高齢者、賃貸住宅を探すなら”見守りサービス”が欲しい。種類や選び方を高齢者専門の不動産会社「R65不動産」山本遼さんに聞いてみた

高齢者の賃貸ニーズに応える見守りサービス、どんな種類がある?選び方は?高齢者専門の不動産会社・R65不動産に聞いた

オーナーや不動産管理会社にとって高齢者に賃貸住宅を貸すことは、認知症の発症や孤独死など、将来的な「経営上のリスク」も抱えることになります。この問題を解決に導くサービスとして「見守りサービス」が注目されていますが、さまざまな種類があり、「貸す側」「導入する側」としてもどの見守りサービスが良いのか、どうやって選べば良いかがわかりにくいようです。

そこで、高齢者専門の不動産仲介会社であり、自社で見守りサービスを提供しているR65不動産 代表取締役の山本遼(やまもと・りょう)さんに、見守りサービスの種類やサービスを選ぶ際のポイントを聞きました。

高まる高齢者の賃貸入居ニーズと貸す側の拒否感

2018年時点で賃貸住宅に入居中の高齢者は、約400万世帯と言われています。高齢者の賃貸需要は年々増加しており、これからの賃貸経営やマーケットにおいて、高齢者は重要なターゲットとなる可能性が高いのです。

賃貸住宅へ入居している65歳以上の高齢者世帯は数・割合ともに年々増加している(資料提供/R65不動産 出典/総務省「平成30年住宅・土地統計調査」)

賃貸住宅へ入居している65歳以上の高齢者世帯は数・割合ともに年々増加している(資料提供/R65不動産 出典/総務省「平成30年住宅・土地統計調査」)

ところが、入居ニーズの高さに反して、高齢者がオーナーや不動産管理会社から賃貸住宅への入居を断られる状況が続いています。
2021年度(令和3年度)に国土交通省が実施した調査によると、賃貸人(大家等)が高齢者の入居を制限する理由として最も多いのが「居室内での死亡事故等に対する不安」で、その割合は約9割を超えました。

賃貸オーナーが高齢者の入居を制限している理由として最も多いのが、室内で死亡事故などが発生することに対する不安(出典/国土交通省「第4回住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」2023年9月配布資料)

賃貸オーナーが高齢者の入居を制限している理由として最も多いのが、室内で死亡事故などが発生することに対する不安(出典/国土交通省「第4回住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」2023年9月配布資料)

実は、2021年に国土交通省が策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」において、居室内で自然死や事故死が発生しても、早期発見であればその部屋を借りようとする人に対し告知義務はないとされています。しかし、日数が経過して室内が汚れたり、臭いが付いたりしてしまった場合は、その限りではありません。

「発見までに日数が経過してしまった場合は『心理的瑕疵物件』として告知義務が発生しますし、特殊清掃(遺体の発見が遅れ、遺体の腐敗などによりダメージを受けた室内を原状回復するための消臭、汚染除去など、特別な清掃)が必要な場合も多く、原状回復に100万円近い費用がかかるケースもあります。連帯保証人がいない場合や親族が相続放棄した場合には、オーナーさんがこれらの費用を全額負担しなければならないことも。

さらに、新たな入居者を募集するのが難しくなり、やむを得ず賃料を下げるしかない、という状況になることも予想されます。つまり、万一のことがあった場合にも『早く発見できること』が大事なのです」

居室内で入居者が死亡した場合、検死や遺体の引き取りや室内清掃など、賃貸オーナーの負担が大きい。少しでもその負担を軽減するためには「早期の発見=見守りが重要」だと山本さんは強調する(資料提供/R65不動産)

居室内で入居者が死亡した場合、検死や遺体の引き取りや室内清掃など、賃貸オーナーの負担が大きい。少しでもその負担を軽減するためには「早期の発見=見守りが重要」だと山本さんは強調する(資料提供/R65不動産)

このような背景があり、高齢者に住宅を賃貸しているオーナーや、離れた場所で暮らす高齢者の安否を確認したい親族などから、見守りサービスの導入を検討したいという声が増えてきました。

いま、続々と高齢者向けの見守りサービスが登場している

R65不動産では、高齢者が賃貸住宅に入居しやすい環境をつくるために多くの不動産仲介会社と連携して高齢者が入居可能な物件をホームページで紹介してきました。また、万一があったときの残置物の取り扱いや事務手続きをスムーズにできるよう、死後事務委任について盛り込んだ契約書のサンプルを多くの不動産会社(R65不動産のパートナー会社)がダウンロードできるように公開するなどの取り組みも行っています。あわせて注力しているのが、不動産管理会社などと提携して展開する、見守りサービスの提供です。

見守りサービスの現状について、山本さんはR65不動産が2024年8月に開催された「賃貸住宅フェアin東京」に出展した際の来場者の反応を語ります。

「私の印象だと、賃貸オーナーさんや不動産管理会社など、住宅を貸す側の約7割が導入を検討しているものの未導入。そして、約2割は『以前に導入していたが止めてしまった』とおっしゃっています。導入していた人が止めた理由としては『導入の初期費用や維持コストがかかるから』という回答が多くありました」(山本さん、以下同)

2024年8月に開催された「賃貸住宅フェアin東京」にR65不動産が出展したときの様子(画像提供/R65不動産)

2024年8月に開催された「賃貸住宅フェアin東京」にR65不動産が出展したときの様子(画像提供/R65不動産)

見守りサービスには、さまざまな種類があります。
人が介在するものとしては、セキュリティサービスと連動して非常時に訪問対応するものや、食材や飲料の配達に合わせて入居者の安否を確認するものが代表的です。

デジタルツールの活用によって見守りをするものもあります。例えば、定期的な自動電話によって入居者の応答を求め安否を確認するもの、室内に取り付けた電球のON/OFFによって安否を確認するもの、カメラやセンサーを通じて異状を感知するもの、使用する電力の変化によって異状を検知するものなどがあります。

見守りサービスを提供する200社に聞いてわかったポイント

見守りサービスがあることによって、入居した人が動けなくなったり、意識がなくなったりした際に早めに発見できる可能性が高まります。また、万一、死亡事故となった場合も早期に発見できれば、貸す側の負担を大きく減らすことができます。そのため、見守りサービスは入居する人やその家族に安心を提供するだけではなく、オーナーや管理会社の「死亡事故等に対する不安」を取り除くためのサービスとしても注目されているのです。

R65不動産は、高齢者専用の不動産会社として事業を開始しましたが、依然として高齢者の入居が進まない状況に頭を悩ませてきました。そこで、オーナーが高齢者に住宅を貸しやすい環境をつくろう、そのために孤独死による損害を減らそうと考え、自社でも見守りサービスを提供することにしました。

見守りサービスの導入を検討する過程では、なんと約200社から商談のコンタクトがあったそうですが、多種多様な見守りサービスの中には、導入しづらいものもありました。

「例えば、人が介在する見守りサービスのうち、セキュリティサービスと連動したものは、非常時の駆けつけなど、人が対応するので、その分利用料が割高になります。また、食材や飲料の配達時に安否確認するタイプの見守りサービスは商品の購入費用などがかかり、全国どこでも毎日配達・見守りをしてくれるとは限りません」

人が対応する見守りサービスは利用料が高くなる傾向がある(画像/PIXTA)

人が対応する見守りサービスは利用料が高くなる傾向がある(画像/PIXTA)

デジタルツールを活用することで費用を低く抑えているものもありますが「定期的に高齢の方へ自動電話をかけ、その反応で安否を確認する見守りや、室内にカメラやセンサーを設置して行う見守りは、見守りの対象となる高齢の方が監視されているように感じ、人によっては敬遠する傾向にある」(山本さん)と言います。

カメラやセンサーを使った見守りは、対象となる高齢者が「監視されている感」を抱きやすい(画像/PIXTA)

カメラやセンサーを使った見守りは、対象となる高齢者が「監視されている感」を抱きやすい(画像/PIXTA)

また、電球のON/OFFを検知する見守りは、室内に入って電球の設置・交換が必要なため、設置会社の繁忙期だと導入まで時間がかかることが予想され、自室に他人が立ち入ることに入居する高齢者が抵抗を感じる点がマイナス要因となるそう。

「このように見ていくと、『導入が簡単で、監視されている感がなく、費用も抑えられるもの』が、入居する高齢の方に受け入れられやすい見守りサービスだと感じます。死亡事故などがあって大きく損害を受けるのは、オーナーさん、不動産管理会社など、住宅を貸す側です。であれば、貸す側が主体となって見守りサービスを導入すべき。もちろん、導入する際には費用負担が少なく、入居者に受け入れやすいものを選ぶのがポイントです。

一方、賃貸住宅に入居中の人や、入居を検討していて見守りサービスを導入してほしい人は、その旨をオーナーさんや不動産会社に伝えるといいでしょう」

数ある見守りサービスの中でも「導入が簡単」「監視されている感がない」「費用を抑えられる」ものが導入しやすい(資料提供/R65不動産)

数ある見守りサービスの中でも「導入が簡単」「監視されている感がない」「費用を抑えられる」ものが導入しやすい(資料提供/R65不動産)

R65不動産が選んだ見守りサービスは、電力変化を検知するタイプ

R65不動産が導入を検討してきた見守りサービスは複数ありますが、数年間試行錯誤した結果、現在は電力変化を検知するタイプの見守りサービスを採用し、「らくもり」という名称で不動産管理会社を通じて賃貸物件への導入・普及に努めています。毎日、前日の0時~24時までの1日の電力データをAIがモニタリングし、電気の使用量やタイミングなど、通常の電気使用の動きと異なる動きが見られると24時間~48時間以内に入居者の携帯に連絡が行く仕組みです。

R65不動産が導入した見守りサービスは、電気使用量やタイミングなどの電力データを解析するもののため、新たな機器の設置や人の出入りが不要(資料提供/R65不動産)

R65不動産が導入した見守りサービスは、電気使用量やタイミングなどの電力データを解析するもののため、新たな機器の設置や人の出入りが不要(資料提供/R65不動産)

異常を検知したら入居者の携帯に連絡して安否を確認。応答がなければ親族や不動産管理会社などにメールが行く(資料提供/R65不動産)

異常を検知したら入居者の携帯に連絡して安否を確認。応答がなければ親族や不動産管理会社などにメールが行く(資料提供/R65不動産)

「やはり、導入しやすさ、監視されている感のなさ、コスト面が抑えられることを重視して検討してきた結果、最終的に残ったのが電力変化による見守りサービスです。電力変化による見守りサービスなら、機器の設置が不要で導入しやすいうえ、人が居室内に立ち入ることや監視されている感がなく、コストも数百円程度に抑えられます。

サービスを始めた当初は新電力の会社と協力して進めていましたが、導入するには入居する方に電力会社の切り替えをお願いしなくてはならず、新電力の会社と契約することに抵抗を感じる方もいらっしゃいました。切り替えの手続きが必要なため、私たち仲介会社のオペレーションコストがかさむという課題もありました。

しかし、2024年の8月からは、どこの電力会社を使っていても『らくもり』を提供できるようになり、当初、入居する方が感じられていた不安や不便を解消しています」

高齢者が「どこでも」賃貸住宅を借りられる社会にするために

こう見ていくと、高齢者が賃貸住宅に入居しやすい社会の実現に向けて、見守りサービスの普及が一つのカギになっていると考えて良さそうです。

「私たちの理想は、『R65不動産がなくても、高齢者が苦労なく住宅を借りられる社会』です。身寄りのない人が賃貸契約するにはどうすればいいか、入居する方が認知症になったときにどうするかなど、現状の課題は山積みですが、これらの課題に対して、仕組みをつくったり、他の会社と連携したりして、解決策を導き出すことが私たちの役割だと思っています。

高齢の方が安心して暮らせる物件を増やすため、見守りサービスの普及に注力しながら、これからも、高齢者の入居と同時に、賃貸オーナーさんが安心して住宅を賃貸できる仕組みをつくることに尽力していきます」

「本当はR65不動産が必要なくなる状態が理想」と語る、R65不動産 代表取締役の山本遼さん(オンライン取材時の動画をキャプチャ)

「本当はR65不動産が必要なくなる状態が理想」と語る、R65不動産 代表取締役の山本遼さん(オンライン取材時の動画をキャプチャ)

賃貸オーナーや不動産管理会社など貸す側の負担が少なく、入居する高齢者が受け入れやすい見守りサービスが普及し、オーナーや不動産管理会社の認知や理解が向上すれば、高齢者の入居支援につながるでしょう。

今後、全国的に空き家や空室が増えていくと予想されるなか、入居したい高齢者と所有物件の入居率を上げたい貸す側の双方にとって、見守りサービスの存在が「安心して貸せる/入居できる仕組み」として広がっていくといいですね。

●取材協力
株式会社R65
・らくもり

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