片山慎三監督×原作・つげ義春『雨の中の慾情』中村映里子インタビュー「何度もテイクを重ねることで生まれるものが確実にある」

映画『雨の中の慾情』が11月29日より公開となる。自費制作した『岬の兄妹』でセンセーショナルな長編映画監督デビューを飾り、映画『さがす』やドラマシリーズ『ガンニバル』で確固たる支持を得た片山慎三の新作は今年デビュー70周年を迎える漫画家、つげ義春の短編「雨の中の慾情」を原作にした映画化。

昭和初期の日本を感じさせるとある街で出会った売れないマンガ家・義男(成田凌)、小説家志望の男・伊守(森田剛)、蠱惑的な未亡人・福子(中村映里子)という温もりを求める3人の欲望と思惑が絡み合っていく数奇なラブストーリーは規格外に展開していく──。ほとんどのシーンを台湾で撮影した情緒あふれる映像世界の中で、多くの男性を挑発的に魅了しながらも、時には嫉妬に狂う激情家の一面も持つ義男のファム・ファタール、福子を演じた中村映里子にインタビューした。

──『雨の中の慾情』の福子を演じることになってどう思いましたか?

どんな作品になるのか想像がつかないところがあってワクワクしました。福子をどれだけ魅力的に演じられるかが作品にとってとても重要だと感じたので、不安はありました。でも撮影が進むにつれて、片山さんをはじめとする片山組の皆さんに対して強い信頼感が芽生え、安心して演じることができました。

──片山監督の作品からは「日本の映像作品を底上げしよう」という熱量を毎作感じるのですが、撮影現場でそういったことは実感しましたか?

片山さんは良い作品を撮るためにルールや常識に捉われない方というイメージがあります。そんな片山さんに引っ張られて、たとえ肉体的にはヘビーだったとしても、現場の熱量がどんどん上がっていく実感がありました。片山さんは「1日でワンシーン撮るぐらいが良い」とおっしゃっていたのですが、とにかくたくさんテイク数を撮るんです。何度やってもオッケーが出ないので、「どうしたらいいんだろう?」と思いながらも、何度もやることで生まれるものが確実にあるので楽しかったです。

──『雨の中の慾情』に出演したことで改めて感じたお芝居の面白さはありましたか?

役者さんはどこか孤独なところがあると思うんですが、今作はもちろん孤独はありながらも、みんなで支え合えた感覚がとても強いです。メイク部さん、衣装部さんとか、美術部さん、演出部さん……あらゆる部署の方たちのアイディアが飛び交って、多くの影響を受けながら撮影が進みました。福子を演じる中で混乱したことや迷ったことがたくさんあったんですが、皆さんが導いてくれたおかげで演じきることができたと思っています。

──主人公の義男を演じた成田凌さんにはどんな印象を持ちましたか?

静かにとにかく人のことを細やかに見てらっしゃる方という印象がありました。現場で嫌な思いをする方がいないように気を配られているので、作品への強い愛があって実は熱い方なんだろうなと思いました。

──福子と恋仲になる伊守を演じた森田剛さんにはどんな印象を持ちましたか?

森田さんも寡黙な方ですごく優しい方という印象を持ちました。私にとっては幼い頃からずっとテレビの中でご活躍されている方というイメージがありましたが、プライベートのことも気さくに話してくださって、とても人間味があって地に足がついた素敵な方でした。

──中村さんは20年近くのキャリアをお持ちですが、転機になった作品や出会いというと?

安藤桃子さんの初監督作『カケラ』(2010年)です。満島ひかりさんとダブル主演をやらせていただいたのですが、あの作品との出会いは本当に大きかったです。当時私は20代前半だったんですが、俳優として生きていくのかどうかっていうことをすごく考えさせられましたし、人としてどう生きていくのかっていうことも問われた感覚がありました。桃子さんとひかりさんには、厳しいことを言っていただいたことでたくさんの気づきをもらいましたし、強い愛情をいただけた気がしています。おふたりと出会ったことで、お芝居をするにしても、生きていく上でも、ちゃんと心を動かさないといけないということを教えてもらいました。その後、桃子さんには何度かお会いする機会があったんですが、会う度に「今の自分は大丈夫だろうか」と思って良い意味で緊張してしまうんですよね。

取材・文:小松香里
撮影:オサダコウジ


『雨の中の慾情』
©2024 「雨の中の慾情」製作委員会
配給:カルチュア・パブリッシャーズ
11月29日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

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