【連載コラム】マンガライターちゃんめいの「一曲、読んでみる?」第1回 ー『この世は戦う価値がある』(こだまはつみ)とチャットモンチー 「Yes or No or Love」
このマンガを読むとあの曲が脳内に鳴り響く…。
それは逆もまた然りで、時にマンガと音楽が出逢う奇跡みたいな瞬間がある。本連載では、そんなマンガと音楽の邂逅に恵まれた瞬間をマンガライターのちゃんめいが徒然なるままに綴っていきます。
<紹介する作品>
・『この世は戦う価値がある』(こだまはつみ)
・チャットモンチー 「Yes or No or Love」
記念すべき第1回目に紹介するのは、ここ数年仕事をしていく上で私の転機となった作品。と、その作品を読むたびに自然と脳内に流れる音楽。
――「やります!」が口癖だった。執筆ジャンルを大好きなマンガに絞り、マンガライターとして活動を始めて5年が経とうとしている。現在は作家さんのインタビューや作品レビューやコラムといった仕事をメインでしているが、実は長らくマンガに関わる依頼なら何でも「やります!」と即答していた。
ニュース記事、イベントレポ、サイト掲載用のあらすじ執筆、そしてリサーチ業など、書くこと以外の仕事もたくさんやらせてもらった。それが今の自分の血肉になっているので、当時の自分の意思決定や仕事に対する後悔は一切ないけれど、やっぱり全てを「やります!」で通すのは無理だった、というか心身ともに限界を感じたことがあった。
それで、昨年くらいから「こういう感じであれば(概要やスケジュール的なもの)やりたいです」という答え方をするようになった。「やります!」も立派な意思決定なのだが、こちらの方が“自分で手綱を握る意思決定”というか、より明確な意志が宿っているように思う。実際にやってみた結果、自分がご機嫌に仕事をしていくためにはこれが案外大切だな、なんて感じた。
自分がそんな考えに辿り着いたのは、限界を感じていた時に出会った
という作品の影響だ。主人公は自分を擦り減らしながら生きてきたOL・紀理。彼女は限界寸前まで追い詰められたところでふっ切れ、これまでにやり残したことを精算しながら、自分のために人生を歩み始める。
この精算のフォーマットがとてもユニーク。左には「貸し」として相手に返したい今まで受けてきた傷み、あるいは今までやりたくても我慢してきたことを。右には「借り」として、今まで人から受けた恩を書き連ねる。貸借対照表の形式で書かれた「死ぬまでにやりたいリスト」を達成していくごとに、どん底だった彼女の人生は少しずつ動き出す。
例えば、借りたままになっていた物を全て持ち主に返すなかで、かつての同級生と再会して失っていた友情を取り戻したり。いつかやりたかったことの一つ! と言って公営ギャンブルを制覇しまくったり。でも決して享楽的に生きているのではなく、その最中で出会う人たちを救ったり、思いがけない出会いによって人生がさらに色付いたり…。読み進めていくたびに、覚悟を決めた人間の強さと、それによって引き寄せられる奇跡みたいなものをまざまざと見せつけられる。なんというか本当に気持ちの良いマンガだ。
そんな彼女の物語が動き出す時には、必ず自分の“意志”がある。自分は今どうしたいのか、何を思っているのか、そしてこの世は戦う価値があるのかどうか…。一つ一つは小さなことかもしれないけれど、確かな意志の積み重ねの先にある彼女の物語に触れると、自分の生き方を自分で決めていくこと。その大切さと尊さを改めて思い知らされるのだ。
そうして、私は『この世は戦う価値がある』をきっかけに自分の意志というものについて深く省みることとなり、冒頭で話したような変化があったのだが。本作を読んでいると、学生の頃によく聴いていたあの曲の一節が脳内にリフレインする。
Yes or No Love すべての答えはたった3つの選択肢
なぜなら 世界はわたしの意志と愛でできている
チャットモンチー / 「Yes or No or Love」
生きていくうえで自分の意志が大切だなんてことは、頭では十分わかっている。でも、そもそも自分の意志が何でできているのか、そして意志とやらを大切にした先に何があるのか? と立ち止まってしまうことがある。そんな時、私はこれからもこのマンガと曲を道標のようにして、繰り返し読んで、聴くんだと思う。
●マンガライターちゃんめいの「一曲、読んでみる?」は毎月1日22時に掲載予定です
プロフィール
ちゃんめい
マンガライター。マンガを中心に書評・コラムの執筆のほか作家への取材を行う。宝島社「このマンガがすごい!2024、2025」参加、その他トークイベント、雑誌のマンガ特集にも出演。オールタイムベストは『鋼の錬金術師』(荒川弘)。
https://x.com/meicojp24
https://chanmei-manga.com/
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