<ライブレポート>注目度急上昇の乃紫が2ndワンマン開催、多彩な表現で見せつけた強烈な求心力

 2024年は年始早々に「全方向美少女」が大ヒットし、【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】や【SUMMER SONIC 2024】などの大型フェスへ出演を果たすなど、瞬く間に令和を代表するアーティストのひとりとなったシンガー・ソングライター、乃紫。彼女が初ワンマンから約7か月のインターバルを経て、東阪ワンマン【乃紫 2nd ONE MAN LIVE】を開催した。

 初日となる東京・Zepp Shinjuku公演で、会場に入った観客をまず出迎えたのは、フロアまでの道中に設置されたポスターや顔はめパネルなど多数の展示物。ライブ本編も音楽、映像、写真、文章など、様々な表現方法をブレンドしたクリエイティブのポテンシャルが遺憾なく発揮され、彼女が生粋のエンターテイナーであることを思い知らされた。

 一面がLEDモニターになったステージの背面に、SNS上でお馴染みの乃紫の楽曲制作風景映像が流れると、バンドメンバー3人に続いて乃紫が観客の前に現れる。彼女の「2ndワンマンにようこそ」の挨拶とともに金色のテープが会場に舞うなか、「ハニートラップ」でこの日の幕を開けた。骨太のバンドサウンドに乗せて、ウェットで艶やかな歌声を響かせるだけでなく、イントロでタオルを回したり、歌いながらジャケットの背中に書かれた「WELCOME TO MY SHOW」の文字をさり気なくちらつかせたり、マイクスタンド・スタイルやハンドマイクなど、様々なパフォーマンスで魅了する。さらには「楽しんでる?」「後ろのほうもちゃんと見えてるよ」と声を掛けるなど配慮も忘れない。1曲目から会場は、乃紫による手厚い歓迎で祝福ムードだ。

 360度LEDビジョンが解放され、さらに会場が華やぐと、「ヘントウタイ」ではギターボーカルスタイルで、「とある夏」ではマイクスタンドを用いたピンボーカル・スタイルでパフォーマンスをする。ポップなサウンドデザイン、エッジの効いたバンドサウンド、ほのかな憂いを感じさせる彼女の歌声が混ざり合った音像は、強がりゆえに素直になれない若者のムードを立ちのぼらせる。映像の右側には映画字幕風に歌詞が映し出されるため、乃紫がヒロインを演じる映画を観ているような感覚にもなった。記憶を誘発させる音楽、物語への没入感を高める映像、受け手の意識を引きつける言葉、躍動感に満ちたステージングと、乃紫は表現方法それぞれが持つ強みを大いに活かす。そんなライブをこれだけスマートに、2回目のワンマンでやってしまうのだから、舌を巻かざるを得ない。

 最新リリース曲「縁色反応」を届けると、「今日は貴重な音楽体験をあげたいと思っているから、一緒に楽しみましょう。しばらくわたしの曲しか聴けないようにしてあげるから」と微笑み、センチメンタルなポップナンバー「東京依存性」、ハードロックを彷彿とさせる渋いギターの音色がシンボリックな未公開曲「学園ハイブランド」、80年代アイドルのようにステップを踏みながらのハンドマイク・パフォーマンスにコール&レスポンスを加えた歌謡曲的アプローチの「接吻の手引き」を立て続けに披露すると、暗転から目覚ましのアラーム音が鳴り、「おはよー、早く起きて、遅刻するよ!」の掛け声を合図に、12月6日に全国公開となる映画『うちの弟どもがすみません』のために書き下ろした、自身初の映画主題歌「恋の8秒ルール」へ。甘酸っぱいメロディが軽やかに会場を潤した。

 「MCタイムが一番困る」「喋るのが得意じゃない」と照れ笑いを浮かべながらも、前回のワンマンから3倍のキャパシティの会場のチケットがソールドアウトしたことに感謝を告げ、「春ぐらいからフェスやTVに出させてもらったり、いろんなところで歌わせてもらったけど、全部今日のための修行だったと思っています。ワンマンに来てくれる皆さん、本当に大好きです。いつまでもついてきてください」と毅然とした様子を崩さない。彼女のわかりやすくも人の心を掴むギミックが効いた言葉選びは歌詞だけにとどまらないことを再確認する。

 青いベンチに腰掛けて歌い出した「ホットレモン」では、SKRYUのサプライズ出演で会場が沸き、ギターボーカル・スタイルで届けた「踊れる街」は、悲しさと喜びが入り乱れる青春のロマンチシズムを瑞々しく描く。未発表曲「月と指輪」では感傷的なコードとボーカルがさらに観客を感情移入させた。乃紫が若者だけでなく全世代の心を掴んでいるのは、さまざまな時代のサウンドを柔軟に取り入れてアウトプットしていることに加え、時代が変われども変わらない“恋愛”や“人を好きになることで生まれる感情”などを丁寧に描いていることが挙げられるだろう。彼女の描く物語は若者には憧れや共感であり、大人にとっては懐かしさや今もなお胸の奥で輝き続ける感情や記憶でもある。彼女の曲は、リスナーに自分が主人公になったようなきらめきを与えてくれるのだ。

 バンドメンバー紹介のソロ回しを経て、乃紫はサングラス姿でトランシーバーを携え、未発表のラップ曲「何者」を披露する。乃紫というアイコンを主人公にした楽曲ゆえか、歌詞は映像内にて映画字幕風ではなくリリックビデオのようにメインとして用いられた。自身のキャラクターを前に出しながらも心情吐露にならないユーモラスな手法は、彼女のセルフ・プロデュース能力の高さを象徴していた。

 ラスト・セクションを前に「もう一度、皆さんとウォーミング・アップをしていきたい」と呼び掛けて観客とクラップでリズム・セッションを行うと、「初恋キラー」「先輩」とキャッチーかつ挑発的なムードで会場のボルテージを上げ、「アフターオール」「A8番出口」で観客一人ひとりの感情と記憶を揺さぶるエモーショナルな歌と演奏を響かせる。そして、「最後の1秒まで今日という日を最高の思い出にしましょう」となめらかに「全方向美少女」へとつなげた。観客のクラップとシンガロングが加わり、さらに会場は朗らかな空気感で包まれ、彼女がアウトロで「この先どれだけ大きいステージに上がっても、一緒に音楽を楽しみましょう」と呼びかけると、ピンク色のテープが舞い上がる。まさに映画のハッピーエンドのような、隅々まで晴れ渡った光景だった。

 彼女がステージから去ると、モニターには全4か所を回る【乃紫 ZEPP TOUR 2025】の開催発表映像とエンドロールが流れ、最後に「今日は来てくれてありがとう 次はZeppツアーで会いましょう」という手書きメッセージが残った。最初から最後まで余すところなく乃紫の表現の理想形が詰め込まれていたライブと言っていいだろう。

 ではなぜ彼女は、これほどまでにライブへ様々なアイデアを惜しみなく注ぐのか。それは、この日、彼女がしきりに観客に呼び掛けていた「一緒に楽しみましょう」という言葉がキーになっているのではないだろうか。この言葉は、人を楽しませることに対して純粋な充実感や幸福感を覚えている人間からしか出てこない。だがもしかすると、この言葉すらも彼女のエンターテインメントなのだろうか――とついつい聴き手も様々な深読みをしてしまうほど謎めいていて、自身の美学への妥協を許さないのが、乃紫というアーティストなのかもしれない。彼女の表現に対する欲求と矜持を全身で感じられる、愛情に溢れた一夜だった。

Text:沖さやこ

◎公演情報
【乃紫 2nd ONE MAN LIVE】
2024年11月9日(土)東京・Zepp Shinjuku (TOKYO)
2024年11月17日(日)大阪・Yogibo META VALLEY

◎公演情報
【乃紫 ZEPP TOUR 2025】
2025年4月13日(日)福岡・Zepp Fukuoka
2025年4月19日(土)愛知・Zepp Nagoya
2025年4月20日(日)大阪・Zepp Namba
2025年4月27日(日)東京・Zepp DiverCity

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