「60歳からの人生を楽しみたい」元とらばーゆ編集長が60代で新築住宅を建てた理由 東京&神奈川県三浦市で二拠点生活
2024年秋、神奈川県三浦市に60代で新居を構え、東京との二拠点生活を始めた河野純子(かわの・じゅんこ)さん。「人生100年時代」の生き方を提案する会社、ライフシフト・ジャパンの取締役で、著書『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)を上梓したばかりの河野さんが、「60代の今、なぜ家を建てたのか」お話を伺った。
60歳の記念として三浦市に別邸を建てようと決意
三浦市の丘の上、玄関を開ければすぐ油壷湾(あぶらつぼわん)が見渡せる家。これが河野さんの新居だ。
「漠然と”東京のほかに拠点をいつか持ちたいなぁ”とは思っていたんです。ただ、いつか、いつかと言っているだけでは、その” いつか”は来ないんですよね。私の“生誕60年記念”の一大プロジェクトとして、別荘兼仕事場を建てようと決心したんです」
設計は、料理研究家の有元葉子さんの娘さん夫妻による八木建築研究所に依頼。「2人が手掛けた有元さんのご自宅や別邸を訪れたことがあり、とても心地よかったんです。建築家を決めてから、土地探しをするとアドバイスがもらえて良いですよ」(写真撮影/桑田瑞穂)
リビングは吹き抜け。階段をあがればワークスペースがあり、寝室を除けば、縦空間がほぼワンルームになっているような造り。内装は、ほどよくモダンで、ラスティック(素朴)なニュアンスもあるテイストに(写真撮影/桑田瑞穂)
晴天時には、油壷から富士山も見える。「三浦市は東京から車で1時間強、電車とバスでもアクセスできるので、気軽に往来できます。昔からの漁港があり、朝市、漁師が営む食事処があるうえ、別荘地でもあったので、どこか文化的蓄積がある事にも惹かれました」(写真提供/本人)
入院中にこれからの人生を熟考。コロナ禍も契機に
きっかけになったのが、2020年、57歳のときの人間ドッグで0期の食道がんが見つかり、入院したこと。
「生まれて初めての入院で、ゆっくり考える時間ができたんですよね。仕事柄、人生100年時代は長く働く時代、働くという観点からいえば、まだまだこれからと自覚はしていたのですが、” いや、どう働き続けるかだけでなく、どう暮らすかも同じくらい大事じゃないか”と改めて気づいたんです。そして、60歳からの人生を楽しむには、“どんな住まいにするか”も今、考えるべきだと思いました」
そして、夫が思っていた以上に心配してくれたことも驚いたそう。
「私達が結婚したのはお互い40代で、もう自分の生活のペースができていて、それぞれの仕事と生活を優先しつつ、一緒に過ごす時は楽しむというスタイルでした。でも、これからは、2人の時間にもっと比重を置いてもいいかもしれないと考えたんです」
河野純子さん。1963年生まれ。「とらばーゆ」元編集長にしてライフシフト・ジャパン取締役CMO。私生活では、自営業の夫と愛犬と暮らす(写真撮影/桑田瑞穂)
そして、夫との共通の価値観である「食」「旅」「友人との時間」を満喫できる場所として、東京ではなく、「自然豊かな場所で別宅」を持つ選択肢がぐっと現実味を帯びてきた。
「夫婦共通の仲の良い友人が長野に別荘を持っていて、よく遊びに行ってたんです。“ここは山の家だから、私達は海の家担当ね”って話していたんです。年に数回しか使わない別荘なら少しもったいないけれど、仕事場も兼ねるならアリじゃないかと思ったんです。使わないときは友人に使ってもらってもいいですから」
コロナ禍でリモートワークが増え、東京で仕事をする必要性が薄れたこともある。仕事用に東京でワンルームを借りていたものの、けっして質が高い仕事部屋とは言えなかったことも動機になった。
「自宅で過ごす時間が増え、どこに住まうのかで人生の豊かさが大きく違ってくることも実感したんです。朝日が昇れば働き、日が沈めば仕事を終わる。そんな暮らしに憧れて、別荘兼仕事場のワーケーションハウスを建てようと具体的に考えるようになりました」
階段の踊り場のような空間を広くとったワークスペースと、ここから緑越しに見えるヨットハーバーの眺望。「この眺望が仕事のクオリティを上げてくれます」(写真撮影/桑田瑞穂)
「夫も私も食べることが好き」を表すような広いキッチン。そこからも木立越しにヨットハーバーが見える(写真撮影/桑田瑞穂)
友人が遊びに来て宿泊できるよう、二段のベッドスペースを設けた。「このソファもベッドになるもの。人を招きやすい”包容力のある家”もコンセプトのひとつでした」(写真撮影/桑田瑞穂)
造園のプランを依頼したのはグリーンにまつわるさまざまな提案を行っている「SOLSO」。白の花が咲く、清涼感のある香りのするティーツリーのほか、三浦市に自生する植物や実の成る樹木を植えて。「窓の位置や動線と合わせて、“自然に見えるけれど、実は計算尽くされたデザイン”になっています」(写真撮影/桑田瑞穂)
人生100年時代ならまだ40年ある。決断は遅すぎることはない
とはいえ、通常、60代といえば、そろそろローンの完済が見えるころ。住み慣れた家を修繕したり、便利な立地のマンションに買い替えたりすることはあっても、「初めて住む場所に、一戸建てを建てる」――不安はなかったのだろうか。
「人生100年と考えたら、60歳ってまだあと40年あるんですよ。この40年を私は3つに分けて考えています。85歳ぐらいまでを元気に生活できる『アクティブ期』、95歳ぐらいまでを健康面で難はあるけれど、自分の事は自分できる『セルフケア期』、その先は誰かのヘルプを受けながら自分の尊厳を守る『要介護期』の3つです。いずれ誰もが介護が必要になり、どこかしらの施設に入る人も多いでしょう。とはいえ、実はセルフケア期までは自分の家で過ごせるんです。けっこう長いんですよね。だから60歳で自分の家を建てることは決して遅くはないと思います」
河野さんの家はバリアフリーではない。どの場所にいてもハーバービューを堪能するため、段差を付けているし、階段もインテリアの邪魔にならないよう、手すりは最小限だ。
「確かにバリアフリーとは逆行した家ですね。もちろん、いつか車椅子になるかもしれない。でもそのいつかっていつ? いつ来るか分からない、でも確率としては20年以上先の不確定な未来のために、今の生活を犠牲にしたくなかったんです」
階段を上がったワークスペースから、2段上がって寝室へ。階段の手すりも吹き抜けの柵も、ミニマムで美しいデザイン(写真撮影/桑田瑞穂)
お金の問題はどうだろうか。
「書籍『Die With Zero』がヒットしていますが、私も死ぬときまでにお金は全て使い切ってしまおうって思ってるんです。一応、老後資金、起業資金としてある程度蓄えはありましたが、ドル建ての年金など一部の貯蓄を“そんなにいらないんじゃない”と解約しました。実は、60歳って支出がすごくコンパクトになる世代でもあるんです。子どものいる家庭であれば、最も支出が多いのは子どもの教育費のかかる50代で、それを過ぎれば不確定要素は減るんです。これからもできるだけ長く働き続けるつもりですし、年金がいくらもらえるようになるかも分かっているし、なんとかなるなと思いました」
家が建つのは丘の上だが、歩いて油壷湾に出られる。夫と愛犬と散策するのが日課。「この土地は、山と海、その両方を堪能できる立地が決め手でした。実はSUUMOで見つけたんですよ」(写真撮影/桑田瑞穂)
住まいを変えれば夢も実現。新たに”したい”も生まれてくる
三浦市に拠点を構えて以来、やりたいことが実現でき、さらに新しい”やりたい”が生まれているという河野さん。
例えば、愛犬のハナちゃんを迎えること、夫と2人でゆったり時間を過ごすこと、釣りやSUP(サップ)など新しい趣味を始めること、新たなコミュニティをつくること。さらには、この場所を何かしらのワークショップの場として活用したいし、地元の農家さんと仲良くなって畑仕事もしてみたいーー情熱は増すばかりだ。
「場所を変えれば否応がなく新しいことを始めるでしょう。むしろ始めないともったいない。二拠点を持つことは人生の豊かさが2倍になると実感しています」
この住まいをきっかけに家族に迎えたハナちゃんは、ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグとゴールデンドゥードルのミックス。「ポーチュギーズ・ウォーター・ドッグという犬種は、もともとポルトガルの漁師さんの犬らしく、泳ぎが上手。海での暮らしを一緒に楽しめるはず」(写真提供/本人)
もともと自生していた樹木を活かし、木立の合間から水辺が見えるように。外ごはんを楽しむため、ベンチとテーブルを設置。SUP用のボード置き場もつくっている(写真撮影/桑田瑞穂)
海遊びから帰ってきたら、人も犬もそのまま身体を洗えるよう、外からバスルームに直行できるドアを設置(写真撮影/桑田瑞穂)
土曜日の朝4時台、暗いうちに東京を出発し、そのまま三浦の城ケ島公園へ。朝日の登る海の風景を独り占め(写真提供/本人)
日曜日には朝市へ。「赤いサラダ大根、マグロの角煮。干物は10枚で500円。マグロのカマは1000円。東京から遊びに来た友人たちにお土産にあげることもあります」(写真提供/本人)
写真左のコップに飾っているのは、庭に生えていたグミの枝。「東京の家は夫の実家を建て替えたもので、なんとなく、夫のフィールドという感じ。この三浦の住まいは私の担当で、置く家具はもちろん雑貨にいたるまで、自分の納得のいくものを置きたいんです」(写真撮影/桑田瑞穂)
デンマークのデザインの巨匠ボーエ・モーエンセンの「スパニッシュチェア」に腰かけて、小窓から見える緑を眺めるのが至福の時間。冬になれば薪ストーブの火に癒やされるはず(写真撮影/桑田瑞穂)
人生は思っていた以上に長い。仕事や子育てが一段落し、定年をむかえてもなお、60代はまだまだ先が長いのだ。
「住まいを変えれば生活は劇的に変わります。それは60代から始めるのに遅すぎることはないと思います」
「とらばーゆ」元編集長/ライフシフト・ジャパン取締役CMO
河野純子(かわの・じゅんこ)さん
著書『60歳の迎え方 定年後の仕事と暮らし』(KADOKAWA)
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