赤い霧のなかのサバイバル〜A・J・ライアン『レッドリバー・セブン:ワン・ミッション』
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目覚めると、そこは船上だった。
あたりに広がるのは、赤い霧が立ちこめる世界。
船にいるのは、六人の生者とひとつの死体(頭に銃弾が撃ちこまれている)。生きている者は自分の名前をはじめ、過去についてのいっさいの記憶を喪失していた。ただ、それぞれが何らかの専門スキルを有しており、それにかかわる知識はクリアである。
コードネームが腕にタトゥーで記されていたので、互いにそれで呼びあうことにした。それぞれのコードネームと性別、専門スキルから推測される職業は次のとおり。
ハクスリー……男、刑事
リース……女、医者
ゴールディング……男、歴史家
プラス……女、科学者
ディキンスン……女、登山家
ピンチョン……男、兵士
コンラッド……男、(死体)
コードネームは英米の著名作家にちなんだものだが、それに何かの意味があるかどうかはわからない。ほかに手がかりらしいものといえば、全員の身体にある手術痕くらいだ。また、船には武器が豊富に積みこまれており、どうやら七人は尋常ならざる状況に直面しているのだろうと察しがつく。やがて降りかかるであろう困難を、互いの専門スキルをあわせて乗り越えていかなければならない。しかし、同時にこんな疑念も湧いてくる。七人すべてが同等の立場だろうか? ほかのメンバーを監視するため、あるいは操るために送りこまれた裏切り者が潜んでいるのではないか?
物語の序盤、疑心暗鬼に陥りそうな緊張感でいるところに、衛星携帯電話によって機械音声の指令が送られてくる。「個人的な記憶を思いだしたメンバーはだれであれ危険な存在であるとみなさねばならない。殺すのだ」
以降、物語は直線的に進み、謎が徐々に明らかになる。主要登場人物はコードネームの面々だけなので、その七人のリストをかたわらに置き、各キャタクターの正体や経歴など判明した事実と、それぞれがたどる運命をメモしながら読み進めることをお薦めしたい。サスペンスがいっそう高まるはずだ。
SF設定について言えば、異形化した世界の真相が終盤で判明する。そこで用いられる科学的タームや機序こそ現代風だが、骨子となるアイデアおよびそこから展開する画像的インパクトは、スリリングな破滅小説の醍醐味だ。読みながらリチャード・マシスンやスティーヴン・キングを連想した。
(牧眞司)
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