ど派手な成人式、ギラギラと光るデコトラ。日本特有の「浪漫」を捉える写真家 YURI HORIEインタビュー







北九州や沖縄のど派手な成人式、ギラギラと光るデコトラ、刺青、祭事、歌舞伎町の夜遊び……。捉えたのは全国各地、さまざまな人と出会うなかでいわゆる“漢の浪漫”に宿る普遍的な魅力に惹かれ、自分の心にも“浪漫”を抱いた瞬間。今ファッション業界や音楽業界で引っ張りだこのフォトグラファーYURI HORIEによる初の個人写真展『浪漫-Roman-』が5月31(金)〜6月5日(水)に「新宿眼科画廊」で開催された。
展示では、UFOキャッチャーや占いコーナーなどが楽しめる物販を含め、3つの異なる世界観のブースが設けられた。「いい写真を見たというより、楽しかったと思ってほしかった」。単なる写真の展示を超えて、体験を生み出すことを意識したという本展示を終えて間もないYURI HORIEに話をうかがった。






パッと浮かんできた『浪漫』という漢字


ーまずはじめにYURIさんご自身について少し聞かせてください。写真はいつからはじめたんですか?


YURI HORIE「もともと写真をやるつもりは全然なかったんです。なので写真とは関係ない大学を卒業して、某カメラ会社の開発チームに就職しました。好きなことといえば、学生の頃からずっとK-POP。韓国語を勉強したり、大学では1年間韓国に留学したり、社会人になってからも週1で韓国に行ったりしていたのですが、段々とこれは何になるんだろうって虚無になりだして(笑)。一方、会社で開発の勉強の一環としてカメラを無料で借りられたので、撮っているうちにすごく楽しいと気がついて。その頃ファッション誌で撮影のインターンもはじめました。当時は韓国ブランドが流行りはじめたときで、個人で韓国語の通訳としてバイイングのお手伝いとかもしていくなかで、デザイナーの方がソウルのファッションウィークに来てみない?って言ってくれて、カメラを持っていったのがフォトグラファーになった最初のきっかけです」


ー大企業にフルタイムで勤めながらブランドのバイイングのお手伝いやインターンをしていたなんてバイタリティがすごいですね!


YURI HORIE「パワフルだなって自分でも思います。でも撮るのが本当に楽しかったんです。いくつかのファッション誌でインターンとしてストリートスナップを担当していたのですが、当時は本当に厳しくて、基準がすごく高かったと思います。それで一番最初にストリートで撮ったのが、モーガン蔵人くんでした。今思えば彼が原宿にいたのが奇跡(笑)。そのうちインターンをしていたNYLONでソウルスナップ特集の2ページを担当させてもらえて、そこに掲載された小さな私のクレジットをDroptokyoの前編集長が見て連絡をくれました。ちょうど写真を本格的にやろうと転職を考えていたのでカメラ会社は辞めて、Droptokyoに入社して社カメ(社員カメラマン)を3年くらいやりました」





ーそうしてフリーになって初めての展示が今回の『浪漫-Roman-』ですよね。テーマはどうやって生まれたんですか?


YURI HORIE「パンデミックが落ち着いて、フリーランスの写真家として独立したタイミングで展示をやりたいとふわっと考えていたんです。やるからには中途半端になるのはつまらないから、単なる写真展をやるというより、印象に残るものがつくりたくて。でも仕事ばかりしていて2年くらいずるずる経ってしまいました。ただ、仕事柄いろんな場所に行きながら合間に好きなものはずっと撮っていたんですね。それで撮影した素材をかき集めて、見返したときに、『浪漫』っていう漢字がパッと浮かんだんです」









ー後からテーマが見えてきたんですね。題材となっている成人式やデコトラにはもともと関心があったんですか?


YURI HORIE「アーティストの友達にその子の地元の北九州での成人式の撮影をお願いされて、ほぼ遊びでついて行ったのが最初のきっかけでした。それがもうめちゃくちゃ楽しすぎて、ぶち上がっちゃって。それで成人式にまずハマったんです。成人式にハマるっていうのもおかしいんですけど(笑)」



ー「浪漫」みたいなもののどこに惹かれたんですか?


YURI HORIE「意味のないものにお金をかけるところかもしれないです。単純にかっこいいなって思いました。車とかってデコる必要もないし、成人式も別に質素にやってる人ももちろんいる。でもそういう意味のないところにお金をかけているのが私は好きなんです。私自身も無駄なものを買うのが好きで、確実にマキシマリストなんで惹かれたんだと思いますね。デコトラには皆さん、多分マンションを買えるくらいのお金をかけてるんですよ」


ーそういったカルチャーを記録したいっていう気持ちもあったんですか?


YURI HORIE「デコトラの集まりに若い人は少ないんです。こういうサブカルチャーってすごく面白いのに段々とやる人が減ってきているから、プッシュアップして発信していきたいという気持ちはありました」





ー最近ではミーガン・ジー・スタリオンと千葉雄喜のコラボ楽曲の写真を手がけたり、過去にはロザリアの撮影もしたりと、海外からも人気のYURIさんだから、まだあまり知られていない日本のカルチャーを海外向けに届けようという気持ちはありましたか?


YURI HORIE「それは本当に全然ないんですよ。だけど前職のときにいっぱい海外に行かせてもらって、逆に日本の面白さは感じていました。もちろん海外の方に伝われば嬉しいですけど、そこがモチベーションではなかったです」





ー被写体の方とは現場に行って、その場で出会ってるんですか?


YURI HORIE「そうですね。基本的には知らない人です。デコトラの会合が夏と冬にあるのですが、たまたま友達の家が近かったので、去年の夏に一番有名な哥麿会(うたまろかい)に参加しました。またそれがすごく楽しくて。それで他の会合にも何度か行きました。でも情報が全然ないんですよ。Xとか参加者のインスタとかにしかのってない。だから調べあげて、ちゃんと開催するのか電話して確認してから行ったりしてました」


ー急に撮影に行って受け入れられるものなんですか?


YURI HORIE「『見ていきなよ』『本当に嬉しい』みたいな感じでみんなすぐ受け入れてくれて。仲良いモデルを一緒に連れて行って、その子にアマゾンで買った特攻服を着せて撮影していたら、皆さん喜んでくれて、ちょっとした有名人になりました(笑)。私の展示がデコトラ業界でちょっと話題だったらしくて、みんなちょこちょこ来てくれて、すごくありがたかったですね」


ー被写体とのコミュニケーションで普段から意識していることはありますか?


YURI HORIE「自分の基盤であるストリートスナップって外で知らない人に話しかけないといけないんで、反応が悪いときとかももちろんあるし、メンタルはすごく強いと思います(笑)。大切にしているのは、被写体と対等でいることです。普段撮影のときに有名な方も撮るのですが、下手に出るのはよくないと思っています。そもそもみんな同じ人間だと思っているから、人によって態度を変えたりするのとかが苦手で。別に対等でいいじゃんって思ってやっています」





光、闇、神社を表現した3つのブース


ー今回、会場には世界観が異なる3つのブースを設けていましたよね。展示方法のこだわりについても教えてください。


YURI HORIE「写真展のアンチってわけじゃないですけど、普通に写真があるだけだと理解しづらいなって前から思っていて。普通の人が『いい写真』かどうかを判断するのってすごく難しいじゃないですか。大体みんな写真展っていったらインスタのストーリーにあげて終わりになっちゃう。それもしかたがないんですけど、そういう流され方はつまらないなと思って、何からしのワンクッションがあった方がいいなと思いました。それで写真自体も全部ギラギラしているので、それに合わせて、フレームにLEDをつけました。秋葉原に行ってLEDを買って全部手作業で接続しながらつけたのですごく時間はかかりました。おかげで謎にそういうことに詳しくなりました(笑)」





ー他にはどんな工夫をしたのですか。


YURI HORIE「もう一つの部屋は、ホラー感を付け加えるために全て白黒にしました。それも心に印象づいてくれた方がいいかなって思って。『写真がすごいいい』とか語られるんじゃなくて、体験として遊園地みたいな感じにしたかったんです。そして最後の部屋は、神ブースと呼んでました(笑)。物販ブースがあり、UFOキャッチャーを置きました。私の友人に占い師がいて、占いもできるようにしました。自分が心を落ち着かせたいときとかに結構神社に行くんですね。だから、これは完全にふざけてますけど、そういうのも含めて光、闇、神社みたいな感じで3つの部屋の構成にしました。この展示のなかで自分の心のなかにあるものを全て再現しているような感じですね」










ー今回体験として印象を残すことが一番のこだわりだったのかなと思うんですが、何か意識していたメッセージはありますか?


YURI HORIE「本当に単純に楽しかったっていう気持ちを持ってもらいたいっていうのが大きかったですね。メッセージは勝手に自分で受け取ってくださいって感じでした。私は好きなものをいっぱい撮ったので、それが楽しく伝わっていれば嬉しいです。今回展示をやったのには、仕事だけだと写真がSNSでどんどん流れていくので、形にしたいというのもありました。自分が歳を重ねていくなかで人生における印をつけておきたかったんです。今回の展示の本も制作中です。でも、またどっかでもっとでかく展示やりたいですね。浪漫をでかくしていきたいです」


photography Yuri Horie(https://www.instagram.com/yuri_horie_
exhibition photo natsuko miyashita
text Noemi Minami(https://www.instagram.com/no.e.me/



『浪漫-Roman-
YURI HORIE Photo book 2024』

100ページ/フルカラー
5000円税別

2024年6月に開催された写真展(浪漫-Roman-)のアーカイブ。
写真展で未公開の写真を含め100枚フルカラーで印刷されている。
 
9月15日(日)銀座蔦屋書店と代官山蔦屋書店にて販売開始



YURI HORIE

東京出身の写真家。カメラを通して対話をしながら、心踊るユニークな瞬間を独創的な世界観で捉える。大学卒業後、国内カメラメーカーの技術部に勤務する傍ら、東京の街でファッションスナップを撮影。2016年Seoul Fashion Weekの参加をきっかけに、ファッションカルチャーへの情熱を再認識。2018年DropTokyoに所属。2021年からはフリーランスとして活動を開始し、国内外で活躍。
https://www.instagram.com/yuri_horie_

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NeoL/ネオエル

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