『あんのこと』特別上映の入江 悠監督インタビュー 活動15年で「円環が閉じた感じがある この映画祭に教えてもらいました」【第37回東京国際映画祭】
6月に公開された河合優実さん主演『あんのこと』も記憶に新しい入江 悠監督の作品が、10月28日(月)~11月6日(水)に開催される第37回東京国際映画祭(TIFF)の「Nippon Cinema Now部門」で特集上映されます。
「Nippon Cinema Now」は日本映画の新作を上映する部門で、選考は「海外に紹介されるべき日本映画」を重視。最新作『あんのこと』が高く評価され、入江監督の足跡を改めて振り返る貴重な機会になりました。
先に開催された同映画祭ラインナップ発表記者会見では、監督の出世作『SR サイタマノラッパー』(09)の2010年の上映時、ジャージ姿で登壇したエピソードを振り返り、「若かったですね(笑)」と照れ笑いする入江監督。あれから15年、ご本人にお話をうかがいました。
今年の「Nippon Cinema Now部門」特集上映、一報が届いた時に「正直、俺なんかでいいのかなと思いました」と驚いたという入江監督。「もっと一貫性のあるフィルモグラフィーの監督の特集をしたほうがいいのではと思ったんです。今年公開の『あんのこと』も(過去作と比較して)『あれって同じ監督が撮ったの?』と言われましたし(笑)」と謙そんする。
自分の作品は恥ずかしいので観直すことはしないが、特集上映ではティーチンもあるため、過去作を観返している。そこで改めて向き合うと、意外な発見があったと入江監督は言う。「自分の過去の作品を振り返って観て、今回の『あんのこと』って、1作目の『SR サイタマノラッパー』(09)以来、自分を重ねながら主人公を脚本に描いていたところはあると思いました」と共通項も見出せた。
「自分の分身が街にいるような感覚で、自分の中でふたつの作品がつながったんです」と言い、「『SR サイタマノラッパー』(09)の主人公は完全に自分の分身として描いていて、彼と性別は違うのですが、もしかしたら自分もあんのような存在になり得たかも知れない。これまでもオリジナル脚本は何本か作って来ましたが、どこか自分と切り離してカメラで捉えていましたが、そういう意味では共通していると思いました」。
2009年公開の『SR サイタマノラッパー』から早15年。15年経っての必然のようなところもあると入江監督は続けた。原点に戻ったのか。「そうですね。気持ちとしてはあります。そういう節目に東京国際映画祭に選んでいただけたと思います。映画ってやっぱりウソをつかないんですよね。見抜かれるものだなと思いました」と感慨深げに語る。
「もちろん毎回全力で作っていますが、『お前にとってこの映画はこういう映画なのだ』と映画祭が教えてくれる感じがある。ここで一度円環が閉じたとでも言うのか、『特集してやる』と言われた感じはありますね」。
そして次の15年は勝負だという。「年齢的に折り返しな感じがあります。キャリアの折り返しに自分自身を振り返る機会をいただけたて改めてうれしく思うのですが、無知な頃って思い切り出来たんですよね。今はいろいろなことを知ってしまい、身に着いてしまった観念をいかに削ぎ落してまたゼロに戻れるか。そういう時間にしていかないといけないんです」と決意を新たに。「東京国際映画祭をまたジャージで歩いていた頃のような感覚にならないといけないと思っています。(実際に歩いたら)ただの痛いおっさんだと思いますけど(笑)」。『あんのこと』は、10月31日(木)13:15~ 以降11月4日(月)まで過去作を特集上映。
©2023『あんのこと』製作委員会
©2008 NORAINU FILM / Cinema Rosa
(執筆者: ときたたかし)
- ガジェット通信編集部への情報提供はこちら
- 記事内の筆者見解は明示のない限りガジェット通信を代表するものではありません。