インパルス板倉さん、マンション管理組合の理事を何度も経験して出た「賃貸と分譲どっちがいい?」論争の結論とは?
お笑いコンビ「インパルス」の板倉俊之(いたくら・としゆき)さんは、数年前にマンションを購入。入居と同時に管理組合の理事を務めることになりました。それまでは賃貸住宅にしか住んだことがなく、いきなりの理事就任に不安を抱きつつ、できる範囲でしっかりと務めたといいます。すると、それまではほとんど意識していなかったマンションのアレコレに気づくようになり、家そのものに対する理解も深まったそう。そんな板倉さんの「理事体験談」を伺いました。
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初めてのマンション購入から、いきなりの理事就任
(撮影/嶋崎征弘)
――板倉さんは少し前までマンション管理組合の理事(※)をされていたそうですね。
インパルス板倉さん(以下、板倉):そうですね。数年間、わりとしっかりやって、少し前に任期が終わりました。その前には、理事長をやっていたこともあります。
※マンションの理事会:マンションの組合員(区分所有者全員)から選出される執行機関が理事会。理事長のほか、副理事長、会計担当理事、設備担当理事など、数人の理事で構成される。各理事の任期は1年から数年で、輪番制や立候補で後任が選出される。
理事会は定期的に集まりマンションの問題について解決する方策を練るほか、最低年1回の総会でさまざまな決議事項について区分所有者の総意をとる。
■マンションの管理体制
マンション管理を担う「管理組合」と「管理会社」。業務は管理組合から管理会社に委託する(画像作成/SUUMO編集部)
――はじめに、就任の経緯を教えてください。
板倉:今のマンションは数年前に中古で購入したのですが、僕が引越したときがちょうど、前の入居者が理事になるタイミングだったんです。他もそうかもしれないですけど、うちの管理組合は部屋の順番で理事を回していくルールだったので、入居後すぐに理事をやることになりました。
それまで賃貸にしか住んだことがなかったので不安でしたけどね。でも、他の理事が言うには、管理会社の人たちもいるから、自分たちが全部やらなきゃいけないわけじゃないと。仕事が入っているときには理事会を欠席しても構わないということだったので、だったら大丈夫なのかなと。
――入居直後からいきなりの理事は不安ですよね。順番を後にしてもらおうとは思いませんでしたか?
板倉:僕が飛ばしちゃうと、他の人の順番が早く回ってきちゃうじゃないですか。自分だったらそれは嫌だろうなと思って引き受けることにしました。
それに、断ったら住みづらくなるでしょうしね。ベースとして「あいつ、(タレントだから)調子こいてんじゃないの?」と思われたくない。僕自身も、特別扱いされて当然と思う人間にはなりたくないというか。僕だけ10倍の管理費や修繕積立金を払っているなら特別扱いされたいけど(笑)、そうではないんで。
(撮影/嶋崎征弘)
――その後には理事長も経験されたと。
板倉:その次に順番が回ってきたときに、理事長になりました(理事会が回ってくる頻度は数年に一度)。それも同じ人がずっとやることにならないよう、交代制にしているんですよね。理事長になったからといって、ものすごく負担が増えた感じはなかったんですけど、ビビったのが印鑑の保管ですね。理事長になるとマンションの口座の印鑑を持たされるんですけど、それを自宅で保管しないといけなくて。「これ、大丈夫なのか?うちに泥棒が入って印鑑を盗まれたら、俺だけの被害じゃ済まないぞ」と思って、引き出しの奥底へと厳重にしまっていました。
ただ、予算の承認とか、工事費用の決済とかで、ハンコを押さないといけない機会がけっこうあるんですよ。その度に奥底から出すのが面倒だから、最後はそこまでじゃなくなってましたけど。完全に恐怖心が麻痺していましたね。
――理事長の任期終了後は、理事会の仕事も終了したんですか?
板倉:いや、そのあとに監事を1年やって、それでいったん終了ですね。次に回ってきても、役職なしのノーマル組合員になります。
ただ、最初は不安でしたけど、結果的にはやって良かったと思っています。賃貸に住んでいたら絶対に分からないことを知りましたし、いろいろと面白い経験もできたので。
(撮影/嶋崎征弘)
理事をやってから、マンションのアレコレについて「納得できること」が増えた
(撮影/嶋崎征弘)
――例えば、どんなところに面白さを感じましたか?
板倉:貯水槽(※)を見に行ったり、屋上の様子を見に行ったり、賃貸では絶対にできないいろんな経験があって面白かったんですけど、一番は「マンション管理がどうやって成り立っているか」が分かったことですね。賃貸のときもマンションだったけど、そこまで深くは考えていなかったから。
※貯水槽:各住戸に給水を行うため、屋上などに設置する水をためる容器のこと
例えば、賃貸のときは基本的に建物の入口から自分の部屋までの動線くらいしか気にしないけど、管理組合の仕事をやっていると、どこそこの植木で問題が発生したとか、屋上でなんかあったとかっていうときに、自分の生活動線とは関係ないところを通るんですよね。そこで、「こうやってパイプが通って、ここに排水されているんだ」とか、「ここが壊れたら、ここを直さないといけないんだ」みたいな発見があって、結構ワクワクしました。
――そういったマンションの仕組みみたいなことを、やりながら学んでいったと。
板倉:そうですね。逆に言うと、理事になるにあたって勉強したとかは特にないですね。管理会社の人からいろんな説明を受ける際も、分からないことがあったら恥を忍んで聞いて、ちゃんと理解するようにしていました。知ったかぶりしたほうがその場は早く終わるんでしょうけど、僕は興味もあったので。
あと、面白かったというか、理事をやって良かったと思うのは、管理の内情を知ってからマンションのいろんなことに対して納得できる場面が増えたんですよね。例えば修繕積立金なんかも、マンションの実情を何にも知らないと「この金、なんだよ!」っていう気持ちが発生すると思うんですけど、理事をやると何に使われているかも全て分かるじゃないですか。
毎月の修繕積立金や管理費を安くしすぎるとマンション自体が腐敗していくし、それでマンション自体の価値が落ちたら自分もみんなも困る。マンションに住む人は運命共同体だってことが分かるから、持ち回りで理事をやるっていうシステムはいいと思いました。
(撮影/嶋崎征弘)
あのときの「ちびっこ」がこんなにも大きく……。賃貸では味わえなかった感情
――賃貸との違いでいうと、分譲のほうが住人同士の交流が活発なイメージです。理事をやると、なおさらコミュニケーションの機会が増えると思いますが、そのあたりはいかがでしたか?
板倉:賃貸のときはエレベーターの中で会ったら挨拶するくらいでしたけど、確かに分譲に住み始めてから交流する機会が増えて、他の住人の方のことを意識するようになりました。
同時に、自分の時間だけが止まっているような気持ちにもなるときもあります。例えば、僕がここにきたばかりのころはちびっこだった女の子に、今では身長で抜かれたりして。「みんなの人生は前進しているのに、俺はあのときのままか……」と、少し悲しくなることも……。
ちなみに、その子の弟は僕が引越したてのときに、地べたに座ってギャーギャー泣いていたのを覚えています。それから数年後にはもうランドセルを背負う年齢になって、雨の日に彼に傘をあげたら、お礼に桃を持ってきてくれたこともありました。「おじいちゃんの家に遊びに行ったときにもらった桃を持ってきました」って、いつの間にか敬語を使えるようになっていて。
(撮影/嶋崎征弘)
――成長を実感しますね。
板倉:あと、マンションの廊下でたまに遊んでいた別の女の子がいて、僕が車で帰ってくると、めちゃめちゃ手を振ってくれていたんです。その子に最近、たまたま近所のコンビニで会ったら「こんにちは」と挨拶されました。無邪気に手を振ってくれていたあの子が、もうレディーになりかけてんじゃん!と。
お隣さんも、最初に引越してきたときに僕が挨拶に行ったとき、若いお母さんが赤ちゃんを抱いて出てきたんですよ。その子がもう喋れるようになって、僕が出たドラマを見てくれていると聞きました。そんなふうにいろんな子の成長を見られたのは楽しかったし、そういうのは賃貸よりも長く暮らす人が多い分譲ならではかもしれませんね。
――賃貸で他の住民とあまり関わらずに生きていくのは気楽さもありますが、いつか寂しくなるときがくるかもしれませんよね。
板倉:そう、賃貸は賃貸で良いところがある。特に、賃貸に住んでいたころの、あの自由さ、気楽な時間は財産だったと思います。例えば、友達や後輩を気軽に呼べるのも、賃貸ならではなのかなと。分譲だと「持ち家」という感覚が強く、知らない人がマンション内にいると他の住民の方が嫌がるだろうなと思うから、なかなかそうはいかないですよね。
僕の場合は、賃貸から分譲に移るタイミングがちょうど良かったんでしょうね。家に後輩を呼んで飲むことも減ってきたし、20代のころによその子どもの成長を見たとしても、今ほど心を打たれていたかどうかも分からないですから。
(撮影/嶋崎征弘)
賃貸も分譲もトータルでみればトントン
(撮影/嶋崎征弘)
――あらためて、板倉さんがマンション管理組合の理事の経験から得たことを教えてください。
板倉:いろいろありますけど、一番は「賃貸の良さも分かった」ってことですかね。先ほどの自由さもそうですし、例えば、共用部のどこかが故障したときも、分譲の場合は自分も含めた住民のお金で修理しなければいけないけど、賃貸はオーナーや管理会社負担でやってくれるじゃないですか。外構の植木だって、植木があるということはそれを手入れする人がいて、維持コストがかかっているわけだし。それこそ大規模修繕なんて、賃貸だったら気にしなくていい。理事をやることで、いろんなことが見えてきましたね。
結局、賃貸には賃貸のメリットがあって、分譲には分譲のメリットがあって、どちらかがぶっちぎりで得をする・損をするっていうことにならないよう、うまくできているんじゃないかと思います。この項目では賃貸の勝ち、この項目は分譲の勝ちっていう形で、トータルの点数では同点か、わずかな差になるんじゃないかな。そのことが分かっただけで、良かったなと思います。
(撮影/嶋崎征弘)
――逆に、また賃貸に住んでもいいかなという気持ちにもなりましたか?
板倉:そうですね。じつは、昔は賃貸の「家賃」に対して、ちょっとモヤモヤしていたんです。例えば毎月30万円を支払っていたとしたら、1泊1万円か……みたいな気持ちになるんですよね。毎日ホテルに泊まっているのと変わらないじゃないですか。家を買ったのは、分譲と賃貸をちゃんと比較して、身をもってどちらがいいか決めたいと思ったのも理由の一つでした。
その結果、「どっちがいいとかはない」という結論に至ったので、家賃に対するモヤモヤもなくなりました。もし、これから住み替えをすることになっても、賃貸も含めてフラットにいろんな選択肢を検討できるような気がしますね。
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マンションの理事というと一般的に、「面倒」「大変」というイメージもあると思います。順番が回ってきて仕方なく、義務的にこなしているという人もいるかもしれません。
板倉さんのスタンスは、それとは真逆。もちろん当初は不安もあったと言いますが、マンション管理を通じて得られる知識や体験を面白がるなど、好奇心を持って前向きに取り組んでいました。
マンション理事の仕事は、そこに暮らす以上は基本的に避けられないもの。どうせやるなら板倉さんのように、新しい世界を覗いてみるような気持ちで前向きに務めるのもいいかもしれません。
●取材協力
お笑いコンビ「インパルス」の板倉俊之さん
1978年1月30日生まれ。堤下敦さんとお笑いコンビ「インパルス」を結成。
芸人活動だけではなく小説やエッセイを執筆し作家としても活躍している。
Youtube「板倉 趣味チャンネル」では愛車のハイエースとともに車中泊やキャンプを楽しんでいる様子を公開中。
X(旧 Twitter)
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