映画『愚か者の身分』永田 琴監督&林裕太インタビュー「お金って大事だけど、人間お金じゃないよっていうことが若い方に伝われば」
北村匠海×林裕太×綾野剛 現代日本に生きる若者たちと隣り合わせにある“闇”をテーマに描いた逃亡サスペンス、 映画『愚か者の身分』が10月24日から公開となります。
本作は、第二回大藪春彦新人賞受賞作、西尾潤の「愚か者の身分」(徳間文庫)を、 Netflixドラマ「今際の国のアリス」 シリーズ、「幽☆遊☆白書」(23)などの 話題作を手掛けるグローバルコンテンツを創造するプロデューサー集団 THE SEVENが初の劇場作品として映画化、 岩井俊二の元で長年助監督として活躍し、人間ドラマを巧みに描くことに定評のある永田琴監督が、 主演に北村匠海、共演に綾野剛、林裕太の豪華実力派キャストを迎え、 貧しさから闇ビジネスの世界に足を踏み入れてしまい抜け出せなくなった3人の若者たちの運命と、 友との絆を描きます。
彼らの“3日間”の出来事を、3人それぞれの視点が交差するトリック感のある展開で エンターテインメントに仕上げながら、若者たちの貧困・世界に侵食される 日本・闇ビジネスの深淵など、今多くの人が感じている共感できる社会的テーマも織り込まれています。
永田 琴監督とマモル役の林裕太さんにお話を伺いました。
――本作拝見しまして、素晴らしかったです。闇ビジネスをテーマに様々な若者の姿が描かれていますね。
永田監督:この映画をやる前から、若者の貧困について描きたいと考えていて、そういった本も読んでいました。歌舞伎町のトー横などからくる若者の駆け込み寺の様な団体があって、取材をさせてもらったこともあります。女の子から相談の電話がかかってくるので、話を聞かせてもらったり、ルポを読んだりして調べたりしていたんです。その中で、オリジナルで作るよりも、原作と合わせた作品作りをした方が、より広く伝わるだろうなと思い、原作を探していました。そんな時に自分が考えていることと合致する「愚か者の身分」と出会えて。
――林さんは本作のストーリーをどう感じましたか?
林:まず、脚本には疾走感を感じてすごく惹き込まれました。キャラクター描写については原作に描かれている部分をしっかりと入れようと思いました。闇バイトなどのニュースを調べて、どういう子が闇バイトをやってしまうのだろうということに興味が湧きましたし、それをちゃんと知ることがマモルを演じる上で大事だなと思いました。
永田監督:「読んだ方が良い本ありますか?」など、林さんからも質問してくれて。
林:闇バイトに至るまでの動機が軽いケースがあって、お金のためにここまでするか?という驚きがありました。でもその中には育った環境が影響していることもあって、根深い問題だなと感じました。
永田監督:「貧困の遺伝」、「貧困の連鎖」ということも描きたくて。タクヤはそのケースとも違うのですが、色々なパターンで犯罪に陥る若者の姿を描きたかったんです。
――山下美月さん演じる希沙良は学費のために危ない仕事をしていますね。
永田監督:「親が子供の奨学金を使ってしまう」というのは実際にもあることで、私の中ではすごくショックでした。自分の欲望のために子供の大切なお金を使ってしまう。そのことで子供が貧困の道を歩まざるを得なくて…恐ろしい経緯ですよね。
――原作を映像化する上で、監督がここは難しそうだなと思った部分はありましたか?
永田監督:難しいというか、絶対に描きたいと思ったのはタクヤとマモルのピュアな関係です。2人でご飯を食べたり街で騒いだり、原作には無くても、原作から感じた部分をどうやって映像の中に落とし込むのかを考えました。
そして、彼らの感情とは別に、本作にはサスペンス部分が多分にある。誰を先に見せて、次に誰を見せるか、順番によっても引き込まれるタイミングが違うので。私が最初に原作を読んだ時に引き込まれたサスペンス部分を、タクヤ・マモル・梶谷の3人に絞ってどう表現出来るかを計算しました。
――後半でのタクヤのシーンで、タクヤに起こってしまったこと、タクヤの叫び声や梶谷の反応などが本当に恐ろしくて。目を逸らしそうになるけれど、離せない、凄まじいシーンでした。こういった恐さの演出についてはどの様なこだわりがありますか?
永田監督:私自身がすごく恐がりなんです。だから直接的に見せない様にするとか、「もう少し見たい、どうなっているんだろう」という気持ちを掻き立てる様にさじ加減を工夫していました。暴力シーンはアクション部と一緒に、ただアクションにならないように、そのシーンがどうストーリーにつながっていくのか、ということを話し合いながら進めていきました。
――マモルも暴力を受けるシーンがありますが、林さんはどう臨んでいましたか?
林:どれだけ痛く見せるか、どれだけかわいそうに見えるかみたいなことを重視していました。感情から作っていくというよりも、形から作るというか、痛い部分が痙攣すればリアルに見えるし、痛そうだと観客の方が感じてくれるだろうと探りながら演じていました。
永田監督:アクションって、リアクションが大事です。リアクションでどう見せるかが全てあって、林さんも皆さんもそこを汲み取って演じてくださいました。
――プレス資料に書かれていましたが、大事なシーンの前は監督が林さんの背中を叩いたそうですね。
林:とても気合が入りましたし、監督に助けられてばかりでした。特に最初の方は何度もテイクを重ねてしまって。マモルの回想シーンから始まるからこそ、マモルという人物をちゃんと背負わなきゃと考えて考えて、初日だったということもあって、頭でっかちになって体が硬くなってしまっていたんです。それを監督がほぐしてくれて、「マモルってこういう動きしそうだよね」「マモルってこんな子だよね」と会話を重ねていくうちに、マモルが体に染み付いていく感覚がありました。だんだんと自分のやることがマモルのすることなんだ、という自信を持てる様になりました。
永田監督:私は、制作や助監督の下積みをやってきていて、映画って団体競技じゃないですか。助監督時代に、俳優がどういう時に何を迷っているのかというのを、現場で見て学んできたので、その経験が活きたことも大きいと思います。
――マモルが独特の箸使いでご飯を食べていて、そういった細部への演出も素晴らしいなと思いました。「親御さんや周りの大人に教わってこなかったのかな?」という、マモルの育ってきた背景が一瞬で分かるのが凄いなと。
林:そこに注目していただけて嬉しいです…!
永田監督:もともと綺麗にお箸を使えるのに、撮影のために崩さないといけないことに、すごく苦労していたんです。
林:お箸を掴んで、ひっかける様にして魚を食べるのが本当に難しかったです。
――そういった細部へのこだわりがたくさん散りばめられている作品だなと感じました。
林:服もタクヤのお下がりを着ている設定なんです。
永田監督:マモルも初めは訳もわからず流行りに乗っかろうとしている感じですけれども、だんだんタクヤのスタイルを真似ていく。そしてタクヤも一歩成長してモノトーンの服が好きになっていく、そんなファッションが好きな若者の成長を汲んでいます。
――梶谷の車も素敵でした。
永田監督:私は車の知識が無いのですが、今時の半グレの人たちが乗っている車をどうしても使いたくないからどうしようと困っていて。そこで、綾野さん本人からワゴニアというアイデアが出たのですが、アルファードとかじゃなくて、ワゴニアにすることで、梶谷というキャラクターを形成出来るなと思いました。悪い道に身を沈めているけれど、自分の好きな世界があって、大切な彼女がいて…という。
――改めてにはなりますが、林さんがマモルを演じて良かったなと思う部分、監督が想像以上のシーンが撮れたという部分を教えてください。
永田監督:元々オーディションで彼を選んだのですが、人に対して恐怖感を抱く様な目の芝居を見て「マモルは林さんだな」と決めました。タクヤがマモルの頭を撫でようとした時に、「殴られる」と思って一瞬構えてしまう。その後に、自分が信頼している人を疑ってしまった罪悪感みたいなものを抱きますが、その絶妙な感情を目で表現してくれました。
信じていた世界が崩れていくような瞬間に、少年と青年の狭間というか、まだ大人になりきれていない時期の微妙な表情を撮れた時に、これはオッケーだなと思いました。
林:監督が今おっしゃってくれた、タクヤに頭を撫でられそうになるシーンで、こんなに信頼している人を疑ってしまうマモルの境遇をたくさん考えたんです。まず疑ってしまう自分が悲しいというか、悔しさもあって、難しいシーンなのですが、匠海くんが手を出した瞬間に自然とそれを出すことが出来て。タクヤ=匠海くんのおかげで撮れたシーンがたくさんあります。
――お2人の雰囲気がすごく自然でしたよね。
林:現場でたくさん雑談をして、その空気感のまま本番に入るということもあったので、そのこともが良い方向に作用してくれたなと思います。
永田監督:匠海くんが率先して林くんをご飯に誘ったり、色々連れ出したりしてくれて、そんな雰囲気がそのままタクヤとマモルを作ってくれたのだなと思います。
林:匠海くんにしてもらったことを、次は自分が誰かにしてあげられるようになりたいと思います。いつか匠海くん、(綾野)剛さんに恩返しをしたいなと思っていたのですが、2人はたぶんそれを求めてない気がするというか「次に後輩にしてあげな」と言うと思うんです。
――3人のそんな関係が素敵ですし、本作に出てくる若者たちもそういった関係にもなり得たと思うので、そんなことを考えると切なくて深い物語だなと思います。
永田監督:お金って大事だけど、人間お金じゃないよっていうことが若い方に伝わると良いなと思います。ゲーム感覚でお金が手に入る時代、自分もお金持ちになれるんだと簡単に思ってしまう。軽い気持ちではじめたまま、闇に取り込まれて戻れなくなってしまったり。お金よりも大切なことってたくさんあるから、自分の大切なものややりがいを見つけてほしいと思いますし、今後も若者の貧困についてはテーマとして描きたいなと思っています。
――今日は素敵なお話をありがとうございました。
撮影:たむらとも
永田監督ヘアメイク:佐々木麻里子
永田監督衣装:ブランド・near.nippon
『愚か者の身分』
北村匠海
林 裕太 山下美月 矢本悠馬 木南晴夏
綾野 剛
プロデューサー:森井 輝 監督:永田 琴 脚本:向井康介
原作:⻄尾 潤「愚か者の身分」(徳間文庫) 主題歌:tuki.「人生讃歌」
製作:映画「愚か者の身分」製作委員会 製作幹事:THE SEVEN 配給:THE SEVEN ショウゲート
©2025 映画「愚か者の身分」製作委員会
【ストーリー】
SNSで女性を装い、言葉巧みに身寄りのない男性たち相手に個人情報を引き出し、
戶籍売買を日々行うタクヤ(北村匠海)とマモル(林裕太)。
彼らは劣悪な環境で育ち、気が付けば闇バイトを行う組織の手先になっていた。
闇ビジネスに手を染めているとはいえ、時にはバカ騒ぎもする二人は、ごく普通の若者であり、いつも一緒だった。
タクヤは、闇ビジネスの世界に入るきっかけとなった兄貴的存在の梶谷(綾野剛)の手を借り、
マモルと共にこの世界から抜け出そうとするが──。
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