映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』堤幸彦監督インタビュー「その土地で頑張っている子供たちの情熱を描く」

『TRICK』シリーズをはじめ、『天空の蜂』、舞台「テンペスト」など、多くの作品でタッグを組んできた堤幸彦監督×仲間由紀恵の 約10 年ぶりの再タッグとなる映画『STEP OUT にーにーのニライカナイ』が、新宿ピカデリー他にて全国公開中です。

<あらすじ>本作の舞台は音楽やダンスが生活に溶け込んでいる沖縄。母親の朱音(あかね)、妹の舞(まい)と3人で暮らす照屋踊(てるや よう)は、ダンススクールで出会ったリサに憧れ、ダンスを習い始める。朱音は家計を支えるためスナックで働き、人との関わりが苦手な舞はスクールの前でいつも兄の姿を一心に見つめていた。やがて踊はリサとペアを組み、その才能を開花させていく。そんな中、朱音のもとに一本の電話があり、ある男が訪ねてくる。偶然、家の前でその男を目撃する踊。後日、テレビでダンスオーディションを開催すると発表した音楽プロデューサーのHIROKI が、その男だった…。
動き出す運命。憧れだったダンスパートナー、友人や地元の人々、大切な母、そして妹との繋がりの中で揺れ動く踊。踊が自分と向き合って選んだニライカナイ=理想郷とは…。

シングルマザーの朱音役を演じるのは監督の堤とは20年以上の親交があり、自らも沖縄県出身の仲間由紀恵。朱音の息子・踊を演じるのは、2023年に再始動となった沖縄アクターズスクール出身のSoul。兄を慕う妹の舞役には同じく沖縄アクターズスクール出身の又吉伶音。そして物語の鍵を握る音楽プロデューサーをEXILEの橘ケンチが演じます。

本作の監督を務めた堤幸彦さんにお話を伺いました。

――本作とても楽しく拝見させていただきました。まずは沖縄での映画作りをしようと思ったきっかけを教えていただけますでしょうか。

沖縄での作品作りは何十年もやっていることで、特に宮古島が多いのですが最近ちょっとご無沙汰していました。うちの会社が始めた「未完成映画予告編大賞 MI-CAN」という映画祭があるのですが、そこから出てきた『ミラクルシティゴザ』(2022)という作品がすごく素敵で。この企画と監督をしている平一紘さんという沖縄市在住の若手監督と交流を続けてきました。それが本作の様な形で身を結んで、平さんには共同監督を務めていただいています。
沖縄市の繁華街を歩いているとダンスのスタジオがたくさんあって、そこには風のように踊る子供たちがいて。すごく感動しました。どうしても私の世代にとって沖縄という場所は、私たちの負担を押し付けてしまっていたり、重い歴史を持っている場所なのですが、本作では純粋な子供たちの情熱をまずテーマに描きたいと。沖縄の社会情勢の中でその純粋さがどう見えてくるのか、ということを映画にしたいと思いました。

――平さんとはどの様な役割分担をしていましたか?

少年少女のシーンを彼にたくさん撮ってもらったんですね。沖縄の方言や、リアルな暮らしの細かなところは、ずっと東京住まいの私には分からないことも多いので。ざっくり言うと1/4くらいですかね、平さんに監督していただいて、私の撮った部分と合わせて一つの作品にしています。津波竜斗さん、内田樹さんら沖縄のキャストさんたちは平さんがお仕事で関わってきた方で、この素晴らしい存在感を持っている皆さんは平さんがいなければキャスティング出来なかったので本当に感謝しています。
子供たちも、Soulくんをはじめとしてみんなオーディションなのですが、彼ら、彼女らも平さんがいることでだいぶ安心して、肩の力を抜いて、撮影することが出来たと思います。類いまれなる独自性を持った監督でありながら、とても楽しく頑張ってくれますし、30代前半の若いクリエイターがよく俺みたいなロートルに付き合ってくれるな、と関心していました(笑)。

――照屋朱音役を演じた仲間由紀恵さんとは久しぶりのタッグとなりましたね。

10年ぶりにお会いして変わっていないなという印象です。前会ったのが昨日のことのような雰囲気で。ずっとバカなことを言い合って。私が「海のもずく」と言うと「藻屑」って突っ込んでくれる人。相変わらず完璧で面白い人だなと思います。
仲間さんは沖縄出身者として、とても綺麗な役柄をたくさん演じてきたと思います。『ちむどんどん』では結構お母ちゃんっていう感じでしたけれど、本作ではコザで頑張って生きているシングルマザーのお母さん役で。プロデューサーを通して役柄を説明してオファーを出しました。本人もちょうど挑戦してみたい役柄だったのか、率先して引き受けていただき、衣装や髪型や立ち振る舞いに関しても自分から意見を出してくれて、とてもリアルな沖縄の女性を演じていただくことが出来ました。

ただ、沖縄にも色々な地域性があって、彼女は浦添というところの出身なので、コザとはまた違う雰囲気があるんですよね。たとえば東京でいうと港区と八王子の違いがどれだけあるのか…みたいな。そういう意味では、同じ沖縄県といっても挑戦だった様です。コザってワイルドなところだし、いまだに問題もたくさんあるわけですね。基地を抱えていることも大きいと思いますが。20km離れると方言も全然変わってきてしまうみたいです。

――仲間さんはそんな役柄を見事に演じ切っていらっしゃいましたね。

国民的大女優という看板を背負っていながら、地に足のついた人生観を持っている人だと思うんですね。背伸びしない等身大の人だなって、僕にはずっと見えています。どんな役をやっていても親しみやすいし、“演じていない感じ”みたいなものを醸し出せる、稀有な方ですね。たくさん助けられました。

――本当に子供達のパワーや輝きにあふれていますね。

オーディションに受かった子供たちは、もう本当にスキルが高くて。当然のことながら演技は初体験で。でも音感が良いからなのか、感覚が優れているのか、演技が出来るんですよね。ひたすら頑張ってきた俳優たちにはちょっと悔しいかなと思うんだけど、勘の良さというものがすごい。
Soulくんは本作の様な主役をやることは初めてですし、なおかつ最初はダンスを下手にやらないといけない難しさがあったわけです。「今日はMAXが10の中の2くらいのダンスで」とか「今日は2.3でお願します」という感じで、数値化してお願いしていました。先ほど申し上げた様にオーディションでキャスティングしていて、僕は所属事務所の名前を見ていなかったんですが、結果的にSoulくんも又吉伶音さんも沖縄アクターズスクールの所属で。東京のダンススクールからも素敵な子どもたちがたくさん参加してくださいましたけれど、彼らからは地場で頑張っている底力みたいなものを感じました。

――Soulさんは表情が本当に素晴らしいですよね。監督が撮影していて、自分が思った以上のシーンが撮れたなと感動した所はありますか?

海岸で、親子がちょっとギクシャクしながら会話を始めるシーンがすごく好きです。風もそうだし、太陽の光の具合も良くて、良い親子だなあというのを見せつけられました。テイクは何度も重ねましたけれど、感動ポイントは毎回同じでした。あの場所は実はものすごくやかましいんです。後ろに大きな国道があって、セリフも録音したそのままは使えないくらいで。でもあの場所だからこその感情というか、顔立ちがすごくよく撮れたので良かったです。

――ティーンの夢を描いている本作ですが、監督はSoulさんぐらいの年齢の頃にはこのお仕事をしようと考えていたのでしょうか?

いえいえ、とんでもございません。大学を中退してからやることがなくなってしまって、僕には無理だろうなと思いつつ映像業界に入ったというのが実情です。それ以前も、強いて言えばロックミュージシャンになりたいとか、政治を志していたりとか、そんな感じでした。名古屋というぬくぬくした場所で、何も考えなければ、親の職業を継いで一生食べていける…そんな温かい監獄の様な場所からとにかく抜け出したくて。
でも僕に音楽の才能は無いということは早くから気付いていたし、本作でSoulくんが演じた踊の様に一歩踏みだす勇気もありませんでした。今は60歳をすぎてもうすぐ人生を閉じようとしていますけど、当時の何にもなれない、どこにも行けない苦しみみたいなものはたまに夢に見たりします。

――監督でも未だにその様な夢を見るのですね…! 昨年、今年とハイペースで作品を作っていらしていつも楽しく拝見しています。

コロナ禍で作品が作れないということは本当に辛かったので、今、まさに堰を切ったように作り続けています。ありがたいことです。
地道に作品を作ることが1番性に合っていると思ったので、『truth 姦しき弔いの果て』(2022)という自主映画にチャレンジすることも出来ましたし、作品ごとにチームが変わっても、ものづくりへの気持ちは変わらずに取り組むことが出来る様になったと感じています。
本作は、カメラも照明もほぼ沖縄のチームにお願いしているのですが、お互い「楽しむ」ということが共通しているから、地域性は関係無いですね。名古屋で作品を撮る時には名古屋のスタッフ、沖縄では沖縄のスタッフにお願いすることで、その地でしか撮れない作品を作ることが出来る。これは良い仕組みが出来たなと思っています。

※ネタバレ注意※ 以下より、映画のラストシーンに関わるお話が出てきます。映画をまだご覧になっていない方はご注意ください

――最後の踊の決断はとても勇気がある決断だったなと感じました。

このラストは最初から決めていました。シーンの画も頭に浮かんでいて、空港のスペースで撮影したかったんです。沖縄の那覇空港って、実は軍事基地兼用なんですね。自衛隊の基地としても兼用していて、観光者が多い空港かと思いきや、物々しい側面もあり、僕はあの空港に行くとあまり素直に喜べないタイプです。その現実を感じさせる場所と海峡を挟んだ向こう側に平和な島影が見えて。とても美しくて平和な場所なのですが、80年前にはアメリカ兵がどっと押し寄せた場所でもあって。複雑な気持ちになるのですが、そういった様々な社会情勢や環境を含めて、踊には我々には見えないものが見えているんだろうな、という。そんな表情を撮りたかったのです。

(C)「STEP OUT」製作委員会

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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