアー各地での“名物”トークに触れ、「広島はお好み焼き、仙台は牛タン」といった鉄板ネタを紹介。「東京は何を言えばいいのか、ずっと考えていた」と語り、北海道や仙台の“名物の強さ”に触れながら「東京はもうコンクリートとかになっちゃうかもしれない?」と軽妙な語り口で会場を和ませた。
さらに来年以降の活動についても「何かやるということだけ覚えていてください」と意味深に匂わせつつ、「ここからは過激な演出が続きますのでご注意を」と告げ、ライブはいよいよクライマックスへ。


攻撃的なグルーヴが炸裂した「A.G.I.T.」でバンドの本能をむき出しにすると、おなじみのイントロが流れると彼らのもはや説明不要の大ヒット曲「STAY TUNE」へ。フロアの熱量が爆発し、会場内をグルーヴが揺らした。さらに「808」へと続き、TAIKINGのタイトなカッティングがキレ味を増す。クラップの波が広がり、「VOLT-AGE」ではギターの轟音とともに熱量のピークを更新していった。
本編ラストは、Kaiki Ohara(DJ)の合図で始まる「YMM」。YONCEの「Zepp Hanedaです!名前だけでも覚えて帰ってください!」の名調子が響き、バンドはファンキーかつクールにステージをあとにした。
アンコールでメンバーは再び姿を現すと、YONCEは中盤のMCを踏まえ、「東京の名物はライブハウスなんじゃないか」という話を交わしたと明かす。「音楽とくっついている場所が東京にはいっぱいある。2025年12月現在の答えとしては、それでいいんじゃないか」と語り、観客の反応に満足げな笑みを見せた。
さらに、この日の会場にはそれぞれ異なる背景を持つ人々が集まっていることに触れ、「休みを取って来た人もいれば、働いたことがない人もいるかもしれない。家で誰かが待っている人もいれば、そうじゃない人もいる」と語る。「ライブでどう過ごすかも、それぞれ違っていい」「いろんな人がいろんな気持ちで存在していていいのがライブハウスや音楽」と言葉を続け、観客の抱いた感情そのものを肯定した。


アンコールはTAIHEI(Key)の澄んだ音色が広がる「Whole of Flower」で静かに幕を開け、スポットライトが一人ひとりのメンバーを照らす。ラストチューンは「Life Easy」。アウトロではYONCEがアドリブで言葉を紡ぎ、自由に生きることの素晴らしさとその肯定をやさしく届け、ライブは静かに締めくくられた。
この日のライブは、復活後の勢いを誇示する場ではなく、彼らが今日まで音楽を手放さずにいられた理由を、観客とともに確かめ合う時間だったように思う。脱力したMCににじむ素顔、強さを増すグルーヴ、空気を反転させるラブソング、そしてクライマックスでの圧倒的な爆発力。そのすべてが、Suchmosというバンドの本質を描き出していた。
アンコールの最後にYONCEが語った「自由に生きることを肯定する」というメッセージは、音楽を超えて深く胸に刺さるものだった。自由とは何か。答えを押しつけるのではなく、それぞれが自分のリズムで、好きなように、自分の足で歩いていい。そんな思いが会場全体にじんわりと広がっていった。
この夜鳴り響いた音と鼓動は、Suchmosがこれからも前へ進み続けるという静かな確信のように感じられた。自由の苦しさも美しさも抱きしめながら、彼らは再び新しい景色を見せてくれるだろう。

取材&文 : ニシダケン
Photo by 岡田貴之
ライブ情報
Suchmos Asia Tour Sunburst 2025」
2025年12月12日@ Zepp Haneda(TOKYO)
セットリスト
01. Pacific
02. Eye to Eye
03. ROMA
04. Ghost
05. DUMBO
06. FRUITS
07. MINT
08. Alright
09. To You
10. Hit Me, Thunder
11. Marry
12. A.G.I.T.
13. STAY TUNE
14. 808
15. VOLT-AGE
16. YMM
<アンコール>
17. Whole of Flower
18. Life Easy
リリース情報
EP 「Sunburst」
収録曲
1. Eye to Eye
2. Marry
3. Whole of Flower
4. BOY
▼Streaming
https://fcls.lnk.to/wof
▼CD購入
https://fcls.lnk.to/Sunburst_EP
アーティスト情報
・オフィシャル・ウェブサイト
http://www.suchmos.com/
・X
https://x.com/suchmoz
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