すべての登場人物が愛おしい、ちょっとおかしな人生讃歌――映画『海辺へ行く道』横浜聡子監督・原田琥之佑・麻生久美子インタビュー

予期せぬ出来事と出会う人生の幸福を陽気なユーモアと想像力で描く、 すべての登場人物が愛おしい、ちょっとおかしな人生讃歌。『海辺へ行く道』が全国公開中です。

脚本・監督は、『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優 亀岡拓次』『いとみち』でその度ごとに話題を巻き起こして来た、横浜聡子さん。最新作は、知る人ぞ知る孤高の漫画家・三好銀の晩年の傑作「海辺へ行く道」シリーズをまさかの映画化。

約800人のオーディションを経て主演を射止めた15歳(当時13歳)の俳優・原田琥之佑さんと、共演の麻生久美子さん、横浜聡子監督にお話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見いたしました。皆さんがお会いするのは久しぶりですか?

麻生:2年ぶりくらいですかね?月日が経つのが早くて恐いです(笑)。

横浜:原田くんの世代にとっての2年はすごく大きいですよね。声もかなり低くなって。

原田:まだ成長止まっていなくて、身長も結構伸びました。

横浜・麻生:(拍手)

――原作「海辺へ行く道」(三好銀)と監督の出会いはどんなものだったのでしょうか?

横浜:いち読者として大ファンでして。「海辺へ行く道」の連載も読んでいました。いつか映画化したいなという気持ちを胸に抱きながらも誰にも言わないまま10年ぐらい経っちゃって。そうしたらプロデューサーの和田さんから電話があって「映画化しましょう」って言われたんです。三好さんの作品って知る人ぞ知る作品という認識があったので、その偶然はすごく驚きました。

――原田さんと麻生さんは、原作と脚本どちらを先に読んだのでしょうか?その時に抱いた感想もお聞きしたいです。

原田:僕は原作を先に読みました。「これ映像化出来るのかな?」というのが一番最初の感想で。僕はもともと漫画がすごく好きなのですが、すごく独特なタッチで、三好さんの様に自分の書き方を知っている人は少ないんじゃないかなと感動しました。
映像になっているところが想像出来ない感じだったのですが、完成した作品を観た時に、横浜監督ワールドと三好さんワールドが心地よくグラデーションになっていてすごいなと思いました。

横浜:原田くんは絵がすごく上手で。劇中でも実際にいくつも使わせてもらっています。

原田:奏介の家には僕が描いた絵がいくつかあります。

横浜:なので私よりも絵について分かっていますし、三好さん作品の魅力についても感じ取っている所が多いかもしれません。

麻生:私は三好さんを知らなかったので、この作品をきっかけに読ませていただいて。横浜さんがこの作品を好きだと知らなかったのに映画化の話が来たんだと、今聞いてビックリしましたし、原作と横浜さんが作る映画の世界観がすごく似ているって思ったので、納得もしています。
原作の漫画を読んだ時は、登場人物たちの表情があまり無いことがすごく面白くて、なんかこう、何が起こるか分からない不気味さを楽しみながら読み進めていた記憶があります。

――アートの様な表現、描き方の中に性的なものや暴力的なものが内包されていますよね。

麻生:原作の表情から想像して役を作ると、今みたいな寿美子さんにはなっていなくて、あんなに明るく無いんですよね。監督に「もうちょっと明るい方がいいですか?」と聞いたら、「そうですね、お願いします」ということだったので、こんな寿美子さんになっています。あの絵ってなんでしょうね、見る人によっていかようにも想像出来る所が素敵だし、人によって異なると思ったので、難しさと楽しさ両方感じて演じさせていただきました。

――監督も原作のキャラクターをどう実写に落とし込むか、迷われた部分はありますか?

横浜:実際に演じてくださる原田くんや麻生さんが目の前にいるので、俳優の皆さんを信頼して作ろうと思っていました。“言語化出来ない何か”みたいなことをどうやって匂わせるかということを常に考えてはいたと思うんですけど、映画のラスト近くで、麻生さんがどこを見つめるわけでもなく、なんとも言えない、どこに向かってるかわからないけど色んな解釈ができる豊かな表情をされていて、その余白がこの作品だなと思ったんです。このシーンは、シナリオではもっと前の位置にあったのですが、撮影していて、すごく映画のラストの気配が漂うシーンだなと感じたので編集ではグッと後ろにしてラストシーンの直前に持ってきています。

――大胆に順番を変えられたのですね。

横浜:どんなシーン順で映画が終わりに近づいていくのか、自分でも分からなかったのですが、作りながらここにしようと。台本上では「どこかを見つめる」といったト書きがあったわけではなくて、麻生さんに作ってもらった感じです。

麻生:そこがしびれるんですよね。その作品の作り方こそ、私が楽しみにしていた横浜さんらしさというか。撮影していて楽しいシーンでした。

――原田さんは横浜監督と初めてご一緒して、どんなところが楽しかったですか?

原田:ずっと楽しかったです。監督には全部を見られている気がして。絶対嘘が通用しないじゃん、見透かされているじゃんと感じました。

麻生:横浜さんの前では下手に鳥繕っても意味無いなって思いますね。表面的なお芝居をしてもしょうがないよなって。

横浜:奏介ってすごく難しい役で、映画の中でこの子がどこに向かっていくのか、誰にも分からないんですよね。私が聞いちゃいますけれど、どうやって奏介を乗り越えたんですか?

原田:台本をいただいて、奏介は5歳ぐらいの精神年齢だけど芸術に向き合う時は大人顔負けの芸術家のような二面性を持っている子だなと思いました。幼い弟がいる友達の家に行って観察したり、身振り手振りを大きくして演じる様に心掛けていたり。監督からは声をワントーン高くしてと言われていたので、そうやって中学生らしさが出る様に。それでいて、絵を描く時は大人っぽいだろうなと思ったので、いつもの奏介ではない雰囲気を出そうと。あと、どこを見ているのか分からない雰囲気を出したかったので、人の目を見ずにどこか2点くらいを見る様にしていました。

麻生:すごい!私はそんな準備もせずに、もうそのまま現場に行っちゃってました(笑)。

横浜:原作の寿美子さんって、もっと魔女感が強いんですよね。でもチャーミングでもある。それが、麻生さんの可愛らしさで魅力的な寿美子さんになったと思います。寿美子さんと奏介の関係って、親戚のおばさんなのか母親なのか分からなくて、身近にいるのに実はこの世界の1番の謎が寿美子さんである様な気もしていたんです。この世界の秘密全部知っている様な懐の深さみたいな部分も、麻生さんにお願いしたいと思った理由でした。

原田:麻生さんでなければ表現出来ない、謎めいているのに、お母さんのような懐の温かさというか、ちゃんと奏介を守ってくれるんだなという寿美子さんが素敵でした。

――とても心地良い空気が流れている作品ですが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

麻生:監督もそうなのですが、横浜組の皆さんといると心が洗われるというか、私も撮影していてずっと心地良さを感じていました。私たち俳優部はあまりお芝居の話もしていなくて、何気ない普通のおしゃべりばかりしていたんですね。それも会話をずっと続けているわけでもなくて、話をしない時間も普通でいられるというか。居心地が良い関係性が撮影していくうちになんとなく出来上がってきていて。ずっと話さなくてもいい関係って楽じゃないですか。それが奏介と寿美子の関係にも近いなと感じていました。

原田:撮影期間中は、小豆島にいて、僕が出るシーンは夕方には撮り終えるので、6時頃にホテルに戻って、中須翔真くんと蒼井旬くんと遊んでいました。特に中須くんとはずっと一緒にいて。ホテルで自転車を借りて、ショッピングセンターに行って、温泉に入ってアイスを食べながら、ゲームセンターで遊んで、ご飯を食べて、という日々でした。ホテルの目の前にコンビニがあったのですが、そこに行くとキャストやスタッフさんがいたので「お疲れ様です!」ってお話したり。毎日、本当に島の中学生として過ごしていました。

麻生:わあ〜、素敵!

――映画の中でも子供達がイキイキしていますよね。ある程度素のままにまかせていたのでしょうか?

横浜:いかにも子供のことをよくわかってますという態度の大人って嘘くさいので、無理に理解しようとしないようにしていた部分はありますね。

麻生:横浜さんご自身に子供心を忘れていない部分があるじゃないですか。

横浜:う〜ん、自分ではあまり分からないんですけどね(笑)。

麻生:滲み出ているその自由さが、きっとこういう素敵な作品作りに役立っているのだなと私は思います。

――作品全体の映像の色味もすごく好きでした。

横浜:編集が全部終わった後に、カメラマン・撮影技師の月永さんがグレーティングという作業をしてくれるのですが、この色味に調整してくれました。目を閉じた後にも思い浮かべてもらえるような色味にしたいなと思ってこだわったのですが、最近の映画ではあまり見かけない色味だそうです。

――おっしゃるとおり、映画館を出た後も余韻がずっと続く素敵な色味だなと感じました。今日は素敵なお話をありがとうございました!

撮影:たむらとも

映画『海辺へ行く道』
アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす 14 歳の美術部員 ・奏介(原田琥之佑)とその仲間たちは、夏休みにもかかわらず演劇部に依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には何やらあやしげな“アーティスト”たちがウロウロ。そんな中、奏介たちにちょっと不思議な依頼が次々に飛び込んでくる。ものづくりに夢中で自由奔放な子供たちと、秘密と嘘ばかりの大人たち。果てなき想像力が乱反射する海辺で、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌。

原作:三好銀 「海辺へ行く道 」シリーズ
( ビームコミックス/KADOKAWA 刊)

監督 ・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑
麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春
蒼井旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ
諏訪敦彦 村上淳 宮藤官九郎 坂井真紀
製作:映画 「海辺へ行く道 」製作委員会
配給:東京テアトル、ヨアケ
©2025 映画 「海辺へ行く道 」製作委員会
公式サイト umibe-movie.jp
2025 年/日本/スタンダードサイズ/5.1ch/140 分/G

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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