「寝ても疲れが取れない」現代人に必要な、心を癒す歩行の力

「寝ても疲れが取れない」現代人に必要な、心を癒す歩行の力
「休んでも疲れが取れない」「眠ったのに気持ちが重い」。多くの現代人が口にする悩みです。体の疲れであれば休養である程度は回復しますが、心の疲れは横になるだけでは癒されないことがあります。これが「寝ても取れない疲れ」の正体です。

心の疲れは、頭痛や胃の不調、手足の冷え、不眠といった形で体に現れます。検査では「異常なし」とされても、生活の質を著しく低下させる不調として本人を困らせます。現代人はこの心のモヤモヤを抱えたまま働き続け、休んだはずの時間にも「回復できなかった」という現実を味わっています。

本来、眠りは心を癒すための時間です。しかしストレスが積み重なると、体は常に緊張モードを続け、眠っても深い休養に入れなくなります。つまり「眠りで心を癒やす材料」が不足しているのです。

ではどうすれば、この不足を補えるのでしょうか。その答えの一つが「歩くこと」です。歩行は誰にでもできる最もシンプルな行為ですが、実は心を回復させるための材料を増やす働きを持っています。

歩いていると、まず血の巡りが変わります。座りっぱなしで滞っていた血流が動き出し、酸素や栄養が体と脳に行き渡ります。その変化は心の疲れを軽くするための基盤になります。

さらに、歩行時のかかと着地で生じる小さな衝撃は骨を通じて脳幹に伝わります。これは微細な骨伝導の振動であり、考えすぎて疲れた頭をリセットする合図のような役割を果たします。歩いたあとに気持ちが切り替わるのは、この自然の回復メカニズムが働いているからです。

過緊張が注目されている中で歩くことは、心に「安心の拍子」を刻みます。歩きながら呼吸が整うと、体は「もう大丈夫だ」と感じ、緊張がほどけます。その安心の感覚が夜の眠りを深くし、眠っている間に心が修復される土台を作ります。歩くことは、休養の質を底上げする準備なのです。

ここで考えたいのは、現代の「休養のあり方」です。いまや睡眠時間をアプリで計測し、スコアで評価する人が増えています。休養までもが自己管理や数値化の対象となり、「よく眠れたかどうか」を数字で確認する時代になりました。ビジネス書でも「最高の休養法」といったテーマが注目され、休むこと自体も仕事の一部として扱われています。

しかし、心の疲れは数値化できません。アプリの画面に「快眠」と表示されても、朝起きたときに心が重ければ、その人にとって回復は達成されていないのです。むしろ「休んだのに元気になれていない」という落胆が、かえって新たなストレスとなることもあります。

歩くことは、この管理化された休養に対するシンプルな答えです。記録もスコアも必要ありません。外に出て数分でも歩けば、体のリズムが変わり、呼吸が整い、心の中に「回復の材料」が少しずつ増えていきます。その積み重ねが眠りを変え、翌朝の気持ちを軽くしていきます。

疲れているときほど歩くのは面倒に思えるでしょう。しかし、まずは一歩を踏み出すことこそが心から来る不調を解決する「きっかけ」になります。歩行は、体に現れた心の不調をなだめ、眠りの中で心が癒される準備を整える大事な材料なのです。

休んでも取れない心の疲れに必要なのは、休養だけではありません。歩くことで、心の疲れを回復する材料を自分の中に増やすこと。これこそが、現代人が抱える「寝ても疲れが取れない」という問題に根本的に立ち向かう一歩なのです。

参考文献
小林弘幸『自律神経を整える「歩き方」』青春出版社, 2018.
Ohta M, et al. Effects of daily walking on mood and autonomic nervous function. Stress Health. 2007;23(5):323-330.

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