創薬ベンチャーが開発中の脳梗塞治療薬「TMS‐007」が秘めた可能性は世界を救うか
10月29日の世界脳卒中デーに合わせて、脳梗塞治療薬の新薬候補「TMS-007」を開発中の創薬ベンチャーである株式会社ティムスが、プレス向け事業説明会を開催した。そこでは、既存であり唯一である急性期脳梗塞治療薬「t-PA」の課題である発症後4.5時間以内の投与の壁を超える可能性が示されていた。
株式会社ティムスとはどんなベンチャーなのか
株式会社ティムスとは、2005年に設立した東京農工大発のベンチャー企業である。本社は東京都府中市にあり、2022年には東証グロース上場企業となった。日本有数のグローバルバイオ企業で、現在は脳梗塞治療薬候補TMS-007を開発中だ。
経営陣は、創業者であり「TMS-007」の発見者である蓮見惠司農学博士や若林拓朗MBAを筆頭に、開発担当を横田尚久薬学修士、管理担当を伊藤剛氏、独立社外取締役を並川玲子医師、社外取締役を高梨健米国公認会計士である。
脳梗塞とはどんな病気なのか
「脳梗塞」とは、血管が詰まって脳への血液の供給が滞ることで生じる病気だ。「脳卒中」の約7割が「脳梗塞」である。
「脳卒中」は世界の死亡原因の第2位であり、日本では第4位である。寝たきりになる原因1位であり、認知症の原因2位。リスクが大きい病気である。
急性期脳梗塞が起きると、脳の血管が詰まって血流が悪くなり、虚血領域と壊死領域が発生する。壊死領域は救えない脳であり、虚血領域は救える脳だ。これが時間経過と共に壊死領域がどんどん拡大してしまう。それゆえに、脳梗塞は時間との勝負と言われる。
脳梗塞治療薬の状況はどうなっているのか
米国FDAに承認されている唯一の急性期脳梗塞治療薬が「t-PA」だ。
現状では、脳梗塞患者全体の10%未満にしか使用されていないとされており、かつ発症後から4.5時間以内に投与しなければ意味がない薬である。その上、脳出血のリスクもある。
ゆえに、急性期脳梗塞治療薬の効果が高く、リスクの低い新薬は待ち望まれてきた。
脳梗塞治療薬候補「TMS-007」とはなにか
蓮見惠司農学博士が発見し、開発を進めている「TMS-007」。8000もの微生物を片っ端から調べて、数十個まで絞り込むという、途方もない作業を敢行した。
その結果として見つけ出した黒カビ「スタキボトリス」が作る新規化合物群SMTPのメンバーが発見されたのだ。最初は培養液5Lで10ミリグラム程度しかとれなかったが、生産方法を見つけ出して、1Lで10グラムほど生産できるようになった。
「TMS-007」をマウス脳梗塞モデルを使って試験した結果、「t-PA」の治療有効時間である発症後4.5時間を超えて「TMS-007」は発症後12時間でも効果があることがわかった。
閉塞血管の再開通率の改善や、炎症を抑える効果も見られ、出血リスクも少ないことが判明している。
須田智先生と蓮見惠司農学博士のトークセッション
脳梗塞の意識調査を実施した結果、74.4%の人が脳梗塞の後遺症のリスクを理解している現状がある。「かつては脳梗塞は発症すれば死ぬ病気だったが、いまは死ぬことはなくなった。だが、大なり小なりかなり多くの患者が後遺症を残してしまう状況だ」と、須田先生は語る。
年齢に関わらず脳梗塞は起きる。その理由は「脳梗塞は血管の病気」である。ゆえに「血圧が高い、糖尿病がある、コレステロールがある、大酒飲みや喫煙、メタボ。そういった因子が集まると血管が老いてしまうので脳梗塞が起きてしまう」とのこと。
予防するためには「検診をすること」が一番であるようだ。「血圧、心電図、採血など最低限の検査とフィードバックを受け止めて動くこと」が大事なのだ。酒や喫煙を控えたり、メタボを解消するために動くことが脳梗塞対策には一番いいのだという。
そしてなにより「ストレス」が一番大きいという。溜め込まない、逃し方を自分なりに身につけておくこと。これが大事だという。
とにかく運動をすること。階段を昇り降りするようにすること、とにかく歩くこと。まずはそこを気にすることが一番の予防になるようだ。
もし、発症してしまったとき、「TMS-007」があれば治療にはどんな変化があるのか。蓮見農学博士がこれに答える。
「どこでも治療できるようになる」「24時間でも有効になる」のは大きい。まだ「副作用がどうなっているのか」はわからないところがあるが、実用化がされるようになれば劇的な変化を期待できそうだ。
実際、現状の4.5時間で考えると、一時間は検査に必要となるので、実質3.5時間で病院にくる必要がある。すぐに救急車を呼ばないといけない。それが一気に緩和することができそうだ。
脳梗塞を疑う合言葉は「BE-FAST」。Bはバランス、Eはアイで「視野が欠ける、ものが2つに見える」、Fはフェイスは「顔が曲がる」、Aはアームで「腕の麻痺」、Sはスピーチで「ろれつ」、Tはタイムで「急がなくちゃいけない」。これらを覚えておくといいだろう。
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