【TGS2025】ゲーム市場を変革した30年の歩み — SIE社長CEO・西野秀明氏が語るPSストアの軌跡と未来

2025年9月25日に幕張メッセで開幕した東京ゲームショウ2025(TGS2025)のイベントステージにて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)社長CEOの西野秀明氏が登壇し、講演を行った。西野氏による基調講演「ゲーム市場の変革者:プレイステーションストアがもたらしたもの」は、30周年を迎えたプレイステーションの歩みと、ネットワークを通じたビジネスの進化、そして今後の展望が過去・現在・未来の時系列に沿って語られた。

ディスクからデジタルへ —— PSストアの誕生と試練

TGS2025オフィシャルサポーターの本郷奏多さんをゲストに迎え、華々しく幕を開けた開会式に続く形で始まった講演で西野氏はまず、プレイステーションの歴史を振り返った。そこで画面に映し出されたメッセージは「あなたにありがとう 30年の感謝をこめて」。これはプレイステーションの体験の源泉である「コンテンツ」を創り出したクリエイターへの感謝であり、プレイステーションのコンテンツを「プレイ(体験)」してきたプレイヤーへの感謝だった。

続けてプレイステーションが築き上げてきたプレイヤー・クリエイター間の「エコシステム」としての存在感に話題は移る。ハードだけではなく、ソフト、サービス、コミュニティが一体となることで「遊びの場」としての価値を広げ、その中心にあるのがプレイステーションストア(PS Store)なのだと語った。PS Storeはいまや年間数兆円規模の売上を支える巨大プラットフォームに成長し、単なる販売チャネルを超えてゲーム業界全体の収益構造を左右する存在となっている。

しかし、その歩みは平坦ではなかった。当時、日本ではADSLが主流で、下り速度は平均45Mbps程度。50GBのブルーレイタイトルをダウンロードするには理論上2時間半、実際にはさらに長い時間を要した。「アメリカはさらに遅く、ADSL回線の平均は2Mbps程度。50GBのゲームを落とすのに2日半必要でした」と西野氏は語る。高速回線が当たり前となった現在からは想像しづらい“待ち時間”である。

こうした環境下では、2006年11月に始動した初期のストアも実用性に乏しかった。配信タイトルは十数本に限られ、提供されたのは衣装(着せ替え)や小規模ゲームなど追加要素が中心。バックグラウンドダウンロードの導入も2007年以降で、当初はゲームを遊びながら別のタイトルを落とすことすらできなかった。展開地域も日本、北米、香港、台湾にとどまり、サーバー開発チームはわずか5名ほど。ソニー・オンラインエンターテインメントとの協業によって、少しずつ基盤が整えられていった。

ポータブルゲーム機・PlayStation Portable(PSP)のリリースもこの時期だった。しかし「PSP向けストアはWi-Fi専用でしたが、家庭に無線LANが普及していなかったため、PC経由でコンテンツを転送する専用アプリを用意する必要がありました」と西野氏は振り返る。ソニー製ポータブルゲーム機の投入も先進的な挑戦だったが、こちらもやはり時代の制約が足枷となった。

葛藤と突破口 —— デジタル化を推し進めた決断

2010年前後になると、社内では「ディスクかデジタルか」をめぐる議論が活発化する。ディスク流通は依然として安定し、確実な利益を生み出していた。一方でデジタル配信には在庫リスクがなく、国境を越えて販売できるという強みがあった。ただし当初はネット環境の制約も大きく、「本流ビジネスを脅かす存在」として警戒されていた。しかし西野氏は「デジタルでこそユーザーとの関係性を深められる」と主張し、推進に尽力した。

転機となったのは2010年に始まったサブスクリプションサービス「PlayStation Plus」である。これを契機にストア売上は年平均37%の成長を遂げ、デジタル販売は明確に軌道に乗った。

2013年のPlayStation 4発売時には、ディスク版とデジタル版の同時発売(Day and Date)が実現。バックグラウンドダウンロードや一部データの先行取得といった仕組みによって利便性が飛躍的に高まり、コアユーザー以外にもデジタル販売が浸透していった。この頃には数多くの国でコンテンツを直接公開できるようになったことにより多くのインディーゲームが生まれ、世界中に広がっていく流れも確立された。そのような流れも後押しして、PS Storeの対応地域も2010年の36カ国から2017年には70カ国へと拡大し、名実ともにグローバルなプラットフォームへ成長した。

『フォートナイト』の世界的ヒットと決済手段の多様化 —— PS Storeの更なる進化

2016年にはSCE(ソニー・コンピュータエンタテインメント)とSNEI(ソニー・ネットワークエンタテインメントインターナショナル)が統合され、現在のSIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)が誕生した。社名から「コンピュータ」を外したのは、ゲーム体験が単なる機械操作を超え、プレイヤーやクリエイターとの関係性を軸に据える時代へ移ったからだ。ゲームチェンジャーとなったのはビッグタイトル『Fortnite(フォートナイト)』(2018年)の登場だった。

『フォートナイト』の基本プレイ無料(Free-to-Play)は、シーズンごとの継続的アップデートとゲーム内通貨による収益を組み合わせた仕組みで、現在のライブサービスゲームの定番モデルとなっている。少しさかのぼれば、日本発の『機動戦士ガンダム バトルオペレーション』や『ファンタシースターオンライン2』も同様の形で時代を先取りしていた。その流れを受けて、『Apex Legends(エーペックスレジェンズ)』(2019年)や『原神』(2020年)といった作品が世界的なスマッシュヒットを記録し、Free-to-Play作品の存在感をさらに押し上げた。

2020年に登場したPlayStation 5では、ネットワークに接続して映像や音楽を楽しむサブスク時代ともいよいよ足並みが揃う。スマートフォンから購入・ダウンロード予約ができ、帰宅後すぐにゲームをプレイすることが可能となる仕組みが導入され、体験の質は大きく変わった。さらにSIEは国と地域ごとの決済手段にもきめ細やかに対応し、クレジットカードが普及していない国でもスマホ決済を取り入れることでゲーム先進国はもちろんのこと、新興地域(インドやアルゼンチン、ブラジル、インドネシアなど)での市場拡大に成功した。

今やこれらの国々は、売上やユーザー数が先進国を上回るほどの成長、拡大を遂げている。一方、日本では依然として最近の『モンスターハンターワイルズ』に代表される大型タイトルが強い人気を誇りつつも、同時に小規模デジタル作品(インディーゲーム)にも支持が集まるなど、懐の広い多様なプレイヤーのニーズによって成長が継続しているとも語った。

プレイステーションとPS Storeが切り拓く未来

講演の終盤、西野氏は「PS Storeは単なる販売の場ではなく、プレイヤーにとって最高の遊び場であり、クリエイターにとって最高の出版の場である」と強調していた。今後は進化するマーケティングやAI技術を活用し、ユーザー一人ひとりに合わせた体験を提供していくことを目指す。データを活用したパーソナライズ強化はプレイヤーにとっても開発者にとっても新しい価値を生み出し、「プレイヤーとともに最高の作品を育てる場」というPS Storeの本質をさらに際立たせるだろう。

講演の締めくくりに西野氏は「待たされるダウンロード」から始まったPS Storeが、2025年現在では全世界1万2千本以上のタイトルを揃える巨大なプラットフォームへと進化したことに大きく胸を張った。そして今後はネットワークを通じてゲームが世界中のプレイヤーにシェアされ、さらに多くの人がゲームに興味を持って遊ぶ……そんなトリプルスパイラルを起こすことで、ゲーム業界をクリエイター、プレイヤーとともにまだまだ盛り上げていく強い意思を示した。

今回の基調講演で語られたプレイステーションの30年の歩みは、黎明期に起きたネットワークの不便さや社内での葛藤を乗り越えた「その先」を提示するものでもなければ、単なるハードやネットワークの進化、あるいはコンテンツ収益構造の変化にとどまるものでもない。そういった一つひとつの「点」ではなく、世界規模での継続的な成長を試行錯誤の積み重ねとして一本の「線」に描き直してみると、そこに浮かび上がるのはデジタル時代におけるエンターテインメントの在り方そのもののように思えた。

東京ゲームショウ2025(一般公開日)は9月28日(日)まで開催。なお、開会式の場で来年の東京ゲームショウ2026は同イベント初の5日間開催(ビジネスデイ2日間,一般公開3日間)となることが発表になった。

(取材・西本心)

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