【ライブレポ】名取さな2nd Live「独ゼン者」──熱狂のZepp Hanedaで見せたバーチャルアーティストとしての進化と深化

2025年11月13日、Zepp Haneda(TOKYO)にて
昨年9月に開催された1st Liveの会場のEX THEATER ROPPONGIから大幅に会場キャパが増加している中、昼夜ともに平日のワンマンライブとは思えないほどの客入りと盛り上がりだった。特に夜公演では当日夕方には会場チケットが完売するほどで、これは名取さなの音楽活動に対する注目度がこの1年を通して上昇し続けてきたことの証左ではないだろうか。
パワーアップしているのはもちろん会場キャパだけではない。名取さな本人の歌唱やパフォーマンス、昨年のワンマンライブから引き続いての全編生バンド編成での演奏、そして特筆すべきはライティングを中心に据えたステージ演出のクオリティの高さだ。
派手なステージセットは組まずに、「Zepp Hanedaのステージにバンドメンバーと共に名取さなが立つ」ということに重きを置いたシンプルなステージで、客席後方からでも見えやすいようにか、小柄な名取さなはバンドメンバーが立っている床面よりも一階分高い床面のステージに立つ、という大枠の構成は昨年と同様だった。しかし今年はそこにさらに3DCG空間内により多くの灯体を設置したことでさらにステージの奥行が生まれ、かつ、よりステージが華やかになり、ライブを客席前方から間近で見ても、後方の席から見ても、配信で見ても見ごたえがあるものになっていた。

全編を通して、バーチャルアーティストのライブであるからこその制約と自由度の高さ、その両方を見事に活かしたステージ演出だった。
本ライブのクオリティの高さが名取さなやバンドメンバーらによる演奏や歌唱、パフォーマンスによって担保されているのはもちろんのことだが、特にこのリアル会場と3DCG空間内のライティングの協奏を含めたステージ演出の素晴らしさが、本ライブを「バーチャルキャラクターの音楽ライブ」という範疇を大きく越えて広く音楽ライブとして、一つの舞台として、レベルの高いものへと押し上げていたことは間違いない。
内容としては、昨年の1st Liveでは「音楽を通してなら言えることがある、伝えたい想いがある」ということを、他アーティストのカバー曲を多く交えながら昼夜2公演を通して表現していたところを、今回の2nd Liveでは自身のオリジナル楽曲を中心に据えながら、具体的にこれから音楽で何を伝えていきたいのか、というところをクローズアップしていくような内容だった。
名取さな 2nd Live「独ゼン者」昼公演レポート
オープニングではステージに引かれた紗幕に、名取さなの今日に至るまでの歩みを暗示するようなアニメーション映像が投影された。最後にマイクを手にするところが印象的だ。

このアニメーション映像の制作は名取さなの楽曲「モンダイナイトリッパー!」Music Videoでディレクターやアニメーションを担当した植草航が担当している。
そして名取さなのシルエットが映し出された。

バーチャル存在であるはずの名取さなが、しかしこの紗幕の向こう側のステージの上で確かに存在しているということを、強く想起させる演出だった。
紗幕が落ちて、その先のステージに立つ名取さなとバンドメンバー。1曲目は1st Live夜公演でアンコール最後の曲だった「足跡」から始まった。


昼公演のこの冒頭でサプライズ的に初お披露目となったこちらの新衣装は、今回のライブのキービジュアルで名取さなが着用していたものだった。
続く「ファンタスティック・エボリューション」はバンドサウンドが映えつつファンとのコール&レスポンスが盛り上がる楽曲で、1曲目の「足跡」と合わせて、今後のライブでも定番曲として長く愛されていくポテンシャルを感じる楽曲だ。
昼公演1曲目「足跡」から7曲目「ステキナノカデパレード」は、シンプルにライブでアクトしたら絶対に楽しい曲や盛り上がる曲を思いっきり詰め込んで、名取さなが今日に至るまで自身の活動の中で示してきた、””みんなの手を取って楽しいの先陣を切っていく””ような姿を改めて表現するような時間になっていた。
特に2曲目の「ファンタスティック・エボリューション」を含め、その後の「だじゃれくりえぃしょん」「だじゃれーぞんでぇとる」を続ける『だじゃれハラスメント』繋ぎ、そしてカバー曲の「アイデン貞貞メルトダウン」へという部分の楽曲は全て、これまでも名取さな楽曲を多く手がけてきた、やしきん作詞作曲の楽曲が連なっており、遊び心を感じるセットリストだ。

間に挟んだMCでは、今回のバンドメンバーについてや新衣装、ここまでの歌唱楽曲について、そして個人勢バーチャルYouTuberのライブとしては異例の技術と言っても過言ではない配信用のARカメラが今回も健在である旨などが、普段の彼女のライブ配信でのお喋りのように楽しく紹介された。

「次の曲は、みんなにとっても、名取にとっても、大事な一曲だと思います。」
そんな曲振りからステージが暗転して、最初の一音目で曲名を察してどよめくフロア。
「きらめく絆創膏」だ。

バックに同曲のMVを投影しながらのパフォーマンスだった。
名取さなの人生、葛藤、努力、その果てでついに得られたもの。極私的な名取さなの人生の一幕をこれでもかと曝け出すような曲なのに、最後まで目が逸らせない。感情の溢れるような歌唱やそれに寄り添うようなバンドの演奏が原曲とはまた違う表情を見せる。歌詞の「君」が原曲を聴いていた時とは違って客席の私達のことを指しているようにも聴こえる。そんなところもライブならではの醍醐味だ。
そこから「ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。」が続くところに一つの流れを感じる。

そしてこの日初披露の新曲、「アングルナージュ」。この曲名はフランス語で歯車、連鎖や悪循環などを意味する。
間奏やアウトロでのポエトリーリーディングが印象的で、怒りや悲しみと愛がないまぜになったような葛藤を抒情的に歌い上げる楽曲だ。
昨年の1st Live開催が告知されるまでに発表されていたオリジナル曲のほとんどが、普段の名取さなの配信の明るい空気感を踏襲したようなポップソングだった。しかしそこから1年ちょっとが経過した今となっては、こういうタイプの新曲を彼女が発表することに驚きこそすれど違和感は全く感じなくなっている。そこにも名取さなのアーティストとしての確かな歩みを感じる。
「内なる怒りに突き動かされている部分もある!」
「アンクルナージュ」後のMCでは、初めて本ライブのコンセプトに深く迫るような内容の話題が多く話された。
「怒りはいつでも内包しています。……怖(こわ)じゃなくて!笑」
「内なる怒りに突き動かされている部分もある!表立っては出しちゃいけないけど、そんなことも、歌でなら、表現できる!」
特に印象的だったのは、「生きててえらい」という言葉の流行をきっかけとして彼女が感じた、言葉の影響力についての話だった。
「何年もこうして活動してて気づいたのは、優しい言葉を無責任にかけ続けることで、本来自分の力で歩けてた人まで歩けなくさせちゃうような、言ってしまえば良くない言葉だったんだなあっていうのを、自分は、思いました。名取は自分の活動を通して、(みんなに)名取がいないところでも、豊かに生きていてほしいなあって、思っています!……勝手だよね。笑
名取の人生の主人公は名取だし、みんなの人生の主人公は、みんなですよね?だから他人に何を言われようが、どう思われようが、自分の足で自分の人生を歩んで行ってほしい。そんな想いを込めて(新曲「誰かのための言葉」の)作詞をしました。」
不用意に特定の人を責めるような言葉になってしまわないようにか、あるいはせっかくのライブを重たい雰囲気にしすぎないようにという気持ちがあってなのか、かなり言葉選びや言い方に注意を払っている様子で、努めて明るくそう話していた。
活動初期から多くのファンを擁しながら現在活動8年目を迎えている名取さなだからこそ、自分の言葉が人に良くも悪くも影響を与えてしまった場面というのを、恐らくこちらが想像する以上に多く目撃してきていたのではないか。そしてたとえそこで何を思ったとしても、立場上何も言えなかった場面がこれまでに数えきれないほどあったのではないか、そういうことに思いを馳せてしまう話だった。
今日初披露のもう一曲の新曲「誰かのための言葉」。
彼女がここまでの様々な活動を通してずっとアティチュードとして示し続けて来てはいつつも、決してはっきりと言葉にはしてこなかった怒りと祈りを叫んでいて、確かにこの2nd Live「独ゼン者」の最後のピースとして真ん中にはまるような曲だった。
この曲で示された祈り、それはおそらく「この曲が名取さなにとっての自分の曲であるということだけでなく、あなたにとっても『これは自分の曲だ』と思える曲であって欲しい」という祈りだ。
「私がそうであるように、あなたも自分の人生というステージに主人公として立っていて欲しい。他人の人生の傍観者や付属品として生きるのではなくて。」という祈り。だけどそれがあくまで自身の独善的な祈りでしかないということを思ってのことなのか、直後のMCではこういう風に話していた。
「だから厳しいかもしれないけど、名取はみんなに『何もしなくてもいいんだよ』『生きてるだけでえらいんだよ』っていうのを、言ってあげられないです。でも、少しでもみんなの最高の人生の手伝いができるよう、これからもがんばっていくつもりです!””ついてきたい奴は””ついてこい!!」

そこからの「アウトサイダー」「オヒトリサマ」、カバー曲の「細胞プロミネンス」、そして本編最後の曲「明証」では、日々をひたむきに生きる人やその人生、その孤独の肯定を高らかに、エネルギッシュに歌い上げていたところにカタルシスがあった。そこまでの楽曲やMCの内容を踏まえると、突然視力が良くなったかのように「彼女はなぜ今そう歌いたいのか」がすごくよくわかるセットリストだ。
「明証」のMVの笑顔や青空が、このライブの本編のラストを飾るのにあまりにもぴったりだった。

そしてアンコール。ライブTシャツに着替えた名取さなが歌う1曲目は「ソラの果てまで」。1st Liveの時のメインテーマ的な位置づけで制作された楽曲でありながら、この2nd Liveで歌ってきたことまでをも大きく総括するような曲だ。2nd Liveを踏まえるとより美しくこの曲の解像度が上がって行くのを感じる。

「昼だけの人も、夜の部来る人も、いったん!全部忘れて、ぜ~んぶ出し切れますか!?」というアンコールMCからの最後は「モンダイナイトリッパー!(Mitsukiyo Remix)」「自分らしさに会いに行こう」の2曲の明るい空気で楽しく昼公演を締めくくった。

鈍器をフルスイングするような「意思」の殴りこみ
昼公演は平日の日中で、かつ、夜公演とは異なり冒頭無料配信パートもない。したがって「おそらく自身の最も濃いファンしか見ていない場であろう」ということを見越してか、ライブ前半部分で大きく振り被った後、「きらめく絆創膏」から最後の曲までは、ずっと客席に全体重をかけた状態で鈍器をフルスイングするような意思のぶつけ方だったと感じた。それもまた自身のファンへの信頼の証だったのかもしれない。
今回のライブに先行した3ヶ月連続リリース楽曲の「明証」「アウトサイダー」「自分らしさに会いに行こう」は、いずれも良い曲であることは間違いないものの、それまでの名取さな楽曲の文脈から考えると歌詞世界に若干の唐突感があり、ライブの中でどう鳴らしたい曲なのかということが昨年の事前リリースの3曲よりも見えづらい印象だった。しかし、本公演を通して観た後だと、特に新発表曲だった「アングルナージュ」「誰かのための言葉」を聴いた後だと、名取さながこの3曲をなぜ今このタイミングで歌いたかったのかや、このライブでどう鳴らしたかったのかが本当によくわかった。
名取さな 2nd Live「独ゼン者」夜公演レポート
Overtureこそ昼公演と同じだったが、セットリストの構成は1曲目から全く違っていた。「オヒトリサマ」「ヒトリガタリ」。

昼公演で本ライブのコンセプトがすでに明らかになっている以上、夜公演では名取さなの思想と怒りが最初からトップスピードで全開だ。「ヒトリガタリ」ではデスボイスも会場に鳴り響いた。
会場のボルテージもMAXになったところで次は何が来るのか……と思ったところで始まったのは「PINK,ALL,PINK!」と「パラレルサーチライト」!
いきなりキュートな楽曲群でガラリと180度表情が変わる。昼公演とは全く違う緩急の付け方だ。
そして名取さなとの親交が深いバーチャルシンガー花譜の楽曲カバー「代替嬉々」。原曲の花譜へのリスペクトは大いに感じられつつも、花譜とも、作詞作曲を担当した大森靖子とも違う、名取さな自身の悔しさや感情が乗った歌唱だった。
夜公演最初のMCでは、名取さなから「夜の部、チケット、完売で~す!!うれしい!!ピース!!Zepp Haneda、埋まったぞ~~!!」と現地チケットが完売した旨が報告された。

続くカバー曲の「アイデア」、「アマカミサマ」、そしてカバー曲の「光景」の3曲は、ファンへの大きな愛と祈りを歌うような時間だった。特に「アマカミサマ」の歌詞
『昨日言いすぎちゃった ついつい本当のことを 偉そうに説教して やだ ごめんね』
『嫌われたって平気だ なんて嘘だよ』
などは、まるでこの2nd Liveのことをそのまま指して歌っているように聴こえた。
この3曲自体は何か大きな怒りや憤りを表明するような曲ではないが、逆にそれがゆえに、今回のライブのテーマが内包している怒りの一番ど真ん中には、彼女の大きな愛があるということを改めて示唆しているようだった。
MCを挟んで新曲「アングルナージュ」。昼公演同様やはりこの楽曲での照明演出とVJの協奏が本当に素晴らしい。レーザーやスポットライトなどを効果的に用いつつ、ただ派手なだけでなく、楽曲そのものが描いている情景を見事に表現している。ライブや楽曲のコンセプトを名取さなと演出チームが深く共有できているからこそ、そしてそれを演出プランに上手く落とし込めるセンスや技術とチームワークがあるからこそ成し得る光景だ。

「アウトサイダー」「藍二乗」「明証」は、熱さと爽快感の両方がある楽曲群だ。特に「アウトサイダー」とカバー曲の「藍二乗」はどちらも『描く』ということや『終わり』が歌詞世界の視野の中にあるところにシンパシーを感じさせる。
「いい人生にしようね!今日の思い出を胸に、また明日から日常をがんばっていこうね。」
MCでは昼公演でもあった本ライブや新曲のコンセプトの説明を再度繰り返しつつ、昼公演よりもさらにもう一歩踏み込んだ率直な言葉で触れられた。
「このライブで名取が言いたいことはず~っと!一貫してます!!」
「色んなむかつくこと、許せないこと!比べちゃう他人!全部無視して内向きに!自分を見つめて、進んでいきたい!!簡単なことじゃないけど、そうあろうとがんばる姿が!もう人生を最高にしてるって、名取はそう信じてます!!」
新曲「誰かのための言葉」。
昼公演同様現実のレーザーの光によって、バーチャル空間側にあるはずの背面ディスプレイに歌詞を一文字ずつ焼き付けていくような演出がまるで魔法のようだ。

名取さなが今、歌によってこちら側に影響を及ぼしていることと同じぐらい、リアル側にいる人達がバーチャル側にいる名取さなに影響を与えているということが、レーザーという現実の光を通して素直に理解できる、そんな演出だった。
そして「きらめく絆創膏」。この曲は昼公演と、そして原曲とも曲のはじまり方が違っていた。元々ファンの間では、「原曲の冒頭部分のカセットテープの音は、『2011.04.**』という、名取さなが2020年にYouTubeに投稿していた動画の冒頭部部分からサンプリングしている音で間違いないのではないか?」ということが語られていたが、夜公演ではまるでその答え合わせのように『2011.04.**』の動画の音がおそらくフルで流れた。これまでこの『2011.04.**』について名取さな本人の口から具体的に何かが語られたことはなかったと思うが、この動画が切り取っている瞬間は、彼女がかつて向き合いたくなかったであろう自身の人生の一部であり、「きらめく絆創膏」で言うところの「傷口」であるはずだ。
だからここで『2011.04.**』の音声が流れたのは、彼女が自分の人生と対峙する姿を改めて示した瞬間でもあった。
本編最後のMCでの「こちらの曲、まさに大団円という、ぴったりな曲でございますね!聴いてください!『自分らしさに会いに行こう』!」という曲振りからの、本編最後の曲「自分らしさに会いに行こう」。
たしかにもしも彼女が「ありのままでいい」「生きてるだけでえらい」の価値観に従ってずっと生きていたら、少なくとも今こうしてファンの前でステージに立って歌う「名取さな」にはなれていなかったはずだ。そのことを思うと、彼女がここまで強烈に「自分は今はもうみんなに『生きてるだけでえらい』とは言えない」ということにこだわる理由が少しわかるような気がしてくる。
アンコールは名取さなの動物達への””でっかいラブ””が詰まった「アニマルま~る」からはじまり、バンド紹介を挟んで「ファンタスティック・エボリューション」へ。会場が最高潮のHAPPYで満たされてゆく。


アンコールMCでは「楽しかった!!!!(観ているみんなも)楽しかった!?!?」と問いかけ、「終わっちゃうの寂しい!!!!」とライブの終演が目前に迫っていることを強く名残惜しみつつ、「いい人生にしようね!今日の思い出を胸に、また明日から日常をがんばっていこうね。」と熱くファンを鼓舞した。
そしてアンコール最後の曲は「足跡」。


こんな一日がきっと必ずまた来るよと、優しく日常へ送り帰すような曲だ。宙に舞うきらきらの赤いテープ越しに観るステージが美しかった。
「また、インターネットでお会いしましょ~!!名取さなでした。またね。」
その先でなお、「好き」を交えることができたなら
今回のライブも1st Liveに引き続きバンド演奏用に森本練が施した全曲のアレンジと、それをステージ上で実現させたバンドメンバーの演奏が素晴らしかった。原曲の良さや魅力はそのままに、バンドの各楽器の演奏や名取さなのライブ歌唱がより映えるようなアレンジと演出だった。
打ち立てたライブコンセプトやその実現のさせ方も素晴らしかった。「名取さなの意思を観客にぶつけたい」「絶対にライブを楽しんで帰ってほしい」ややもすれば相反する可能性も十分あるこの2つの狙いを、両方とも見事に実現させていた。
この2nd Liveまでは、名取さなの活動を見ていて「そちら側とこちら側では全く違う世界と人生を生きていて、それゆえにおそらく全くわかり得ない部分がある。だからこそ同じ時間を過ごす時にはそこには触れずに、わかりあえる楽しさだけを共有しよう。うわべだけでもいいから、この瞬間だけでも一緒に楽しく過ごそう。」という深い諦念とそれゆえの刹那的な明るさのようなものをうっすらと感じていた。
しかし、この2nd Liveを持って彼女は「少なくとも今はそういう考え方ではない」と明確に否定した。
仮に共感してもらえなかったとしても、それでも正直な気持ちをみんなに伝えたいと、どうしたら伝わるかを考え続けたいと。その先でなお、「好き」を交えることができたならそれが一番美しいと。
それは自分のファンとうわべだけではなく、互いの人生レベルで深く長く付き合っていきたいという告白に他ならないのではないだろうか。
そう考えていくと、これまで名取さなの集大成として捉えられていた、イベント「さなのばくたん。 -ハロー・マイ・バースデイ-」も楽曲「きらめく絆創膏」も、そのために必要だった壮大な前段のようにも感じられるのだ。ファンと人生レベルで長く関わっていきたいという話がしたいのなら、まずは彼女が先に自分の人生についての話をしなければ説得力がないからだ。
ただ、名取さなに対して先にそのボールを投げたのは、実はこの7年半の間にできた彼女のファンの側からだったのかもしれない。
「それでも自分の想いを伝えたい。自分のファンに対してそうする意味と価値がある」とファンが彼女にそう思わせたからこそ、この日のこのライブがあった。

さらにMCでの「名取の人生の主人公は名取だし、みんなの人生の主人公は、みんなですよね?」という言葉についても考える。
そうは言っても、ステージに立つ人間は皆、その表現が研ぎ澄まされていくほどに神聖さを帯びてゆく。それを目撃してしまった人々の中には、つい跪いて自分の全てを捧げたいような気持ちになってしまう人も必ず現れる。
しかし、彼女はステージの上に立ち続けることを改めて決意したからこそ、その一番最初の段階にいる今の時点で、「名取の人生の主人公は名取だし、みんなの人生の主人公は、みんなですよね?」とはっきり言っておきたかったのではないかという気もしてくるのだ。この先、名取さながステージに立つごとにどんなに神聖さを増して行ったとしても、そしてみんながつい跪いて自分の全てを捧げたくなってしまったとしても、なんとか自らの人生の主人公として踏みとどまれるように。
名取さなはこのライブで一つの覚悟を持って自らの人生を曝け出し、自らの生き方を示し、その上で「みんなの最高の人生の手伝いをしたい」と、こちら側に向かってボールを投げた。
今、弧を描いたまま宙に浮くそれをどうするのかは、ひとりひとりの手にゆだねられている。

文:藤林檎
ライブ情報
名取さな 2nd Live〈独ゼン者〉
日程:2025年11月13日(木)
【配信チケット】
配信プラットフォーム「Z-aN」にて販売中
https://www.zan-live.com/live/detail/10643
販売期間:2025年9月19日(金)〜 2025年12月21日(日)23:59
購入特典:「ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。 (Band Arrange)」音源
【公演詳細】
https://bakutan.natorisana.com/e/natorisana-2ndlive
【昼公演セットリスト】
01. 足跡
02. ファンタスティック・エボリューション
03. だじゃれくりえぃしょん
04. だじゃれーぞんでぇとる
05. アイデン貞貞メルトダウン
06. ごほうびトキメキモード
07. ステキナノカデパレード
08. きらめく絆創膏
09. ノーゲスト、イン、ザ、テアトロ。
10. アングルナージュ
11. 誰かのための言葉
12. アウトサイダー
13. オヒトリサマ
14. 細胞プロミネンス
15. 明証
16. ソラの果てまで
17. モンダイナイトリッパー! (Mitsukiyo Remix)
18. 自分らしさに会いに行こう
【夜公演セットリスト】
01. オヒトリサマ
02. ヒトリガタリ
03. PINK,ALL,PINK!
04. パラレルサーチライト
05. 代替嬉々
06. アイデア
07. アマカミサマ
08. 光景
09. アングルナージュ
10. アウトサイダー
11. 藍二乗
12. 明証
13. 誰かのための言葉
14. きらめく絆創膏
15. 自分らしさに会いに行こう
16. アニマルま~る
17. ファンタスティック・エボリューション
18. 足跡
アーティスト情報
・YouTube
https://www.youtube.com/@sana_natori
・X
https://x.com/sana_natori
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