映画『サンセット・サンライズ』岸善幸監督インタビュー “東北人同士”である宮藤官九郎との作品作り
東京のサラリーマンが4LDK・家賃6万円の神物件に “お試し移住”してみたら、まさかの人生が待っていた!監督・岸善幸×脚本・宮藤官九郎×主演・菅田将暉、映画『サンセット・サンライズ』が大ヒット公開中です。
本作は、書いたドラマは必ず注目を集め期待と信頼を一身に浴びる宮藤官九郎が脚本を担当し、2023年の『正欲』で第36回東京国際映画祭最優秀監督賞と観客賞を受賞した岸善幸が監督。ともに東北出身でもあるふたりの異色のコラボレーションから生まれた本作は、 『あゝ、荒野』(17)で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞ほか数々の映画賞を受賞して以来7年ぶりに岸監督とタッグを組んだ菅田将暉を主演に迎え、都会から移住した釣り好きサラリーマン⻄尾晋作と、宮城県・南三陸で生きる住民との交流や、人々の力強さや温かさをユーモアたっぷりに描き、その背景にあるコロナ禍の日本、過疎化に悩む地方、震災などの社会問題と向き合いながら豊かなエンターテインメントに転化させたヒューマン・コメディ。
岸善幸監督にお話を伺いました。
――本作とても楽しく拝見いたしました。岸監督の初のコメディ作品だそうですね。難しさを感じた部分はありましたか?
これまで宮藤さんの作品を色々拝見していましたから、宮藤さん脚本ならではのテンポ感や空気感を大切にしないといけないなと心掛けていました。コメディという初のジャンルは確かに難しかったですが、現場で俳優さんと向き合って作品作りをすることにおいてはあまり変わらなかったです。これまでの作品と大きく違う点は、僕は監督として現場でモニターを見ているのですが、ずーっと笑っていたことでしょうか。本当に毎日大爆笑の連続で。最初の観客として作品を見させていただいている様な感覚になっていました。
――個性的なキャラクターが出てきますが、みんなとてもチャーミングですよね。
宮藤さんの脚本に描かれているキャラクターを、キャストの皆さんが本当に見事に演じきっていて。脚本を読んだ段階では分からなかった部分が、現場で鮮明に浮かび上がってきて、想像以上の素晴らしさを感じました。そのチャーミングさってちょっとした匙加減だったりするので、キャストの皆さんの力に助けられたと思います。
――宮藤さんとタッグを組むにあたりどの様なお話をされたのですか?
この企画が立ち上がるまで宮藤さんの脚本を自分が演出することなんて1ミリも考えたことがありませんでした。佐藤順子プロデューサーが本作の原作を僕に読んで欲しいと渡してくれて、原作も非常に面白かったですけど、脚本が宮藤さんですと言われて、そうなんだ!と。プロットの第1稿を読んだ瞬間にもう笑っていましたね。
宮藤さんは宮城県出身、僕は山形県出身で、微妙に文化も言葉も違うんですけど。“東北人”というくくりで言えば共通していることがたくさんありました。芋煮会もそうですし、魚が釣れる、山菜が取れる、子供の頃からお互いにそういったことに触れてきていて、そんな経験とか体験を面白おかしく話しあいました。とくに東北人の気質については盛り上がりましたね。東北人のダメなところ、外の人はなかなか言えないじゃないですか。でも僕らはお互い東北人なので遠慮のない分析をした上で、「いろいろなディティールを映画にいれたいですね」ということで確認しあいました。
あとはコロナ禍が与えた影響についても話してます。不要不急と言われた映画や舞台に関わっている者同士なので、コロナの記憶って強く残っているんですね。マスクをしないと嫌がられたこととか、人と近づけない距離とか、宮藤さんは非常に敏感に感じ取っていたようです。今回コロナ禍を描くにあたって、宮藤さんが書いた脚本での描写と、撮影前にスタッフが綿密にリサーチしたコロナ禍の経過や出来事にはほとんどズレがありませんでした。
――百香が可愛らしい布マスクをつけていたり、つけているマスクで人物像が分かる部分もありましたよね。
特にコロナ初期の手作りマスクについては、キャラクターによって布地やデザイン(柄)を検討しました。可愛らしい布とか、大漁旗のようなデザインの布とか、衣装さんとメイクさん含めて相談して。前半の手作りマスクは、ヘアメイクの新井はるかさんが作ってくれたものなんです。衣装やメイク同様に、登場するマスクの順番を決めて、撮影にのぞみました。
――細部までのこだわりが素晴らしいですね。少し話が戻って恐縮ですが、監督と宮藤さんが思う東北人の気質ってどんなものですか?
表に出しゃばらない人が多いところは良いところですよね。遠慮気味な人が多い。それは裏を返すと、その人がいない場所で悪口を言っちゃうみたいなところがあるんです。映画の中にもそういうシーンがありますけれど、お酒を飲むと気が大きくなっちゃう。大体飲兵衛ですよね、東北の人って。酒の力を借りて大きいこと言う人も多いんじゃないかと思います。決して酒乱じゃないんですけど、そういう人を僕も、たぶん宮藤さんも子供の頃からよく見てきたんです。
――お2人の描く人物って、ダメだなあって思うところがあっても憎めなくて愛らしい部分があるのは、そういった子供の頃のご経験も活きているのかもしれませんね。
そういうところはあるかもしれませんね。本作の舞台になっているのは漁師町なので、漁師的な気質も足してあります。竹原ピストルさん演じるケン、三宅健さん演じるタケの2人はそういう方向でキャラクター付けされています。宮藤さんが祈る会4人(竹原さん、三宅さん、山本浩司さん、好井まさおさん)の撮影現場に見学に来ているんですが、自分で書いているセリフの芝居に本当に笑っていました。特に三宅さんのヤンキーぶりにはこちらが呆れるくらい笑っていて(笑)。三宅さんはアイドルとして長年第一線で活躍している人ですから、観客を喜ばせるための一生懸命さがすごいですね。それは竹原さんも同じで、ギター1本で多くの人を感動させるミュージシャンとしての説得力が、本作にも十二分に出ていると思います。
――移住してくる晋作を演じた菅田さんも、いつもの菅田さんとはちょっと違う表情を見せていましたね。リラックスして表情もほわんとした印象を受けました。
多分あれが菅田さんの演技設計なのだと思います。『あゝ、荒野』の時はヤン・イクチュンさんと対戦するために7、8kg体重を増やしたんですよね。今回は7kg“増えちゃった”。撮影現場では美味しいものをたくさん食べていたので、増えてしまうのは当然なんでしょうが、菅田さんはあえて晋作のリラックスした雰囲気を出すためにそうしていたと思います。もちろん撮休の時間に釣りをしたり、スタッフと一緒に食事をしたり、楽しみながらなんですけど。
――もう美味しそうなものオンパレードで、ある意味飯テロ映画ですね(笑)。
とにかく地元の魚も酒のつまみも美味いんですよね。芋煮は東北各地でいろいろな作り方があるんですよね。山形は牛肉に醤油味ですけど、宮城は豚肉に味噌味と違いもあって。でも、宮城の芋煮も美味しいんです。
――監督と宮藤さんで“芋煮戦争”にならなかったのですか?
最初の頃の脚本では、宮藤さんやスタッフがそこにすごく気を遣ってくれて。芋煮会のシーンには、最初鍋が2つあったんです。山形の芋煮と宮城の芋煮が。でも両方撮ると尺が長くなるので宮藤さんに「山形の芋煮はカットしましょう」と伝えて、宮城で行くことに決まりました。
――百香と魚を捌くシーンもすごく素敵でした。
菅田さんと井上さんには東京で料理教室に通って、魚の捌き方を練習してもらいました。でも、撮影現場の台所は練習したキッチンとはまた違っていて慣れるまで、大変だったと思います。特に井上さんは、なめろうを作りながら芝居をするのはとても難しかったはずで、それでも、あのシーンの表情は素晴らしかったです、さすがでした。
――表情といえば、ラストの表情もグッとくるものがあって…。
そうですね、大好きな表情です。何度見ても感動してしまいます。あそこでは、井上さんと相談しながら、全部OKカットなんですけど、もうちょっとやってみましょうと何回かお願いして、ねばらせてもらいました。井上さんは毎回少しずつアプローチを変えてくれて、どれも素敵なんですけど、結果としてラストテイクを使っています。してくださって感動しました。他のシーンではモニターを見て笑っている時間が多かったんですけれど、このシーンは、井上さんの表情に感動して泣きました。
――キャストさんスタッフさん皆さんの優しさが滲み出ている作品だなと感じていました。そして綺麗な景色も素晴らしかったです。
ロケーションの場所を探してくれた制作部スタッフに感謝ですね。脚本の読み込みが本当に深いスタッフで、ピッタリとはまった場所と住居を見つけてきてくれました。いくつか候補はありましたけど、サンライズが見える物件って意外と無いんですよね。晴れていても、水平線に雲がちょっとかかっただけで、サンライズって撮れないんですよ。だからサンライズを撮るためにみんな朝の4時半ぐらいには現場にスタンバイしていました。ラストの船が進んで行くシーンのドローン撮影は、その日に撮れないと撮影が延期になってしまうスケジュールだったので、奇跡的でした。全てスタッフのおかげだと思います、感謝しかないですね。
――今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
『サンセット・サンライズ』
出演:
菅田将暉
井上真央
竹原ピストル 山本浩司 好井まさお 藤間爽子 茅島みずき
白川和子 ビートきよし 半海一晃 宮崎吐夢 少路勇介 松尾貴史
三宅健 池脇千鶴 小日向文世 / 中村雅俊
脚本:宮藤官九郎 監督:岸善幸『あゝ、荒野』
原作:楡周平『サンセット・サンライズ』(講談社文庫)
音楽:網守将平 歌唱:青葉市子
製作:石井紹良 神山健一郎 山田邦雄 竹澤 浩 角田真敏 渡邊万由美 小林敏之 渡辺章仁
企画・プロデュース:佐藤順子 エグゼクティブプロデューサー:中村優子 杉田浩光 プロデューサー:富田朋子
共同プロデューサー:谷戸豊 撮影:今村圭佑 照明:平山達弥 録音:原川慎平 音響効果:大塚智子
キャスティング:田端利江 山下葉子 美術:露木恵美子 装飾:松尾文子 福岡淳太郎 スタイリスト:伊賀大介 衣装:田口慧
ヘアメイク:新井はるか 助監督:山田卓司 制作担当:宮森隆介 田中智明 編集:岡下慶仁 ラインプロデューサー:塚村悦郎
製作幹事:murmur 制作プロダクション:テレビマンユニオン 配給:ワーナー・ブラザース映画
Ⓒ楡周平/講談社 Ⓒ2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
[公式HP]sunsetsunrise-movie.jp[公式X /公式Instagram] @sunsunmovie2025[公式ハッシュタグ] #映画サンセットサンライズ
【ストーリー】 新型コロナウイルスのパンデミックで世界中が
ロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の
大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。
何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。
仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごすが、東京から来た〈よそ者〉の晋作に、
町の人たちは気が気でない。一癖も二癖もある地元民の距離感ゼロの交流にとまどいながらも、
持ち前のポジティブな性格と行動力でいつしか溶け込んでいく晋作だったが、
その先にはまさかの人生が待っていた—?!
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