舞台「醉いどれ天使」横山由依インタビュー「ぎんに対して一番理解できたのは“夢を持つこと”」
名匠・黒澤明と名優・三船敏郎が初めてタッグを組み、1948年に公開された伝説の映画「醉いどれ天使」が4年ぶりに舞台化される、前作に続き、脚本は蓬莱竜太が担い、今作の演出は深作健太。三船が演じた闇市を支配する若いやくざ・松永を北山宏光が演じる。
舞台は敗戦後の東京。戦争によって帰る場所を失った人々は荒れ果てた都市に流れ着き、闇市でその日その日を生き延びていた──。不器用な人間味を溢れさせながらも、混沌とした時代を力強く生きる人々を描く今作において、松永と同郷で松永に想いを寄せるぎんを岡田結実とWキャストで演じるのが横山由依だ。AKB48の2代目総監督を務め、2021年にグループを卒業してからは、俳優やバラエティ等、幅広く活躍する横山に話を聞いた。
――舞台「醉いどれ天使」に出演が決まった時、どう思いましたか?
原作が黒澤明さん、脚本が蓬莱竜太さんということでとても楽しみでした。AKBにいた頃、博多座で今回の演出の深作健太さんのお父様の深作欣二監督の「仁義なき戦い」の舞台をやらせていただいたことがあったので、ご縁も感じました。
――「醉いどれ天使」はこれまで映画や舞台になっている作品ですが、ご覧になったことはありますか?
今回の出演が決まり、映画を観ました。人間の熱さが伝わってくるドキュメンタリーのようなリアルな作品で色褪せないなと思いました。白黒の映画ですが、ペンキで色が付いていく終盤の乱闘のシーンが印象的で、今観てもとても斬新な作品だと思いました。
――横山さんが演じるぎんは、闇市を支配する若いやくざ・松永と同郷で松永に想いを寄せる役柄です。どんな印象を持ちましたか?
自分の夢にまっすぐに向かっていて、それは周りのサポートがあるからこそできることだとは思うんですが、戦争によって挫折を味わっても人への愛情が深いんですよね。全部が強いなと思いました。悔しい経験をしたからこそ一本筋が通っていて、夢や希望を諦めてほしくないっていう想いを松永に対しても持っている。自分のことで精一杯でも素晴らしいと思いますが、人に対しても自分に対する熱量と同じくらいの熱量で接することは難しいことだと思うので、それができるぎんは素晴らしいなと思いました。
──そんなぎんをどう演じようと思いましたか?
自分がぎんに対して一番理解できたのは夢を持つことです。挫折した後に、大事な人のために気持ちを引き上げる強さをどう出すかは今もお稽古で探っているところですね。随所に葛藤が出たり、松永に対して優しい言葉を選んでかけたり、脚本上でぎんの人物像は深く描かれているので、それを元に、今稽古で深作さんたちと一緒に掘り下げていっています。
──ぎんの生き様とご自身の人生は重なる部分はありましたか?
私は京都から東京に出てきて、オーディションに合格してAKBとして活動して、今でもこうやって舞台に立たせてもらっています。まだ夢の途中ではありますが、ぎんのように自分ではどうしようもない出来事で夢を諦めざるを得なくなった場合、どう思っただろう?と想像しました。そういう作業をすることが他の人生を生きるお芝居の面白さでもあって。慣れ親しんだ地元から出て、新しい場所に足を踏み入れることって怖さを感じると同時にウキウキやワクワクもある。自分の目標を叶えるためにどう時間を割くかっていう風にポジティブに考える方が楽しくなると思っています。ぎんの場合は、それまで自分に割いていた時間を松永に向けるので、キャパが大きい人だなって感じました。
――ぎんは強くてキャパが大きい人だという話が出てきましたが、横山さんはご自身のことを強いと思いますか? また、キャパは広いと思いますか?
家族ができたことで、弱いところを見せられるようになったんですよね。自分の弱さを知りやすくなって強くなれた気はします。グループにいた頃は、自分一人で解決しないとダメだと思って鎧を着ていた感覚があって。強く見せていたけど、実は深く傷ついていたことに気づいていなかったり。今は一つひとつのことに丁寧に向き合う中で、「これは嫌だったな」とか「これが嬉しかったな」っていうことをしっかりと感じることができる。一番の味方ができたことでそういう変化が起きた気がします。キャパはどうだろう? 大きくなりたいと思いますけど(笑)。私は今32歳なんですが、小さい頃に思い描いていた30代と比べると、10代の時からあまり変わってないと思うんですよね。周りの30代の方はすごい大人のお姉さんに見えていましたし。もっといろんな経験をしたり、お芝居をさせていただくことでさまざまな感情に触れていく中でもっと豊かな人間になれたらいいなと思っているので、キャパは大きくはないと思います。
──どんな人がキャパの大きな大人だと思いますか?
私があまり自分の気持ちを言葉にするのがうまくないタイプなので、人の話を聞いた上でしっかりした言葉を返してくれる人は大人だなって思います。根本宗子さんと何度かお仕事でご一緒させていただいて、同世代ということもあってよく食事もご一緒させてもらうんですが、根本さんは作家だし演出家でもあるからボキャブラリーがとても豊富なんです。ユーモアもあって会話してるだけで楽しいし、人の話をしっかり聞いた上で自分の言葉に落とし込まれているので素敵だなって思います。
――松永を演じる北山宏光さんにはどんな印象がありますか?
稽古中に少しお話させていただいているのですが、すごくストイックな方で、ご自身の松永像をしっかり持たれていて、 物理的な細かい動きまで丁寧に作られている印象があります。深作さんに言われたことを自分の中に取り入れてからやってみるまでの瞬発力が早いところに経験値を感じます。松永が踊ったりギターを弾くシーンがあるんですが、そういうシーンはアーティスト活動もされている方ならではの貫禄を感じますね。あと、立ち振る舞いが美しくてステージ映えするのも素敵だなって思います。
――今回の「醉いどれ天使」ならではの魅力は何だと思いますか?
舞台は戦後の東京で、「昔の話は難しそうだな」と思う方もいらっしゃるかもしれないですが、人間の悩みごとって時代が変わっても一緒なんだなって思いました。演奏やダンスもあってとても華のあるエンターテイメント作品としても楽しんでいただけると思います。
――横山さんは約4年前にグループを卒業されました。俳優への思いが強くあったということですが、今幅広い活動をする中で俳優への想いに何か変化はありましたか?
変わってないですね。ずっと1年に1~2本は舞台をやりたいという気持ちがあります。お客さんの前に立った時の緊張感をずっと味わっていたいですし。舞台って稽古を1ヶ月くらいかけて丁寧にやって、 本番を迎えて、そこで自分の中でも気持ちが変わっていくのが楽しくもあるし、難しいところでもあって。役と向き合うことは 自分と向き合うということとリンクしてるって実感するんですよね。集中して自分と向き合っている時間は面白いですし、いろいろな演出家さんに演出を付けてもらうことで、以前教えていただいたことが別の現場で活きたりするのも楽しいです。
――グループとして舞台に立つのと、役を演じるために舞台に立つことの一番大きな違いは何だと思いますか?
グループで舞台に立つ時は音楽があってダンスもあるのでそれに助けてもらったりすることもあるんですが、舞台は自分というものをしっかり信じて、共演者の方のことも信じていないと成り立たないと思っています。より責任を感じます。でも舞台もグループと一緒で、一定の時間を重ねてみんなで作り上げるものなので、 そこで生まれる化学反応が楽しいですね。舞台は終わると会わない方がほとんどですが、私はAKBに12年在籍していたのでその違いも面白いですね。
――毎回新しい場所に行くことに対して不安も期待もあるわけですか?
最初の舞台は顔合わせの時からものすごく緊張しました。何本かやらせていただくうちにあまり緊張しなくなりました。
――新しい現場に行くことを楽しめるようになったんですかね。
そうだと思います。昔みたいに「ヤバい! どうしようどうしよう」みたいな感覚はなくなりました(笑)。一つひとつの作品を乗り越えた先に見えてくるものがある。それは12年間AKBをコツコツ続けていく中で掴めていった感覚でもあります。これからもコツコツと続けていきたいですね。
――尊敬する役者はいらっしゃいますか?
以前ご一緒して特に「すごいな」と感じたのは高畑淳子さんです。存在感がある方ですし、声も素敵で発声の仕方が高畑さんならではの魅力を感じます。その役として何十年も生きてきたんだろうなっていう説得力があるんですよね。立ち姿もとても綺麗でかっこいい。とても早い段階で役の動きを自分に落とし込まれていたので、烏滸がましくも、私も続けていたら少しはああいう風になれるのかなって思って「頑張ろう」と思いました。
――約16年芸能活動をされていますが、お仕事をする上で自分に課していることはあったりしますか?
気をつけているのは時間ですかね。待ち合わせの5分前には着いていたいけど、怖いからその5分前、またその5分前の15分前には着いていたいなと思って出発して、結局30分くらい前に着いて、マネージャーさんを「もう着いてる⁉」って戸惑わせてしまうんです(笑)。時間は有限なので、 人との約束の時間を守ることは意識しています。
――2025年中に達成したいことを教えてください。
「醉いどれ天使」が12月まであるので、まずはしっかりやり遂げたいなと思っています。あと、最近ジムでトレーニングすることにハマってて。筋トレと有酸素運動をやっているんですが、 稽古の前にアップも兼ねてジムに行くんです。走りながらセリフを言ったりしていて。本番期間に入っても、朝にジムに行ってからの方が調子が良い気がするのでやりたいと思っています。
【インタビュー・執筆】小松香里
編集者。音楽・映画・アート等。ご連絡はDMまたは komkaori@gmail~ まで
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撮影/たむらとも
ヘアメイク/熊谷美奈子
スタイリスト/林峻之
『醉いどれ天使』
原作:黒澤明 植草圭之助
脚本:蓬莱竜太
演出:深作健太
出演:北山宏光
渡辺 大 横山由依・岡田結実(Wキャスト) 阪口珠美 / 佐藤仁美 大鶴義丹 ほか
東京公演:2025年11月7日(金)~23日(日)
会場:明治座
名古屋公演:2025年11月28日(金)~30日(日)
会場:御園座
大阪公演:2025年12月5日(金)~14日(日)
会場:新歌舞伎座
<URL>
https://www.yoidoretenshi-stage.jp/
ウェブサイト: https://getnews.jp/
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