リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024に見るリノベ最前線! グランプリのキーワードは「循環型リノベ」、廃棄物が少ないエコな建材活用を評価

リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024に見るリノベ最前線! グランプリのキーワードは「循環型リノベ」、廃棄物が少ないエコな建材活用を評価

1年を代表するリノベーション作品を決めるリノベーション・オブ・ザ・イヤー。12年目となる2024年の授賞式が12月12日に開催されました。226のエントリー作品の中から選び抜かれた総合グランプリをはじめ、各受賞作から、リノベーションの今を読み解きました。

記事の目次

【リノベーション最前線/注目point1】循環型リノベ。既存資材を最大限活かす
総合グランプリ【「ReMAKE」-既存の内装を活かす試み-】株式会社TOOLBOX
【リノベーション最前線/注目point2】大切なものを次世代に繋ぐ
実家アネックス・リノベーション賞【納屋に住む。】有限会社斉藤工匠店
1500万円以上部門 最優秀賞【samtati(サンタティ)~他人間相続~】リノクラフト株式会社
パノラミックグリーン・リノベーション賞【緑映える、心整う】株式会社NENGO
ローカルヘリテージ・リノベーション賞【地域資産を、住み継ぐ】株式会社しわく堂
アンティークドリブン・リノベーション賞【遊郭建具と暮らす】株式会社サンリフォーム
地域文化再生賞【続・小倉昭和館~在り続けるということ~】株式会社タムタムデザイン
【リノベーション最前線/注目point3】大胆な手法で個性的かつ快適空間が完成
1500万円未満部門 最優秀賞【感性を解き放つ、45°の秩序】株式会社groove agent
800万円未満部門 最優秀賞【翳りの間】株式会社N’s Create
わくわく空間創造リノベーション賞【7帖に作る3つの秘密基地】株式会社i-Plain
空間アップデート・リノベーション賞【0LDKの我が家を、大切に住み続けたくて】株式会社ニューユニークス
【リノベーション最前線/注目point4】無個性だったものを唯一無二の存在に
無差別級部門最優秀賞【soil and soul(Jam+tamtam)】Japan. Asset management株式会社
ミニマリズム・リノベーション賞【時代を超えた賃貸『2001年宇宙の旅』】イー・ワークス株式会社
【リノベーション最前線/ここも注目!】多様な手法が快適空間を生む
ベビーフレンドリー・リノベーション賞【mama to co ROOM】株式会社日々と建築
シングルライフ・リノベーション賞【独りがなんだ】株式会社コスモスイニシア
手仕事リノベーション賞【手仕事と無垢材に敬意を払う】有限会社ひまわり
街かどリノベーション賞【地主さん「街かどリノベ」はじめませんか。「こはらだあぜみち」】株式会社ブルースタジオ
イノベーティブプランニング賞【廊下が主役の家】株式会社NENGO
職住一体リノベーション賞【日本初?職住一体に特化した小商アパート】株式会社エコラ
ディスカバリング・リノベーション賞【埋もれた魅力再発見!「住み育てた家」の美しさ】G-FLAT株式会社
既存を活かす循環型リノベ、良きものを次世代に繋ぐ持続性リノベ

【リノベーション最前線/注目point1】循環型リノベ。既存資材を最大限活かす

SDGs(持続可能な開発目標)の意識が年々人々に浸透しつつある昨今、リノベーション業界でも持続可能なものづくりを模索し、構築し、提供しようという動きが生じています。

そもそもリノベーション業界は、建物全体を取り壊して新たに建築するスクラップアンドビルドを否定し、既存を活かす視点を持ち続けることで成長を遂げてきました。ただ、既存建物をスケルトン状態まで解体すれば大量の廃棄物を出してしまうことも大きな課題となっています。

そこで、さらに一歩踏み込んで、資源の循環利用を重視して最小限の資源投入量で最大限の豊かさを得ようという「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」へ転換し、資材のリユース・リサイクル・アップサイクルを繰り返して廃棄物を最小化すること、建築時には解体後に再利用可能な建材を用いたり、建材のトレーサビリティ(生産から消費、廃棄までの追跡管理)までも進めていくべきという考えも登場しています。

振り返ってみれば、昭和初期の頃までは解体した家の部材を貰い受けて新築や増築の家に再利用していたこともあったそう(筆者の実家の古民家もそうでした)。かつての日本は廃棄物を極力出さない循環型社会でしたが、大量生産、大量消費、大量廃棄の時代に失われていきました。SDGsの意識が周知されつつある今、さらに建材費や建築費の高騰という背景もあって、循環型リノベを担う意欲をもったリノベーション企業や作品が登場しています。

今回、総合グランプリを受賞した【「ReMAKE」-既存の内装を活かす試み-】はまさにその一つ。既存建材の有効活用をとことん考え抜いたことで、審査陣に今後の循環型リノベーションの新たな可能性を大いに予感させた作品となりました。

●総合グランプリ
【「ReMAKE」-既存の内装を活かす試み-】 株式会社TOOLBOX

まるで建築途中のような玄関土間空間。左の壁に開口を設けることで、明るさや開放感を付加しています(写真提供/株式会社TOOLBOX)

まるで建築途中のような玄関土間空間。左の壁に開口を設けることで、明るさや開放感を付加しています(写真提供/株式会社TOOLBOX)

右側に冷蔵庫置き場を新設し、既存の壁付けキッチンを半分に切断してL型キッチンに(写真提供/株式会社TOOLBOX)

右側に冷蔵庫置き場を新設し、既存の壁付けキッチンを半分に切断してL型キッチンに(写真提供/株式会社TOOLBOX)

広さ約56平米、築57年という築古のマンションを改変。バルコニーに洗濯機置き場、キッチンのかなり後方に冷蔵庫置き場があるといった元の使いづらい間取りも解消(画像提供/株式会社TOOLBOX)

広さ約56平米、築57年という築古のマンションを改変。バルコニーに洗濯機置き場、キッチンのかなり後方に冷蔵庫置き場があるといった元の使いづらい間取りも解消(画像提供/株式会社TOOLBOX)

【「ReMAKE」-既存の内装を活かす試み-】は、既存の間取りや内装設備・建材を徹底的に活かすことを前提に進められた、買取再販物件での実験的プロジェクト。構造躯体をあらわしにした内装が印象的で、購入者はこの内装で暮らすのも良し、自分で手を加えるのも良しと感じさせます。

かつて築古物件は、スケルトンに解体して空間を再構築する手法が多かったのですが、近年では所有者によって幾度かリノベーションをなされた物件が増えています。比較的新しい設備や内装が部分的に存在しており、壊すのはもったいないといえる状態。つくり手は「それらの使えるものは徹底して使う」という姿勢で向き合ったそう。そうした姿勢から新しいアイデア、デザインが生まれました。既存キッチンを切断し再配置、L型キッチンにして調理導線を整え、継ぎはぎのあったフローリングを塗装して意匠もそろえ、壁を一部開口にして視線を広げ、建具や天井材の転用など、分解して初めてわかる既存の状態を踏まえて、職人のノウハウを活かしてさまざまな手法を試みたそうです。

この作品への審査員の評価ポイントは、前述の「サーキュラー・エコノミー」(循環型経済)に呼応している作品だということ。廃棄物を最小化する、つまり「極力ゴミを出さないようにつくる」といった既存建材の活用度がかつてないほど高い点、さらに、このプロジェクトで得たノウハウをWEBで一般公開し、住宅ストックの課題解決に寄与したいという強い意欲などが高く評価されました。

【リノベーション最前線/注目point2】大切なものを次世代に繋ぐ

リノベーションは、家を快適な空間に新しく作り直していくことだけではなく、「壊さず活かす」という思いを通じて、建材や部材、設計思想などを次の時代へ繋ぐ力を持っています。そうした引き継ぐ・繋いでいくことの力を感じさせる作品が数多く注目されました。

●プレイヤーズチョイス・アワード(注)
●実家アネックス・リノベーション賞
【納屋に住む。】 有限会社斉藤工匠店

家から望む日本の原風景にほっこり(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

家から望む日本の原風景にほっこり(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

太い梁や軒天に納屋の面影が宿っています(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

太い梁や軒天に納屋の面影が宿っています(写真提供/有限会社斉藤工匠店)

【納屋に住む。】は、築63年の納屋を住宅へコンバージョンした作品です。当初は養蚕に使われ、その後納屋となった建物を、「Uターンしてくる若夫婦の住処としたい」という依頼で納屋リノベがスタート。建て替えも検討したそうですが、曳屋(「ひきや」。建物の位置を移動させること)を機に基礎の組み換えを行い、屋根も改修されて間もないことから、取り壊すのは惜しいと判断されました。

納屋は柱が数本立つのみで間仕切り壁がないため、撤去の必要がなく、設計の自由度が高い点がメリットです。しかし逆に既存用途が納屋の場合、リフォーム瑕疵保険(欠陥が見つかった場合に無償で修理をしてもらえる保険制度)に加入できない(斉藤工匠店が登録していた保証会社の場合)というデメリットも。

耐震診断を行い、既存部を活かしながら要望に沿ったプランを固めること1年、いざ着工となった際に保険加入の対象ではないことが判明したそう。そのため、「R5住宅」(※)を取得して施主の不安を払拭しました。

施主の強い思いを受け取り、高いハードルを乗り越えて、かつての納屋を快適な住空間に生まれ変わらせ、それを施主は受け継いでいく、循環していくという点が、同業者からも高く評価されました。

敷地の広い家では、二世帯で敷地内別居をする人も多いでしょう。そういう方々の一つの指標となりうる作品だと感じました。

※「R5住宅」:リノベーション協議会が認定する「適合R(リノベーション)住宅」で「R5住宅」は一戸建てが対象。検査をしたうえで必要な改修工事を施し、その記録を住宅履歴情報として保管。住宅履歴情報があることで点検やメンテナンスがしやすくなり、売却する際にも役立ちます。不具合に対してアフターサービス保証がつき、購入する人が安心して選ぶことができるという認定制度です。

注:「プレイヤーズチョイス・アワード」とは、エントリーした事業者が自社以外でベストだと思うリノベ作品を選ぶ2023年に新設された賞で、ある意味もう一つのグランプリ作品ともいえます(他の賞はメディア関係者が審査員となり作品を選ぶ)

●1500万円以上部門 最優秀賞
【samtati(サンタティ)~他人間相続~】 リノクラフト株式会社

板貼りの壁や表しの構造材など、リビングの内装はほぼ原型のまま(写真提供/リノクラフト株式会社)

板貼りの壁や表しの構造材など、リビングの内装はほぼ原型のまま(写真提供/リノクラフト株式会社)

目指したのは「昭和を纏うプラスチックヴィンテージの世界」(写真提供/リノクラフト株式会社)

目指したのは「昭和を纏うプラスチックヴィンテージの世界」(写真提供/リノクラフト株式会社)

【samtati(サンタティ)~他人間相続~】は、その不動産売買における物語性が審査陣の心を捉えたという作品。劣化が激しい家を「思い出ごと」解体した上で手放そうとしている売主と、物件との出会いに運命を感じ、「家の空気感、家の記憶そのものを受け継ぎたい」と考える買い主。すれ違う両者の思いを合わせるため、仲介者と面談を重ね、買い主の想いを手紙に託すなど誠実で丁寧な交渉を続けました。さらにインスペクション(住宅診断)によって、劣化状況を明らかにして売主と買い主双方に受け入れてもらうことで、売買の合意を得ていったそうです。

変化させつつも住まいを繋いでいく。この作品が生み出された経緯はまるで相続のようであったと「他人間相続」と表現した点にも注目が集まっていました。

●パノラミックグリーン・リノベーション賞
【緑映える、心整う】 株式会社NENGO

大きな窓から光と緑あふれるリビング。築100年という時間を感じさせないモダンさを宿しています(写真提供/株式会社NENGO)

大きな窓から光と緑あふれるリビング。築100年という時間を感じさせないモダンさを宿しています(写真提供/株式会社NENGO)

緑に包まれておこもり感のある空間。常に庭の緑と密接に繋がっていると感じられます(写真提供/株式会社NENGO)

緑に包まれておこもり感のある空間。常に庭の緑と密接に繋がっていると感じられます(写真提供/株式会社NENGO)

【緑映える、心整う】は、100年超の期間に幾度となく増改築を重ねられ、「迷路のようになってしまった家を整え、次世代に引き継がなければ」との強い想いでスタートしたリノベ作品。図面がなく、既存を図面に起こすことから始め、解体後は、本来あるべき柱がない、井戸から水が溢れているなどの足踏み状態が続きながらも、慎重に全面改修の工事を進めていったそう。

豊かな木々、背後には森がありながらも、それら庭に開かれていなかった間取りを変え、大きな開口部を設けて庭の鮮やかな緑を暮らしに取り込み、家族の「心潤い、心整う」暮らしをつくり上げています。

●ローカルヘリテージ・リノベーション賞
【地域資産を、住み継ぐ】 株式会社しわく堂

明治期建築の特徴ある建物形状。入居後も外壁修理は進行中だそう(写真提供/株式会社しわく堂)

明治期建築の特徴ある建物形状。入居後も外壁修理は進行中だそう(写真提供/株式会社しわく堂)

土間の広さが現代の家にはない豊かさを感じさせます。襖で仕切られた広がりある空間は和の建築ならでは(写真提供/株式会社しわく堂)

土間の広さが現代の家にはない豊かさを感じさせます。襖で仕切られた広がりある空間は和の建築ならでは(写真提供/株式会社しわく堂)

【地域資産を、住み継ぐ】は、山口県にある明治期建築の古民家を再生した作品。財をなした旧家が遺した歴史的建造物群は、経済的理由から手入れが行き届かず、雨漏りや蟻害などで建物の損傷が日々進行。「失われつつある大好きな故郷の街並みや建物を遺し繋ぎたい」と施主はUターンして購入とリノベを決意したそう。

工事では文化財保護と経済性に配慮しつつ、子育て中の7人家族がのびのび過ごせるダイナミックな空間を獲得。「大好きな地元で、この家が次の世代にバトンを繋ぐ『地域資産』になることを夢見て」という言葉に、大きな愛を感じとりました。

●アンティークドリブン・リノベーション賞
【遊郭建具と暮らす】 株式会社サンリフォーム

アールを描くコーナーのしつらえと、ざらっとした質感の壁が美しく調和(写真提供/株式会社サンリフォーム)

アールを描くコーナーのしつらえと、ざらっとした質感の壁が美しく調和(写真提供/株式会社サンリフォーム)

長年使われた磨りガラス入りの建具。壁の色合いと馴染んだ様は見事です(写真提供/株式会社サンリフォーム)

長年使われた磨りガラス入りの建具。壁の色合いと馴染んだ様は見事です(写真提供/株式会社サンリフォーム)

【遊郭建具と暮らす】は、「使いたい5枚の古建具がある」という施主の要望が鍵となった、過去と現在を繋ぐ空間づくりが際立つ作品。古建具は京都の歴史ある遊郭「三友楼」で使われたもので、施主は譲り受けたのち、当時暮らしていた家の一角で保管していたものだそう。そんな想いの詰まった建具を活かすため、仕切りの高さを建具と揃え、壁にはざらっとした質感と自然なムラのある塗料を採用し、空間全体を見事に調和させています。

●地域文化再生賞
【続・小倉昭和館~在り続けるということ~】 株式会社タムタムデザイン

昭和レトロな風情にホッとする、憩える映画館に(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

昭和レトロな風情にホッとする、憩える映画館に(写真提供/株式会社タムタムデザイン)

【続・小倉昭和館~在り続けるということ~】は、福岡県北九州市にある創業83年の単館映画館を丸ごと再建した作品。昭和のころから長らく街のランドマーク的映画館として親しまれてきましたが、2022年8月に突然の火災で焼失。廃業か新築再建のいずれかを余儀なくされました。新築された物件なのでリノベの賞には該当しないのではとの声もありつつ、空間デザインの継承、館長・地域の人々の想いの継承、再生設計のプロセスを鑑みて、リノベ案件の範疇にあると審査陣から判断されました。

火災の2日前、「ロビーの一角にバーカウンターを新設したい」との要望で、リノベ会社が旧館の設計図を手渡されていたという事実に、再建は運命的だと感じたそう。地元をはじめ全国の人々から、数々の著名人からも応援や寄付が届き、再建の進捗は常にメディアで取り上げられ再建を待ち望んだ声が形になりました。

【リノベーション最前線/注目point3】大胆な手法で個性的かつ快適空間が完成

手狭になったけれど、不動産価格の高騰といった背景も相まって、広い家へ転居という選択ではなく、住み慣れた今の家をなんとかしようという意識を持つ人が増えているようです。縦空間を活かして床面積を増やす、間取り変更やデザインによって視覚的な広がりを生むなど、空間の使い方、切り取り方など斬新で大胆なアイデアを披露した作品が目立ちました。

古い、狭い、構造的に厳しいなど、さまざまな制約がある中で知恵を絞るからこそ発揮されるクリエイティブなアイデアやデザインが、リノベーションの魅力を高める大きな要素となっています。

●1500万円未満部門 最優秀賞
【感性を解き放つ、45°の秩序】 株式会社groove agent

キッチンカウンターや手前の細長いサイドテーブルなどによって、ワンルーム内の各ゾーンが小気味良く区切られています(写真提供/株式会社groove agent)

キッチンカウンターや手前の細長いサイドテーブルなどによって、ワンルーム内の各ゾーンが小気味良く区切られています(写真提供/株式会社groove agent)

44平米の空間は、浴室とトイレ以外は間仕切り壁を設けず、ゆるやかにつながっています(写真提供/株式会社groove agent)

44平米の空間は、浴室とトイレ以外は間仕切り壁を設けず、ゆるやかにつながっています(写真提供/株式会社groove agent)

一般的な1LDKが45°のラインによって激変(画像提供/株式会社groove agent)

一般的な1LDKが45°のラインによって激変(画像提供/株式会社groove agent)

【感性を解き放つ、45°の秩序】は、間取りの常識にとらわれないクリエイティブなアイデアが光る作品。44平米という限られた空間に45°の斜線を描くことで、間仕切り壁を設けずに、ワンルームの空間をダイニング、キッチン、リビング、寝室、書斎、洗面室へと振り分け。造作家具、床材の切り替え、天井のレールの配置を45°にすることで、視線が対角上に抜けて、空間がより広く感じられるという、緻密に練られたデザインの勝利とも言えます。「ワンルームなのに景色も居場所もたくさんあって飽きない」という施主の言葉にリノベ空間の魅力が表れています。

●800万円未満部門 最優秀賞
【翳りの間】 株式会社N’s Create

暗がりと温かな光とのコントラストが印象的(写真提供/株式会社N’s Create)

暗がりと温かな光とのコントラストが印象的(写真提供/株式会社N’s Create)

陰影がグラデーションを描く。土間+檜合板を箱状に仕立てた小上がりのコントラストも強い印象を残しています(写真提供/株式会社N’s Create)

陰影がグラデーションを描く。土間+檜合板を箱状に仕立てた小上がりのコントラストも強い印象を残しています(写真提供/株式会社N’s Create)

【翳りの間】(かげりのま)は陰影を活かす、陰影で空間を包むという、空間づくりの常識を拒否したとも言える作品。元の間取りは4Kで、明るい南側の部屋と暗い北側の水回り空間の明暗のコントラストが強い家でした。間仕切り壁を取り大きなワンルームとすると、躯体そのものの影が広がり、コンクリート躯体表しと檜(ひのき)合板を組み合わせた内装とも相まって、独特の世界観を描いています。

●わくわく空間創造リノベーション賞
【7帖に作る3つの秘密基地】 株式会社i-Plain

それぞれ好みの壁紙を選び、個性あふれるプライベート空間に(写真提供/株式会社i-Plain)

それぞれ好みの壁紙を選び、個性あふれるプライベート空間に(写真提供/株式会社i-Plain)

【7帖に作る3つの秘密基地】は、マンションの6畳の部屋に、三兄弟のプライベートスペース&勉強スペースを設けたいという難易度の高い要望を叶えた作品。クローゼットを解体して7畳を確保した上で、二段ベッドと収納上のロフトベッドをつくりつけ、窓際に3人が並んで座れるデスクも設けました。寝台列車的のような空間に三兄弟のわくわく感が伝わってきます。

●空間アップデート・リノベーション賞
【0LDKの我が家を、大切に住み続けたくて】 株式会社ニューユニークス

オープンにつながるロフトの就寝スペース(写真提供/株式会社ニューユニークス)

オープンにつながるロフトの就寝スペース(写真提供/株式会社ニューユニークス)

【0LDKの我が家を、大切に住み続けたくて】は、家族3人が暮らす約57平米の縦空間を生かすなどして、パーソナルスペースを緩やかに生み出した作品。12年前にワンルーム化リノベを行った空間に再び手を入れ、就寝スペースにロフトを設けて、長男のスペースを確保。WICをリモートワークに対応したワークスペースに変えています。完全な個室化は避け、程よい距離感を保つ設計です。

長男の成長やリモートワークがメインになった夫婦の働き方の変化もあり、広い家への住み替えを検討したそうですが、気に入った立地や家への愛着からこのまま住み続けることに。ライフスタイルや家族の成長に合わせて家をアップデートするという発想に、住まい方の新たな可能性を感じました。

【リノベーション最前線/注目point4】無個性だったものを唯一無二の存在に

画一的であったり無個性であったり、世の中から見捨てられがちな物件に新たな価値あるものに生まれ変わらせるのも、リノベーションの醍醐味です。

今回、注目されたのは、絶景を望む立地のポテンシャルを活かせていない古い保養施設やSF作品をモチーフにデザインされた賃貸物件など。こうした唯一無二の空間づくりを見ると、リノベーションは自由な発想であらゆる可能性を追求できる手段なのだと強く感じます。

●無差別級部門最優秀賞
【soil and soul(Jam+tamtam)】Japan. Asset management株式会社

自然と調和した佇まい。中央に開いた軒下空間の抜け感が素晴らしい(写真提供/Japan. Asset management株式会社)

自然と調和した佇まい。中央に開いた軒下空間の抜け感が素晴らしい(写真提供/Japan. Asset management株式会社)

母屋でサウナに入った後は「ととのいデッキ」で玄界灘を望む(写真提供/Japan. Asset management株式会社)

母屋でサウナに入った後は「ととのいデッキ」で玄界灘を望む(写真提供/Japan. Asset management株式会社)

【soil and soul(Jam+tamtam)】は、斜面地に立つ特徴のないデザインの建物を改変した作品です。福岡県糸島市の海を見晴らす絶好のロケーションにある、とある財団のコミュニケーションスペース。玄界灘の絶景を望める立地にありながら、そのポテンシャルが活かせていない中庭や離れにも海の眺望をもたらすよう、母屋の一部を解体して軒下空間という抜けを設け、2棟をウッドデッキで連結。オープンスペース全体から海を望める解放デザインに。糸島の自然に溶け込む容貌に生まれ変わりました。

離れには日本最高基準の断熱が施され、外壁などには無塗装の九州産杉を用いてアッシュカラーへの経年変化を楽しめる自然と共生する建物として設計。過去に建物を建てるため植物を伐採したことで土壌が乾燥し、それが原因で基礎が断裂していた土中環境問題も、地中に突き立てた焼き杭から雨水が地に還元されるようにし、土中環境改善と森林の再生までを配慮。そうしたプラン、デザイン、自然共生、省エネ性能を含めた総合力が高く評価されました。

●ミニマリズム・リノベーション賞
【時代を超えた賃貸『2001年宇宙の旅』】 イー・ワークス株式会社

空間の真ん中に宇宙船のコクピットを思わせるアールの仕切りが(写真提供/イー・ワークス株式会社)

空間の真ん中に宇宙船のコクピットを思わせるアールの仕切りが(写真提供/イー・ワークス株式会社)

仕切りの中はキッチン、洗面、シャワー室がぐるりと配置されています(写真提供/イー・ワークス株式会社)

仕切りの中はキッチン、洗面、シャワー室がぐるりと配置されています(写真提供/イー・ワークス株式会社)

【時代を超えた賃貸『2001年宇宙の旅』】は、築31年の賃貸マンションを斬新なデザイン空間に変えた作品。映画が公開された1968年当時に想い描かれた未来空間をモチーフに、装飾性のないミニマムな空間にしつらえています。ミニマムとはいえ、自然界の黄金比であるフィボナッチ数列を用いて描かれたアールのコクピットスペースが、この空間に強烈な個性をもたらしています。見たこともない住空間を賃貸で実現した遊び心と実験的な取り組みに評価が集まりました。

【リノベーション最前線/ここも注目!】多様な手法が快適空間を生む

ほかにも既存の概念に囚われない自由な発想で行われたリノベ作品が目白押し。要注目です。

●ベビーフレンドリー・リノベーション賞
【mama to co ROOM】 株式会社日々と建築

長野県白樺湖畔に立つ池の平ホテルの2室を、赤ちゃんのいる家族向けルームに改変。曲線と素材感で柔らかさや楽しさ溢れる部屋に(写真提供/株式会社日々と建築)

長野県白樺湖畔に立つ池の平ホテルの2室を、赤ちゃんのいる家族向けルームに改変。曲線と素材感で柔らかさや楽しさ溢れる部屋に(写真提供/株式会社日々と建築)

部屋幅いっぱいのベッド、ベビーゲート、回遊動線など赤ちゃんの安全とお世話のしやすさを考え抜いたプランです(写真提供/株式会社日々と建築)

部屋幅いっぱいのベッド、ベビーゲート、回遊動線など赤ちゃんの安全とお世話のしやすさを考え抜いたプランです(写真提供/株式会社日々と建築)

●シングルライフ・リノベーション賞
【独りがなんだ】 株式会社コスモスイニシア

「こだわりのつまった我が家をみんなのサードプレイスとして共有する」と、友人とのキッチントークなどを楽しむ。増えつつあるシングル世帯を見据えた買取再販物件(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

「こだわりのつまった我が家をみんなのサードプレイスとして共有する」と、友人とのキッチントークなどを楽しむ。増えつつあるシングル世帯を見据えた買取再販物件(写真提供/株式会社コスモスイニシア)

●手仕事リノベーション賞
【手仕事と無垢材に敬意を払う】 有限会社ひまわり

築8年。経年変化した床や手すりの無垢材を部位に応じた粒度のヤスリで研磨して、素材の魅力を改めて引き出しています。素材を磨くだけで空間の表情がスッキリ見えます(写真提供/有限会社ひまわり)

築8年。経年変化した床や手すりの無垢材を部位に応じた粒度のヤスリで研磨して、素材の魅力を改めて引き出しています。素材を磨くだけで空間の表情がスッキリ見えます(写真提供/有限会社ひまわり)

●街かどリノベーション賞
【地主さん「街かどリノベ」はじめませんか。「こはらだあぜみち」】 株式会社ブルースタジオ

築38年の賃貸マンション改修に合わせ、敷地内に緑豊かな「畦道」を新設。入居率の向上だけでなく地域の景観バリューアップも叶えています(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

築38年の賃貸マンション改修に合わせ、敷地内に緑豊かな「畦道」を新設。入居率の向上だけでなく地域の景観バリューアップも叶えています(写真提供/株式会社ブルースタジオ)

●イノベーティブプランニング賞
【廊下が主役の家】 株式会社NENGO

通過するだけの廊下をなくし、玄関→ワークスペース→植物ストリート→LDK→洗面→ベッドスペース→玄関へとぐるり回遊できる空間に変えて、暮らしやすさをアップ(写真提供/株式会社NENGO)

通過するだけの廊下をなくし、玄関→ワークスペース→植物ストリート→LDK→洗面→ベッドスペース→玄関へとぐるり回遊できる空間に変えて、暮らしやすさをアップ(写真提供/株式会社NENGO)

●職住一体リノベーション賞
【日本初?職住一体に特化した小商アパート】 株式会社エコラ

賃貸ビルの一棟リノベで入居者が1階フロアをお店として使えるプロジェクト。入居者同士だけでなく、イベントを通じて地域とも輪が広がり、入居率アップにも貢献しているそう(写真提供/株式会社エコラ)

賃貸ビルの一棟リノベで入居者が1階フロアをお店として使えるプロジェクト。入居者同士だけでなく、イベントを通じて地域とも輪が広がり、入居率アップにも貢献しているそう(写真提供/株式会社エコラ)

●ディスカバリング・リノベーション賞
【埋もれた魅力再発見!「住み育てた家」の美しさ】 G-FLAT株式会社

築46年、RC造の重厚さと経年変化した内装材の良さに魅力を感じて、活かせる部分はそのまま受け継いでいるそう(写真提供/G-FLAT株式会社)

築46年、RC造の重厚さと経年変化した内装材の良さに魅力を感じて、活かせる部分はそのまま受け継いでいるそう(写真提供/G-FLAT株式会社)

「ヴィンテージ感ある風情に一目惚れ」。一見平屋のように見える個性的な外観(写真提供/G-FLAT株式会社)

「ヴィンテージ感ある風情に一目惚れ」。一見平屋のように見える個性的な外観(写真提供/G-FLAT株式会社)

既存を活かす循環型リノベ、良きものを次世代に繋ぐ持続性リノベ

今回のリノベーション・オブ・ザ・イヤーでは、持続可能な社会をという世界的な意識変革が年々進む中、「既存を活かす」「良きものを次世代に繋ぐ」というキーワードがさまざまな受賞作品で語られていたのが、深く印象に残りました。

資源の循環利用を重視して最小限の資源投入量で最大限の豊かさを得る「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」への取り組みも、リノベーション業界で具体化されつつあります。

昨年の記事「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2023」で、「シビアな時代にありながらも、リノベ業界は創意工夫や独自のコスト管理等で、建設費を抑えることがより必要となるでしょう。その工夫の一環として既存建築物や建材の再活用が上げられます」と記した記憶がありますが、今年の作品ではそうしたコスト管理が当たり前のこととして対策されていました。建材費や人件費の高騰というどうにもならない荒波を受け、循環型リノベが推し進められていく状況を見て、まさに今が時代の転換点であると感じます。

ただし、リノベ業界では、「安いから」「もったいないから」だけで建材の再活用を進めているわけではなく、既存建物や建材へのリスペクトあっての再利用という点も感じ取ることができました。

プレイヤーズチョイス・アワードを受賞した斉藤工匠店さんが語った言葉「私は地方で小さな工務店をやっておりますが、最初から最後まで丁寧に物事にあたるのをモットーとしています。ストック活用においても丁寧に進めていくことに尽力したい」という熱い思いをうかがい、「やはりリノベは人が生み出すものなのだな」という温かい思いが心に残りました。

リノベ作品は、暮らす人が心地よく幸せに過ごせるよう、さまざまな手法やアイデアが盛り込まれた究極の一点もの。2025年にはどんな新たなタイプの作品が登場するのか、今から楽しみです。

赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2025年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション協議会)

赤絨毯に盛装が決まっている受賞者のみなさん。2025年も素晴らしい作品を期待しています!(写真提供/リノベーション協議会)

●取材協力
リノベーション協議会「リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024」

  1. HOME
  2. 生活・趣味
  3. リノベーション・オブ・ザ・イヤー2024に見るリノベ最前線! グランプリのキーワードは「循環型リノベ」、廃棄物が少ないエコな建材活用を評価

SUUMOジャーナル

~まだ見ぬ暮らしをみつけよう~。 SUUMOジャーナルは、住まい・暮らしに関する記事&ニュースサイトです。家を買う・借りる・リフォームに関する最新トレンドや、生活を快適にするコツ、調査・ランキング情報、住まい実例、これからの暮らしのヒントなどをお届けします。

ウェブサイト: http://suumo.jp/journal/

TwitterID: suumo_journal

  • ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
  • 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。