パリ中心から10分・森のほとりで古民家ライフ。築160年超の中庭付き一戸建てを家族4人で大胆リノベ パリの暮らしとインテリア[20]

晴子さんとパスカルさんは、2002年に結婚した日仏夫妻。晴子さんは社長秘書、パスカルさんはデジタルディレクター、共に多忙なお2人です。現在は大学生になる長女・次男と共に、家族4人でパリ郊外のフォントネー=スー=ボワに暮らしています。家族の成長に合わせてパリから郊外へ引越し、その郊外でもアパートから一軒家に暮らし変えをした、ファミリーの住まいを訪ねました。(文・角野恵子)
家族の成長に合わせ4回引越し
フォントネー=スー=ボワの位置は、「パリの肺」と呼ばれるヴァンセンヌの森のちょうど北側。高速列車RERに乗れば、パリのど真ん中から10分程度と近く、通勤にもパリライフを楽しむのにも大変便利な立地です。晴子さんとパスカルさんは、現在のバランスのとれた快適な暮らしにたどり着くまでに、合計4回の引越しを経験しました。
「結婚当初は、パリ市内10区の賃貸アパートに住んでいました。パリ10区はアーティストや移民の多いミックスカルチャーのエリアで、人気のレストランやバーが次々とオープンします。スーパーなどの選択肢も多様。そんな活気のある環境が気に入っていましたが、長女が生まれてからは静かな環境で子育てをしたい、と気持ちが変化したのです。そこで郊外への引越しを決心し、フォントネー=スー=ボワの2LDKのアパートを購入。その後も住み替えをし、現在の住まいはフォントネー=スー=ボワへ来て3軒目、通算4軒目になります。2021年4月に購入して工事を行い、7月に入居しました。3階建て、総面積90平米、中庭のある一軒家です」と、晴子さん。
郊外への引越しを考え始めた当初は、ひとまず誰もが必ず利用する物件サイトでこまめに検索。気になった街へ足を運び、雰囲気や環境をしっかり視察し……。そうするうちにフォントネー=スー=ボワに絞り込もうと心が決まり、地元に強い不動産会社を知り合いから紹介してもらったそう。


昔から変わらぬフォントネー=スー=ボワの街並みがわかる絵葉書は、晴子さんが大切にする1枚(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「この辺りはヴィラージュ(村)と呼ばれる一角で、国の保存地区に指定されています。古くからの街並みが残っていて、住人も昔から住んでいる人たちがいるのですよ。コロナ禍以降は特に、私たちのように子どもの誕生を機にパリから引越してくるファミリーも多く、治安はとてもいいです。ヴァンセンヌの森まで歩いて行ける環境も気に入っていて、パリ市内10区を出てからずっとこの街、フォントネー=スー=ボワから動いていません」
そんな自然を身近に感じられる魅力はもちろん、今の家で最も気に入っているポイントは、1860年代に建てられたからこその時代を感じさせるさまざまな要素なのだそう。例えば、室内のそこかしこに立派な梁があり、玄関前の床はトメットと呼ばれる昔ながらの素焼きのタイル。しかもタイルをよく見ると、猪の足跡が入り込んでいるものも! この土地が素朴なヴィラージュであった時代を彷彿とさせる、そんな要素が満載なのです。なんと、引越し前の内装工事の折には、歴代の住人たちが施した工事の形跡が、まるで地層のように壁や床の奥から出現したとか。

トメットに刻まれた猪のひづめ! これも家の建設年と同じ1860年代のもの?(写真撮影/Manabu Matsunaga)
そんな、晴子さん曰く「古民家」を、さっそく訪問させていただきましょう。晴子さんとパスカルさんが考えに考えぬいた工夫がぎゅっと詰まった、現代のインターナショナルなファミリーに寄り添う「古民家」です。
「古民家」を今の暮らしに
晴子さんとパスカルさんの「古民家」へのアクセスは、通りに面したドアから始まります。青でペイントした木のドアを開けて中に入ると、正方形の石を敷き詰めた中庭があり、その脇に段差なしで1階の広い窓が続きます。1階はリビングとダイニング、そしてキッチンのある暮らしのスペース。仕切りのない開放的な空間です。

小さなテーブルと椅子をセットした中庭。心地よい季節になると、ここでBBQをする(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「この1階部分は、物件購入後に大きな改装工事を行っていません。キッチンもそのまま使用しています。実は、2階改装工事が予定より長引いてしまい、完成を待ちながらこの1階で家族全員が暮らした時期がありました。手を加えていない分、システムキッチンの色があまり気に入っていないので、今後できれば明るい木目に変えたいと思っています。この先のいつか、予算と相談しながら」と、ゆったり構える晴子さん。

天井の梁が特徴的なキッチンは、「もともとは壁があり閉ざされたスペースだったのでは?」と晴子さん。物件購入時からキッチンは手を加えていない(写真撮影/Manabu Matsunaga)

パスカルさんの趣味の、コーヒーコーナー(写真撮影/Manabu Matsunaga)
フロアを見渡すと、天井には立派な梁があり、キッチンの方にも天井部分に趣のある梯子状の梁が見えます。この家が古くから存在していることが一目でわかる素敵な要素ですが、晴子さんはその古き良き雰囲気の中に、あえてスタイリッシュな「G-PLAN」(イギリスの老舗家具メーカーによるブランド)のダイニングセットを合わせています。

お気に入りのテーブルを配したダイニングスペース。階段の脇に置いたキャビネットがうまい具合に仕切りの役割を果たし、ダイニングスペースの空間確保に貢献している(写真撮影/Manabu Matsunaga)

スタイリッシュなダイニングテーブルは、この家の購入に合わせて入手した思い出の品。簡単に伸長でき便利。丸テーブルが暮らしに登場して以来、食事の後も家族みんながテーブルに残り、一緒に過ごす時間が長くなった(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「ヴィンテージのサイト『Selency』で見つけました。イギリス家具ですが、北欧デザインの影響を受けた高いデザイン性と、職人技が光るクオリティ、そして簡単に伸長できる機能性が気に入っています。この家の古い魅力を大切にするためにも、『ただ古いだけの家にならない』ことに注意してインテリアを選んでいるのです。雑貨などをあまりごちゃごちゃと飾らないことも、気をつけている点。毎日使うものは安さで選ばずに、少々高額でも品質が良く気に入って長く使えるものを選ぶようにしています。古い家の中に単に古いだけのものを置くと、キッチュになってしまうことに気づきました」
リビングのローテーブルは、冬になると日本製のこたつに場所を譲るのだそう。晴子さんは冬、中庭に積もる雪を、こたつから眺めるのは格別だと教えてくれました。そして、長女・長男の友達も、生まれて初めて体験するこたつに入りたがる、とも。フランスの若者にとっても、日本のこたつは好奇心をかき立てられる存在のようです。
ちなみに、日本人は靴を脱ぐ生活だということを彼らはよく承知していて、遊びに来ると率先して玄関先で靴を脱ぎ、中に入ってくるとのことでした。

冬にはこたつを出すというリビング。広い窓から中庭を眺められるこの場所は、晴子さんが一番気に入っているところの一つ(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自力で間取りを試行錯誤
階段下収納を備えた機能的な階段を上り、2階へ。左手に子どもたちの寝室が2つ、右手に「アトリエ」と呼ばれている晴子さん・パスカルさんがテレワークの時に使うスペース、及び趣味のスペースがあり、廊下の先の窓の向こうは板張りのバルコニー、その右にバスルームがあります。

階段下収納ももともとあったもの。引越し当時、子どもたちは「ハリーポッターだ!」と盛り上がったそう(写真撮影/Manabu Matsunaga)
「工事前、この階は寝室1つとオフィススペース(+バスルーム)だけで、廊下はありませんでした。しかし私たちにとっては、子ども部屋を確保するための4度目の住み替えでしたから、夫と一緒に改装の知恵を絞り合ったのです。そしてたどり着いた回答が、この間取りです。建築家に依頼すれば簡単だったのでしょうが、それには予算が必要。私たちはフリーソフトを駆使して、自分たちで図面を引きました。どう仕切ればみんながハッピーに暮らせる空間になるか、とことん考え、何度も図面をつくり直して」
結果的に、廊下を新たにつくる現在のプランを採用したものの、今度はこの家自体が正確な長方形をしていないという問題が。古い家なだけに、壁一つとってもまっすぐ平行なところはないのだそうです。
「実は、工事を手がけた職人さんたちは、アトリエを正確な長方形につくることを優先していて、その結果、廊下が先細りの奇妙なラインに仕上がってしまいました。さすがにそれは困るのでやり直してもらうことにし、アトリエの方ではなく廊下をまっすぐに仕上げてもらったのです」
一旦は出来上がった壁をつくり直す、とは、時間との戦いの工事中になかなかできない、困難な決断です。しかし妥協せずにやり直しをしたおかげで、ご覧の通り向こうのバルコニーまで真っ直ぐ抜ける、感じのいい空間が登場しています。

右はアトリエ、バルコニーに通じる廊下を挟んで左側に子ども部屋が2つある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バルコニーまで一直線の抜け感のいい廊下(写真撮影/Manabu Matsunaga)

アトリエには屋外に面した窓がなく、3階の天窓から届く光が唯一の自然光になる(写真撮影/Manabu Matsunaga)

自然光を最大限に確保するために、アトリエ窓(ガラス壁)の面積を可能な限り広くとった(写真撮影/Manabu Matsunaga)

黒を家具に取り入れた長男・エワンさんの部屋(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長男・エワンさんの部屋のドア(写真撮影/Manabu Matsunaga)

長女・ユウナさんの部屋。天井が高く快適(写真撮影/Manabu Matsunaga)

バスルームは工事を行わず、以前のオーナーから受け継いだ状態で使用している。木の壁に飾られた白いパネルはアート? 不明だが、外すと裏側の状態が心配なのでそのまま設置(写真撮影/Manabu Matsunaga)
出っ張りも味わいのうち
さあ、さらに階段を登って屋根裏の3階へ! なんとこの階段、工事中にコロナ禍の影響で資材が届かず、半年も搬入を待ったという苦い思い出が。3階は夫婦の寝室スペースなので、晴子さんとパスカルさんは階段の資材を待つ間、アトリエにベッドを設置して暮らしたといいます。本当にハプニングの連続、長い道のりです!
「以前のオーナーは、3階を子ども部屋として使っていたようですが、天井がかなり低く、しかもフロアの真ん中に仕切りのような壁と出っ張りがあって、不思議な形をしていますよね。
そのため、私たちの子ども部屋にすることは考えられませんでした。そこで、夫婦の寝室と、クロゼット、物置にしたのです」

夫婦の寝室の向こうはクロゼットのコーナー。白いクロゼットの後ろが物置。この二つの空間の間に、ちょっとした出っ張りの壁がある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

その出っ張りを渡りやすくするために、子どもたちが使っていたおもちゃ入れを足場に転用。カラフルな表彰台は、白い空間に明るい色を添えている(写真撮影/Manabu Matsunaga)
2階と3階をどう改装すればみんなの部屋を確保できるか、その答えを見つけることが一番難しかった、と晴子さんは振り返りますが、確かにこうして拝見させていただくと、なかなか個性的な物件であることがわかります。最良の形に整っている現状を見る私たちには、完璧な住まいにしか見えません。が、段差や出っ張りを「欠点」と捉えないことが、物件の魅力を活かしたリノベーションのコツかも知れない。そんなセオリーが、晴子さんとパスカルさんの住まいから見えてくるのでした。

クロゼットコーナーの空間は、晴子さんのためのスペース。大切なオブジェを飾って(写真撮影/Manabu Matsunaga)

階段側の壁のニッチ(壁の段差)は本棚として利用。ニッチ(壁の段差)はもともと存在していたが、まっすぐではなくゆがんでいた。ゆがみを直すために工事をしたところ、奥から石の壁が現れたので、味わいがあって面白いかといったんは剥き出しに。しかしあまり上等な素材ではなかったため、現在のようにすっきりとした白い壁に整えた(写真撮影/Manabu Matsunaga)
自然とともに、バランスよく
「この家に暮らすようになってから、自然を楽しみたい気持ちが強くなりました。ヴァンセンヌの森で夫と一緒に乗馬を始めたり、日々の生活でも量り売りやオーガニックのものを選ぶようになったり。
アパートに暮らしていたころは、ごみの量など気にせずに出していましたが、一軒家暮らしは指定の日の朝に自分でゴミ箱を道路に出さなくてはなりません。おのずと、自分たちが出すごみの量を意識するようになるのです。
それからこの家には新品の食器は合わないので、新品はまったく購入しなくなりましたね。コレクションしている古い食器は『現在はもうつくられていない』と認識すると、ものへのリスペクトの気持ちが生まれて大切に使うようになります。日々の食卓で使って、家族の思い出と共に将来子どもたちに託したいと思っています」

緑豊かなヴァンセンヌの森(写真撮影/Manabu Matsunaga)

なんとこれがフォントネー=スー=ボワ駅のすぐ裏手にある(写真撮影/Manabu Matsunaga)

この家に暮らすようになってからあつらえた食器たち。温かみのあるハンドペイントのモチーフと、ぽってりした質感が大好きなフランスのSarreguemines(サルグミンヌ)窯のYann(ヤン)シリーズや、曲線が美しいイタリアの陶器メーカーPagnossin(パニョシン)の食器を、必要に応じてコレクション中(写真撮影/Manabu Matsunaga)
パリライフと自然、郊外らしいのんびりライフ、どちらも楽しめる郊外は本当におすすめ!と、断言する晴子さん。確かに、こんなに便利で環境のいい場所があるなら、今すぐにでも引越したくなります。パリでの仕事を終えてフォントネー=スー=ボワに帰る、という行為が、仕事とプライベートの区切りになること、森のおかげで空気が浄化されること(だからこそ積雪も!)、などなど、フォントネー=スー=ボワに暮らすメリットは尽きないのでした。
「住まいにちゃんと手をかければ、将来住み替える時に有利な値段で売却できることもメリット。もしまた引越しをするとしたら、次の住まいには日当たりのいい広い庭が欲しいです。コンポストを設置して、生ゴミを減らし、その肥料を使って菜園に挑戦して。子どもたちのファミリーも集えるような家があるといいな、と思います」
コツコツと自分たちのペースで、その時その時の自分たちに合った住まいをつくりつつ。フォントネー=スー=ボワの「古民家」は、晴子さんとパスカルさんの現時点での夢を形にした世界にたった一つの「古民家」でした。
●関連サイト
(晴子さんがよく利用するヴィンテージ・中古サイト)
Selency
leboncoin

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