藤岡みなみ|壁の黒ずみは家族の記憶?vol.98

文筆家・ラジオパーソナリティの藤岡みなみさんが、モノづくりに対してのあれこれをつづるコラム連載!題字ももちろん本人。かわいくも愉快な世界観に、思わず引き込まれちゃいます。今回は、壁の黒ずみについて!

藤岡みなみ
文筆家。暮らしの中の異文化をテーマにした『パンダのうんこはいい匂い』(左右社)が発売中。
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壁の黒ずみは家族の記憶?

 ▲「マニキュアみたいで楽しい」

 

生活していると、思いもよらない汚れが発生する。

ある日、自宅の壁に昨日までなかった大きな黒ずみを発見し、わっ!と声を上げてしまった。

まっくろくろすけを手と壁の間でつぶしたような汚れだ。

家族に事情を聞いてみると、家で白髪染めをした義理の父が髪の染料が落ちきる前によろけて壁に頭をぶつけたらしい。

かわいそうに。

そしてよく見ると洗面台の壁にも飛び散った染料が付いている。

気づいてすぐに拭き取ろうとしたが、白髪染めはかなり落ちにくい。

もうこの黒ずみと生きていくしかないんだなと思った。

壁の汚れは家族の思い出ともいえる。

幼い子どもの落書き、勢い余って空いた穴……どんな家にも大なり小なり生活の記憶が染み付いている。

一度はこの汚れと生きていくことを決意したけれど、いい商品があることを思い出した。

壁紙の汚れ隠し塗料だ。
 
 

 ▲「ほぼわからないくらい綺麗になった」

 

とはいえ濃い色がついてしまっているので、もし隠れたらラッキーぐらいの気持ちで使ってみたら、かなり綺麗になった。

便利な世の中だ。

汚れ隠しを塗るまでは壁を見る度によろけた義父の姿を思い出していたが、いまは毎回ではなく5回に1度くらいの想起になった。

 

 

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