映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』近藤亮太監督インタビュー “物理メディア”ならではの、意図しなかったノイズの生まれ方

2022 年の年末に行われた、日本で唯一のホラージャンルに絞った一般公募フィルムコンペティション「第2 回日本ホラー映画大賞」(主催:KADOKAWA)にて大賞を受賞した、近藤亮太監督の短編映画『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』を長編映画化した同名タイトル作が、1 月24 日(金)より全国公開中です。

本作は、弟の失踪にまつわる一本のビデオテープに閉じ込められた、粗く不穏な映像に心底ぞっとするような、真の恐怖を体感できる、ホラーファン待望の“正統派J ホラー”。近藤監督は、『リング』シリーズの脚本家・高橋洋氏に師事。高橋氏の監督作品やNetflix ドラマ「呪怨:呪いの家」でも助監督を務め、昨年話題のテレビ東京ドラマTXQ FICTION 第1 弾「イシナガキクエを探しています」に続き、第2 弾「飯沼一家に謝罪します」で演出を務めるなど、ホラー界に彗星の如く現れた俊才として、今、最も熱い注目を集めています。主演は、近年話題の数々の映画・ドラマに出演し、昨年今年公開の映画『プロミスト・ランド』に主演するなど若手注目俳優の筆頭の杉田雷麟、主要キャストには、平井亜門、森田想、藤井隆が名を連ねます。さらにJ ホラーの巨匠、清水崇監督が総合プロデューサーを務めています。

本作にて商業映画デビューを果たした近藤監督に作品作りへのこだわりなどお話を伺いました。

――本作とても素晴らしかったです。ご自身で手がけられた短編を長編にする際に大変だったことはありますか?

長編にする予定が無かったものではあるので、自分でも無理だと思っていたんですけれど、骨壺の不法投棄のニュースを見た時に、この要素を物語の中盤に入れると話をちょっと遠いとこまで展開出来るなと思いました。
そうやって単発のアイデアを出しつつも、物語の背骨というか、何を巡ってどう話が進んでいくのかみたいなことをずっと考えていました。単純にビデオテープを探すだけだったら、実家に行って終わってしまうので。さらにその先に進となると、山を巡る、山を巡ったらその先には何があるのか?みたいなことを逆算的に決めて行きました。そこから、「どうしてここに骨壷があるのか?」ということを考えて、「こういう理由が怖いのではないか」と考えていく。「こうだったら怖いよね」という想像を雪だるま式に大きくしていく様な感覚でした。

――「CGなし」「特殊メイクなし」「ジャンプスケアなし」でここまで怖いということに監督のセンスと心意気を感じさせていただきました。

ありがとうございます。第1回日本ホラー映画大賞に出品したのが、『その音がきこえたら』という作品なのですが、「廃校で怖いことがありました」という情報を得た上で、その場所を実際に歩いてみるという怖さを描きました。
それを経て、次はどんな作品を作ろうと考えた時に、僕がずっと怖いと思ってきた「人が消える瞬間」を表現しようと思いました。神隠というか、そういった事象は色々な映画で色々な形で描かれてきていますが、本作の様なPOV形式(登場人物の視点で撮影された映像や、一人称視点での撮影方法)で、 ワンカット内で人が消えちゃうという表現は意外と無かったんです。それを上手に撮れればかなり面白いぞと想い、POVで神隠しを描くということを決めました。
当初はもうちょっと黒い影が映って…という表現も入れていたのですが、師匠である脚本家の高橋洋さんに読んでいただいたら「人が消えるということは、こういうことではないのでは」というアドバイスをいただいて。それを聞いて、確かにそうだと。僕がやりたいことはそういうことじゃないのに、分かりやすい表現の安牌をとってしまっていた部分があったので、本当にシンプルに人が消える瞬間をちゃんと撮ろうと思いました。

――ワンカットでの撮影、大変だったのではないでしょうか。

すごくアナログに撮影しています。日向役の俳優さんに部屋に入ったら壁に張り付いてもらっていて、カメラで追っているのにその姿は見えないという。俳優さんは5歳くらいの子なので、実際にかくれんぼをしている感覚でお願いしていました。

――本作が商業デビュー作品となりますが、撮影はいかがでしたか?

スタッフ・キャストに関しては、おそらくすごく大変だったと思うんです。時間も短かったですし、ロケーションも日替わりで、毎日違うところで撮影していて、寒かったですし。でも僕自身は毎日すごく楽しく過ごしていました。メインのスタッフたちは、僕が映画学校で出会った方や、遠い後輩だったして本作が商業デビュー作なんですね。撮影の松田恒太さんも短編から続投してもらって一緒に本作で商業デビューが出来て。映画美学校の生徒同士で関係性がある状態から作品作りを始めているので、一緒にものづくりが出来る喜びが大きかったですし、キャストも杉田雷麟さんをはじめ、若いキャストの皆さんとお話するのもすごく楽しくて、良い経験をさせていただきました。

――今日こうしてお話させていただいて、きっと監督の心配りがある現場だったのだろうなと想像出来ます。

清水崇監督の撮影現場に見学に行かせていただいたのですが、すごく楽しそうな現場で、僕はまだ数少ない現場しか知りませんが、チームの作り方によるものが大きいのだなと思ったんです。自分も監督する上では、自分の立ち振る舞いによってこの現場の空気が決まるぞという感覚を持っていました。「この映画誰がやりたくてやっているんだっけ?」という空気になったら終わりだなという。「僕はこの映画が作りたいんだ」という気持ちを出していこうと意識していたかもしれません。
僕は商業デビューが叶わなかった時期も長くて、相当気合いが入っていたのですが、でもいざ始まってしまうと、目の前のことをこなすのに精一杯というか。とにかくこの現場を事故なく終わらせなければならないみたいな感じでしたね。画面に映っている役者さんが監督の色によって下手に見えちゃう瞬間というのは多分あるし、そうなったら最悪なので、それだけ防がなくてはとか。だけど振り返ると本当に楽しくてありがたい現場でした。

――「ビデオテープ」という物体自体の強さもすごく感じました。

ビデオテープ自体が怖いよね、という感覚は映画『リング』(1998)の鑑賞経験に紐づいている部分もあると思いますし、それが無かったとしても質量を持っている所も大きいなと思います。物理メディアなのでテープに傷が入れば、そこにノイズが乗っかっていく。デジタルで記録されている映像には起こらないことなので。映像自体が変質しうるということに独特の不気味さを感じますよね。情念がこもっている感じといいましょうか。

――本作に出てくるビデオテープへのノイズの加工はデジタルで作業したのですか?

実際にビデオテープに撮影してノイズを出しました。ビデオデッキを友人に借りて、その友人の家に実際に保管されていた20年前に録画した金曜ロードショーのテープに上書きする形で作っているんです。ブルース・ウィリスの『ハドソン・ホーク』(1991)という作品なのですが、友人がアクションシーンを繰り返し見ているので、アクションシーンの部分のテープがすごくすり減っていてノイズが強く乗るんですよね。 なので、アクションシーンの周辺で『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』のここのシーンが来る様に…と逆算して録画していました。
日向が消える瞬間にノイズが乗るようにしたいなと思ったら、今から7分巻き戻したところから録画し始めれば、ピッタリにノイズが乗るだろう、みたいな感じです。これは物理メディアならではですよね。

――面白いですね!そんなアナログなやり方だったとは思いませんでした。

全然意図していなかった部分にノイズが乗ったりすることも、それはそれで良い効果を出してくれていて。スマートフォンのアプリなどである、ノイズ加工のフィルターでやると“ノイズ風”にしかならないので、そういうことは本作ではやらない様に決めていました。

――そういった細部へのこだわりは高橋洋さんから教わった部分も大きいのでしょうか?

たくさんの方や作品の影響を受けていますが、高橋さんに関して言えば、撮りたいシーンのヴィジョンがすごく明確なんですよね。例えば役者さんに関して「この人は右側から見た方が迫力がある」といったことを言うんです。最初は分からなかったのですが、確かに「左側は優しいけれど、右側の方がきつく感じる」といった左右差ってあるんですよね。これは人間に限らず、風景や建物に関してもそうですが、視点の違いによって雰囲気がガラリと変わることがあることを学びました。
先ほどお話した、ビデオの質感など細部のディティールに関しては、TXQ FICTIONでご一緒させていただいている寺内康太郎さん、 皆口大地さん、大森時生さんの影響が大きいです。「フェイクドキュメンタリーQ」や「このテープもってないですか?」などで、こういう表現をすることでリアリティとフィクションのバランスを取れるのか、といったことを勉強させてもらいましたし、そこに高橋さんから学んだ映画的表現も加わっている感じです。

――確かに人間の顔って不均等で撮り方によっても大きくイメージが変わりますよね。本作後半での山の捉え方も「こっちから見たら朗らかだけど、逆側から見たら怖い」という感覚がありました。

なんとなく人間の顔に見えてしまう山とかもありますしね。ロケーション1つ取っても、見方を変えるだけで「これだ!」と決まる瞬間があります。あと、発声方法によって、同じセリフでも「先ほどは怖く無かったけれど、今は怖かった」と大きく変わることもあって。高橋さんは撮りたいシーンのために、そういったことを綿密に積み上げていく方で、僕はそこまで決めるタイプではないのですが、試行錯誤することの大切さをいつも感じています。

――脚本に金子鈴幸さん(劇団「コンプソンズ主宰」、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』)が入られていますが、監督と鈴木さんは同世代で活躍されているクリエイターですね。

金子君は元々友人でもあるのですが、彼自身はホラー作品をたくさん観るタイプの人ではないのと、幽霊も信じていないと思うのですが、世代が近いこともあって子供の頃の原体験的なものが似ているんですよね。「奇跡体験!アンビリバボー」の怖い回とか、「USO!?ジャパン」、映画『学校の怪談』とか子供の頃に見ていたものが共通していて、コミュニケーションのための媒介がいくつもある感じで。
子供の頃に見ていたそういった思い出のある作品について話しながら、そこで怖いと感じた感覚をどうやって、今再現するのかということをよく話していました。同じようにやっても怖くは無いけれど、怖かったことは事実なので。本作に限らず、その“怖い”ということの根幹を形成しているのは何なのかを考えて、再現性を持って作品作りをしていきたいなと思います。口で言うのは簡単で、それがすごく難しいんですけどね。

――気が早いですが、監督のこれからの作品もとてもとても楽しみにしております。今日は楽しいお話をありがとうございました!

【ストーリー】
「そのビデオテープには映ってはいけないものが映っている…」
敬太は昔、一緒に出かけた弟が失踪するという過去を持ち、今は行方不明となった人間を探すボランティア活動を
続けていた。
そしてある日、突然母から敬太に 1 本の古いビデオテープが送られてくる。
それは、弟の日向がいなくなる瞬間を映したビデオテープだった。
霊感を持つ同居人の司はそのテープに禍々しい雰囲気を感じ、敬太に深入りしないよう助言するが、敬太はずっと
自分についてまわる忌まわしい過去を辿るべく動き出す。そんな敬太を取材対象として追いかけていた記者の美琴
も帯同し、3 人は日向がいなくなった“山”に向かう…。

【作品概要】
作品名:『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ』
出演:杉田雷麟 平井亜門 森田想 藤井隆
総合プロデューサー:清水崇
監督:近藤亮太
脚本:金子鈴幸
企画:KADOKAWA
製作:『ミッシング・チャイルド・ビデオテープ 』製作委員会
配給:KADOKAWA
コピーライト:©︎2024「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」製作委員会
公式サイト:https://mcv-movie.jp
公式 X:@mcv_movie
公式 TikTok:missing_child_videotape

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藤本エリ

映画・アニメ・美容が好きなライターです。

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