【ライブレポート】これはただの復活ではない、新しいSuchmosのはじまりなのだ──Suchmos「The Blow Your Mind 2025」

【ライブレポート】これはただの復活ではない、新しいSuchmosのはじまりなのだ──Suchmos「The Blow Your Mind 2025」

これはただの復活ではない、新しいSuchmosのはじまりなのだ。

2025年6月21日・22日、横浜アリーナにてSuchmosの復活ライブ「The Blow Your Mind 2025」が開催された。単独有観客ライブとしては、2019年9月8日の横浜スタジアム公演以来、実に5年8ヶ月ぶり。沈黙を破った彼らを一目見ようと、チケットには20万件以上の応募が殺到し、まさに“伝説の再始動”にふさわしいプラチナ公演となった。本テキストでは、22日に開催された2日目の公演の模様をレポートする。

暗転した会場に、まるで自然の中にいるかのようなSEが静かに流れる。まばゆい光の中に浮かび上がるシルエット。その姿は紛れもなく、あの6人組バンド・Suchmosだ。静けさのなかで始まった1曲目は「Pacific」。復活を祝うライブの1曲目としてはいささか落ち着きすぎている選曲のような気もする。しかし彼らの浮き足立つことのない、クールなパフォーマンスをみていると、Suchmosが本当に帰ってきたのだ、という実感があった。

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続いて披露されたのは、新曲「Eye to Eye」。序盤からさらっと新曲を届けるところに、このライブ、そしてこの復活劇がこれまでの活動と地続きであることを感じさせた。「Eye to Eye」は、彼らの真骨頂とも言えるタイトなリズムと、ミニマルな構成が際立つファンク・チューンだ。ワンコーラスが終わるとスクリーンには、おなじみのロゴが出現。会場が一気に熱を帯びるていく。そのままなだれ込んだのは「DUMBO」。HSUが生み出し、山本連が演奏する、強靭なベース・ラインが先導する力強いグルーヴに、会場の温度が急激に上がっていた。

アウトロではTAIKINGの背面弾きギターソロも飛び出し、そのフィードバックノイズが鳴る中、YONCEが「カバー曲を、やります!」の声が響き渡る。そしてイントロが鳴り出したのは、もはや説明不要の代表曲「STAY TUNE」。この天性のトリックスターっぷりがSuchmosの、いやYONCEの魅力なのだ。「STAY TUNE」では、「待ってました!」とばかりにコール&レスポンスが自然発生。ライブはさらにレーザーが交錯するなか、「808」へと流れ込む。Suchmosの音楽が持つ“躍らせる力”が、この瞬間、横浜アリーナを巨大なクラブに変貌させていた。

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「おれらは勝手に楽しむから、あなたがたも勝手に楽しんでください」。YONCEのその一言から始まった“PINKVIBES”、“Burn”、“Alright”のブロックでは、シティポップの要素を残しつつ、よりフィジカルで熱量の高い演奏が印象的だった。メンバーたちは終始笑顔で、YONCEも全身を使って暴れ回る。その自由さに、思わずこちらも身体を揺らさずにはいられなかった。

そしてライブ中盤、印象的だったのはYONCEのMC。「みんなでひとつに…なりません。なっても意味がありません。それぞれで楽しんでください」という言葉に象徴されるように、Suchmosのステージには強制や共感の押しつけはない。あくまで個人のスタイルと自由を尊重する。そんなメッセージのもと披露された「MINT」では、誰もがそれぞれのやり方で音を楽しんでいた。YONCEは花道を降り、「よかったら歌いましょう」と客席に語りかける。この「よかったら」が彼らの哲学そのものだ。

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その後には、先行配信された新曲「Whole of Flower」が続く。ソウルフルでシティポップなサウンドに、バンドの新たな顔が垣間見える。さらに、「Marry」ではYONCEがアコースティック・ギターを手に取り、ラブソングを弾き語る。率直で誠実な歌詞に、これまでのSuchmosにはなかったストレートさが光っていた。

そこから「OVERSTAND」へと続き、TAIKINGのエモーショナルなギターがアリーナを包む。そしてライブ後半は、新曲「To You」や「Latin」など、これまでのスタイルを踏襲しつつも、さらに新しいフェーズへと向かう楽曲たちが披露されていく。「Latin」で炸裂したYONCEの唯一無二のダンスは、もはや“YONCE”というジャンルといえる。その動きは、会場の高揚感を最高潮へと導いた。圧巻のグルーヴを見せた「Latin」だが、突然暗転。曲が突然終わったかのように感じるなか、YONCEが「昨日は朝6時から行動してましてね。ちょっと海の方まで散歩に行ったんですよ」と暗闇のなか語り始めた。

YONCEはさらに早朝の海辺でラジオ体操をするおじいちゃんたちに遭遇した話や、姉の“マシンガントーク”が炸裂し、気づけば2時間が経っていたことを、笑い交じりに明かした。そしてメンバーたちは会場の観客に気を配りながらも、真っ暗な中で大勢と過ごす空間の不思議さに触れ、「ラジオってこういうことなんだよね」と、どこか哲学的な言葉を投げかけたYONCE。現在、自身が地元・茅ヶ崎でコミュニティFMのラジオ番組に携わっていることにも軽く触れつつ、まるでその収録の延長線上にいるような、自由奔放な語り口を展開した。

観客の「せーのっ!」という掛け声で、ふたたび音が鳴り出すと、会場の熱気は一段と高まっていた。この曲「Latin」が音源ではどうなるのか、そしてこれから先のライブではどうなるのか、大きな期待に胸が膨らんだ。

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そしてクライマックス。「GAGA」「VOLT-AGE」とタイトで濃密なグルーヴを畳みかけ、本編ラストは「カモンDJ!」の掛け声から「YMM」へ。YONCE、TAIKING、山本連の3人が花道へと降り、横浜アリーナを爽快な空気で包み込む。その姿は、どこまでも自由で、どこまでも自然体だった。

アンコールでは、これからのツアーの告知を挟んで、YONCEが静かにマイクを握り、バンドのベーシストとして活動していたHSUへの思いを語った。YONCEは、時折言葉を詰まらせながらも、「もともとベースを弾いていた、小杉隼太。みんなには“HSU”の名前のほうが馴染みあるかな。彼が亡くなったのは、ちょうど4年前です。あっという間だった。いま振り返っても、本当にびっくりするくらい、月日が経つのは早かった」と客席に向かって語りかけた。悲しみや喪失を抱える人たちへ思いを寄せつつも、新たな命を育む人々や、日常の中で誰かを助けたり、小さな善意を積み重ねている人たちにも言及。その多様な営みに、深く敬意を示した。

「この新横浜という街に来るまでの間にも、誰かを助けた人、何かを見送った人、きっといるよね。いろんな人生があるけど、ただ一つ言えるのは、失ったものはもう返ってこないってこと。それを、この4年間で嫌というほど痛感しました」。彼の死と向き合うことは、バンドにとっても個々のメンバーにとっても容易ではなかったという。だがYONCEは、「昨日、メンバーに“みんなで深呼吸しよう”って呼びかけたんだ」と語り、「今日も、よかったら一緒に深呼吸しませんか」と観客にも静かに促した。その時間は、「深呼吸」という形をとった、Suchmosなりの黙祷だったように思う。

【ライブレポート】これはただの復活ではない、新しいSuchmosのはじまりなのだ──Suchmos「The Blow Your Mind 2025」

「来週は彼の誕生日なんです。彼には2人の息子がいます。彼らのおもちゃ代を稼ぐのは、俺たちの仕事かなと思っています」そう語ったYONCEは、ライブ2日目のこの日、「昨日はバカで、どうしようもないけど最高な友達に捧げる曲をやった。今日は、新しい命に捧げる歌を歌いたい」と宣言。そして温もりに満ちた楽曲「BOY」を披露。前を向いて歩いていこうとするメッセージが、観客ひとりひとりの胸にしみわたっていた。

YONCEはさらにこの日のステージに集まったファン一人ひとりの存在に、「ツアーだったり、EPのリリースだったり。いろんなことが動き出していて、きっと今日この場にいる皆さんも、いろんな感情を持ち帰ることになると思います」と強く語りかけた。

「それぞれが、それぞれの仕事や経済的な事情に折り合いをつけて、この薄暗い場所にわざわざ集まってくれた。そういう意味で、僕たちは“変な人たち”の集まりかもしれないですね。皆さん、自覚はありますか?」

観客の笑いと共感を誘ったこの一言。しかしその裏には、ライブという“場”に足を運ぶことの意味と重みを、アーティストとして真正面から受け止めるYONCEの姿勢があった。「僕らも、そんな変な皆さんの前で、汗かきながら、必死に酸欠になりながら歌ったり、楽器を演奏したりしている、同じく変な人たちです。ありがとうございました。同士として、仲良くやっていきましょう」。そんな言葉から、演奏されたのは、ラストナンバー「Life Easy」。想いを軽やかに、風のように届け、Suchmosはステージを去っていった。

こうして幕を閉じた「The Blow Your Mind 2025」。しかし、これは終わりではない。Suchmosはこの秋、「Suchmos Asia Tour Sunburst 2025」と題した国内・アジアツアーに出ることを発表している。5年8ヶ月の沈黙を破って動き出した彼らは、いま再び、自らのグルーヴで世界を揺らそうとしているのだ。

【ライブレポート】これはただの復活ではない、新しいSuchmosのはじまりなのだ──Suchmos「The Blow Your Mind 2025」

取材&文 : ニシダケン
photo by Desital Natives

フォトギャラリー

フォトギャラリーはこちらからご覧いただけます

Suchmos「The Blow Your Mind 2025」セットリスト(2025.06.22)
M-01 Pacific
M-02 Eye to Eye
M-03 DUMBO
M-04 STAY TUNE
M-05 808
M-06 PINKVIBES
M-07 Burn
M-08 Alright
M-09 MINT
M-10 Whole of Flower
M-11 Marry
M-12 OVERSTAND
M-13 To You
M-14 Latin
M-15 GAGA
M-16 VOLT-AGE
M-17 YMM
En-1 BOY
En-2 Life Easy

ツアー情報

〈Suchmos Asia Tour Sunburst 2025〉
10月29日(水)KT Zepp Yokohama(神奈川)
11月02日(日)Zepp Fukuoka(福岡)
11月03日(月)Zepp Namba(大阪)
11月08日(土)BLUE LIVE 広島(広島)
11月14日(金)Zepp Sapporo(北海道)
11月16日(日)PIT(宮城)
11月21日(金)Zepp Nagoya(愛知)
11月23日(日)YES24 LIVE HALL(Seoul)
11月26日(水)VAS est(Shanghai)
11月28日(金)ZEPP NEW TAIPEI(Taipei)
11月30日(日)VOICE SPACE(Bangkok)
12月06日(土)クロスランドおやべ(富山)
12月12日(金)Zepp Haneda(東京)
12月13日(土)Zepp Haneda(東京)

【チケット販売】
■国内公演

スタンディング:¥7,500-(ドリンク代別)
2階指定席:¥7,500 -(ドリンク代別)
Under 18(スタンディング):¥6,500-(ドリンク代別)

オフィシャル一次先行:6月23日(月)正午12:00〜7月7日(月)23:59
先行受付URL:https://w.pia.jp/t/suchmos-tour25/
※お一人様 4枚まで申し込み可能
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)
2F席は大人1名につき子供1名まで膝上可。但し座席が必要な場合はチケット必要
※Under18チケットをご購入の方は入場時に生年月日の確認を実施いたしますので必ず身分証を持参。
■海外公演のチケット発売情報はSuchmosオフィシャルHPまで

アーティスト情報

・オフィシャル・ウェブサイト
http://www.suchmos.com/
・X
https://x.com/suchmoz 

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