「歌舞伎町春画展」で生命力と精力をチャージ(辛酸なめ子)

春画を展示するのに、もしかしたらこの場所が磁場的に最適なのかもしれません。人々の煩悩がうずまく新宿歌舞伎町にて「新宿歌舞伎町春画展―文化でつむぐ『わ』のひととき」が開催されています。
Smappa!Groupが主催するこの企画、会場は「新宿歌舞伎町能舞台」とホストクラブのスペースを利用した第二会場にわかれていて、一見素人にはわかりにくい場所を探すところから、謎解き感覚で楽しめます。

まず、第一会場の「新宿歌舞伎町能舞台」へ。うらぶれたビルの2階に上がり、のれんをくぐると、そこには松の絵が描かれた能舞台が。歌舞伎町の空気から一変、聖域のような空間です。壁やケースには、春画コレクター・浦上蒼穹堂代表所蔵の厳選された春画が並びます。アートディレクション/会場構成は、林靖高(Chim↑Pom from Smappa!Group)。財力とセンスが高次元で融合しています。
春画は絵師不詳のものから菱川師宣、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川国芳といった有名な絵師によるものまで、粋で風流で艶やかな作品が並んでいます。当時の売れている絵師は、競って春画を描いていました。性におおらかな時代、春画は性教育や縁起物としても需要がありました。また、秘密裏に制作され、流通していたので、絵師たちにとっては高額の収入が見込めるとともに、自由な作風で表現できるのも魅力だったのでしょう。

会場で序盤に登場する、絵師不詳の春画絵巻。江戸時代前期のものですが、美しい色がそのまま残っています。女性とお手合わせしている男性の肌の色がさまざまで、当時の多様性を感じられます。女性は下半身ばかり丁寧に描き込まれていて、現代と比べると胸への執着度が低いような……。江戸時代の女性は、子育てや銭湯などで普通に胸を晒していて、男性は見慣れていたのでそこまでエロスを感じなかったのかもしれません。

菱川師宣の弟子、古山師重の作品はマニアック系。鏡プレイや、横に子どもが寝ている状態だったり、着衣の人に見られながら行為に及んでいたり、複数プレイも。おじいさんが蚊帳の中で寝てる横で、という構図もありました。おじいさんの寝たふり感が半端ないです。

絵師不詳の、豆判錦絵(江戸時代後期から末期)のシリーズは、背景がギンガムチェックでかなりおしゃれでかわいいです。江戸時代の色彩センスにも驚かされます。高位の旗本が春画を手がけたという珍しいシリーズも。旗本の鳥文斎栄之が描く女性は気品が漂っています。また、蚊帳に他の人が寝ている横で……という蚊帳プレイの構図があり、江戸時代の人が興奮するスリリングなシチュエーションだったのでしょう。また、別の絵師の作品ですが「舟の上で」というシーンもいくつかありました。現代だと「クルマの中で」のようなものでしょうか。舟は激しすぎると川に落下するというスリルもあります。
歌川国貞の「花鳥余情吾妻源氏氏(かちょうよじょう あづまげんじ)」は「源氏物語」を引用した作品。雅な世界観の中、バックからことに及んだり、おじいさんが女体に顔をうずめたり、と適度に刺激的な作風でした。

葛飾北斎の艶本の中でも名作と名高いのは「万福和合神上卷」。裕福な家に生まれたおさねと、貧しい家に生まれたおつび。対照的な境遇のふたりの少女の性遍歴を、13歳から30歳まで交互に綴った物語です。まず、おさねとおつびという名前の響きもエロい感じがします。
物語は2人の親の代からスタート。何不自由ない生活で、性具を使い性行為を楽しむおさねの両親。いっぽう、ひもじい生活を送っているおつびの両親は、ねずみのカップルが見守る中、ことに及びます。夜の夫婦生活を経て命が授かり、おさねとおつびがそれぞれの家庭に誕生。13年の月日が流れ、性に興味を持つお年頃に。おさねが両親の行為を覗き見すると、父が母に「おさね坊が目を覚まさねように小声でよがるがいいぞ」などとささやくのが聞こえました。
いっぽう、おつびは子守の奉公に出たら、近所の不届き者の男性2人に目を付けられ、抱かれてしまいます。続いて性の快感を覚えた早熟なおさねは、16歳の丁稚の少年を誘い出して性行為。おつびは住み込みで働いていた女隠居のもとに通う若い男性に夜這いをかけられ……といった感じで進んでいきます。北斎の筆力を感じさせる絵と、びっしり書き込まれ文字で構成された、濃い内容になっています。着物や髪型、かんざしなどで貧富の差を描きわけていました。
歌川国芳の作品も、エロスが炸裂していました。性の擬音がすごいリアルで脳内ASMR感が。「ツボツボ、二チャ二チャドッグドックぬらぬら」とか、ノリノリで書いてそうです。

第二会場はよりマニアックな内容でした。貝を描いただけなのに官能的な作品や、大きなキノコに少女が抱きつく絵。そして「名開百人交合」は、女性たちがお互いの性器を見せ合う図。毛の生え方、形や色も人それぞれです。
その横の、全面に女性器が描かれた掛軸の前にひざまずく男性の絵もインパクトがありました。とにかく女性器が好きすぎるのが伝わってきます。日本人のガラパゴス的に進化した性欲に若干引きつつも、クリエイティブな発想は認めざるを得ません。クリエイティブといえば、グッズのデザインもかなりおしゃれでした。

会期中の関連イベント、「エロと春画と秘宝館」トークショーも取材させていただきました。会場は、歌舞伎町のレストラン「麦の音」。この日だけでも歌舞伎町の土地勘が養われた気がします。

トークショーに出演したのは都築響一(大道芸術館)、今田女将(大道芸術館)、手塚マキ(Smappa!Group/歌舞伎町春画展主催)、黒井ひとみ(ストリッパー)、オリエント工業製 ラブドールの赤貝ちゃん(敬称略)です。
「大道芸術館」という秘宝館や見世物小屋のカルチャーが凝縮した、海外セレブにも人気のスポットを運営している都築さんは、今回の春画展についてこう語っていました。
「春画展が歌舞伎町の古いビルで開かれているのはぴったりだと思うんですよね。ロンドンのブリティッシュミュージアムで2013年に春画展が開かれてから、日本の公立美術館で春画が展示されるまでは10年かかってる。江戸時代は春画が芸術という概念もなく、誰も貴重なものだと思っていなかったんです。外国人が見て、これはすごいと認めたことで、それが日本に伝わり、オレたちのこれってイケてたの? みたいな感じになって、浮世絵や春画の地位が上がりました。日本特有の手の平返しです。でも、今も美術館ではあまり展示されない。意識高い系の自主規制が春画の普及を妨げている、って言いたくてここに来ました」
美術展の主催は美術館ではなく、お金を出しているメディアなので、そこが懸念を表したら春画展は開けない、という現状があるようです。
それから、日本のマニアックなエロ文化の話題に。「全裸オーケストラ」や、ラブドール、黒井ひとみさんをはじめとしたストリッパーのカルチャーなども、かつての春画のように200年後の人類を驚かすようなセンスにあふれている、と都築さんは語ります。
黒井さんも、ストリップは「抜けないエロだらけ、でもそこがおもしろい」と話しました。黒井さんの演目、「ヤクルトレディー」もかなりシュールそうです。「春画は調度品やセリフが描き込まれていたり、蚊帳などの設定を使ったり、ありとあらゆる工夫をこらして描かれているのがストリップの演出と似ていてめちゃくちゃシンパシーを感じます」と、黒井さん。
「局部がやたら描き込まれていて、江戸時代の人も大好きだったんだ、って思いました。ストリップでも回転する台で開脚すると、おじいちゃんが局部を見るため走りながら台の周りをついて回ることもありますよ。拝まれたことも何度もあります」
今田女将も、大道芸術館の所蔵品には、裏返すと精巧な局部がついている人形があり、日本人は昔からこの部分への執着が非常に強い、と話します。「男性器も女性器も祀られている神社があるし、神聖なものだったんじゃないですか」と、手塚マキ氏。
今回の「歌舞伎町春画展」も、由緒あるありがたいものを拝める機会なのかもしれません。欲情というより、浄化されます。歌舞伎町にうずまく煩悩エネルギーに負けないイヤシロチのような空間で、カタルシスを感じた理由がわかりました。
展覧会概要
■会期■
2025年7月26日(土) 9月30日(火)
休館:月曜日 ※ただし月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休み
月曜開館日:8月11日、9月15日、火曜休館日:8月12日、9月16日
時間:11時 21時/土日祝:10時 21時
※入場は閉館時間の30分前まで
■会場■
新宿歌舞伎町能舞台
アクセス
東京都新宿区歌舞伎町2-9-18 ライオンズプラザ新宿 2階
東京メトロ丸の内線・副都心線・都営新宿線新宿三丁目駅E1出口より徒歩3分、西武新宿線西武新宿駅北口より徒歩8分
第2会場+グッズショップ
アクセス
東京都都新宿区歌舞伎町1-2-15歌舞伎ソシアルビル 9階
新宿歌舞伎町能舞台から徒歩数分
■出展作品数■
浦上蒼穹堂・浦上満コレクションより春画 約100点
■特記事項■
18歳未満入場不可
※チケット購入時に年齢確認が必要です。
また、ご来場時に身分証のご提示をお願いする場合がございます。予めご了承ください。
(執筆者: 辛酸なめ子)

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