GOTY4冠の『アストロボット』に秘められた「魔法のような体験」の正体に迫る!?「Team ASOBI ファンミ!」潜入レポート

去る2025年2月27日、東京・品川SSJ品川ビルのソニー・インタラクティブエンタテインメントにて、PlayStation5専用ゲーム『アストロボット』制作チームとファンの交流イベント「Team ASOBI ファンミ!」が開催された。

『アストロボット』フォトコンテストの多数の応募者の中から選ばれた幸運なファンだけが参加できた今回のイベントに、ガジェット通信ライターも潜入! 会場内で撮った写真と共にイベントの模様をお伝えしていく。

その場にいるだけでワクワク! GOTY4冠を取った大作の貴重な資料が撮影OK!

『アストロボット』は、昨年アメリカ・ロサンゼルスで開催された「The Game Awards 2024」にて、「Game of the Year(GOTY)」を始め4冠に輝いたことも記憶に新しい。

今回のイベントでは、その誇るべき作品のコンセプトアートや設定画、また特大サイズのアクリルスタンドの展示などもあり、その場にいるだけでワクワクできるおもてなしに満ちていた。しかも展示物はすべて撮影OK! 我々メディア関係者以外にも、この貴重な空間をカメラに収める来場者は多かった。

▲『アストロボット』とコラボレーションしたロボットトイ「toio(トイオ)」の展示も

▲プレイスペースでは小さな来場者が『アストロボット』に夢中!

大事なのは「魔法のような体験」。「Team ASOBI」の“バリュー”を紹介

トークセッションはアットホームな雰囲気でスタート。出席してくれたのはソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)内にあるゲーム開発スタジオ「PlayStation Studios」のひとつ「Team ASOBI」からスタジオディレクターのドゥセ・ニコラ氏、シニアゲームデザイナーの森田玄人氏、シニアゲームプレイプログラマーの吉田匠氏、シニアコンセプトアーティストの中井俊彦氏、アートディレクターのブルクナー・セバスティアン氏、3Dアーティストの杵渕美帆氏、リードエンバイロメントアーティストの川口真由氏という『アストロボット』を創った面々だ。

▲スタジオディレクターのドゥセ・ニコラ氏

▲シニアゲームデザイナーの森田玄人氏

▲シニアゲームプレイプログラマーの吉田匠氏

▲シニアコンセプトアーティストの中井俊彦氏

▲アートディレクターのブルクナー・セバスティアン氏

▲3Dアーティストの杵渕美帆氏

▲リードエンバイロメントアーティストの川口真由氏

今回のセッションでは開発スタジオである「Team ASOBI」の概要や、『アストロボット』の歴史、そして本作の制作秘話などが語られていく。

まず「Team ASOBI」について、現在は65人のメンバーがさまざまな職種で在籍しているそう。スタジオを作るうえで大事にしていることの1つについて、二コラ氏は「魔法のような(MAGICAL)」という言葉を用いた。ゲーム開発に高い技術を用いるのはもちろんだが、それだけではゲームにならない。ゲームを楽しく「魔法のような体験」にすることが必要だと言う。

▲「Team ASOBI」の5つのバリュー(=大事にしている価値基準)

またそうした「魔法のような体験」に加え、「プレイフル(PLAYFUL)」であることも大事にしているという。その言葉には「カラフル」や「楽しい」という要素も含まれており、「もしもチームでホラーゲームを作ることがあるとすれば、本当に楽しいホラーゲームになる」ということも語られた。

チームは日本人が8割で、残りの2割は世界各国から集まったメンバーで構成されている。世界に向けたゲームを開発するに当たり、「例えば冗談の話をする時に、その冗談は本当に世界で面白いかどうか」も議論されるそうだ。

「ゲームになるイメージはなかった」アイディアからGOTY4冠作が生み出されるまで

続いては『アストロボット』の起源についてのセッションがスタート。話は2012年、PlayStation4のプリインストールソフト『プレイルーム』からはじまる。

当初は「最新ハードで何ができるか」という研究からスタートしており、「家のリビングルームで、自分の部屋にたくさんの子供がいれば楽しいかな」というアイディアから、コントローラーの中に住んでいる大勢のキャラクターが吸い込まれたり吐き出されたりというデモがつくられたが、それがゲームになるイメージはなかったそう。プロトタイプを作って遊ぶうちに、その面白さからやがて『プレイルーム』というゲームの形になっていったのだ。

▲デモ画面に映っているのは森田玄人氏

また『プレイルーム』には、『NINJA BOTS for THE PLAYROOM』という無料のDLCがある。ここで登場したキャラクターこそ初めて自分で操作するもので、これをゲームデザイナーの森田氏は「『アストロボット』のおじいちゃんとか、先祖っていう感じ」と表現した。なお自分で操作するキャラクターを見失わないように当時付けられたマフラーが、今の『アストロボット』にも踏襲されている。

▲“おじいちゃん”と呼ばれる割にはスタイリッシュな『NINJA BOTS』

続いて『The Playroom VR』の話題も。この作品の中に収められた「ロボットレスキュー」から、現在の『アストロボット』にも通じるジャンプアクションや、コントローラーが見えなくても直感的に操作できる〇ボタンと□ボタンによるシンプルな操作性などが生まれたとのことだ。特に、キャラクターがこっちを向いてくれる可愛さにも当時から着目されており、『アストロボット』にも時々カメラの方を見て手を振るという動作が加えられたそう。

▲貴重な開発中の画面。こっちを向いてくれている姿が可愛らしい!

ちなみに「ロボットレスキュー」ではキャラクターにまだ名前がなく、”ヒーロー”と呼ばれていたが、”アストロボット”という名前がついたのは続編となるVRゲーム『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』から。

二コラ氏によれば、当時はストアにたくさんのVRゲームがあった中、注目されるためにアルファベットのAから始まるスペースアドベンチャーとして『アストロボット』という名前になったという。これには森田氏も「最初は何を言ってるんだろうと思ったんですけど、今となってはすごい馴染みました(笑)」と当時を懐かしんだ。

さらにPlayStation5のプリインストールソフトウェアとしてリリースされた『ASTRO’s PLAYROOM』の開発に関する話題では、「カエルのスーツ」のプロトタイプの映像も。最初は奥行きのある3Dとしてつくっていたというが、奥行きが分かりづらく難しいものになってしまったため、最終的には2Dのステージとして実装されたのだそう。

また『ASTRO’s PLAYROOM』の開発時期から、自身も体操経験者であるプログラマーが鉄棒をグルグル回るアクションについて研究を行い、これがやがて『アストロボット』の「モンキー・クライマー」のアクションになったというエピソードも紹介された。

▲自身も体操経験者であるプログラマーが鉄棒アクションを作った!

「PS5をバラバラに」!? 壮大なスケールで作られた『アストロボット』開発秘話

話題はいよいよ『アストロボット』の開発秘話へ。4年前のビジョンでは、イノベーションを起こせるようなもっと大きなゲームを作るために、「PlayStation5の形をしたスペースシップがあり、そのスペースシップが攻撃されて、みんなバラバラになってしまう」という壮大なスケールの物語が考えられたのだそう。

なお当初は「PS5をこんなにバラバラにしていいのかな」という心配もあったそうだが、ハードウェアを作るチームとの会話で「それはスペースシップなので、ぜひ(笑)」と承諾が得られたという裏話も。

▲「スペースシップなので」バラバラにもされるし、修理もされるPlayStation5

そしてさまざまな世界でボットたちを助けだす物語が試行錯誤を重ねながら作られていく中、最後は「『スター・ウォーズ』みたいなエンディングにしましょう」ということで、歴代のPlayStationハードもスペースシップとして登場させることに。

ただ、チームはこれまでシューティングゲームを作ったことがなかったことから「どうやって作るか全然知らなくて、めちゃめちゃ大変でした」という苦労も語られた。

一方『ゴッド・オブ・ウォー』や『ホライゾン』など歴代プレイステーションの名作ゲームが体験できるヒーローステージについては、当初の予定では「ミニステージ」として小規模なものになる予定だったと語られると、会場からは笑いが……。最終的にはまったく「ミニ」どころか、やりたいことが豊富に詰め込まれた原作再現度のものになったのだった。

▲「MINI STAGE」と書かれているが、ぜんぜん「ミニ」じゃなかったヒーローステージ

ほかにも、相撲取りの敵キャラ”SUMO ENEMY”やパワーアップのブルドックブースター、モンキー・クライマーなどアイデアの元はポストイットから生まれたという秘話も。特にブルドックブースターなど、当初はジェットエンジンのようなデザインだったそうだが、いろいろ議論が進んだ結果、最終的にはなぜか犬をモチーフにするというアイディアに落ち着いたとのことだ。

▲ポストイット(付せん)から生み出されたアイディアも、デザイナーの絵に起こされ、やがてプログラマーによってゲームになっていく

「アストロの好きな食べ物は?」「日本語を喋るようになった経緯は?」Q&Aコーナー

次のコーナーでは、来場者の質問に「Team ASOBI」スタッフが回答していく。まず「アストロくんたちはエネルギー補給をどうしていますか? 好きな食べ物があったら教えてください」という質問には、二コラ氏より「細かいルールは考えていません」との回答が。

アストロには口がなく、それにはデザインの時点で試しに口を作ってみると可愛さが変わってしまうためや、新たに口のアニメーションを作る必要もあることでやめた経緯があったそう。ただゲームの中ではポップコーンなども登場し、「口がないのに食べてるぐらいでジョークになる」という狙いも語られた。なお、中井氏の個人的見解によれば、「それらしいフリをしているのかなって僕は捉えています」とのことだ。

一方で、ブルドックブースターには骨を与えるシーンが出てくるが、これも当初は肉を与える予定だったものを、「この世界では、肉はちょっとリアルすぎる」という考えから変更されたそう。

続いて「大量の宝石が降ってくる場所で処理がすごいと感動したのですが、ほかにも裏ではすごい処理をやっていた場所があれば教えてください」という質問では、吉田氏が回答。「スポンジになって水をバシャバシャ出すところは、フレームレートが安定しなくて大変で、最後までずっと最適化をやってたりしました」とのこと。

さらに、「あとは地味なところで、一番最初のステージで丸太をホバリングで切れるところがあるんですけど、結構重い処理を裏でやっていて。実況動画とか見てると、結構スルーしちゃう人が多い。『切ってくれ、切ってくれ!』といつも見てます」という細かいこだわりも。

また「『アストロボット』ではたまに日本語が聞こえてきます。今作でボイスに日本語が採用されたきっかけなどを教えてください」という質問に対し、二コラ氏は「日本語はすごく真似しやすく、可愛い音もあり、きれいな言語だと私は思います。なので、大事なアクションをするときにそういうサウンドが出てくるのが合っていると思いました」と回答。「タスケテー」などの日本語が聞こえる仕様は世界共通で、海外でも「真似したい言語」として受け入れられているという。

「アストロクイズコーナー」ではスタッフ陣にも議論が勃発!? マニアック問題が次々出題

最後はマニアックな難問も飛び出す「アストロクイズコーナー」へ。1問目の「アストロが初めて登場したゲームはどれでしょうか?」という問題からスタッフ陣も議論に。正解としては『The Playroom VR』が用意されていたものの、前パートのトークセッションの中で「キャラクターにはまだ名前がなく、”ヒーロー”と呼ばれていた」という話も出ていたことから、『ASTRO BOT:RESCUE MISSION』を選んだ回答者も正解となった。

さらに6問目となる「アストロのパワーアップのうち、生き物モチーフではないものは何種類?」の正解は「ポット」「スポンジ」「ストップウォッチ」で「3つ」とのこと。ところがこちらも「最後の最後だけ登場するマシンガンも、パワーアップっちゃ、パワーアップだから……」とスタッフ間では議論になりかけたが、「4つ」と答えた回答者はいなかったため「3つ」が正解に。

どれもマニアックな7問だったが、なんと1人だけ全問正解者がおり、見事賞品として「アストロぬいぐるみ」が二コラ氏より直接手渡しで贈られた。

▲全問正解者に「アストロぬいぐるみ」がプレゼント!

1時間半にも及ぶ贅沢なセッション。最後にはスタッフ一人ひとりからお礼の挨拶が贈られる中、特に筆者の印象に残っているのは森田氏の「技術と、人に支えられてアストロが育ってきたなっていう実感があって、今日も皆さんに会えて本当に嬉しく思っています」という言葉だ。

GOTY4冠を取る大作は、一朝一夕で生み出されたものではない。実験や研究を繰り返し技術が培われていったのはもちろんのこと、そうして生み出されたキャラクターをファンが愛し、支えていったから、いまこうして世界中で愛される作品へと育っていったのだ。

▲最後は「アストロー!」の掛け声で、集合写真をパシャリ

きっと次のGOTYを取るような作品も、ただ技術が高いだけのゲームではない。それこそ二コラ氏が語ったような「魔法のような体験」ができることに加え、プレイヤーの一人ひとりがファンとなって支えたくなるような、そんな魅力的な作品が選ばれる。そしてそんな作品を生み出すのに必要なのは、作り手の力だけではない、我々ゲームプレイヤーの力も不可欠なのだ。

▲セッションの後には、来場者ひとりひとりに「Team ASOBI」アートチームの3名から手描きのイラストが贈られた

▲なんと、ガジェット通信向けにも描いていただいた!

(取材・文/平原学)

(C)2024 Sony Interactive Entertainment Inc. Developed by Team Asobi. Astro Bot is a trademark of Sony Interactive Entertainment LLC.

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