映画『フロントライン』森七菜インタビュー「近くにいる者同士で優しくしあうことが一番大事なのだと感じました」

新型コロナウイルスを乗せた豪華客船。そこは、命の“最前線”だった かけがえのない日常を取り戻すために、全員の下船まで誰一人あきらめなかった 未知のウイルスに<最前線>で挑んだ人々を描く映画『フロントライン』が大ヒット上映中です。
物語の舞台は、2020年2月3日に横浜港に入港し、その後日本で初となる新型コロナウイルスの集団感染が発生した豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス」。乗客乗員は世界56ヵ国の3,711名。横浜入港後の健康診断と有症状者の検体採取により10人の感染者が確認されたことで、日本が初めて治療法不明の未知のウイルスに直面することに。
当時、日本に大規模なウイルス対応を専門とする機関は存在せず、急きょ対応することになったのは災害医療を専門とする医療ボランティア的組織のDMAT(ディーマット)。本作は、DMATの面々、厚生労働省から派遣された役人、豪華客船で乗客たちの不安を払拭しようと必死に働くクルーなどの視点から当時の様子を描いています。
本作で、船内で乗客たちの不安を取り除こうと奔走するクルー・羽鳥寛子を演じた森七菜さんにお話を伺いました。

――本作とても素晴らしかったです、ありがとうございました。森さんは、本作の企画を聞いた時にはどの様な感想を持ちましたか?
新型コロナウイルスの影響は私も受けていますし、「ダイヤモンド・プリンセス」のことは知っていましたが、その内情は伝わっていないことの方が多かったんだなとまず思いました。私は出演させていただく側ですが、映画をご覧になる方とおそらく同じ様に驚きました。
スタッフさんが実際に船の中にいらっしゃった方々にお話を聞いて、たくさん取材をして出来た物語だということをお聞きして。これはいつか公開するべきものだったんだなと企画書や台本を読んだ時に感じました。
――森さんが演じた羽鳥寛子のモデルになった和田さんとはお会いしましたか?
お会い出来ました。私が演じているのは、和田さんが実際に体験された中のほんの一部分だけですが、「大変でしたよね…」と色々なお話をして。本来の業務外のこともたくさんされていたそうですが、「お客様のために最後まで全うする」ことを何よりも大切にしていたとおっしゃっていて。自分も未知のウィルスへの恐怖がある中、まず人のために動けるかというと、なかなか真似出来ることでは無いと思います。まず周りのために動ける和田さんの様な方を尊敬しましたし、見習いたいと思うことがたくさんありました。
他の人がなかなか体験しない様なピンチを乗り越えてきた方なので、強いオーラを感じましたし、お花の様なんです。まとっている空気が柔らかくて華やかだけれど、芯を感じる素敵な方でした。
――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。
実際に船の中で起きていることと、外側で情報を受け取っている側のギャップがこんなに大きいものなのだと驚きました。私も、この出来事について正しい情報を受け取れていたのかなと考えると自信は無いですし、それ以外のことに関してもきちんと情報収集出来ているのか、自分が発信する際に気をつけられているかということも考えせられました。実際に起きた事だからこそ、自分の周りにも起こりうる怖さがたくさん盛り込まれているので、皆さんの考えるきっかけになる作品だなと思います。
そして、豪華なキャストの皆さんで目が忙しかったです…(笑)。
――森さんもその中のお一人として、本当に素晴らしかったです。私は何よりも寛子や、クルーたちのシーンに泣けてしまいました。
ありがとうございます。出会ったばっかりのお客様と一緒に未知のウイルスと戦っていくということが、私には想像出来なくて、その戸惑いを等身大で表現出来たら良いなと思っていました。実際に私もあの時に、人と会ってはいけない、家も出てはいけないという事態に戸惑っていたので。
博子は何よりもお客様のために動きたいし、でもDMATの皆さんが守らないといけない部分もあるし、まさしく“板挟み”ってここういうことだなと感じました。自分はお医者さんじゃないから直接的に何もしてあげられないし、何も出来ないという焦りの中、自分が出来ることを業務の範囲外でも頑張っていた皆さんがいて。本当に頭が下がります。

――海外のお客様は言語も思う様に通じづらい異国の中でとても不安だっただろうなと思い、その中で寛子の気配りや優しさにみんなが救われていますよね。
英語のシーンはとにかく緊張していたので、無事にやり遂げられるか、撮影に入る前から頭がいっぱいでした。英会話を習ったというよりも、英語のセリフをどれだけ流暢に言えるかという発音の練習をしていました。先生が結構スパルタで、「その発音は違いますね」「ここが違います」と言われ続けて、何が違うのか分からない状態で頑張っていました。その時は大変でしたけれど、作品のリアリティーを壊すわけにはいかないので、必死でやって良かったなと思います。
――アリッサなどキャストの描写も泣かされますよね。自分たちも異国で大変なのに、お客様のために頑張って、小さい子供を和ませたりして。
やっぱり最後は人と人の思いやりなのだなと感じました。この船の中で起きていることは、現実世界の縮図の様なものだったのかなと思っていて、外部から色々なことを言う人はいるけれど、結局どうにか出来るのは自分たちしかいなくて、近くにいる者同士で優しくしあうことが一番大事なのだなと。
当時、母が私たち子供のことを一番に気遣って、外出するのも怖い中買い物に出かけてくれて、私たちには「家にいてね」と言ってくれて。その代わりにご飯は子供たちで作ろうね、とか助けあっていたよなあって思い出しました。

――本当にそう思います。困っている人を助けるという尊さに溢れていますね。撮影は2年ほど前ということですが、印象に残っていることはありますか?
私は基本的にチームに属さない動き方をしている役柄だったので、池松(壮亮)さんチームの皆さんに混ぜていただいてご飯に行くこともありました。池松さんたちが誘ってくれて、現場近くのステーキ屋さんに行ったり、道の駅を歩いてまわったりして。地方の撮影でのどかな場所だったので、撮休の日はみんなで遊ぶものや場所を探して一緒に行くという感じだったので、より仲良くなれた気がしました。東京に戻ってきてからも、何回かご飯に行かせていただいています。

――辛いシーンも多い本作ですけれど、撮影の裏ではそうしてオフの時間もあったということが何だか嬉しいです。コロナ禍を戦っていたプロフェッショナルな人々を、プロフェッショナルな俳優さんが演じられているから、ここまで心に刺さるのだなと思います。
池松さんが演じる真田隊員は、長時間マスクをつけているので、外した時に跡がついて肌が荒れてしまっている部分もあって。撮影がスタートする何時間も前からマスクをつけて跡がつく様にしている池松さんの姿を見て、細部まで再現しようとしているのだなと感銘を受けました。DMAT隊員の皆さんは勤務中はろくにご飯も食べられなかったと思いますし、お風呂にゆっくり入っている時間も無かったと思います。そういった現場の過酷さを表現するために様々な工夫をされていてすごいなと見ていました。
作品の中では「船内で活動をしていた」ということで、糾弾されたり差別されたりするシーンが出てきますが、もし自分の家族や友人がこの仕事をしていたらカッコ良くて誇りですし、自慢すべき存在だと思いました。こうやって命をかけて戦ってくれていた方がいたのだということに感謝の気持ちでいっぱいです。
――本当に多くの方にご覧になっていただきたいですし、観た方の分だけ感想を聞きたい作品だと思います。今日は素敵なお話をありがとうございました!

撮影:周二郎



■タイトル:『フロントライン』
■公開日:6月13 日(金)
■出演者:
小栗旬
松坂桃李 池松壮亮
森七菜 桜井ユキ
美村里江 吹越満 光石研 滝藤賢一
窪塚洋介
■企画・脚本・プロデュース:増本淳
■監督:関根光才
■製作:「フロントライン」製作委員会
■制作プロダクション:リオネス
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■クレジット表記: © 2025「フロントライン」製作委員会
■オフィシャル:公式サイト FRONTLINE-MOVIE.JP/公式 X @frontline2025/ハッシュタグ #映画フロントライン

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