障がいのある子もない子も一緒に遊べる遊具が話題! ふしぎな形、ユニークな動き、どうやって生まれた? 「レジリエンス プレイグラウンド」ジャクエツ/福井

障がいのある子もない子も一緒に遊べる遊具が話題! ふしぎな形、ユニークな動き、どうやって生まれた? 「レジリエンス プレイグラウンド」ジャクエツ/福井

2024年度のグッドデザイン賞で、ナンバーワンである大賞を受賞した遊具「RESILIENCE PLAYGROUND(レジリエンス プレイグラウンド)」が注目を集めています。障がいの有無にかかわらず誰もが遊べるように開発されたものですが、現在、公園や大型商業施設などに計130基以上が導入され、子どもや大人にも大人気な遊具になっています。人と人の間にある垣根をなくす、新形態の遊具の誕生までと、込められた思いに迫ります。

子どもなのに公園で遊べない、医療的ケア児たちの実状

地方移住や二拠点生活、空き家活用など、新しい価値観のもと、現代のコミュニティは豊かに進化しています。しかし、そこに参加できないでいる人たちがいることに、気づく方は少ないのではないでしょうか。

障がい者とされる人の中でも、日常で人口呼吸器の装着や、たん吸引といった医療サポートを必要とする「医療的ケア児」は全国で約2万人(在宅のみ。2022年度 厚生労働省調べ)。医療的ケア児たちの生活は家と病院の往復になりがちなうえ、いわゆる健常児が利用する一般的な公園の遊具では遊べないだけに活動や交流の範囲も限定されてしまっています。友達と一度も遊んだことがなく、笑顔が極端に少ないといった子どももたくさんいます。

そうした課題を解決するべく2022年9月に生まれたのが、医療的ケア児も安心して楽しめる遊具「RESILIENCE PLAYGROUND(レジリエンス プレイグラウンド)」です。

2024年度グッドデザイン賞大賞を受賞した「RESILIENCE PLAYGROUND」が実際に導入された神奈川県横浜市にある「東戸塚オーロラシティ 水の広場」(写真提供/ジャクエツ)

2024年度グッドデザイン賞大賞を受賞した「RESILIENCE PLAYGROUND」が実際に導入された神奈川県横浜市にある「東戸塚オーロラシティ 水の広場」(写真提供/ジャクエツ)

社会人向けデザイン教室のフィールドワークから、計画がスタート

「RESILIENCE PLAYGROUND」が誕生したのは、あそび環境のデザインを手掛ける「ジャクエツ」で開発デザインをしている田嶋宏行(たじま・ひろゆき)さんが、福井県福井市が主催する次世代のデザインの教室「XSCHOOL」を4年前に受講したのがきっかけです。

田嶋さんは「医療と遊具」をテーマに調査・研究をするなかで、福井県の医師、紅谷浩之(べにや・ひろゆき)さんが運営する医療的ケア児の活動拠点「オレンジキッズケアラボ」に通うようになり、「健常児が使っている既存の遊具は、医療的ケア児たちを遊び場から遠のかせている」という現実を知ります。長年、医療的ケア児を診てきた紅谷さんが提唱しているのが、「どんなに草木が揺れても、風がやめば元の姿に戻るように、元来、子どもたちには強い力がある」という“レジリエンス”の考え方です。紅谷さんから提案を受け、プロジェクトが始動しました。

田嶋宏行さん。静岡県浜松市出身、京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科を卒業後、2015年株式会社ジャクエツに入社。遊具や遊び空間のデザイン・設計を担当している。今回の受賞以前にも2019年に、遊ぶだけであたま・こころ・からだが健やかに成長するさまざまな要素を組み合わせた総合遊具「PLAY COMMUNICATION」でグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞している(撮影/山分正英)

田嶋宏行さん。静岡県浜松市出身、京都造形芸術大学プロダクトデザイン学科を卒業後、2015年株式会社ジャクエツに入社。遊具や遊び空間のデザイン・設計を担当している。今回の受賞以前にも2019年に、遊ぶだけであたま・こころ・からだが健やかに成長するさまざまな要素を組み合わせた総合遊具「PLAY COMMUNICATION」でグッドデザイン賞、キッズデザイン賞を受賞している(撮影/山分正英)

ジャクエツでは遊具をはじめ、園の子ども用便器(撮影/山分正英)

ジャクエツでは遊具をはじめ、園の子ども用便器(撮影/山分正英)

制服なども製造・販売(撮影/山分正英)

制服なども製造・販売(撮影/山分正英)

登園したらシールを貼ってもらう出席帳「あゆみ」(撮影/山分正英)

登園したらシールを貼ってもらう出席帳「あゆみ」(撮影/山分正英)

発売から50年を超えるロングセラー商品「Bブロック」などおなじみの製品もここで製造されている(撮影/山分正英)

発売から50年を超えるロングセラー商品「Bブロック」などおなじみの製品もここで製造されている(撮影/山分正英)

身体能力ではなく、心に“豊かさ”をもたらす遊具を目指す

ジャクエツは全国の幼稚園・保育園向けに教材や教具、遊具、備品などの商品を製造・販売するほか、公共空間や商業施設の遊びの空間のデザイン、設計、リノベーションなども行う企業。国内シェアは70%に上る、まさに“あそびの総合会社“。そこで、今まで数百件もの遊具を手がけていた田嶋さんですが、医療的ケア児に向けたものは初の試み。「オレンジキッズケアラボ」で子どもたちと時間を過ごし、ゼロベースで向き合って見えてきたのが、「いかに医療的ケア児たちの心が豊かになったか」に着目した遊具づくりでした。

リサーチ中の様子(写真提供/ジャクエツ)

リサーチ中の様子(写真提供/ジャクエツ)

「公園にあるブランコやすべり台などは、筋力をつけたりバランス感覚を養ったりと、子どもたちの“身体能力”を伸ばすことに狙いが定められています。しかしそれだと、そもそも健常児のようには身体を動かさない医療的ケア児たちは、公園から排除されてしまう。そうして彼女・彼らは、まるで遊べないかのような存在にされてきたのです。だからこそ身体能力ではなく、『幸せを感じる』という内面にフォーカスすることにしました」(田嶋さん)
とはいえ、人が何に幸福を感じるか、その範囲は広いものです。また、ひと口に医療的ケア児といっても症状はさまざま。そのうえで、どの子も置き去りにしない遊具にするとなればハードルは高そうです。

「最終的に私たちが意識したのは2つのことです。ひとつめは、全ての子が参加でき、全ての子が同じように遊んで楽しいと思える幸せを感じること。
例えば、医療的ケア児が介助者の膝の上でブランコに揺られたところで、興奮するほどの喜びは湧かないと思うのです。どういう場面で味わえるかというと、自分で起こした動作に反応が返ってきたとき。その意味で、本人が遊びに主体的に関われるかがカギだと思いました。
もうひとつは『一番、障がいの重い子ども』をユーザー像に設定すること。そうすれば、医療的ケア児~健常とされる子まで(車いすの子どもなども全て)をカバーできると考えたのです」(田嶋さん)

小さな動きでもレスポンスが生じる、斬新な3つの遊具が誕生!

そうして完成したのが3つの遊具です。
「YURAGI(ゆらぎ)」は、複数人が同時に「揺れ」と「はずみ」を体験できるトランポリン調の遊具。通常、弾力性のあるマットの上で子どもがジャンプすると、寝たきりの子どもは中心に押し寄せられ踏まれる危険がありますが、真ん中の穴が振動を逃がすため、その心配がなく、健常児とも一緒に遊ぶことができます。

「YURAGI」は高さが低いため、介助者は安心して子どもを見守れる(写真提供/ジャクエツ)

「YURAGI」は高さが低いため、介助者は安心して子どもを見守れる(写真提供/ジャクエツ)

「KOMORI(こもり)」は、乗る人を包みこむ球状のブランコです。座面が丸いため、寝たままの子どもでも姿勢が安定。揺れがおだやかで、囲いがあることで景色の大きな変化による感覚刺激に過敏な子でも刺激が少なく、安心して乗っていられます。

「KOMORI」は中にこもれる分、落ちるリスクが少ない。一般的なブランコが苦手な子どもも楽しめる(画像提供/ジャクエツ)

「KOMORI」は中にこもれる分、落ちるリスクが少ない。一般的なブランコが苦手な子どもも楽しめる(画像提供/ジャクエツ)

「UKABI(うかび)」は、公園でよく見かける動物の上にまたがるスプリング遊具をモチーフにしたもの。またがることができない子どもでも乗ることができる浮き輪型で太さが部分によって違うため、身体をほどよい具合にフィットさせることが可能。小さな動きでもレスポンスが生じるので、ぐるぐると回ったり、ポンポンと叩いたり、動き方次第で異なる反応を感じられ、自分なりの遊び方を見つけられます。

「UKABI」は丸みを帯びている分、当たってもケガをしにくいのもポイント(写真提供/ジャクエツ)

「UKABI」は丸みを帯びている分、当たってもケガをしにくいのもポイント(写真提供/ジャクエツ)

ボーダレスの秘訣は、派手さをなくした引き算のデザイン

シリーズの第一弾として2022年9月に発売された3つの遊具は、現在、公園やショッピングモール・保育園をはじめとした全国の施設に計約130基が導入されています。そこでは、想像以上の光景が広がっているとか。

「健常児とされる子どもにも人気で、ときに行列ができるほどの盛況ぶり。いろいろな人がまぜこぜになって使用する姿が見られます。
今回の遊具づくりでは、医療的ケア児に多い、五感から受ける刺激を過剰に強く感じてしまう状態を軽減するため、淡色にしたり、刺激の少ない素材を使いました。またベッドで横になっている子どもも眺めて想像を膨らませられるよう抽象的な造形にしています。

遊具待ちの子ども達の行列ができることも。写真は滋賀県守山市にある「びわこ地球市民の森」(写真提供/ジャクエツ)

遊具待ちの子ども達の行列ができることも。写真は滋賀県守山市にある「びわこ地球市民の森」(写真提供/ジャクエツ)

カラフルな色使いや興味を引くキャラクターといった一般的な遊具とは真逆の“引き算”のデザインにしたわけですが、それが遊びを見つける“余白”を生み、結果的に全ての人の関心をそそるアイテムになったのではないでしょうか。例えば『UKABI』なんかは、大人がベンチ代わりに座って揺れていますから(笑)。障がい児用という言葉に縛られることなく、大人も含めさまざまな状態の人が分断されずいられる場所になっています」(田嶋さん)

一緒に遊ぶなかでおのずと相手を知ることができれば、互いが”違う立場だ”と思うことがなくなり、「インクルーシブ」という言葉もなくなっていくでしょう。

あらゆる立場を超えて人と人を結び、多様な個性を認め合う遊具。それが、最も重度とされる医療的ケア児や重度心身障害児をユーザー層にした結果、生まれたわけですから、医療的ケア児たちには、人々に寛容性をもたらす力があるといえそうです。

これから全国に納品されていくUKABI(中央)(撮影/山分正英)

これから全国に納品されていくUKABI(中央)(撮影/山分正英)

世の中の課題と“遊び”の掛け算には、可能性がいっぱい

「障がい児を育てる親御さんの中には、『ほかの子に迷惑をかける』という理由で公園から距離を置く人もいます。しかし、『RESILIENCE PLAYGROUND』で医療的ケア児と健常児たちが一緒に遊んでいることを知り、『娘と出かけてきました!』などとSNSでメッセージをもらうことが。遊具のあり方で行動を変えられたことがうれしいですし、社会課題の解消に関われていることに手応えを感じています」(田嶋さん)

今後、「RESILIENCE PLAYGROUND」の第二段として、すべり台をつくるプロジェクトが進んでいるそう。しかし、話は遊具づくりにとどまりません。「公共施設」「災害」「サステナブルな暮らし」など、世の中の課題と“遊び”を掛け算し、ポジティブに解決していけたら、と田嶋さんは意欲を膨らませます。

「この遊具が医療的ケア児とその家族らがコミュニティに参加するきっかけをつくったように、あらゆる分野のスペシャリストが、それぞれのフィールドで開発に取り組んだら、障がい児に対する固定観念が覆り、ますますやさしい社会になると思うのです。アイデアを持ち寄って他ジャンルの方と協働できればいいですね」(田嶋さん)

金属でできた遊具は職人によって下地処理や塗装を行い、窯で高熱で焼かれる(撮影/山分正英)

金属でできた遊具は職人によって下地処理や塗装を行い、窯で高熱で焼かれる(撮影/山分正英)

子どもが毎日使うには、腐食しにくく、体を傷つけないようなめらかな表面に仕上げることが重要(撮影/山分正英)

子どもが毎日使うには、腐食しにくく、体を傷つけないようなめらかな表面に仕上げることが重要(撮影/山分正英)

田嶋さんの手と、製品を送り出す職人さんの手(撮影/山分正英)

田嶋さんの手と、製品を送り出す職人さんの手(撮影/山分正英)

医療的ケア児が、まち中で自由に過ごせる社会にするために

「実は『RESILIENCE PLAYGROUND』の理念には共感するけれど、医療的ケア児の受け入れ方が分からない、という施設側の声も多数、寄せられていて。そこをどう埋めるかを考えるのも、私たちにできることです。医療的ケア児のことを知らないがゆえに『何かあったら大変』と恐れ、先入観で『できなくても仕方がない』と決めつけてしまう。そのことが子どもの潜在的な能力にフタをしていると、私たち自身がプロジェクトを通して痛感しましたから。物理的なことだけでなく『関わるうえでの心構え』もうまく伝えていきたいです」(田嶋さん)

(撮影/山分正英)

(撮影/山分正英)

「医療的ケア児たちがまち中で過ごせるようになり、最終的に『オレンジキッズケアラボ』のようなサポート機関がなくなっていくのが理想」と田嶋さん。
今回の取材を通して、医療的ケア児向けの遊具は当事者のみならず、全ての人を大らかに受けとめ、想像の余地をもたらしてくれるものであることが分かりました。
それだけに、同じような試みがあちこちでなされ、まちの光景が変われば。それは誰にとっても居心地のいい社会といえそうです。

●取材協力
ジャクエツ(Instagram)
オレンジキッズケアラボ(Instagram)

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