脱出サイコ・スリラー『異端者の家』プロダクトデザイナーに聞く「家具や壁紙が“ミスター・リード”のキャラクターに深みを与えていく」

A24×『クワイエット・プレイス』脚本コンビが⼿掛けるヒュー・グラント主演の脱出サイコ・スリラー『異端者の家』が公開中です。

シスター・パクストンとシスター・バーンズは、布教のため森に囲まれた⼀軒家を訪れる。ドアベルを鳴らすと、出てきたのはリードという気さくな男性。妻が在宅中と聞いて安⼼した2⼈は家の中で話をすることに。早速説明を始めたところ、天才的な頭脳を持つリードは「どの宗教も真実とは思えない」と持論を展開する。不穏な空気を感じた2 ⼈は密かに帰ろうとするが、⽞関の鍵は閉ざされており、助けを呼ぼうにも携帯の電波は繋がらない。教会から呼び戻されたと嘘をつく2⼈に、帰るには家の奥にある2つの扉のどちらかから出るしかないとリードは⾔う。信仰⼼を試す扉の先で、彼⼥たちに待ち受ける悪夢のような「真相」とはー。

本作で、脱出不能な迷宮のデザインを手がけた、フィリップ・メッシーナさんにプロダクトデザインへのこだわりなどお話を伺いました。

――とても楽しく拝見させていただきました。フィリップさんは本作のどの様な部分に惹かれましたか?

プロデューサーが、とにかく脚本を読んでほしいと言われたことが始まりでした。読み始めてから、2人のシスターの描写に一気に惹き込まれました。その時点でミスター・リードのキャスティングはヒュー・グラントにほぼ決まっていた様だったのですが、リードのキャラクターのイメージもどんどん膨らんでいきましたし、モノローグが生き生きと描かれている脚本だったのです。宗教たその心情に関してこのような形で描かれている作品を観たことが無かったので魅了されました。途中までホラー・スリラー作品だということを忘れていて、最後の展開でも驚きました。それほど予算が多くない作品だと分かっていたのですが、工夫で良いプロダクトを作ってみたいなと思いました。

――奇妙な家や家具が重要な存在となっていますよね。

プロダクションデザインが重要な要素となっている作品と出会うとワクワクするんですよね。作品によってはいわゆる背景の一部として描かれている場合もあるんですけれども、これだけプロットに深く組み込まれている作品には個人的にも挑戦したいと思うんです。数年前に私が手がけた『マザー!』(ダーレン・アロノフスキー監督)を彷彿とさせる部分があるなと思っていて、あの作品も家が重要な要素となっていますよね。プロダクションデザインによって、ストーリーと、ミスター・リードのキャラクター性を深めていくというチャレンジでしたし、ライオンに美味しい生肉を与えられている様な感じで(笑)、ぜひやらせてほしい!と思ったんだ。

――『マザー!』も、すごく不穏なお家が描かれていましたが、一方でとても美しくありますよね。本作でも不穏さと美しさが同居していたと感じていますが、フィリップさんが意識しているバランスなのでしょうか?

そうですね。意識的に“違和感のある美しいもの”を作りたいなとは思っていたのですが、監督・脚本を手がけるスコット・ベック&ブライアン・ウッズの2人がとてもスマートでセンスのある方なので、2人に委ねていれば良い部分が大きかったんです。ミスター・リードを最初から悪者――悪者という言葉もあまり使いたくないのですが、そうやって描いていませんでした。多面的な側面があるという描き方がスマートなんです。そして、そのミスター・リード自体の多面性と、家は連動しているとも感じました。

ダンテの『神曲』(地獄編)をイメージしまして、あれは深くなればなるほど地獄に近づいていくという演出ですが、ミスター・リードの家も地下に行けば行くほど闇に落ちていく。そうすると、表面的な部分は平穏に描かれているべきですよね。当初の脚本に描かれていたリビングルームはもっと家具が無くて殺風景だったのですが、みんなが知っているヒューが笑顔で客人を迎え入れて、そこから闇に落としていくのであれば、リビングはもっと人々を温かく迎え入れるような空間にすべきなんじゃないかという提案をさせてもらいました。壁紙を変えたり家具を増やしたり、そうやって全体のルックを作っていったんです。

――たくさんの家具や本、気になるものばかりですね。それら一つ一つがストーリーや人物描写を作っているのだなと思うと興味深いです。

書斎の壁に隠された各宗教、地域の象徴的なものを集めることはチャレンジングでしたね。リサーチをして、歴史を調べて自分たちで作ったものもあります。脚本の中では、ミスター・リードが「玄関のドアをロックする」と書かれていましたが、セットをコーディネートしてくているスタッフが「金庫についているタイマー付きのロックを使ったらどうか」と提案してくれたんですね。それを監督に話したらすごく気に入ってくれまして。さらに「そのロックを電気のスイッチの中に隠したらどうか」という僕のアイデアを加え、それが採用されているのですが、そうやって様々なアイデアが重なり合ってリードという人物を作り上げています。

スイッチに関しては、リードのアナログ的なところですね。彼はコンピューターも持ってないですし、携帯電話も持っていないです。スライドのプロジェクターはヒューのアイデアだったと思うんですけど、あれもすごくアナログ的ですよね。

――貴重なお話をありがとうございます。フィリップさんが影響を受けた「美術が印象的な映画」はありますか?

一つ作品を挙げるとしたら、『2001年宇宙の旅』(スタンリー・キューブリック監督)ですね。プロダクションデザインとして素晴らしいですし、作られた時代を考えると本当に最先端のことをやっているのだなと分かります。ただ、私自身は映画を観ている時に美術やプロダクションデザインをそれほど意識しないんです。プロダクションデザインに集中してしまう作品だと、それだけストーリーが薄いのかな?と思ってしまう(笑)。ストーリーやキャラクター描写に集中して、後から考えた時に「あの美術良かったな」と思うくらうが良いのかな、と。

若い頃にイギリスでプロダクションデザインのアシスタントとして働いていて、その時のデザイナーが言ったことを今でも覚えているのですが、「セットというのは、役者が足を踏み入れるまで空っぽな空間であるべきだ」という言葉です。役者が入ってセットというものは完成する。今でも、プロダクションデザインを手掛ける時にそのことを常に念頭に置いていますし、映画を観る時もそう心がけています。

――今日は素敵なお話をありがとうございました!

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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