【芝園団地】住人6割が外国人。自治会役員&住人に聞いた、ゴミ出し・騒音などトラブル多発を乗り越えた”共生”の工夫 埼玉県川口市
国内でもとくに外国人比率が高い団地とされている、川口市の芝園団地。住人の6割以上が外国人です。当初は、言葉や文化の違いからトラブルとなることもありましたが、外部ボランティアの力も借りて共存・共生を模索し始めて約10年。活動の成果と課題に、今後の日本における多様な人たちとの共生のヒントがあるかもしれません。
ボランティア団体「芝園かけはしプロジェクト」の圓山王国(まるやま・おうこく)さんと芝園団地自治会役員の皆さんに話を聞きました。
外国人入居者の多い芝園団地。「家賃が安くて、夜も安全」と外国人世帯に人気
今回お話を聞いた皆さん。芝園団地を背景に(写真撮影/りんかく)
1960年代以降、日本全国で団地の開発が本格化し、1970年にはピークを迎えました。しかし2022年国交省の「住宅団地再生の手引き」によると、日本は高齢化と人口減少が進む中、築年数の古い団地ほど高齢者の割合が高いことが示されています。建物の老朽化も相まって、全国の団地では空室の増加、高齢化による地域活動の衰退などが切実な問題です。
入居開始からの経過年数が長い団地ほど、65歳以上の高齢化率が高い(画像/国交省「住宅団地再生の手引き」)
今回取材した埼玉県川口市にある「芝園団地」は、総戸数2454戸のマンモス団地。1978年の建築から40年以上が経っていますが、ボランティア団体・芝園かけはしプロジェクトの圓山さんによると「芝園団地は比較的空室率が低い」そう。実際に団地内を歩いてみると、確かに通行人も多く、活気があると感じました。
建物の維持はUR都市機構が担っており、2年前に耐震補強済み。管理は行き届いている印象です。敷地内には商店やスーパー、クリニックなどの施設もあり、日々の生活は団地内で完結できるほど“小さなまち”を形成しています。
団地内の様子(写真撮影/りんかく)
この活気を担っている背景の一つは、全入居者の6割以上を占める外国人です。中国人が圧倒的に多いのですが、今ではイスラム圏や南アジア圏の人も増え、多国籍化が進んでいます。行き交う人々の会話から聞こえるのは外国語であることもしばしば。エスニックな食材を扱うお店もところどころにあり、まるで異国に迷い込んだような不思議な感覚に襲われます。
団地の近くにあるハラルフードのお店(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
11年前に芝園団地に越してきたガーナ出身のアレックスさんは「いろいろな国の人たちが暮らしていて多様な文化が集まっていると感じました。家賃も民間の賃貸住宅より安く、海外はもちろん、日本国内でもこれまで住んでいたまちに比べ、夜に一人で歩いても安全なところが良い」と話します。
団地内には珍しい食材を扱う商店や中国語の案内のある飲食店も(写真撮影/りんかく)
住人の交流や課題解決をサポート。学生ボランティア「芝園かけはしプロジェクト」とは
そしてもう一つ、地域の活性化に寄与しているのは、2015年に発足した芝園団地の地域課題解決や、住人同士の交流を目的とした「芝園かけはしプロジェクト」です。当時の芝園団地の自治会役員が、外国人と日本人の交流に力を入れていきたいと学生たちに声掛けしたのがきっかけでした。高校生を含む学生メインで構成され、代表を務める圓山王国(まるやま・おうこく)さんは創立時からのメンバー。
「最初は住人の交流を目指す活動を中心に行ってきましたが、私たち自身も住人の皆さんと交流する中で、課題の解決に直接関与していくことにも活動が広がっていきました。コロナ禍で一時、思うように活動できない時期を経て、多文化や多世代とのつながりの大切さを改めて痛感し、地域の課題解決を目指して活動を継続しています」(圓山さん)
芝園かけはしプロジェクト代表の圓山王国(まるやま・おうこく)さん。圓山さんは、創設当時からのメンバーで、現在は大学で教鞭を取りつつ、月に5回程度、芝園団地に通い活動している(写真撮影/りんかく)
地域のお祭りにも参加してイベントを企画・開催するなど、地域活性化や住人の交流にも一役買っている(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
また、外国人も日本人もなるべくみんなが対等な立場で対話できる場づくりも、芝園かけはしプロジェクトの活動の一環です。月に1回程度、大人から子どもまで世代や国籍を超えて気軽に交流できる場として「多文化交流クラブ」を開催。これまでに住人同士でそれぞれの国の料理を楽しみながら交流を図るランチ会や、防災グッズを紹介しつつ、気軽に食事をしながら防災について伝える会などを企画してきました。
多文化交流クラブの開催告知には日本語・中国語・英語の3カ国語が並ぶ(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
多文化交流クラブ開催時の様子(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
机にお菓子を並べて休める場を提供する「ひまつぶ荘」は、地域の民生委員やURのコミュニティ、地域包括支援センターなどと連携しながらつくった、地域住民が気軽に集まれる場です。日本人高齢者を中心とした利用が進んでいます。
「ひまつぶ荘」にて話がはずむ参加者たち(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
かつては外国人と日本人の住人間でトラブルも……
しかし芝園団地に50年近く暮らしている自治会長の田邊良家(たなべ・よしいえ)さんによると「外国出身の人たちは言葉や文化が違い、日本の習慣に慣れていない人が多いので、時に日本人住人とトラブルになることもあった」とか。
一番多いのは、ゴミ出し問題。「かつてはゴミ置き場でないところでもゴミが捨てられていたり、割れたガラスが散らかっていたりしたこともあった」そうです。また、子どもたちが走り回る足音や敷地内の公園で夜遅くまで夕涼みがてら話す声がうるさいなどのトラブルになったことも。
芝園団地内の現在のゴミ置き場の様子。以前はゴミ出しのルールや、夜遅くまで外で大きな声で会話するなど、トラブルも多かったが、団地を管理・運営するURが3カ国語での表示を徹底したことでトラブルはかなり減ったという(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
しかし、それらのトラブルを全て外国人vs日本人の争いごととするのは「状況を正しく捉えていない」との声も。
「生活音などの問題は、世代や家族構成の違いによる部分もあり、単純に国の文化の違いと一括りにして良いわけではありません。またゴミ出し問題も、日本人でも別の自治体に行くと出し方のルールが違って混乱することがあるように、単純にわからない、知らないから起きてしまう面もあるのではないでしょうか」(圓山さん)
芝園団地でも全国の団地と同じように日本人住人の高齢化が進み、日々の暮らしに不安を持っている人が多数います。そして新たに入居する日本人の若者は少なく、子どものいる若い働き盛りの外国出身者が増加。お互いを理解していかなければ共生に向けての解決にならないのです。
芝園町の人口推移
芝園団地の住人割合は、ライフサイクルの変化に伴い若い人たちが出ていったり、高齢化が進み人口が減少したりして、2016年には外国人の数が日本人の数を上回った(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
芝園団地での暮らし方ガイドを作成。ルールやマナーを明文化
そこで、まずは芝園団地に暮らす人たちにルールを知ってもらう必要があると、芝園団地自治会と芝園かけはしプロジェクトで「芝園団地のみんなの生活のヒント」というパンフレットをつくりました。
当初は外国人向けの説明資料の体裁でしたが、2020年に完成した最新版は、日本人を含む芝園団地に暮らすみんなに向けられたものです。国籍は関係なく、同じ団地に暮らす上で守ってもらいたいことや、困り事が起こったときの相談先、災害が発生した場合の対応の仕方など、暮らしに必要な情報が載っています。
「芝園団地のみんなの生活のヒント」最新版。3カ国語に対応していて、漢字にはルビが振られている。ゴミの出し方などルールのほかに高齢者や子育て、災害時の情報など、外国人のみならず日本人に役立つ情報も(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
各住戸に配られたほか、団地内のUR都市機構事務所にも置かれ、新たに入居する人に内容を説明して、理解した上で入居してもらうようにしているそうです。
「長期間暮らしている人はルールもわかっていますが、働いている若い世代は会社員が多く、仕事や家族構成の変化によって4年~5年で入れ替わることもあります。その度にマナーについて説明する必要があるので、冊子があるのは、入居する人にとってわかりやすいことはもちろん、説明する側にとっても助かりますね」(田邊さん)
その効果もあってか、「近ごろでは以前のようなトラブルがかなり減ってきている」そうです。
日本人住人の高齢化に自治会の担い手不足。外国人住人の参加が鍵に
一方で芝園団地自治会は、住人の高齢化とともに担い手が減少し、地域活動の衰退が大きな課題です。団地内の多国籍化が進むにつれ、芝園団地の自治会でも現在、役員を務める11名中4名が、中国やバングラデシュなど外国出身の住人です。
アレックスさんも2019年に当時の自治会から声をかけられ、役員となりました。
「私が役員になったころも既に自治会に加入する人が減っていて、役員のなり手もあまりいなかったのですが、役員として参加することで、より地域とのつながりを感じられるようになりました」(アレックスさん)
自治会への加入は任意で、役員は月1回の定例会議やイベント時などに集まれる人が参加する、ゆるい活動スタイル。アレックスさんは宗教上の理由で日曜に会議があるときには午後から出席しているそうです。
団地内で行った防災訓練の様子。自治会もさまざまな国籍の役員が加わり、芝園かけはしプロジェクトのメンバーも参加して活動を維持している(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
自治会の活動は、近隣の4町会との防災連絡会を30年以上続けていて、市の職員や市議会議員が勉強のために参加することもあるとのこと。
また、芝園団地のある地区はスポーツが盛んで、団地内の公民館には体育館があり使用料も安いため人気です。自治会も文化的活動やスポーツ関係イベントに携わり、最近では高齢の日本人に代わって中国や韓国の人たちと一緒に競技に出たりしているそうです。
地域のスポーツイベントの様子。高齢になった日本人の住人に代わって中国や韓国など、外国籍の人たちが出場することも多い(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
さらに、お祭りでは子どもから高齢者まで楽しめるよう、商品券などが当たるくじ引きの企画も。くじ引きができるのは、自治会に加入している人のみです。自治会の加入者は現在も188世帯(2025年7月現在)と低迷気味の中、新規会員獲得の機会にもなっていると言います。
「日本人の住人だけを見ると、70代~80代の高齢者が大半です。外国出身の住人や芝園かけはしプロジェクトのような若い人たちが加わることで、イベントが開催できたり、お祭りに参加してもらったりして大変助かっています」(田邊さん)
祭りなどの行事も高齢者が多くなると開催が難しい。外国人住人やボランティアなど、若い人たちの参加が地域の活性化にもつながっている(画像提供/芝園団地自治会)
祭りでは、高齢者と団地に暮らす子どもたちとの交流も。芝園かけはしプロジェクトと住人で企画したブースにて、ベーゴマの遊び方を子どもたちに教えて一緒に遊ぶ様子(画像提供/芝園かけはしプロジェクト)
進む高齢化にどう対応していくか。自治会の今後の課題
今後の課題として自治会内であがるのは「高齢化」を背景にしたものです。親は他界し、兄弟や親類など頼れる身寄りのない人も増えてきています。
特に病気や孤独死のリスクは切実な問題です。各自で介護サービスを利用したり、民生委員が見回りをしたりしているケースはあるものの、巡回は月に1回程度。自治会として「ゆくゆくは見守り活動のようなことも必要になるだろう」と田邊さんは話します。
実際に高齢の住人が住居内で転んで救急車を呼んだものの、動けずに玄関のドアを開けることができなかったとこともあったそうです。その時は自治会が警察立ち合いのもと、消防車を呼んでベランダから救出したのだとか。
今後このようなことが再び起こったときにどうするか、孤独死を防ぐための方策を考えなければなりません。自治会もUR都市開発機構や芝園かけはしプロジェクトのメンバーとともに、高齢化に対応していこうとしています。
芝園団地自治会長の田邊良家(たなべ・よしいえ)さん。かつては建設業に従事し、なんと芝園団地の建設にも携わったそう。約50年前から芝園団地に暮らす(写真撮影/りんかく)
高齢化や人口減少で団地での地域活動の衰退が懸念されるのは、ある意味、日本の将来の縮図を見ているようです。言葉や文化の違い、世代間にあるジェネレーションギャップ、ライフスタイルの違いなど、自分とは違う考え方を排除・対立するのではなく、どうわかり合い共生していくか。芝園団地はその試みのまっただ中にいると感じました。
そして、ボランティア団体「芝園かけはしプロジェクト」の若いエネルギーやアイデアが、その実現に大きな役割を果たしています。
古くから暮らしている日本人の住人だけでなく、外国人や若い人たちが協力しあってコミュニティを再生・継続していく芝園団地の取り組みが、全国の地域活性化の一つのヒントとなるのではないでしょうか。
●取材協力
・芝園かけはしプロジェクト
・芝園団地自治会
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