<ライブレポート>SHE’S、様々な音楽的要素が融合し観客を惹きつけた【“Memories”】東京公演
前作から1年4か月ぶり、通算7枚目となるオリジナルアルバム『Memories』を今年9月にリリースした大阪出身のピアノロックバンド、SHE’Sが、それを提げての全国ツアー【SHE’S Tour 2024 “Memories”】を開催、12月3日にツアーファイナルを迎えた。11月15日に豊洲 PITで行われた東京公演をレポートする。
定刻となり、鳶が鳴く声にどこか郷愁を誘うピアノの旋律が重なるアルバム冒頭曲「Dull Blue (Intro)」が、暗転した会場内に響き渡るなかメンバーがステージに登場。そして、階段を駆け上がるようなピアノリフに導かれ、井上竜馬(Vo, Key)の甘い歌声が始まりの予感に満ちたメロディーを歌い出す。まずはアルバム『Memories』のリード曲「Cloud 9」でこの日のライブはスタートした。
続く「追い風」は2021年にリリースされたアルバム『Amulet』収録曲で、藤原竜也が主演を務めるドラマ『青のSP(スクールポリス)―学校内警察・嶋田隆平―』の主題歌。4つ打ちのキックが踏み鳴らされ、シンコペーションの効いたピアノリフが奏でられると、フロアからは自然発生的にハンドクラップが鳴り響く。そして、伸びやかなサビのメロディに続く「アンセムコーラス」を全員でシンガロング。早くもフロアは一体感に包まれる。
スリリングでアップテンポな「Raided」を経て井上がアコギをかき鳴らす「Over You」からは、サックス奏者の永田こーせーがゲストで登場。この曲も、サビの掛け合いコーラスがシンガロングパートになっていて、オーディエンスがハンズアップしながら声を合わせると、メンバーも嬉しそうに飛び跳ねながらそれに応えていた。
ここまで過去の代表曲を惜しみなく披露してきたSHE’Sが、ようやく『Memories』収録の「No Gravity」を披露。浮遊感あふれるトラックと、トラップのフロウを取り入れたメロディ、地声とファルセットの巧みな使い分けが官能的なナンバーだ。
続く「Kick Out」は、抑制の効いたヴァースとダイナミックなサビのコントラストが印象的。木村雅人(Dr)と広瀬臣吾(Ba)によるシンプルかつタイトなリズム隊の上で、ポリスの「見つめていたい(Every Breath You Take)」を彷彿とさせる服部栞汰(Gt)のミュートカッティングが、井上のボーカルを引き立てる。この曲もサビにシンガロングパートを用意しており、SHE’Sの楽曲がライブでオーディエンスと作り上げることをも想定した構成になっていることがよく分かるポップチューンだ。
清々しい楽曲から一転、続く「Ugly」は永田のサックスがむせび泣く、狂おしいほど妖艶なファンクチューン。世の中の不条理や偽善、醜い欲望に〈Don’t show me an ugly thing〉と井上がため息混じりに吐き捨てた後は、宙を切り咲くような服部のギターソロが延々と続いた。
リバーブの効いたサウンドと煌びやかなコード進行が、どこかワム!の「ラスト・クリスマス」を彷彿とさせる「Angel」を情感たっぷりに歌い上げた後、「歌うぞ!」と井上が煽り、じわじわと高揚感を上げていくアンセム「Lamp」へ。両手を頭の上にかざし、大きく打ち鳴らしながら「オーオーオー!」とシンガロングしていると、まるで自分たちもSHE’Sの楽曲の一部になったかのよう。
色とりどりのライトが飛び交う中、メジャーコードとマイナーコードを行き来するドラマティックなナンバー「Unforgive」や、オーセンティックなソウルチューン「If」、壮大なミドルバラード「Long Goodbye」など過去の人気曲を散りばめながら、ライブ全体では『Memories』で構築したノスタルジックな世界観を再現していく4人。そしてクライマックスは、まばゆい光の中で演奏された「Alright」。アルバムの中でも屈指のゴスペル曲で、大きなブレイクを経てエンディングでは、井上がソウルフルなフェイクをまるで魂を搾り出すように歌い上げると、会場は割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
「後半戦ですけど、まだまだ元気ですか?」と井上がフロアに呼びかけ、「俺がハマっていた女の子の歌です」と紹介したのは「I’m into You」。1980年代のMTVポップスを彷彿とさせる、弾けるようなポップナンバーだ。間髪入れずに「Un-science」で再びオーディエンスの高揚感を煽り、「Grow Old With Me」の縦横無尽に変化していくドラマティックなリズムとオプティミスティックな歌詞にぐいぐいと引き込まれる。
「まだまだ歌えますかー?」「豊洲、飛べるかー!」と井上が叫び、ステージの端から端まで練り歩きながら「Dance With Me」を歌ったあとは、アルバム表題曲「Memories」で本編を終了。アンコールでは「歓びの陽」と「Stand By Me」を披露し、この日のライブを締め括った。
卓越した演奏能力により80年代洋楽ポップスから70年代ソウル、ゴスペルなど様々な音楽的要素を融合させ、井上竜馬の唯一無二の歌声がエヴァーグリーンなメロディを紡いでいく。そんなSHE’Sの音楽的魅力を存分に堪能した一夜だった。
Text by 黒田隆憲
Photos by タマイシンゴ
◎公演情報
【SHE“Zoo”サファリ vol.4】
2025年2月6日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2025年2月7日(金)愛知・名古屋CLUB QUATTRO
2025年2月10日(月)東京・渋谷CLUB QUATTRO
※ファンクラブ「SHE“Zoo”」会員限定
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