映画『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』ジェイ・ローチ監督インタビュー「人生って“馬鹿げたこと”と、愛に溢れた瞬間がミックスされているものだと思う」

ある夫婦の離婚をめぐる“戦争”を描いたブラック・コメディとして大ヒットした『ローズ家の戦争』。この映画を監督ジェイ・ローチ、ハリウッドきっての実力派、オリヴィア・コールマン&ベネディクト・カンバーバッチ主演で待望の再映画化となった『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』が、いよいよ今週末10月24日(金)に公開となります。
順調なキャリア、可愛い子供たち、完璧な家庭生活に彩られ、誰がどう見ても順風満帆な夫婦。しかし、夫が事業破綻をしクビを宣告されると事態が一変。見る見るうちに夫婦のバランスが崩れ、2人の心に秘められた競争心と不満が一気に火を噴く!夫婦間のよくある話を、痛快に、シビアに、そしてエモーショナルに描いた本作。ジェイ・ローチ監督にお話を伺いました!
――本作大変楽しく拝見いたしました。夫婦の姿をシニカルに描いたコメディですが、“人生”についても考えるシーンがたくさんありましたね。
ありがとうございます。試写をやって、色々なテストをするんですね。観客の皆さんはテオとアイビーのどちらにつくだろう?とか。でも試写をやると、テオについてみたり、アイビーについてみたり、最終的にはやっぱり両方を応援したいと思うそうなんですね。両方につくっていう人が多かったんです。そういう部分がシニカルだけれど、ロマンスもある作品だなと思います。
観客の反応を見て変えたシーンもあって、映画の一番冒頭のカップルのセラピーのシークエンスは、当初はもうちょっと後で出てくるシーンだったんですけど、思い切って冒頭にしました。そこでこの映画のトーンを示したかったんですね。コメディでもあっても、悲劇的でもあると。そして2人の俳優による対立を頭から見せて、お互いの持っているウィットを感じて欲しかったんです。
――なるほど。このお互いでしか分かり合えないけど、そうやって気の合う2人だからもそ揉めてしまったんだな…ということあのシーン一瞬で分かりました。
僕たちは“ラブ・ライン・リベンジ”と呼んでいたのですが、お互いあれだけひどいことを言って、罵りまくっているのですが、そうやってお互いを悪く言えるということは、ある意味すごくロマンチックじゃないかなと思います。すごく正直であり、ユーモアもある。お互いのことが分かっているからこそああいうことが出来て、唯一わからないのがセラピストっていう楽しいシーンになったと思います。
実は学生の頃は弁護士を目指して法律勉強をしていたのですが、映画『アニー・ホール』や『卒業』を観て、欠陥のある人間たちの物語にとても癒されたんです。観客に自問自答の時間を与えられる映画って素晴らしいなと思い、映画制作の道に転向しました。本作で欠陥のある人間たちを描くことが、僕の映画作りの理由なのだと、原点に立ち帰れた気持ちにもなっています。

――テオとアイビーは極端な部分はあるかもしれませんが、多くの夫婦というかカップルが言い合いをしますよね。監督ご自身の経験や、周りの方の様子などを参考にしていますか?
私は32年間結婚していますけれど、色々と問題もありましたし、お互いに離れていって、そしてまた一緒になるっていうようなこともあったんですね。戻った時にはなるべく感謝をし合う様にしていました。
自分の夢とか野心ということは大切ですが、行きすぎるとパートナーがついていけなくなってしまいますよね。アイビーのセリフで「この結婚を守るためには誰かが犠牲にならなくてはいけない。それは誰?」といったものがありますが、確かに彼女が言ってる通りで、自分の夢を追うためにも何かを犠牲にしないといけないタイミングが絶対にある。
例えば私は妻と出会った頃、彼女は「バングルズ」というロックバンドのリードシンガーだったんですね。この映画のタイトルの曲も彼女が歌っていますけれど、彼女はすごく成功していて、僕は売れていない脚本家、監督だったわけですよ。でもその後で僕もキャリアが上手くいってきて、彼女が家の仕事をしてくれていたこともあります。
健全な関係を保つためには、やはり行きすぎてはいけない、自分のことだけを考えてはいけないと自分も学んできました。

――カップルを描いていますけれどキャリアについても考えさせられる作品ですよね。ダークな描写も多くてハラハラしました。
脚本のトニーさんとは色々な話をしました。私は彼の『女王陛下のお気に入り』もすごく好きな作品で、彼は本当に“ダーク”というものをよく知っているし、リアルというものもよく知っています。
オリジナルの『ローズ家の戦争』も好きな作品なのですが、あれは映画始まって30分ぐらい経つと、そこからは先はずっと争っていますよね。本作は争いもありつつコメディであって、お互いをちょっとこなんか応援してる部分もあるわけですよね。観客は2人に修復してほしいと考えてくれるでしょうし、悲劇的で感情移入出来ると思うんですね。ベネディクト・カンバーバッチは「これを観た人がお互いに優しくなれると良いね」と言っていたのですが、その通りだと思います。
――周りから見ていて、「もう一線超えてるだろう」と感じる時は2人は別に大丈夫で、2人にしか分からない「本当ん傷ついた」シーンが出てくる所がとてもリアルだなと思いました。クジラのシーンです。
嬉しいです。私もあのシーンを見ていてすごく感動したんですね。あそこから2人の関係がシフトしますよね。あのシーンを撮っている時に、本当にこんなに才能溢れる人たちと一緒に僕は仕事出来ているのだと気付かされて。ささやかな表情で痛みがとても伝わってくる。
口論になって馬鹿なことを言った後、すごく深いことを言ってみたり、笑わせようとしたり、それがリアルですよね。人生って色々な馬鹿げたことと、愛に溢れた瞬間がミックスされているものだと思います。それをこの2人の素晴らしい俳優によって改めて気付かされました。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!

『ローズ家~崖っぷちの夫婦~』(原題:THE ROSES)
監督:ジェイ・ローチ『オースティン・パワーズ』『ミート・ザ・ペアレンツ』 脚本:トニー・マクナマラ『哀れなるものたち』
出演:オリヴィア・コールマン、ベネディクト・カンバーバッチ、アンディ・サムバーグ、ケイト・マッキノン ほか
北米公開:2025 年 8 月 29 日
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト:https://www.searchlightpictures.jp/movies/theroses
コピーライト:©2025 Searchlight Pictures. All Rights Reserved.

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