【福島県旧小高町(南相馬市)】つよくてあたたかい、生きている土地

福島県旧小高町(南相馬市)

日本中では目まぐるしく、日々いろんなイベントがひらかれている。「そんな日本には、どのような土地があるのだろう」と、写真家として活動している私(仁科勝介)は、“平成の大合併”時に残っていた、旧市町村をすべて巡る旅に出た。その数は2000を超える。

今回、地域や自治体、企業の取り組み、新商品などの情報を発信するニュースサイト「ストレートプレス」で、それらを紹介する機会をいただいたので、写真を添えて連載をスタートした。

「ストレートプレス」内に登場するローカルな市町村と、関係があるかもしれない。

今回は、福島県旧小高町(南相馬市)を写真とともに紹介する。

Vol.285/福島県旧小高町(南相馬市)

福島市から南相馬市にある「小高パイオニアヴィレッジ」という宿泊先へ向かった。1日中雨が強く降って、昼には飯舘村にある道の駅で、2時間ぐらい休憩した。

「小高パイオニアヴィレッジ」という場所は、過去に2回訪れたことがあった。一度目は2019年、二度目は2021年。初めて訪れたのは前回の市町村一周のときだ。復興拠点施設として、新しい起業家を受け入れ、人と人がつながりあい、大きな化学反応が生まれている土地だと知った。

2016年7月まで、小高地区は帰還困難区域に指定されている。一度は無人になったこの土地で、「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」というミッションを掲げる運営元の『小高ワーカーズベース』の存在感は、本物だと素人ながらに衝撃を受けた。

そして、二度目の訪問は取材のカメラマンだった。すでに活動は広く知られており、やはり小高の方々はすごいと思った。震災後に力強く明るく生きる方々は、いろんな地域にたくさんいらっしゃるだろう。比較ではなく、絶対値として、人として尊敬できる方々が、特に東北にはたくさんいらっしゃるのだと思う。とはいえ、ぼくは東北との関わりがすごく深いわけではないし、その中で自分が遠巻きにでも触れられる、シンボル的な場所のひとつが南相馬市、小高という土地だった。

ただ、今回は小高パイオニアヴィレッジに行くとはいっても、宿泊の予定しかなかったので、よそ者としてひっそり滞在して、もし誰かと話せる機会があればというぐらいで、翌日には出発しようと考えていた。

そして、福島市から雨に濡れて、スーパーカブで80kmほど走った。ようやくたどり着いて、合羽を脱ぎ、長靴を履き替えて、挙動不審の姿で受付に向かったわけだけれど、受付の若い男の方が、さりげなくこう言った。

「あの、今日、夜に“おばんざい会”があるんですけど、どうですか?」

ひんぎゃっ、と変な声が出そうになった。夜にイベントがあるなんて、想定していなかったのだ。でも、参加しないでそのまますぐに寝てしまったら、心残りができそうだ。そうに決まっている。そもそも、小高の方々と話をしてみたかったのだ。

「参加してもいいですかっ」

裏返りそうな声でお願いした。というわけで、南相馬市の滞在が二日延びることになるきっかけが、ここではじまったのだった。

小高パイオニアヴィレッジの“おばんざい会”に混ぜてもらった

いろんなイベントスケジュール

盛り上がる

夕焼け

小高城址にも訪れた

渋さが残る

小高区役所。現在は区でわけられている

町並みを見渡す

“おばんざい会”ということで、今回のイベントの担当になった方が、手料理を振る舞ってくださった。メインでご飯をつくってくださったのは、サラダのファストフード店の立ち上げに取り組む男性で、海外生活も合わせた豊富な自炊経験による“おばんざい”は、ひっくり返りそうなぐらい美味しかった。ほんとうに。

もちろん、ぼくはよそ者なので、どちらかといえばひっそり過ごしていたわけだけれど、受付をしてくれた男の人が「福ちゃん」という小高のキープレイヤーだとわかって、しかも親しく接してくれて、自然に過ごすことができた。福ちゃんはぼくのひとつ年下で、小高ワーカーズベースのコミュニティーマネージャーとして働いている。ゆるさと敏腕さを兼ね備えた、とても素晴らしい人だった。

時間が経つにつれて、東京や、福島の中通りといった、小高以外で暮らす方々も混ざって、まさにいろんな化学反応が生まれていた。共通していたのは、「ここにいる方々は、絶対にみんないい人だ」という安心感だった。

(仁科勝介)

写真家プロフィール

仁科勝介(Katsusuke Nishina にしなかつすけ)/かつお
写真家として活動。1996年、岡山県倉敷市生まれ。広島大学在学中に、日本の全1741の市町村を巡る。
『ふるさとの手帖』(KADOKAWA)、『環遊日本摩托車日記(翻訳|邱香凝氏)』(日出出版)をはじめ、2022年には『どこで暮らしても』(自費出版)を刊行。
旧市町村一周の旅『ふるさとの手帖』:https://katsuo247.jp
仁科勝介公式Twitter:https://twitter.com/katsuo247
仁科勝介公式Instagram:https://www.instagram.com/katsuo247

   

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