オリンピック史上最悪の事件を映画化『セプテンバー5』ジョン・マガロ&レオニー・ベネシュに聞く「今振り返ることによって、ジャーナリズムについて考えることが出来ると思う」

オリンピック史上最悪の事件として今もなお語り継がれている歴史的な1日を、緻密な脚本と重厚な映像で圧倒的な緊迫感を描き、ゴールデングローブ賞 作品賞(ドラマ部門)に続き、 アカデミー賞 脚本賞に見事ノミネートされた『セプテンバー5』。2月14日より公開となります。

本作は、ミュンヘンオリンピック開催中の1972年9⽉5⽇に、パレスチナ武装組織「⿊い九⽉」に襲撃されたイスラエル選⼿団11⼈が犠牲になったテロ事件を題材に、緻密な脚本と重厚な映像で圧倒的な緊迫感を描き出した社会派映画。⽶映画レビューサイトRotten Tomatoesでは批評家スコアが93%、観客スコアが91%(※)と高評価を得ています。(※2025年2月9日現在)

コーディネートプロデューサーのジェフリーを演じたジョン・マガロさん、ドイツ人翻訳家のマリアンネを演じたレオニー・ベネシュさんにお話を伺いました。

――非常にスリリングで楽しませていただきました。緊迫感がすごく、演じている皆さんはへとへとになったのでは?と想像します。撮影で緊張感をキープするためにスタッフ、キャストが工夫していたことを教えてください。

レオニー:全員が同じ認識を持っていたかは分からないのですが、私自身のことを言わせていただきます。意図的に何かをやるよりも、無意識で緊張感が出てくるという状況が一番演技しやすいのですが、本作は脚本に事細かく状況が書かれていたんです。本当にもう贈り物のような脚本だったんですね。「このキャラクターが、どういう思いでこれを言っているのか」ということがとても分かりやすかったので、すごく演じやすかったです。

ジョン:今レオニーが言ったとおり、脚本がすごくしっかり書かれていたので、そこに寄り添って俳優としての直感を信じて演じることが出来たんだ。1日中ずっと緊張感を維持するというのは本当に辛いんだよね。なので、本作の撮影では、カメラが回っていない時間はみんなで楽しい話をしたり、ちょっと遊んだりしていました。自分のこれまでのキャリアを振り返ってみると、コメディを撮っている時は、カットがかかるとみんなすごくシリアスになって、本作の様なシリアスなドラマを撮っているとカット後、みんなおちゃらけたり楽しい空気になることが多いんだ。

――これまでたくさんの素晴らしい作品に出演されているお2人も感じる脚本の素晴らしさというのがすごいですね。

ジョン:生活をするために良くない脚本を演じざるを得ない時もあるんだけど(笑)、去年はレオニーが出演した『ありふれた教室』もそうですし、僕が出演した『パスト ライブス/再会』も、映画賞の脚本賞にノミネートされて、どちらも素晴らしい脚本だった。そして本作でもこんな素晴らしい脚本に出会えて嬉しかったんだ。

――ジェフリーとマリアンネはチームの中で若手であり、良さを活かしながら成長を感じるキャラクターでしたが、お二人がこの現場で学んだことはどんなことでしょうか。

レオニー:素晴らしい俳優たちのアンサブルに加われたことがまず感謝の気持ちでした。ティム監督がキャスティングをする際に、セリフが無い小さな役だったとしても、コントロールルーム勤務ならばその経験のある人を選んでいたという所がすごかったです。そういうセットで演技をすることは今回初めてだったので、とてもたくさんの学びがありました。

ジョン:ピーターとベンは歳をとっている俳優だから、それだけ経験も積んでいるのだけど(笑)、これは冗談です。彼らに比べたら僕はまだ経験が少ないから、演じたジェフリーというキャラクターと同じくたくさんのことを学ばさせてもらったよ。

――セットやプロップスなど時代背景に基づいてしっかりと作られていたそうですね。驚いた部分はありますか。

ジョン:何よりも「まだ動く」ということに驚いたよね。CBSのニューススタジオに行って勉強させてもらった時に、古い機材が保存されている地下室も見学したのだけれど、実在はしないだろうと言われている機械もあって、ちゃんと動いたからね。僕は年齢的に撮影を記録するテープとか、ダイヤル式の電話も見たことがあったから懐かしいなという気持ちもあった。

――史実でありながら現在でも変わらぬ社会問題をはらんでいる作品だと思います。どの様なメッセージを受け取りましたか。

レオニー:私がこの作品にすごく関わりたかった理由が、本作が「中立的な視点というのは本当にはあるのか」という問いを持っていた所なんです。視聴者に暴力的な事件を生放送で見せることによって得られるものはあるのか?そのクエスチョン、疑問点、問いかけにとても惹かれました。

ジョン:今の時代って、ニュースをいかにセンセーショナルに書き立てるかを重要視していますよね。本作で描かれている事件をきっかけにニュースの捉え方が変わったと思うから、今あえて振り返ることによって、僕たちもジャーナリズムということに対して一度考えることが出来ると思う。
こうして様々な国の取材を受けている中で、僕が個人的に一番嬉しかった反応が、72年当時の事件を体験していて、自分があの日何をしていて、どういう気持ちでこれを見たか、という思い出を共有してくれることなんだ。それこそ報道の現場にいた方から「編集室の描写がすごくリアルだったよ」という感想をもらうと、良い仕事が出来たんだなと嬉しいんだ。

レオニー:たくさんの方がすごく熱心に観てくれることが嬉しいし、ニュースというものがどういう風に作られて、それを我々がどうやって消費しているかということを知ってもらえることが映画の意義として素晴らしいと感じています。

【STORY】
1972年9⽉5⽇ミュンヘンオリンピックでの、パレスチナ武装組織「⿊い九⽉」による、イスラエル
選⼿団の⼈質事件。事件発⽣から終結まで、その緊迫に溢れた⼀部始終は、当時技術⾰新
がめざましい衛星中継を経て全世界に⽣中継された。
しかし、全世界が固唾を飲んでテレビにくぎ付けとなったその歴史的な⽣中継を担ったのは、なん
とニュース番組とは無縁のスポーツ番組の放送クルーたちだった。

■監督・脚本:ティム・フェールバウム 『HELL』、『プロジェクト:ユリシーズ』
■出演:ジョン・マガロ『パスト ライブス/再会』、ピーター・サースガード『ニュースの天才』、レオニー・ベネシュ『ありふれた教室』、ほか
■全⽶公開:2024年11⽉29⽇ ■原題:SEPTEMBER 5 ■配給:東和ピクチャーズ
■コピーライト:©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved. ■公式サイトURL:https://september5movie.jp/

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

ウェブサイト: https://twitter.com/ZOKU_F

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