『破墓/パミョ』チャン・ジェヒョン監督インタビュー「俳優のシーンを撮影している時よりも、棺を撮っている時の方がワクワクしました」
墓に隠された恐ろしい秘密を掘り返すサスペンス・スリラー『破墓/パミョ』が大ヒット上映中です。
『オールド・ボーイ』で映画賞を総なめにした演技派俳優チェ・ミンシク、「トッケビ ~君がくれた愛しい日々~」で社会現象を巻き起こした人気女優キム・ゴウン、『コンフィデンシャル/共助』で存在感を見せつけた個性派俳優ユ・ヘジン、「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」で一躍注目を集めた若手俳優イ・ドヒョンと、『プリースト 悪魔を葬る者』『サバハ』で観客を魅了してきた鬼才チャン・ジェヒョンという、超豪華キャストとジャンル映画監督がタッグを組んだ本作。
プロモーションのために来日したチャン・ジェヒョン監督にお話を伺いました。
――本作大変楽しく拝見させていただきました。韓国で『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『パラサイト 半地下の家族』を超えて約1,200万人を動員する大ヒットとなっていますが、この反響を受けていかがですか?
色々な混乱に陥りました。もしかして僕は映画の作り方・見せ方を間違えたかな?そうじゃなかったら韓国にはこんなに隠れたオタクがたくさんいたんだなと(笑)。プロット自体は大衆的なものでエンターテイメントになっていると思うのですが、要所要所に出てくる要素はほぼ変なものばかりなので。僕が変な人間なので、やりたいことをつめこんだ映画がこんなにたくさん多くの方に観ていただけて驚きました。
――韓国にはたくさんの優れたホラーやスリラー作品がありますから、観客の方の意識も高いのかなと思っていました。
「サスペンス・スリラー」として一言で表現するのは難しい映画だと思いますが。いずれにせよ僕は超自然的なものに興味があります。しかしながらホラー映画は好きじゃありません。これまでの作品も含めてホラー映画として作った覚えはないんです。もし本作をホラー映画として仕上げるとしたら、アメリカ在住の依頼人の方を主人公に据えるべきだったと思うんですね。ホラー映画というのはほとんど被害者が中心となる物語で、それでこそ恐怖心が増すと思います。本作も含めた、僕のこれまでの作品では主役は専門家的な人が担っていて、言うならば幽霊的なものが被害者の立場になるのです。
――面白い視点ですね(笑)。本作には専門的な要素も多いですから、取材などの準備にもたくさんの時間がかかったのではないでしょうか。
5年という時間がかかりました。映画に出てくる専門家的な職業の方にたくさん会ってお話を聞きましたし、改葬も15か所ぐらい立ち会いました。ある日葬儀師の方から早朝に電話があり、ソウルから3時間ほど離れた場所で改葬があるから見に来いと。その葬儀師曰く、とある山にあるお墓の子孫の方々が同じ時期に脳溢血で倒れてしまうということがあったそうです。葬儀師さんは「おそらくお墓の場所が悪いのだろう」と。
急遽墓を掘ることになったのですが、掘っていけば掘っていくほど土の中に水が溜まっていったということが判明しました。少し前に近くに工場を建設して、その排水がお墓の方に流れてしまったんじゃないかなということでした。遺骨が中途半端に腐食していたので、その場で急遽火葬して葬ったのです。
――お墓や遺骨が抱えていた問題が、生きている人間へメッセージとして伝わっていたのですね…!
これは風水師さんから聞いた話なのですが、 火葬と土葬の1番の違いというのが、土葬の場合だと墓の中で腐食していって土を変える。それが埃になって空に舞うと、同じ民族の同じ系列に遺伝子を持ったそこに住んでいる人たちが空気を通してそれを吸収することになるので、間接的な影響を受けるそうなのです。火葬だとそういったことが無いので良い影響も悪い影響も無くなりますよ、と。ですので、韓国の富豪や財閥はとても豪華で高い土地を買ってみんな土葬をします。死しても子孫に良い影響を与えられるようにと。
――今こうして聞いているだけですごいお話だなと感じるのですが、監督がこの改葬に興味を持ったきっかけはどんなことですか?
子供の時に改葬に立ち会った時があって、古い棺を取り出すのを見て複雑な感情を抱きました。怖いという気持ちもあれば、中に何があるんだろうという好奇心もあり、色々な気持ちがありました。そこからずっと、棺に関係のある映画を作りたいなと思っていて、本作を作っている際も俳優のシーンを撮影している時よりも、棺を撮っている時の方がワクワクしました。
――では棺の制作にもこだわりが?
大きさだったり、棺の素材、装飾だったり、全て意味があるもので表現すべきだとも美術スタッフにお願いしています。
――監督は本作をホラー作品として作ったつもりは無かったそうですが、恐怖感の演出が素晴らしかったです。
僕が映画制作において最も重視をするものは「没入感」です。この次はどうなるんだろう、この次はなんだろうという気持ちに、絶え間なくさせることで、言わば観客との駆け引きをストーリーに盛り込むことが出来ます。集中して見てくださる観客がある程度は見当がつくような作りにする。それがポイントです。この映画と接点が少しでもある方はすぐ没入出来るとおもいますが、そうでもない一般の観客にとっては、どうしても映画に出てくるキャラクターに頼るしかないですよね。映画の中に自分よりは1歩だけ理解をしている人、新しい世界に入る時の好奇心とともに、安心感があると映画が楽しめるのだと思います。
例えるならば、暗い洞窟に向かって歩いていくとして、藤本さん(筆者)が前を歩いていって僕がそれを後からついていって撮影していたら普通のホラー映画になります。一方で、僕が先導役として入って、スマホの照明か何かで一部分を照らしながら「ついてきて」と言ったら、これから何が起こるか分からない、僕が一番好きな没入感のあるシチュエーションになるんです。
――とても分かりやすい説明をありがとうございます。以前呪物コレクターの方にお話を伺った際、韓国の方は風水や占いとの距離が近いというお話が出たのですが、監督もそう感じられていますか?
風水というものは迷信ではありません。宗教でもありません。中国では大学に風水学科が設置されているぐらいで、東洋哲学としての立ち位置ですね。日本においても建物を建てる方角を気にするなど、知らず知らずのうちに風水的なものが日常に浸透しているのだと思います。
一方で、韓国で巫堂(ムーダン)を訪ねに行くという人たちはおそらく10パーセント、5パーセントぐらいしかいないと思いますし、面白半分の方もいらっしゃると思います。ちなみに、僕は毎週教会に通っています。クリスチャンです。
――今日は貴重なお話をありがとうございました!
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