映画『ナマズのいた夏』中山雄斗&架乃ゆらインタビュー 「日常を忘れさせてくれるのではなく、日常を支える作品に」

中⼭雄⽃さん、架乃ゆらさん共演の映画『ナマズのいた夏』が全国順次公開中です。本作は、衰えゆく地方都市を舞台に、生きづらさを抱えた若者たちのひと夏の物語を描く青春群像劇です。

中学時代に亡くした友人の墓前で旧友の哲也と再会した達生(中山)は、バイト先の元同僚・結衣(架乃)の3人で夏休みの数日間を地元の田舎町で過ごすことに。そこで出会ったベトナム人技能実習生たちと交流しながら、次第にそれぞれが抱えていた過去と向き合っていくというストーリーです。

未来に希望を持てない今の日本を映し出しているとも言えそうな本作について、達生役の中⼭さん、ヒロイン・結衣役の架乃さんに話を聞きました。

■完成した映画を観て

中山:自分の辛かった過去や劣等感などは生きていれば排除したいもので、みんななくそうとするけれど、それらとどう共に生きていくかを考える映画だなと思いました。そしてそれらに常に向き合い続けることで、初めて人を愛せるようになるのではないか、そんなことも思いました。

架乃:わたしが演じた結衣に共感する部分がけっこうあり、たとえば人から見たら彼女には一貫性がないんです。男子といい感じになったのにそっぽを向いてしまうとか。でもそれは、結衣の中では感情でひとつにつながっていて、そこがわたしにはよく分かるんです。試写で観た時、それがちゃんと映像に出ていてよかったなと思いました。

中山:僕も一貫性がないところが人間的だと思っていて、僕自身も昨日と今日で考え方が違う。でもそういう自分を愛せないと、傷ついてしまいますよね。愛せないまま社会に出て行って、その関わりの中で落ち込む人がいると思いますが、自分に一貫性がないことを自覚して愛せれば、他人のそういうところも愛せるのではないか、ということじゃないかなと。

架乃:この映画もまさにいろいろな人物が出てきて、それぞれに関わっていく過程でいろいろな物語が生まれてくるのですが、人間はそうやって存在しているんだなって、完成した映画を観ながらすごく感じました。

■演じた役柄について

中山:達生は釣りが好きなので釣り堀に行ったりしましたが、役作りをする際、その人の裏側を見てダメな部分から作りました。社会に向き合えていない、お父さんみたいになりたくないとか、コミュニケーション能力がないわけじゃないけれど、ひとりの時間を大切にしているから釣りをしているのかなとか、社会と上手く関われない部分を探して演じました。

架乃:結衣は幼い時にあまり両親の愛を受けておらず、今は性風俗の仕事をしています。性風俗の仕事という意味では近い存在にいたのでなんとなく分かるのですが、子どもの頃の育ち方は自分からは遠いものだったので、参考にするためにいくつか本を読みました。

中山:とはいえ僕の場合は、暗い人間になりすぎないようにしました。そういう人でも普通に楽しい時もあるわけで、そのバランスは難しかったですね。監督も「暗くなりすぎないで」とおっしゃっていて。

架乃:結衣は3人でいる時は等身大の、普通の女の子でいるように心がけました。彼女の人生の下敷きから考えると、けっこう暗いものになりそうなところなのですが、楽しい時間は普通の女の子っぽく演じて、監督も何も言わなかった。それが結果として、彼女のいろいろな表情を見せることにつながったのかなと思います。

中山:達生も結衣も普通に生きている人間だから、ということだと思うんです。映画の中のキャラクターになりすぎないように。辛いことがあっても楽しい時は普通に笑うじゃないですか。

架乃:映画で描かれる前と後にも、この人たちの人生はあるんですよね。

■映画をご覧になる方たちには何を共有してほしいか

中山:映画館で映画を観ることは日常から飛躍して日頃にはない感覚になったり、そういう楽しみ方もあるかと思いますが、この映画はどちらかというと、特別な事件が起きるわけでもないし、何か日常から飛躍した物語ではないんですよね。内容的に日常を忘れさせてくれるものではなく、日常を支えるものになってほしい、そういう作品になってほしいと僕は思っています。

架乃:大きな事件が起こるわけではないですが、その中での人間関係がかなりリアルで、ヘンにきれいに書いていない感じがあると思いました。観る人にとっては嫌に思う人物もいるかと思いますが、その人物もしっかり人生の下敷きが描かれます。もし今後、生きていて気に食わない人がいた時に、その人にも家庭があるんだよなと思えれば、自分の余裕にもなる。そういう風に物事が観られるきっかけになればいいなと思っています。

■公式サイト:https://mikata-ent.com/movie/2010/ [リンク]

■ストーリー

中学時代に亡くなった友人の墓前で旧友の哲也と再会した達生は、バイト先の元同僚・結衣と3人で、夏休みの数日間を地元の田舎町で過ごすことになる。達生の父が社長を務める経営不振の工場の寮に滞在しながら、彼らはそこで働くベトナム人技能実習生たちと交流し、それぞれが抱えていた過去と向き合っていく。

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(執筆者: ときたたかし)

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