【愛知県瀬戸市】“市場”で開かれるアート展―「お楽しみ券」の正体とは…?|瀬戸現代美術展2025

お楽しみがいっぱい!芸術の秋!
9月27日から10月26日まで、「瀬戸現代美術展2025」が開催中です。

今年は、瀬戸市のまちなかや愛知県陶磁美術館でも開催中の国際芸術祭「あいち2025」と連携し、さらにパワーアップ!
アートが彩る瀬戸のまちなか
名古屋駅から約1時間、“焼き物のまち”として知られる愛知県瀬戸市。

3年に一度開催される「瀬戸現代美術展」は、瀬戸にゆかりのある作家たちが、街の使われなくなった工房や倉庫などの遊休施設を舞台に、絵画・彫刻・デザイン・写真など多彩な作品を展示するアートイベントです。
今年の舞台は、なんと今も現役の青果市場「尾張東地方卸売市場」!

アートユニット「Barrack(バラック)」の近藤佳那子さんと古畑大気さんを中心に、13組のアーティストが、市場という“日常の空間”を“創造の場”へと変えています。
「来てくれたお客さんを少しでも楽しませたい」―そんな市場側の想いから、来場者には、市場に併設された「山の上農園」でフルーツや瀬戸の器などと交換できるお楽しみ券がプレゼントされます。

その正体は、アーティストと市場の気持ちがこもった、“ハートフルなおもてなし”でした。
市場の温度とアートが溶け合う。第一会場

まず足を踏み入れたのは、かつては青果商品が並び、現在はイベントスペースとして活用されている「せとの里」。市場の面影を残した空間の中に、現代美術が静かに息づいています。
冷蔵ケースや陳列棚など、市場ならではの設備をそのまま活かしたインスタレーション作品が並びます。

©鋤柄ふくみ
リンゴの木箱をキャンバスにした絵や、チラシそのものをアートに変えた作品など、どれも“市場の現場”に寄り添う形で生まれたものばかり。アーティストたちは実際に現場に足を運び、空間と対話しながら仕上げていったそうです。
今回案内してくれたのは、主催者のひとり・Barrackの近藤佳那子さん。

近藤さんの作品は、日常の繰り返しや季節のめぐりなど、“ぐるぐると回転しながら続くもの”をモチーフにすることが多く、「美しいと思った風景や感情、その瞬間の光のようなものを留めて、その感覚を描いています」と話してくれました。

©近藤佳那子
瀬戸ゆかりのアーティストが集まるこの展覧会は、作家との距離が近いのも魅力。会期中はアーティストが在廊していることも多く、直接話を聞けるチャンスもあるかもしれません!
冷蔵室の中で出会う、鮮やかな生命の色。第二会場
次に向かったのは、青果を保管する冷蔵室。
こちらは、文谷有佳里さんの作品「Box and Chalk Studies」。

©文谷有佳里
冷蔵室の床の深い緑色が黒板のよう。

©文谷有佳里
市場のリンゴ箱が積み上げられ、繊細なチョークの線描が空間と美しく響き合います。
続いて、中国でも活躍する陶芸作家・後藤あこさんの作品「Mixed Juice」では、白く艶やかな陶の牛がくるくると回転。

©後藤あこ
静けさの中にリズムがあり、見る人の感覚をゆっくりとほどいていきます。

©後藤あこ
箱詰めされた陶の牛たちは、どこへいくのでしょう?

©後藤あこ
ぬいぐるみが語る“物語”の断片。第三会場
最後に訪れたのは、かつて店舗として使われていた第三会場。ここでは、植松ゆりかさんによる作品「ほふる園」が展示されています。

©植松ゆりか
色彩豊かな布、裏返されたぬいぐるみたち。
お腹を切り、綿を出し、シリコンで加工して再構成されたそれらは、作家自身の幼少期の葛藤を投影した“もうひとりの自画像”でもあるといいます。
同じく植松ゆりかさんの作品「オオカミと七匹の子羊」は、童話がモチーフになっています。

©植松ゆりか
むかしむかし、あるところに、優しいお母さん羊と、七匹の子羊たちが住んでいました。
末っ子「ユダ」が眠りから目を覚ますと、どこを探しても、兄弟は見当たりません。
寝ているお母さんのぱんぱんに膨れ上がったお腹。お母さん羊の正体がオオカミだったと知ったユダ。
ユダはハサミを見つけると、震える手でお母さんのお腹をジョキジョキ切りました。そこには、子ヤギたちの姿はなく、血のように鮮やかな透明の石がぎっしりと詰め込まれていました。

©植松ゆりか
どこか不穏で、繊細。背筋がゾクッとするような空間でした。
市場からはじまる、まちとアートの新しい関係
市場に並ぶ新鮮な食材が人々の体を形づくるように、アートもまた人の心を耕すもの。
窯業で栄えた街に根づくものづくりの精神と、現代美術の創造力が交わる場として、ここでしか見られない景色が広がる「瀬戸現代美術展 2025」。
会期中は「山の上農園」で果物とアートを一緒に楽しむのもおすすめ。ぜひ瀬戸の市場で、「芸術の秋」と「食欲の秋」を満喫してみてください。
開催概要
瀬戸現代美術展 2025(SETO Contemporary Art Exhibition 2025)
会期:2025年9月27日(土)~10月26日(日) ※月曜休み(祝日の場合は開催)
時間:11:00〜17:00(最終入場16:45)
会場:尾張東地方卸売市場「ふれあい市場せとの里」ほか(愛知県瀬戸市南山口町640)
入場料:一般1000円/前売800円/中学生以下無料
※あいち2025のチケット提示で当日券のみ100円引き。(前売り券との併用不可)参加アーティスト:井出創太郎/植松ゆりか/川西りな/城戸保/栗木清美/栗木義夫/小杉滋樹/後藤あこ/近藤佳那子/鋤柄ふくみ/ニュースペーパーズ/古畑大気/文谷有佳里
駐車場あり(市場前無料駐車場)
主催:瀬戸現代美術展実行委員会・Barrack

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